音楽療法

By , 2008年2月26日 7:30 AM

学生時代、音楽と医学両方に触れながら生きていけないかとあれこれ考えていました。

そんな中、音楽療法の存在を知ったのです。早速興味を持ち、当時の文献を大量に調べました。しかし、患者に対するアンケートによる評価が中心で、客観的評価に乏しい印象を持ちました。尤も、「患者の精神にアプローチしているのだから、患者がどう感じたかが一番大事なんだ」という意見もあり、それはそれで説得力はありましたが。

学生ながら、あまりサイエンスっぽくないなと考え、その後興味を失っていました。

そんな中、所属する電気生理のメーリングリストで、音楽療法に関する次の記事が紹介されていました。言語記憶力を評価するというのは、ある意味客観的な評価法です。

脳梗塞の患者にとって音楽は重要=フィンランド研究

[ロンドン 20日 ロイター] フィンランドの研究チームが20日、音楽が脳梗塞(こうそく)患者の早期回復を助けるという研究結果を専門誌ブレイン上で発表した。

調査を行ったのは、ヘルシンキ大の心理学者テッポ・サーカモ氏が率いたチーム。右脳か左脳どちらかの中大脳動脈の梗塞を最近発病した患者60人を対象に実施した。

それによると、通常の治療行為に加えて音楽や音声を記録したオーディオブックを毎日数時間聴いていた患者たちは、音楽などを聴かなかった患者たちよりも言語暗記力が向上したほか、気分も優れていたという。

研究チームでは、音楽療法はこれまでにもさまざまな場面で用いられてきたものの、人に対する効果を実際に示したのは初めてだとしている。

記事を見るとBrainという雑誌です。Pubmedから、Abstractを引くと、下記になります。

1: Brain. 2008 Mar;131(Pt 3):866-76. Epub 2008 Feb 20.
Music listening enhances cognitive recovery and mood after middle cerebral artery stroke. Särkämö T, Tervaniemi M, Laitinen S, Forsblom A, Soinila S, Mikkonen M, Autti T, Silvennoinen HM, Erkkilä J, Laine M, Peretz I, Hietanen M.
Cognitive Brain Research Unit, Department of Psychology, PO Box 9 (Siltavuorenpenger 20 C), FIN-00014 University of Helsinki, Finland. teppo.sarkamo@helsinki.fi

We know from animal studies that a stimulating and enriched environment can enhance recovery after stroke, but little is known about the effects of an enriched sound environment on recovery from neural damage in humans. In humans, music listening activates a wide-spread bilateral network of brain regions related to attention, semantic processing, memory, motor functions, and emotional processing. Music exposure also enhances emotional and cognitive functioning in healthy subjects and in various clinical patient groups. The potential role of music in neurological rehabilitation, however, has not been systematically investigated. This single-blind, randomized, and controlled trial was designed to determine whether everyday music listening can facilitate the recovery of cognitive functions and mood after stroke. In the acute recovery phase, 60 patients with a left or right hemisphere middle cerebral artery (MCA) stroke were randomly assigned to a music group, a language group, or a control group. During the following two months, the music and language groups listened daily to self-selected music or audio books, respectively, while the control group received no listening material. In addition, all patients received standard medical care and rehabilitation. All patients underwent an extensive neuropsychological assessment, which included a wide range of cognitive tests as well as mood and quality of life questionnaires, one week (baseline), 3 months, and 6 months after the stroke. Fifty-four patients completed the study. Results showed that recovery in the domains of verbal memory and focused attention improved significantly more in the music group than in the language and control groups. The music group also experienced less depressed and confused mood than the control group. These findings demonstrate for the first time that music listening during the early post-stroke stage can enhance cognitive recovery and prevent negative mood. The neural mechanisms potentially underlying these effects are discussed.

PMID: 18287122 [PubMed – in process]

簡単に試験の概要を説明しますと、60名の中大脳動脈の脳卒中患者をランダムに3つの群に分けます。①音楽療法群、②言語療法群、③コントロール群です。音楽療法群には、毎日本人が選んだ音楽を聴かせました。言語療法群はオーディオブックを聴きました。コントロール群は何も聴きませんでした(自分がコントロール群に入ったら発狂しそうです)。通常の治療やリハビリは全ての人が受けることが出来ました。1週間後、3ヶ月後、6ヶ月後に評価しました。その結果、54人の評価を得ることが出来ました。音楽療法群では、他の群に比べて、言語の記憶や注意力が有意に改善しました。また、音楽療法群ではコントロール群と比べて、抑鬱症状や混迷を減らすことが出来ました。

Abstractしか読んでいないので何も言えませんが、60人の中大脳動脈卒中患者のうち54人が助かったので、おそらく脳塞栓症は除外されていると思います。脳塞栓症であればそこまで予後は良くないからです。また、優位半球の脳塞栓症であれば、アンケートで評価出来るほどの高次機能は保たれないことも多いはずです。この辺は、実際に論文を読んで確認する必要があります。

各群20人ずつなので nが少ないとか、音楽が認知出来ないくらいの意識障害でも効果はあるかとか、今後の課題はありますが、面白い研究でした。音楽を聴かせるだけなら、金がかかりませんよね。でも、日本だと大部屋が多いので、ヘッドホンを付けないと、嫌いな音楽を聴かされる周囲の人たちは気分が苛立つかもしれません。そして周囲からクレームが来ますね。また、聴きたい時に聴くというのも大事で、いくら好きな曲でも静かにしていて欲しい時に、聴かされるとイライラします。

上記の研究は、フィンランドのものです。日本では音楽療法学会が出来ています。私が知る限り、行動療法を主体とした音楽療法の研究は多いのですが、鑑賞にターゲットを絞って、こうした客観的に評価出来る手法での研究が進むと、面白いかなと思います。

私は入院患者に「音楽は聴きますか?」とか「好きな音楽は何ですか?」などという世間話を良くするのですが、急性期脳卒中患者においては、好きな音楽を聴くことも、これから勧めてみたいと思います。

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