片頭痛の新薬

By , 2008年4月27日 11:58 PM

大学で働いていた時に、有志で抄読会をしていました。いくつか論文を読み溜めていたのですが、転勤に伴い抄読会もなくなり、もったいないので紹介。

ネタは片頭痛についてです。片頭痛に対して有効なトリプタン製剤に変わる薬剤が開発されており、そのReviewを読みました。ただ、論文を寝かせている間に古くなってしまいましたが・・・

 Goadsby PJ. Post-triptan Era for the Treatment of Acute Migraine. Curr Pain Headache Rep 8: 393-398, 2004

Introduction

セロトニン5-HT1B/1D受容体アゴニストであるトリプタンは安全で効果的だが、完璧ではなく、使用されない患者、十分効かない患者もたくさんいる。

Potential Targets for Acute Attack Treatment of Migraine

・Serotonin (5-HT) receptors
トリプタンが成功した後、全てのトリプタンが5-HT1D受容体作動薬であり、多くが5-HT1F受容体作動薬である事実に基づき、これらの受容体に対する特異的アゴニストが開発され、試されてきた。
①5-HT1F receptor agonist
薬品名:LY334, 370
血管への影響:なし
有効性:片頭痛発作に有効
副作用:人間以外での毒性のため開発中止。
メカニズム:5-HT1F受容体の活性化は三叉神経核に抑制的に働く。
②5-HT1D receptors
薬品名:PNU142633
血管への影響:なし
有効性:効果無し(脳へはほとんど移行せず)
メカニズム:5-HT1D作動薬は脳硬膜の神経因性血管外血漿蛋白漏出を強く阻害する。
コメント:より強力な薬剤でのスタディが望まれる。

・Calcitonin gene-related peptide receptors
薬品名:BIBN4096S
血管への影響:なし
有効性:片頭痛発作に有効である。予防については今後のスタディが必要。
メカニズム:頭部循環の三叉神経支配は、Calcitonin gene-related peptide (CGRP) を含む多くの神経ペプチドを含んでいる。猫や人における三叉神経節刺激は、頭部循環における CGRPや substance Pレベルを引き上げる。しかし、片頭痛や群発頭痛の発作中に CGRPは上昇しているが、substance Pはそうではない。三叉神経節が活性化されたとき、トリプタンは、動物実験では CGRPの頭部循環への放出を抑制する。似たように、猫の上矢状静脈洞の刺激では CGRPの頭蓋内への放出が誘発されるが、それはトリプタンで抑制される。
スマトリプタンによる急性期片頭痛及び群発頭痛発作の治療が上手くいけば、頭蓋内の CGRPレベルは正常化する。更に、CGRP受容体拮抗薬である BIBN4096Sは trigeminocervical neuronを阻害する。

・Adenosine A1 receptor
薬品名:GR79236、GR190178
血管への影響:なし
有効性:片頭痛発作に有効かもしれない。
メカニズム:adenosineの抗侵害刺激作用はA1受容体を介して調節されるようだ。Adenosine A1受容体蛋白はヒトの三叉神経節に局在しており、それは A1受容体作動薬が潜在的に三叉神経阻害作用を持つ可能性を示唆している。
高選択的 A1受容体作動薬の2剤、GR79236、GR190178は、三叉神経核における作用と頭部循環における CGRPの阻害によって、三叉神経血管活性化 (trigeminovascular activation) を阻害することができる。

・Nociceptin-ORL-1 receptors
血管への影響;あり
メカニズム:Opioid receptor-like-1 (ORL-1) 受容体のような、新しい神経伝達物質受容体はopioid受容体ファミリーに属し、中枢神経系と末梢組織に発現している。nociceptin/orphanin FQ (N/OFQ) は、ORL-1 (NOP1) 受容体に対する内因性リガンドとして同定された。Nociceptin (N/OFQ) は、いくつかの生体システム (biologic system) に関わっているようであり、中枢性の侵害受容処理に役立っているかもしれない。

・Vanilloid receptors
メカニズム:Capsaicinは、vanilloid受容体 (TRPV1, かつて RV1と呼ばれた) に作用する。TRPV1受容体は、髄鞘化されていない C-fiberや薄く髄鞘化された Aδ-fiberといった小径~中径線維に局在している。TRPV-1受容体は三神経や後根神経節の神経にも見られる。Capsaicinの経静脈投与は、三叉神経からの Substance P、neurokinin Aからの催炎症神経ペプチドの放出を促進し、ラットの脳硬膜血管外漏出の原因となる。TRPV-1の免疫反応性は、ヒト三叉神経節において全神経細胞体の 16%に見られるが、この 16%では、CGRPと共局在する割合が少ない。それ故、TRPV-1受容体は、抗片頭痛薬開発のターゲットと考えられている。

・Anandamide receptors
メカニズム:Arachidonylethanolamide (anadamide) は、cannabinoid CB1と CB2受容体の内因性リガンドと考えられている。anandamideは神経性脳硬膜血管拡張と、CGRP産生及び NO誘発性硬膜血管拡張を軽減する。

もう一本紹介。

  Durham PL. CGRP receptor antagonists: A new choice for acute treatment of migraine? Curr Opinion in Investigation Drugs 5: 731-735, 2004

・Key role of CGRP in migraine

三叉神経からの神経ペプチド CGRPの放出は、片頭痛の病態生理において、重要な事象であることがわかってきた。CGRPは、神経原性の炎症を介し、侵害受容の情報を中枢神経系に運ぶことによって、片頭痛の発作期に役割を果たす。

外頸静脈から得られる CGRPの血清レベルは、(前兆を伴う、伴わない)片頭痛と群発頭痛を起こしている患者で高値である。片頭痛に CGRPが関与している根拠が、臨床試験からさらに寄せられ、トリプタンは CGRPの放出を抑制し、頭痛の軽快と共に CGRPを基礎値まで回復させる。CGRPを片頭痛患者に投薬すると、国際頭痛分類で「前兆を伴わない片頭痛」に分類される遅延性頭痛が引き起こされるので、近年 CGRPは片頭痛の原因として役割を持っていると推測された。
片頭痛において CGRPが果たす重大な役割の裏付けとなる、最も説得力あるエビデンスは、新しい non-peptide CGRP受容体拮抗薬が効果的に片頭痛を治すという、Olsenらの最近の臨床スタディである。これらのデータを合わせると、CGRPは片頭痛発作の始まりや持続に関与していると言えるだろう。


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