不確実性

By , 2008年9月3日 7:21 AM

今週の東洋経済は、「『不確実性』の経済学入門」でした。経済学は、「取引を行う/行わない」、「どの程度の取引を行う」など、人の行動が根本にあるためか、心理学的側面が非常に強いように思います。

生物学における多くの現象は正規分布に従うのに対し、経済現象はベキ分布に従い、平均に意味を持たないというのは興味深いことです。経済の専門家の予想が多くの場合外れるのは、標準的なファイナンス理論が正規分布を前提に理論を構築していますが、現実世界で問題になるのは、こうした理論を外れた異常値なわけです。サブプライムローンも金融市場に大影響を与えましたが、これまでの理論では予想できない”異常”でしたものね。

本誌では、「ベキ分布」「フラクタクル」「生存バイアス」「期待効用」「効率市場仮説」「予防原則」「相転移」「ワイルド型の確率変動」「ロングテール」「マクシミリアン原理」「グーテンブルグ・リヒターの法則」「認知確率関数」「ヒューリスティクス」「ナイトの不確実性」「主観確立」「動学的不適合性」「ホメオスタット機構」「ダウ&ワーラン効果」などといったキーワードを中心に、経済学の初歩をわかりやすく説明しています。初めて知った用語も多かったです。地球温暖化対策については、「日本では、温暖化対策を叫ぶ政党が石油価格高騰への対策を政府に求めるという矛盾した行動を起こしている。温暖化対策を ”まじめ” にやれば、それは化学燃料の価格引き上げに直結するはずだ。日本の政治は温暖化対策の利益だけを喧伝し、そのコストを国民に説明していない。」と書かれており、なるほどなと思いました。

医療崩壊についても触れており、興味深かったので、紹介します。医療における不確実性は、多くの医師達が口にすることですね。

医師不足はなぜ起きたのか

医療の現場が疲れ果てている。医療関係者は口々に「20年前と比べようもないほど過密・加重労働となった」と指摘し、産婦人科、小児科を中心に医師不足が顕在化した。世界一の水準と評された日本の医療にいったい何が起きたのだろうか。

医師不足を説明する有力な仮説は次のようなものだ。1990年代末の医療ミス報道に端を発し、患者は医師への不信感を高める。医師は医療の正当性を保証するための仕事が増えるだけでなく、患者からの攻撃を受けやすい診療科から逃避する。そこに2004年からの臨床研修制度の導入による大学医局の弱体化が重なって、医師不足が起きたというものだ。

ここでもカギとなるのは不確実性である。そもそも医療サービスとは確率論的な財・サービスなのだ。

たとえば、自動車や家電製品が故障した際、原因となる部品を交換すれば100%直る。しかし医療はそうはいかない。患者により年齢、遺伝子、既往歴、生活環境などはさまざまで、生命ははるかに複雑だ。また医療技術にも限界がある。病状を完全に特定するのは難しいし、手術操作も標準化できるようなものではない。つまり医療でコストを払って手に入れるのは、あくまで治癒する確率の改善なのだ。

不確実性のリスクを医師だけに負わせた代償

ところが患者や家族は、そういう事実を受け止めるのは難しい。患者の信頼を損なう振る舞いをとる医師がいることは確かであるが、医療関係者とわれわれ普通の人びとの間に、医療の不確実性に関する意識の違いがあるのは否めない。

決定的な出来事となったのは、医療現場への警察の介入だ。ここ数年、産婦人科医師などに対して理不尽な捜査があったのは、記憶に新しい。そして、患者や警察と同じく不確実性を理解しない一部のマスメディアが、バイアスのかかった医療バッシング報道を行い、医療不信を加速させた。

繰り返すが、同じ治療法でもよくなる人もいれば、そうでない人もいるというのが医療の不確実性だ。

善意で行った治療が、結果次第で犯罪行為になるとすれば、医師としては自己防衛に動くしかない。そして、その自己防衛の表れが、リスクのある患者を扱わず、楽で収入の多い診療科や開業医に移ってしまうということだ。

統計では日本の人1人当たりの医師数は増えていても、医師と患者の関係が信頼から不信へと変質した。特に小児科や産婦人科などでは医師が直面するリスクと仕事量が極端に大きくなったため、医師不足が起きた。

医師はリスクの高い診療科・加重労働を避けたので医師不足は加速。回り回った国民に医療崩壊のツケが来た。

現在の医師不足は示唆するのは、「不確実なものを不確実なものとして受け止めないでいると、どういうことが起こるか」ということだ。まずは医師不足が深刻な診療科への支援策が必要だが、不確実性のリスクを医師ばかり押し付けるのではなく、社会全体が負担し合う仕組み作りが重要だ。

最後に、目次を紹介しておきます。興味があるようでしたら読んでみてください。久々に面白い特集でした。

「不確実性」の経済学入門

不確実性を増す世の中をどう読み解くか。
20のテーマで学ぶ“反常識”の最新学説。

幸運・不運
Q01 | なぜあの人は大金持ちで、私は「その他大勢」なのか
Q02 | 主婦でもFXで大儲けできるのはなぜか
Q03 | 医者とロックスターはどちらが儲かる?
Q04 | 当選確率が50%と5%の宝くじはどっちを買うべき?
大惨事
Q05 | テロは予測可能か
Q06 | 地球温暖化対策はやりすぎか
Q07 | インフレはなぜ止まらない?
Q08 | 10万年に1回の金融大暴落がなぜ頻発するのか
起業・イノベーション
Q09 | 赤字ベンチャーに1.6兆円の評価が付く理由
Q10 | 日本でiPhoneが開発されないのは?
Q11 | 検索エンジンが日本にないのはなぜか
自然災害・健康
Q12 | 地震予知はなぜ当たらない?
Q13 | 医師不足はなぜ起きたのか
Q14 | 「200年住宅」はどうしたらできるか?
意思決定
Q15 | 人は勘定でなく感情で判断する
Q16 | 大学生はなぜベンチャーを作らないか
Q17 | 医者がガン告知しないのはなぜか
Q18 | 子どもが親の言うことを聞かないのはなぜか
Q18 | 政府の景気対策がうまくいかないのはなぜか
Q19 | 年金問題はなぜもめるのか
Q20 | 人はなぜ衰退産業にしがみつく?
図形クイズ
5%の異常値が全体を決める!?
偽物の株価チャートを見破れ!
「不確実性」で読み解く経済思想
「大きな政府」VS.「小さな政府」真の正体
行動経済学の新たな可能性に着目せよ
This week’s data
人は確率を正しく認識できない
―人は低い確率は過大に、高い確率は過小に評価する―

 

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