古楽器で聴くモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ①

By , 2009年3月13日 9:39 PM

今回紹介するのは、古楽器で演奏されたヴァイオリン・ソナタ(モーツァルト作曲)です。まずは基礎知識から。

古楽器という定義は難しいですが、現代のオーソドックスなオーケストラで用いられる「モダン楽器」以前の楽器と考えるとわかりやすいかもしれません。誤解を恐れずに言えば、古楽・バロック期・古典派の時代に用いていた楽器のことです。

我々が普段目にするピアノはチェンバロからフォルテ・ピアノを経て現代のスタイルとなっています。チェンバロが弦を爪(プレクトラム)で弾いて演奏する撥弦楽器であるのに対して、フォルテ・ピアノはハンマーで弦を叩いて演奏する打楽器です。しかしフォルテ・ピアノはより現代のピアノに近い割には、張ってある弦がチェンバロのように細く強い音は出せませんでした。室内楽向けの楽器と言えると思います。

フォルテ・ピアノは改良を加えられ、音域を拡大していきました。さらにペダルが改良されたり、強い音が出せるような改良が加えられました。かのベートーヴェンもフォルテ・ピアノの進化に合わせて作曲するピアノ・ソナタの音域を拡大していきました。音域の拡大につれて、作曲の幅は広がり、演奏者も技巧を要求されるようになりました。

時代的にも貴族の地位が低下し、ベートーヴェン以降、主として貴族のためであった音楽は大衆にも開放されるようになりました。音楽がそれまでの<貴族のための室内楽>から大きなホールで演奏されるように変わったことで、求められたのは強い大きな音が出せることでした。それはピアノの進化の歴史と方向を同じくしています。

ヴァイオリンでも同じ事が言えます。バロック期に最高の名器は「アマティ」でしたが、現代では「ストラディヴァリウス」「グァルネリ」と言われます。それらが作られた時代はあまり変わりません。アマティは室内楽向けには良い楽器だったのですが強い音が出にくく、致命的なことに改造がしにくかったのです。「ストラディヴァリウス」や「グァルネリ」は大ホールでの演奏向けに改良するのに適していました。したがって、現存する「ストラディヴァリウス」や「グァルネリ」の多くは現代向けに改造された楽器です。

より派手で華やかに、演奏のチューニング・ピッチはどんどん上がっていき、楽器は改良されていきました。奏法も変わっていきました。我々が現代使用している楽器はそうした進化を辿ってきたものです。

一通りの演奏の可能性が尽くされて、作曲された当時の楽器・奏法・チューニング・ピッチで演奏してみたらどうかという流れが出てきました。これが古楽器ブームに火をつけました。そうした流れが生まれ始めた頃の時代と比べ、名手達がレベルを一気に押し上げました。

(気が向いたら)つづく

(補足)
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番作品106<ハンマークラヴィーア>の作曲の動機が新作のピアノを贈与されたことにあったとする説がありますが、否定的な説もあるので、下記に引用という形で示しておきます。

 作曲家別「名曲解説」ライブラリー③ ベートーヴェン 音楽の友社

スケッチ・ブックによれば、この曲にとりかかったのは 1817年 11月で、翌年初めには第 2楽書まで完成され、4月にルドルフ大公のために浄書が行われた。あとの 2つの楽章はその年の夏をメードリングで過ごしていた間にほぼでき上がったらしく、1819年の 3月には作曲も浄書もすべて終わっていた。

ベートーヴェンは 1818年の夏、ロンドンのピアノ製造者ブロードウッドから優秀なピアノを贈られた。当時、英国製のピアノは性能では他を圧していたが、ベートーヴェンはそれを贈与されたことでピアノ音楽への情熱をかきたてられ、この巨大なソナタを作曲することになったという説がある。ところがベートーヴェンが実際このピアノを手にしたのは 1818年の夏のことであるから、先に述べたように早く作曲された第 1, 2楽章はこの新ピアノとは関係なく作曲され、第 3, 4楽章だけが多分このピアノ到達以後の作品ということになる。とすると、その説を全面的には承服するわけにはいかない。

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