麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか

By , 2009年5月1日 7:44 AM

「麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか (岩田健太郎著、亜紀書房)」を読み終えました。

麻疹 (=はしか) はワクチンでほぼ予防が可能です。しかし、日本にはワクチンの副作用を恐れて接種をしない人が多くいます。結果、感染者アメリカ 116人、日本 27万8000人という数字が生じます。そのため、日本では麻疹で命を落とす人が相当数 (30-50人/年) います。ワクチンで数人死亡すると社会的大問題ですが、病気で死ぬ分には問題にならないようです。アメリカでは、「日本は麻疹も輸出している」と揶揄されています。韓国では既に麻疹根絶宣言が出ていると言うのに。

これには 日本人が “相対的” リスクの取り方が下手だという国民性があるのかもしれません。本書でも次のように述べられています。

  なかなかこの ”相対的” という大人の考え方が日本人は苦手のようです。薬は善、医者は善と決めたらまっしぐらで、少しでも瑕疵が見つかると相手を全否定する。薬は悪、医者は悪、となってしまいます。そういう極端な、いってみれば子どもじみたところがあります。

このような国民性を反映して、官僚もワクチンに消極的になりました。本書によると、「副作用を起こされると俺たちが責任を取らされる。ワクチンの副作用を起こされるくらいなら、その病気で死なれたほうがマシ」という言葉で述べられています。マスコミのヒステリックなバッシング報道を見ると、彼らの思考回路も理解出来そうな気がしますが、世の中そうではいけないとも思います。

麻疹ワクチンと同様に、インフルエンザ菌 (インフルエンザウイルスとは全くの別物) もワクチンが有効とされています。日本では毎年数十人の子どもが死亡しますが、アメリカではワクチン接種が義務づけられ、ほぼ根絶しています。

著者は、ワクチンについて、「刃物が絶対悪か、絶対善か」という命題を引いて、同様に相対的な問題だと主張します。まったくの同感で、治療薬についても同じです。ある薬剤を使わないとほぼ死亡することが確実な状況で薬を使っても、将来副作用が見つかるとバッシングされます。相対的な評価が全く出来ていない訳です。これはマスコミが非常にレベルの低い報道をしていることも原因にあります。メリットには目をつぶって、リスクばかりバッシング報道してしまうので、リスクを恐れすぎてメリットを取れなくなってしまっているのです。

本書の最後の方は、そのメディアについて記述されています。著者は「アメリカの新聞を読むと謎が解け、日本の新聞を読むと謎が深まる」と述べます。例えば、過去には医療事故は病院の怠慢、医師の無能と非難されてきましたが、多くはシステムエラーであることがわかってきました。また、(抗菌薬への) 耐性菌が出たというのはネガティブイメージで報道されますが、通常の医療をしていればある一定の割合で耐性菌が出るのは当たり前で、出ないのはまともに医療をしていないか、調べていないだけです。さらに日本のマスコミは医学論文を読まずに記事にします。アメリカでは、記者は医学論文を読んでから、書いた人に質問に行くそうです。

話題は変わりますが、風邪への対応が本書に載っていたので、紹介します。一般の方が指針にするのに良い内容だと思います。

風邪をひいてしまったときの最善の策は、病院に行かないこと。これに尽きるだろうと思います。完治する薬はない、抗生剤は具合が悪い、病院でほかの病気をうつされる・・・多少の咳・鼻水・鼻づまり、微熱、頭痛ならがまんしてしまいましょう。

ただし、肺炎だと大変なので、その区別は知っておきたいものです。

①三八度以上の高熱がある
②鼻水やくしゃみは出ない
③症状が四日も五日も長く続いて全然改善しない

など、風邪とは少しちがうかな、と思われる場合は、医師に診てもらうほうがいいでしょう。「五日後に行ったら手遅れということもあるのでは?」-まあ、どんどん悪くなるようなら、そういうケースもないとはいえませんが、くしゃみ・鼻水・鼻づまりだけにおさまっており、食事も睡眠もそれなりにきちんととれていれば、多くは問題なく自然に治っていくでしょう。

風邪やインフルエンザ (注:新型インフルエンザが流行する前に書かれた本です) は、家で何日か安静にしていれば自然に治る病気です。はしかや水疱瘡も、九〇パーセント以上は安静にしていれば自然に治ります。

病院に行くリスク、行かないリスクを自分で秤にかけたいものです。

高齢者の肺炎には要注意です。その場合、ときに熱も咳もで出ないことがあります。高齢者の方が急に元気がなくなった、しゃべらなくなった、ご飯を食べなくなったなど、急になにか変調を来したら、肺炎のような感染症の可能性があります。

最後に、本書で知った松尾芭蕉の言葉を紹介しておきます。

格に入りて、格を出ざるは時に狭く、また格に入らざる時には邪路に走る。格に入りて格を出でて初めて自在を得るべし

意味は、「基本を押さえるのはいいが、それで留まっては狭いままだ。しかし、基本を知らないと邪道に走る。基本を学んで応用をめざすのがいちばんよい」というのだそうです。医療関係者以外の方も、感染症に対する基本を本書でまず持って頂きたいです。あまりに報道も、国民も「邪路」に走っている面があると思います。まず格に入りたいものです。そして、相対的な評価が出来るようになりましょう。

インフルエンザに関する話題は、本書を買って読んでください。要は、新型インフルエンザを防ぐには、それなりのリテラシーが必要だということです。

追記:海外では肺炎球菌ワクチンを繰り返し打つというのも勉強になりました (国内では添付文書で禁止されています)。

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