Dementiaの鑑別

By , 2009年7月1日 6:30 AM

高次脳機能を専門としている先生が、研修医向けに Dementia (いわゆる認知症) の講義をしてくださっていたのですが、非常にまとまっていたので、紹介しておくことにします。たまにはこんな話もしておかないとね。

1. Dementiaの現状

・本邦において、dementia患者は全国で推定 169万人を超え、2015年には 250万人に達すると言われている
・65歳以上の高齢者の 13人に 1人、80歳以上の超高齢者の 4人に 1人、90歳以上では 2人に 1人がdementiaと考えられる。
・今後有効な治療薬 (β, γセクレターゼ阻害薬、Aβワクチン) が臨床に登場しつつある状況にある現在、dementiaの早期診断、早期介入は緊急の課題といえる。

  Alzheimer病の病理学的変化が 30歳代から始まっているという話もあり、今後はバイオマーカーや PIB PETなどで発症前診断をして、β, γセクレターゼ阻害薬、Aβワクチンなどで予防をする時代が来るのかもしれません。

現時点では、症状や諸検査を総合して診断し、対症療法を行うのが基本です。鑑別を簡単に紹介します。

2. Dementiaの病型鑑別

①Alzheimer病<頭頂側頭葉の機能低下>
神経症状:近時記憶障害→時の見当識障害→注意/実行機能障害→構成障害(立方体の模写、キツネの指の形の模倣)
精神症状:とりつくろい (病識↓、社会性→), 物とられ妄想(女性に多い、嫁が攻撃対象)
キーワード:とりつくろい行動
②血管性 Dementia <深部白質/基底核の多発性小梗塞→前頭葉の機能低下>
神経症状:注意/実行機能障害が主体、記憶障害は比較的軽度
精神症状:無関心、意欲低下 (アパシー) が生じる
キーワード:無欲・無関心
③びまん性Lewy小体病<頭頂側頭葉(Alzheimer病と同様)+後頭葉の機能低下>
神経症状:視覚障害、幻視、症状の同様あり、記憶障害は比較的軽度
精神症状:誤認妄想 (「夫とは別の人が家にいる」)
キーワード:幻視・症状の動揺
④前頭側頭型 Dementia <前頭葉/側頭葉の機能低下>
神経症状:前頭葉機能障害/情動障害が主体、記憶障害は比較的軽度
精神症状:脱抑制、社会性欠如、常同行動、食行動の変化
キーワード:「我が道を行く」行動

 例えば、ADの患者が自動車事故を起こすとき、道に迷って戻ろうとしてぶつかることが多い。前頭側頭型 Dementia (FTD) だと、道路を逆走するなど非社会的な運転をして事故をする。高速道路を逆走してニュースになるのは、たいがい FTDである。

 続いて、脳血流 SPECTによる dementiaの診断について記します。脳血流 SPECTは、Dementia早期から脳の機能を間接的に見ることができるメリットがありますが、必ずしも典型的な結果を得られないことがあります。たとえば、アルツハイマー病でも前頭側頭葉の血流低下が見られることを経験しますが、その場合は神経症状、精神症状の方を重視して診断します。また、MRIでの脳萎縮を気にする方が多いですが、初期には異常が出来にくいので、それだけで診断することはまずありません。最近では、MRIでの海馬体積の測定 (VSRAD) が流行っていますが、補助診断としての位置づけの方が良いと思います。それのみで診断を付けるには危険性があります。

 3. 脳血流SPECTによるdementiaの診断

①アルツハイマー病(AD) / 軽度認知障害 (MCI)
後方領域 (頭頂側頭葉連合野、後部帯状回、楔前部) の血流/代謝低下
後頭葉の血流低下がない
MRIでは非特異的萎縮のみ
②びまん性Lewy小体病 (DLB)
後方領域 (頭頂側頭葉連合野、後部帯状回、楔前部) の血流/代謝低下
後頭葉の血流低下がある
MRIでは非特異的萎縮のみ
心筋MIBGシンチグラフィーで取り込み低下あり
③Creutzfeld-Jacob病 (CJD)
後方領域 (頭頂側頭葉連合野、後部帯状回、楔前部) の血流/代謝低下
後頭葉の血流低下がない
MRI DWIにて皮質高信号
④前頭側頭型 Dementia (FTD)
前方領域 (前頭葉、側頭葉前部) の血流/代謝低下
左右対称、前頭葉と側頭葉前部に限局
MRIにて前頭側頭部の萎縮
⑤脳血管性 Dementia
前方領域 (前頭葉、側頭葉前部) の血流/代謝低下
左右非対称で局所的でまばら
MRIにて基底核を含む多発性梗塞巣
⑥正常圧水頭症
前方領域 (前頭葉、側頭葉前部) の血流/代謝低下
左右対称、脳室周囲の血流低下を伴う (脳室拡大のためそう見える)
MRIにて脳室拡大

 続いて、Parkinsonismの鑑別です。種々の変性疾患が原因となりますので、それらを鑑別するのに補助的に使用します。

 4. Parkinsonismの脳血流SPECT

①大脳基底核変性症 (CBD)
前頭葉優位の血流/代謝低下 (中心領域に強い)
中心前後回の左右差著明
MRIにて大脳皮質の左右差ある萎縮
②進行性核上性麻痺 (PSP)
前頭葉優位の血流/代謝低下 (前頭葉内側面、外側面に強い)
中脳、線条体の血流低下を伴う
MRIにて中脳の萎縮
③多系統萎縮症 (MSA-P)
前頭葉優位の血流/代謝低下
小脳半球、基底核の血流低下を伴う
MRIにて小脳の萎縮、被殻外側のT2WI高信号域
④脳血管性パーキンソニズム
前頭葉優位の血流/代謝低下
左右非対称、局所的でまばら
MRIにて基底核を含む多発梗塞巣
⑤パーキンソン病 (PD)
後頭葉優位の血流/代謝低下、その他非特異的変化
MRIにて異常所見なし

 ここに記したのは、あくまで教科書的な知識で、例外もありますが、基本を知っておくのは大切なことだと思います。

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