捏造インタビュー・続報

By , 2009年7月12日 7:33 PM

捏造インタビュー」の続報ですが、「報道と人権委員会」の裁定が出たようです。私の前記ブログ・コメント欄で「しゃんでりあの君」から教えて頂きました。ありとうございます。

 研修医めぐる記事に「報道と人権委」見解

2009年07月11日

朝日新聞社の「報道と人権委員会」(PRC)は10日、宮崎版の連載記事「医師不足の現場から(下)」(4月2日付)について、記事に登場する研修医の名誉や信用を著しく棄損している、とする見解を決定した。見解は、記者の思い込みから事実に反する記事の掲載になった、と指摘している。

審理の対象になったのは、宮崎大学医学部を卒業し、済生会熊本病院で研修している河津英里さんに関する記述部分。河津さんは、発言していない言葉を自分の言葉として書かれるなど、発言の趣旨が著しくゆがめられて報じられたと主張していた。朝日新聞社宮崎総局は、河津さんの主張を大筋で認めて「おわび」(4月14日付)を掲載した。だが、朝日新聞社側の対応をめぐって意見の対立が解けず、双方が委員会に申し立てていた

見解は「宮大は医師免許取得の合宿所といったところ」など、河津さんが発言していないことを本人の言葉として書いたことを、記者の職業倫理に反するなどと批判。その他の記述でも、記者が思い込みから、河津さんの発言を都合よく解釈したり、拡大して受け取ったりした結果、誤報になったと判断した。また、掲載される記事内容を事前に河津さんに確認するという約束を、記者が守らなかったことも、職業倫理に反している、としている。

さらに、こうした誤報が掲載された原因について、記者を指導する立場の総局長らの責任も大きく、「合宿所」などを河津さんの発言した言葉として掲載すれば、河津さんの社会的信用が傷つくことへの感性が欠如していた、と述べている。

最後に、掲載された「おわび」の内容では、読者への説明や名誉・信用の回復が不十分であるとして、朝日新聞社に対して、記事が河津さんと宮崎大医学部の名誉と信用を傷つけたことを認めるよう求めている。

PRCの委員は、本林徹・元日弁連会長、長谷部恭男・東大大学院教授、藤田博司・元共同通信論説副委員長の3氏。

見解の全文は、朝日新聞社のサイト(http://www.asahi.com/shimbun/prc/20090711.pdf)掲載しています。

〈審理の対象となった記事〉
「医師不足の現場から(下)」は、宮崎県内でも深刻化する医師不足の現状を描いた3回の連載企画の最終回。この中で河津さんは、宮崎大学医学部を卒業して、県外に流出した研修医として登場する。記事は「河津英里さん(26)は熊本市の済生会熊本病院で研修中だ。(中略)出身地の熊本大学医学部を志望したが、『(入試が)ちょっと難しかった』。宮大側からは、宮崎に残るよう暗に促されたという。それでも、卒業後の研修先は『医療設備などが充実している環境で働きたかった』と宮崎を離れた。(中略)『ここを選んで良かった。宮大は医師免許取得の合宿所といったところ』と話した」などとしていた。

■大学と私への誤解を解いて
河津英里さんの話 今回の記事で、大変な精神的苦痛を感じていました。PRCの見解で、宮崎大学と私への誤解が解かれることを望みます。また、この見解を朝日新聞社が真摯(しん・し)に受け止めて、信頼される新聞づくりの糧にされることを期待します。

■真摯に受け止め、今後に生かす
宮川政明西部本社編集局長の話 河津さんと宮崎大医学部の名誉と信用を傷つけ、済生会熊本病院にもご迷惑をおかけしたことをおわびします。見解の指摘を真摯に受け止めて、今後の記者の教育・指導に生かし、信頼される紙面づくりに努めていきます。

全面的に、研修医側の主張が認められているようです。どの点で双方の意見が対立していたかは、PDFファイルの結論を読むと窺い知ることができます。

7.結論

朝日新聞社側は、本件記事について河津医師と宮崎大学に事情を説明して謝罪した。そのうえで、4月14日付宮崎版に「おわび」を掲載して、河津医師に関する記述を削除した。

しかしながら、掲載された「おわび」は「事実誤認があるなど、取材、紙面化の過程に問題あった」と説明し、「河津さんや宮崎大学などの関係者の方々にご迷惑をおかけした」としか表明していない。本件記事の誤りが大きく、河津医師の受けた損害が重大なことから、掲載された「おわび」では、河津医師や宮崎大学医学部の名誉・信用の回復、読者への説明が不十分である。朝日新聞社は、見解を踏まえて、河津医師と宮崎大医学部の名誉や信用を傷つけたことを認めるべきである。

こうした委員会に提出されるまで拗れた原因の一つとして、朝日新聞社には「迷惑をかけた」以上の見識はなかったようです。研修医側は、名誉や信用の回復を望んでおり、この点が争点だったのではないかと思います。

他の業界には執拗に謝罪を迫り、謝罪会見は糾弾の場としていても、本当に朝日新聞社は身内に甘いですね。朝日以外の新聞社やテレビなどのメディアにも言えることですが。

その他、私が重視したのは事前確認に関する事項です。

4.掲載内容、実名、写真掲載の事前確認について

イ)河津医師側主張
牧野記者は最終的に掲載記事の内容を確認したうえで、実名・写真の掲載を判断してもらえばよいと発言し、事前確認を約束した。その際、事前確認には条件はついていない。取材を受けたとき、掲載が延期になるという連絡を受けたときにも事前確認を求めた。しかし、一切、事前の連絡はなかった。写真については、事前確認の際に掲載を断るつもりでいた。

ロ)朝日新聞社側主張
取材の際、河津医師は「これって名前が出るんですか」と気にしていた。牧野記者は「そうお願いしたいと考えています。ただ、微妙な問題が絡むので、きわどい内容を書くときは読んでびっくりすることがないよう事前にお伝えします」と答えた。牧野記者は、取材で河津医師が話した家族のことなどを「微妙な問題」としてとらえ、「微妙な問題」に関する記述が原稿にないため、事前に記事内容などの確認の連絡をする必要はないと判断した。牧野記者は相手が確認をどのように理解していたかを考えるべきだった。

ハ)委員会の判断
取材の席で確認を約束した際に、牧野記者が前提条件を付けたとしても、河津医師がその条件を認識していなかったものと認められる。しかも、取材時のほか、取材を申し込んだとき、取材後に掲載時期の延期を連絡したときにも、済生会熊本病院から記事内容などの事前確認を求められていた。

本件記事が実名・写真付きで掲載されれば、河津医師の社会的信用が失墜することは十分、予想されたうえ、記事の内容について事前確認を行っていれば、誤報は防げたはずである。実名・写真、記事内容の事前確認を、複数回にわたり河津医師側から求められ、それを約束していたにもかかわらず、怠ったことは記者の職業倫理に反している。

取材源に対する配慮が非常に甘いです。信頼関係が得られなければ、今後良い取材は出来ないと思いますけれどね。

最終的に、研修医側の主張が認められて良かったと思っていたのですが、methyl氏から私信が届きました。「加害者側の記者の名前が出ずに被害者の名前が出ることに非常に違和感を覚えます」とあり、同感です。

(追記)
被害者の名誉毀損が認められ、この記事が信頼回復に役立つと思いますので、あえて実名で引用させて頂きます。

Post to Twitter


Leave a Reply

Panorama Theme by Themocracy