フーガ

By , 2009年8月26日 9:40 PM

「フーガ (マルセル・ビッチ/ジャン・ボンフィス著、池内友次郎監修、余田安広訳、白水社)」を読み終えました。

フーガは、模倣対位法を駆使して作られた曲の形式の一つです。フーガ形式がどのようなものか、「音楽形式 (門馬直衛著、音楽之友社)」から引用します。

 フーガ形式 (英, Fuga form. 独, Fugenform) は、フーガの形式である。フーガ (伊, Fuga. 独, Fuge. 英, Fugue. 仏, Fugue) は遁走とか追復曲とかと訳すことがあるので、フーガ形式は遁走曲形式または追復曲形式ということもある。こういう名前は、その構造の重要な特徴を知ると、納得できよう。というのは、フーガは、旋律が逃げたり追いかけたりするような仕掛けになっているからである。これは、主題に対して他の声部が模倣して始まるし、また、曲中どこにでも模倣対位法を用いて追いかけと遁走の感じを出しているからである。というのも、フーガは、全体が模倣だけでできているようなものだからである。フーガという原語も、遁走というような意味から起った。

フーガは作曲法の中でも特に難しいものと考えられています。フーガの難しさは、「和声が出会うところでは必ず協和していなければならない」という点にあると言えます。つまり、声部間でハモっていないといけないのです。ハモるだけなら単純な旋律と伴奏で作曲するのが楽なのでしょうが、フーガの場合は同じ旋律が複数の声部に存在し、かつハモるのです。

フーガの基本的な用語ですが、提示される主題を主唱と呼び、それに応答するものを答唱といいます。また、主唱を助奏しながら副次的に現れる副次的な主題を対唱と呼び、主要主題と相対する重要な副次的主題を新主唱と呼びます。主唱と新主唱 1つずつから成るフーガを二重フーガと呼び、主唱1つで新主唱が 2つだと三重フーガと呼びます。CDのライナーノーツに「二重フーガ」なんて書いてある時に、こういった知識があると理解しやすくなります。

本書で対位法の様々な技法を知ったわけですが、特に模倣対位法というのが面白いと感じました。先行句 (モデル) と追行句 (再生) によって作られたまとまりを「模倣」と呼ぶのですが、模倣の仕方にはいくつかあります。最も簡潔なのが順行で、追行句が先行句をそのまま繰り返すものです。反行は、追行句が先行句を鏡で映したように上下逆さまにしたものです。逆行は、前後を逆さまにします。つまり、先行句の終わりの音から逆方向に曲が流れます。逆反行は反行と逆行を組み合わせたもので、先行句を上下反転させ、さらに終わりの音から始めます。曲からこれらを聴き取れるようになると音楽の楽しみが倍増すると思います。バッハの「逆行カノン」などは有名ですが、ベートーヴェンのピアノソナタ「ハンマークラヴィーア」にもこうした技法が登場するのはこれまで気付かなくて、そうした意識を持って、もう一度曲を聴き直してみたいです。

フーガの技巧を完成と呼ぶに相応しい域まで高めたのはバッハですが、現存する最も古いフーガは、1300年頃イギリスで作られた二重カノン「夏は来たりぬ Sumer is icumen in」であるとされているようです (カノンはフーガの形式の一つ)。

通常フーガは 2-4声くらいで作曲される事が多いのですが、オケゲム (1425頃-1495) は 36声部もあるカノン「デオ・グラチアス」作曲したと言われています。36声部なんて聞き分けられるのか、一度聴いてみたいですね。

バッハがフーガの技巧を尽くした曲を世に残した後、ベートーヴェンが新たな道を開きました。則ち、フーガを用いて詩的で劇的な曲を多く残したのです。また、主唱と新主唱の対比を効果的に用いることで、新しい演奏効果を生みました。

引き続きブラームス、シューマン、メンデルスゾーンを始めとする大作曲家達がバッハやベートーヴェンに傾倒し、フーガの技法を学び、曲中に活かしていくこととなりました。フーガは後にセリー技法などでも使われるようになり、新しい可能性を切り開きました。

ただ、ジャン = ジャック・ルソーはフーガが御気に召さなかったようで、次のような文章を残しています。「フーガを用いることには、困難を克服するというメリットくらいしかありません。・・・その結果は騒々しいものになるだけです。・・・反行フーガ、二重フーガ、転回フーガ、固執低音のほか、耳ががまんできず、また正当化できないような困難な悪ふざけ、これらは明らかにわが国のゴシック式教会のように、それをあえて作った人びとの恥をさらすためだけにしか存在しないような、粗野さと悪趣味との産物なのです。」

個人的に最も嬉しかったのが、本書でベートーヴェンの弦楽四重奏曲から「大フーガ」を分析していたこと。私の好きな曲なのですが、主題がどのように扱われているか、初めて詳しく分析したものを読み、感動しました。

基礎知識がないとなかなか読みにくい本ですが、多少和声のことを理解している人なら、読み易い本だと思います。音楽の基礎教育を受けた方にお薦めしたい本だと思いました。

Youtubeでもバッハの素晴らしいフーガを聴くことができます。

・Bach, Toccata and Fugue in D minor, organ

このムービーは映像で音を記号として表しているので、曲の構造が視覚的に理解できます。声部毎に色を変えてあるのが助かります。最初に有名なトッカータがあり、フーガは2分50秒からです。

バッハの最高傑作の一つ、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタにもフーガが含まれているので、紹介しておきます。私は、第1番、第2番のフーガは弾いたことがありますが、残念ながら第3番はありません。次の目標にとしたいところです。

・Henryk Szeryng plays Bach Fuga from Sonata No. 1

・Shlomo Mintz : Bach Sonata No.2 BWV1003 ⅱ

・Arthur Grumiaux – Bach Sonata No.3 in C major, BWV 1005 (II. Fuga)

最後に、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲での最高傑作とも言える、「大フーガ」を紹介しておきましょうかね。演奏は、私の一番好きなカルテット、アルバン・ベルク弦楽四重奏団です。

・Beethoven Grosse Fuge pt-1

・Beethoven Grosse Fuge pt-2


2 Responses to “フーガ”

  1. gkrsnama より:

    こないだ大フーガをきちんと聞きまして、圧倒されています。フーガでありながら、ベートーベンらしく激烈で意志的に前進する音楽。あれだけ外れた音を使いながら、最後には調的な深い安定感に帰着させる力技。こんな破天荒な音楽は聴いたこともありません。

    さて、フーガの展開部で、対旋律が一杯出てくるんですが、主調の枠にとどまっていない音が一杯あるように聞こえますが?どうですか。

  2. migunosuke より:

     gkrsnamaさん。コメントありがとうございます。

     本を書庫に送ってしまって手元にないので、この本で大フーガをどのように分析していたのかお示しできなくて残念です。随分前に読んだ本なので、内容をかなり忘れてしまいました (^^;

     個人的な見解ですが、主旋律と対旋律の間で生まれる激しい不協和音がこの曲に力強さを与えていると思います。御指摘の調性については、私にはよくわかりません。ただ、半音階的な進行が多く、そこが調性感を曖昧にしているように感じます。

     音楽理論をきちんと学んでいれば、楽曲を分析して、ご期待に添えるような御返事ができると思うのですが、力及ばず、こんな御返事ですみません。

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