街を歩く神経心理学

By , 2010年10月9日 8:35 AM

「街を歩く神経心理学 (高橋伸佳著、医学書院)」を読み終えました。神経心理学コレクションの中の一冊です。

本書では、地理的障害について詳細な検討を行っています。まず概論を述べた後に、脳血管障害などでの脳損傷症例、次いで functional MRIなど機能画像検査を通して、機能局在その他を明らかにします。高次脳機能の領域では、オーソドックスな検討の仕方ですが、その実際のプロセスを興味深く読ませて頂きました。

地理的失認の分類法はいくつかありますが、本書は「街並失認」「道順障害」に分けます。

①街並失認
街並失認は、熟知した街並 (建物・風景) の同定障害です。右紡錘状回前部~舌状回が責任病巣と考えられています。また、新規の街並の記憶には海馬傍回後部が関与しているようです。この部位が傷されると記銘の障害によって新規の場所での街並失認が起こるかも知れません。
街並の記憶は右側頭葉前下部に蓄えられ、視覚情報と記憶の照合は右側頭極で行われるのではないかと推測されています。
相貌失認の責任病巣は紡錘状回後部~舌状回にかけてで、街並失認の病巣のやや後方ですが隣接しているので、両者は合併することがあります。
街並失認の原因は、後大脳動脈領域の脳梗塞が多く、障害は半年~数年続くことが多いようです。

②道順障害
道順障害は熟知した地域内の2地点間の方角定位障害で、視空間失認の一型です。
責任病巣は主として右側の脳梁膨大後皮質 (Brodmann 29, 30野)、後帯状皮質 (Brodmann 23, 31野) 後部、楔前部下部にあり、新規の場所での道順障害の出現では帯状回峡部の役割が重要であるそうです。道順の記憶がどこに蓄えられるかは、コンセンサスが得られていません。著者らは、海馬を含む頭頂葉内側部は新たな記憶の形成には関与するが遠隔記憶の再生には重要ではなく、頭頂葉内側部が重要なのではないかと考えているようです。
線維連絡の考察からは、脳梁膨大後皮質は記憶そのものに関係し、後帯状皮質は認知された視空間情報を記憶に結びつける処理に関係しているのではないかと推測されています。
道順失認の原因は、脳梗塞、脳出血が多いようです。障害の持続期間は街並失認と比べて短く、数ヶ月~半年くらいが多く、病巣が両側性だと症状は持続性です。

脳梗塞などで地理的障害が生じるのは圧倒的に男性が多いのですが、男性では女性に比べてこの能力が発達しているため、脳のある部分に機能を集中して効率良く処理させている可能性があります。そのため、その部位の損傷で障害が生じるようになるのかもしれません。

本書には「アルツハイマー病患者はなぜ道に迷うのか 」(道順失認の要素が大きい) や「ロンドンのタクシードライバー」といった面白いコラムもあります。興味を持った方は是非読んでみて下さい。方向音痴への対策としては「交差点など方向を決めるポイントとなる場所にあるランドマークに注目し、それと進むべき方角と結びつけて記憶すること」が有効であるなど、実生活で役に立つ話も書いてあります。

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