ペースメーカーと神経伝導検査

By , 2010年10月20日 7:08 AM

医局の抄読会があり、どの論文にするか結構考えたのですが、Muscle & nerve誌に面白い論文を見つけ、これにしました。Muscle & nerve誌は、タイトルだけは全部チェックするようにしてますが、面白い論文が時々あります。

 Safety of nerve conduction studies in patients with peripheral intravenous lines.

Mellion ML, et al. Muscle nerve 42: 189-191, 2010

(目的)
神経伝導検査の際、末梢ルートを伝わって電気刺激が心臓に到達しないかどうかを調べること。
(方法)
心臓内にデバイスを植え込まれた患者20名を除外基準なく選んだ。
20名の患者のうち、7名は心臓ペースメーカー、13名は除細動器が埋め込まれていた。それぞれのデバイスの型名は、「心臓ペースメーカー:Victory SR5610, Victory XL DR 5816, Accent SRRF 1210, Insync III 8042, Versa VEDR01, Insignia DRT 1298」「除細動器:Current DRRF 2207-36, Current DR 2211-36, Promote 3211-36, Atlas II DR V268, Concerto C154 DWK, Maximo II CRT-DD284 TRK, Virtuoso DR D154AWG, Secura DR 224DRG, Consulta CRT-DD224TRK」であった。ペースメーカーや除細動器は最も感度の良い設定にした。
末梢ラインは、13名は手首のところで、7名は肘前でキープした。右手首でキープした3名を除き、全て左側であった。
それらの患者に対し、末梢ルートと同側の正中神経の伝導検査を行った。刺激は手首と肘の 2カ所で 50mA、持続時間 0.1 msで開始し、100 mA, 持続時間 0.5 msまで徐々に強くした。
末梢ライン最初クランプし、次に半生食と生食を流した。体表と心臓内から心電図をモニターした。
(結果)
神経伝導検査の間、ペースメーカー及び除細動器の増幅器に刺激が感知されることは全くなく、設定に影響したり、ペーシングに影響したりすることはなかった。不整脈が誘発されることもなかった。
(結語)
Routineの神経伝導検査は刺激同側に末梢ラインがキープされた患者において、例え生食が流されていても安全に行うことが出来る。

この論文の背景は考察を読むとわかるのですが、透析機器から透析ラインを伝わるリーク電流については過去に危険性が指摘されています。特に中心静脈など心臓に近いところまでラインが入っている場合に危険性が高いようです。

同様に、神経伝導検査の電気刺激が点滴ラインを伝わる可能性があることで、点滴ラインが入っている患者さんの検査が延期される場合があるかもしれません。その結果、診断がつかないなど不利益を被る可能性があります。そこで検査が安全に行えるかどうか実際に調べてみました。末梢ラインは血管内の部分が短いですし、遠隔電場電位も小さいので、心臓まで刺激が届くはずはないと予想されるのですが、それを確認しました。

方法が面白いです。心臓ペースメーカー (PM) や除細動器 (ICD) を挿入された患者さんに末梢ラインをキープし、神経伝導検査を行い、心臓内でも電流を記録しています。しかし、100 mA, 持続時間 0.5 msという強い刺激でも、心臓で検出出来るほどの電流は流れなかったようです。結論として、末梢ルートと同側で電気刺激しても大丈夫ということになったのですが、論文に書かれていないものの、もう一つ興味深い事実が明らかになりました。

元々、PMや ICDを植え込まれた患者さんで神経伝導検査を行って良いかは議論があります。ある専門家に聞くと、携帯電話くらいのリスクなので、メリットが上回ればやっても良いのではないかと考えているようですが、特に日本では検査を断る検査室が多いのではないかと思います。この試験を見ていると、通常の検査ではあまり行わないくらいの強い刺激でも、心臓内のデバイスに影響を与えることはなさそうです。こうしたエビデンスの蓄積で、PMやICDが植え込まれた患者さんが普通に検査を受けられるようになれば良いなと思いました。

携帯電話とPMについても同じように調べられているようで、海外では第3世代の携帯電話だと安全という論文があるようです (abstractしか読んでませんが・・・)。携帯の機種での議論もあるかもしれませんから、日本の携帯電話を使った試験を行うと面白いかも知れません。

 Third-generation mobile phones (UMTS) do not interfere with permanent implanted pacemakers.

Ismail MM, Badreldin AM, Heldwein M, Hekmat K.
Pacing Clin Electrophysiol. 2010 Jul;33(7):860-4. Epub 2010 Feb 18.

Department of Cardiothoracic Surgery, Friedrich Schiller University of Jena, Jena, Germany.
Abstract
AIMS: Third-generation mobile phones, UMTS (Universal Mobile Telecommunication System), were recently introduced in Europe. The safety of these devices with regard to their interference with implanted pacemakers is as yet unknown and is the point of interest in this study.

METHODS AND RESULTS: The study comprised 100 patients with permanent pacemaker implantation between November 2004 and June 2005. Two UMTS cellular phones (T-Mobile, Vodafone) were tested in the standby, dialing, and operating mode with 23 single-chamber and 77 dual-chamber pacemakers. Continuous surface electrocardiograms (ECGs), intracardiac electrograms, and marker channels were recorded when calls were made by a stationary phone to cellular phone. All pacemakers were tested under a “worst-case scenario,” which includes a programming of the pacemaker to unipolar sensing and pacing modes and inducing of a maximum sensitivity setting during continuous pacing of the patient. Patients had pacemaker implantation between June 1990 and April 2005. The mean age was 68.4 +/- 15.1 years. Regardless of atrial and ventricular sensitivity settings, both UMTS mobile phones (Nokia 6650 and Motorola A835) did not show any interference with all tested pacemakers. In addition, both cellular phones did not interfere with the marker channels and the intracardiac ECGs of the pacemakers.

CONCLUSION: Third-generation mobile phones are safe for patients with permanent pacemakers. This is due to the high-frequency band for this system (1,800-2,200 MHz) and the low power output between 0.01 W and 0.25 W.

Pubmedで「pacemaker」「cellular telephone」と検索すると、56本の論文がヒットしますので、こちらについても色々読んでみると面白いかも知れません。


Leave a Reply

Panorama Theme by Themocracy