神経病理学に魅せられて

By , 2012年9月26日 7:19 PM

神経病理学に魅せられて (平野朝雄著, 星和書店)」を読み終えました。神経内科医であれば平野先生の名前を聞いた人はいないと思います。神経病理学の日本人パイオニアの一人で、 多くの業績を残しています。毎年、神経病理学の初学者向けにセミナーを開催しており、参加した神経内科医は多いと思います (私は毎回当直でまだ参加できていません・・・)。

平野先生は京都大学第一外科 (荒木脳外科) に入局した後、30ドルと片道切符を持ってニューヨークに向かいました。そこで師事したのが Zimmermanでした。Zimmermanはドイツのエール大学に神経病理部門を創立した後、ニューヨークの Montefiore病院の基礎部門全体のディレークター及びコロンビア大学の病理学教授となった神経病理学の大御所です。Zimmermanは Albert Einstein医科大学の新設に際して、 Einsteinの元を訪れて彼の名を冠する承諾を得て、その大学の初代ディレクターにも就任しているそうです。

平野先生はニューヨークで多くの業績を積み重ねましたが、グアムに滞在し Guam ALS, Parkinsonism-dementia complex (PDC) の疾患概念確立に貢献しました。戦後初めてグアムの地を踏んだ日本人は平野夫妻だったと言われています。その時の仕事は Brain誌に掲載され、米国神経病理学会最優秀論文賞を受賞しましたが、いずれも日本人として初めての快挙でした。またニューヨーク時代、中枢神経の髄鞘構築を明らかにした Journal of Cell Biology論文は、多くの研究者から引用されています。

平野先生について、先輩から聞いた面白い逸話があります。平野先生は教育にも定評があり、多くの日本人が彼のもとに留学しています。ある日本人医師が「神経病理は全くの初心者で何もわかりませんが、勉強しに伺いたいのですが・・・」と問い合わせると、「経験がないのは問題ありません。(「何もわからない」ことに対して、) わかっているなら来る必要はありません」と言われたそうです。

本書は著者が回想するという形式をとっているため、教科書とは違って読みやすいです。神経内科専門医試験を受験するくらいの知識があれば楽しく読めると思います。最後に目次を紹介しておきます。

目次

まえがき

神経病理回想五十年

神経病理学入門までの思い出

  1. 学生時代
  2. 米国でのインターンと neurology residency
  3. 神経病理学に

グアムでの研究 (前編)

  1. グアム島へ
  2. Guam ALS
  3. Parkinsonism-dementia complex (PDC) on Guam

グアムでの研究 (後編)

  1. PDCの神経病理
  2. おわりに

脳浮腫の電顕による考察の回想

中枢神経の髄鞘の構造解析についての回想

  1. はじめに
  2. 末梢性髄鞘
  3. 中枢性髄鞘
  4. 脳浮腫に伴う有髄線維の変化の解析

小脳における異常シナプスの研究を振り返って

  1. Purkinje細胞の unattached spine
  2. 小脳腫瘍

筋萎縮性側索硬化症の神経病理学的研究についての思い出

  1. Bunina小体
  2. Spheroid

家族性 ALSの神経病理

  1. 後索型
  2. Lewy小体様封入体
  3. SOD1

神経系腫瘍の病理診断についての思い出

  1. 内胚葉性上皮性嚢胞
  2. 馬尾部の傍神経節腫
  3. Weibel-Palade小体

AIDSの神経病理についての思い出

あとがき

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2 Responses to “神経病理学に魅せられて”

  1. alexkazu より:

    いつも色々とありがとうございます。
    紹介された本を今度買って読んでみます。僕もまだまだ多くのことを学ばなければなりません。お勧めの書籍があれば教えてください。

  2. migunosuke より:

    コメントありがとうございます。自分の備忘録を兼ねて、読んだ本を紹介しています。改めてお勧めという本はありませんが、私が過去に紹介した本、これから紹介していく本の中で、興味を持っていただけるものが見つかれば幸いです。

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