TPPと医療

By , 2013年3月22日 8:55 AM

安倍首相が TPPへの参加を正式に表明しました。

安倍首相、TPP交渉参加を表明=「経済全体にプラス」―農業の競争力強化に全力

時事通信 3月15日(金)18時3分配信

安倍晋三首相は15日夕、首相官邸で記者会見し、米国やオーストラリアなど11カ国が参加している環太平洋連携協定(TPP)について「交渉に参加する決断をした」と正式に表明した。首相は「今がラストチャンスだ。このチャンスを逃すと世界のルール作りから取り残される」と述べるとともに、「全ての関税をゼロとした場合でも、わが国経済全体としてプラスの効果がある」と強調。また「あらゆる努力で日本の農を守り、食を守ることを誓う」と訴え、参加への理解を求めた。
日本の参加は、米議会の承認手続きに90日程度かかることに加え、先行参加国が7月の交渉会合開催を検討していることから、早くても7月以降になる見通し。先行国は10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた会合での合意を目指しており、コメなど関税撤廃の例外品目確保に向けた調整や、自動車や保険などをめぐる米国との協議が焦点となる。
首相は会見で、交渉参加を決断した理由について「世界経済の約3分の1を占める大きな経済圏が生まれつつある。韓国やアジアの新興国が次々と開放経済へと転換していて、日本だけが内向きになってしまっては成長の可能性もない」と説明した。
また、「経済的な相互依存関係を深めていくことは、わが国の安全保障にとっても、またアジア太平洋地域の安定にも大きく寄与する」と指摘。経済・軍事双方で台頭する中国を念頭に、同盟国の米国はじめ、民主主義や基本的人権などの価値観を共有する参加国との連携が日本の安全保障環境に資すると語り、「交渉参加はまさに国家百年の計だ」と断じた。
TPPに加盟した場合、影響が予想される農業分野に関しては「攻めの政策により、競争力を高め、輸出を拡大し、成長産業にする」と表明した。

TPPは、別の見方をすれば「中国包囲網」です。露骨に領土拡大を主張する中国の脅威に対抗するには、参加する以外の選択肢はなかったと思います。

ほとんど報道はされませんが、われわれ医療従事者が懸念するのは、”金持ちしかまともな医療を受けられない” アメリカの医療政策が輸入されるとどうなるかという点です。最近、李啓充先生が興味深い連載をしていました。マサチューセッツ州では、皆保険制度導入後に医療費抑制政策が始まり、状況が変わりつつあるようです。

 最終回 (連載第 11回) にまとめがあります。

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第241回

「最先端」医療費抑制策 マサチューセッツ州の試み(11)

「医療費抑制法」のポイント

ここまで10回にわたって,2006年の「皆保険制」実施後,マサチューセッツ州で医療費抑制の気運が高まった経緯を紹介した。2012年8月に同州が成立させた「医療費抑制法」はその「集大成」ともいうべきものであったが,以下に同法の内容を概観する(ポイントとなる語句を下線で示した)。

1)医療費の伸びを州総生産額(gross state product:GSP)に連動させ,2013-17年はGSPの伸び以下,2018-2022年はGSPの伸びより0.5%低く,2023年以降は再びGSPの伸び以下に抑える。
2)低所得者用公的保険(メディケイド)・州職員用保険等,州が管轄する医療保険について「出来高払い」に代わる支払い制度を導入する。
3)ケアの統合と,予防,プライマリ・ケアへのアクセスを改善するためにACO(註1)設立を推進し,州が運営する医療保険においてはACOとの契約を優先する
4)医療費動向の監視:「医療政策委員会」を設立,医療費動向および新たに導入される医療サービス供給体制・支払い制度について統監させる。
5)供給者間の価格差について報告する特別委員会を設立する。
6)医療費抑制目標値が達成できなかった医療施設に対する罰則:改善計画の提出・実施を義務付けるとともに,50万ドル以下の罰金を科すことを可能とする。
7)通常のケアについて医療施設ごとのデータをオンラインで公開,価格・質についての透明性を高める
8)医療過誤訴訟コスト軽減:乱訴を防止するために182日間の「冷却期間」を設けるとともに,医療側の謝罪は法廷で証拠扱いしない。
9)経営難病院救済用に1億3500万ドルの基金を設立する。
10)3000万ドルの予算で「eHealth Institute」を創設し,電子カルテ普及を促進する。
11)6000万ドルの予算で健康増進活動を推進するとともに,職場における健康増進活動を実施した企業に対する減税措置を講じる。
12)新法実施費用の「当事者」負担:保険会社から1億6500万ドル,大病院から6000万ドルを徴収,新法実施の費用とする。

(略)

そもそもの問題は市場原理主義にあり

以上,11回にわたって,マサチューセッツ州で医療費抑制法が成立するまでの「ドタバタ」を概観したが,同州で診療報酬が高騰したり,病院間の診療報酬格差が拡大したりした根本の原因は,1992年に,「公的機関が診療報酬を決めることを止め,診療報酬は保険会社と医療機関が個別交渉で自由に決める」とする「規制緩和」を実施したことにあった。「市場原理を導入すれば価格は下がるはずだ」とする前提の下での規制緩和であったが,もくろみとは反対にマサチューセッツ州で医療費が高騰し続けたことはここまで何度も述べた通りである。換言すると,マサチューセッツ州がこの間一所懸命取り組んできた「無保険者の問題」も「診療報酬高騰の問題」も,医療を「民(=市場原理)」に委ねたことが根本の原因だったのであり,社会にしっかりした「公」の保険が存在しさえすれば起こるはずのなかった問題だったのである。

(略)

いったい,いつになったら,「医療ほど市場原理に不向きなものはない」ことがわかってもらえるのだろうか

私は現在の日本の医療制度はアメリカとくらべて優れたものであると思っています。TPP参加によりアメリカ型の医療制度が持ち込まれることで、日本の医療制度が破綻する可能性を危惧していましたが、どうやら最近のアメリカの医療政策は日本のそれに近づいてきているようです。かつてアメリカのような酷い医療制度が持ち込まれる可能性は低いのかもしれません。

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