医師はなぜ治せないのか

By , 2007年4月8日 3:21 PM

「医師はなぜ治せないのか(Bernard Lown著, 小泉直子訳, 築地書館)」を読み終えました。

Lown医師は、心室性期外収縮の分類であるLown分類で有名です。心室性不整脈に対するリドカイン投与、除細動(電気ショック)を始めたのも彼の仕事です。ハーバード大学の教授であり、ノーベル平和賞も受賞しています。心不全の重症度分類を作ったLevine教授の弟子でもあります。

彼は、「病気を治すことはできないが、少なくとも、この点とこの点は軽減できる」という捉え方を述べています。また、エドワード・トルドー医師の「何人かは治せる。たくさんの人を楽に出来る。すべての人に慰めを与えられる。」という言葉を紹介しています。これは以前読んだ「死に方 目下研究中(岩田誠著、恒星出版)」での「私はメディシンというのは、病気をなくすためとか、治すためにあるのではないと思います。病気の状態にある人に対して、何かやれることを探して、その手助けをするという程度のことしかたぶんできてこなかったと思うのです。(中略)治した、治したと思っているのは、ある意味錯覚で、要するにある戦場での勝利であるというだけです。死との全面戦争では絶対に負けているんです。メディシンが死との戦争で勝った試しはないのです。不老不死なんてありえないんですから。」という思想に通じるところがあると思います。

彼のした先進的な研究がなければ、現在の心臓病の治療はここまで進んでいないと思いますが、彼からは医師としての姿勢についても学ぶことが多いように思います。

その一方で、彼は人体実験まがいのことも多くしているのですが、「当時は、患者にやってもよいことを判断する認可委員会などなかったし、インフォームド・コンセントも必要なかった。ただ、部長の許可を得ればよかった。また、だめだと言われることもなかった。それどころか研究熱心だとして株が上がるくらいだった。」と釈明しています。

また、当時をふり返って、「よく、昔はよかったと懐かしんで、『古きよき時代』と言ったりする。しかし、五〇年前の病院医療をふり返ると、今はずいぶん改善された。今の病院のほうが、はるかに安全だ。患者は情報を知らされる。医薬品も注意深く処方されるし、手術室も大幅に改善された。最大の進歩は、どのような処置を受けるか、患者が自分の意見をかなり言えるようになったことだ。今にして思えば、五〇年前に病院で行われていた数々の身体障害にはぞっとするばかりだ。」と述べています。

本書の最終章は、「医師にどう接するか よい医療を受けるには」となっており、医師以外が読んでも面白い本です。

驚いたのは、心臓超音波検査。日本では診療報酬7500円(患者は3割負担)ですが、「一回の検査で請求される八〇〇ドルのうち五〇〇ドルが純利益になる」と紹介されていました。

「ある特定の症状を示す一〇〇〇人の患者がどうなるかについてなら、医師は非常に正確に予想できるかもしれないが、分母が小さくなればなるほど、正確に予想するのは指数関数的にむずかしくなる。サンプル数が単一のとき、すなわち一人の患者の結果を予言しなければならないときには、正確さはゼロになる。統計を個人の患者に当てはめるのはむずかしい。」には同感です。

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