CMT1BとGadd34

By , 2013年5月16日 7:59 AM

遺伝性末梢神経障害にはなかなか有効な治療法がありませんが、、2013年4月1日の Journal Experimental Medicine誌に興味深い論文が掲載されていました。

Resetting translational homeostasis restores myelination in Charcot-Marie-Tooth disease type 1B mice

Maurizio D’Antonio1, Nicolò Musner1, Cristina Scapin1, Daniela Ungaro2, Ubaldo Del Carro2, David Ron3,4, M. Laura Feltri1, and Lawrence Wrabetz1

P0 glycoprotein is an abundant product of terminal differentiation in myelinating Schwann cells. The mutant P0S63del causes Charcot-Marie-Tooth 1B neuropathy in humans, and a very similar demyelinating neuropathy in transgenic mice. P0S63del is retained in the endoplasmic reticulum of Schwann cells, where it promotes unfolded protein stress and elicits an unfolded protein response (UPR) associated with translational attenuation. Ablation of Chop, a UPR mediator, from S63del mice completely rescues their motor deficit and reduces active demyelination by half. Here, we show that Gadd34 is a detrimental effector of CHOP that reactivates translation too aggressively in myelinating Schwann cells. Genetic or pharmacological limitation of Gadd34 function moderates translational reactivation, improves myelination in S63del nerves, and reduces accumulation of P0S63del in the ER. Resetting translational homeostasis may provide a therapeutic strategy in tissues impaired by misfolded proteins that are synthesized during terminal differentiation.

Charcot-Marie-Tooth病 (CMT) は遺伝性末梢神経障害です。遺伝形式、障害のタイプ (軸索型/脱髄型) によりいくつかの subtypeに分類されます。人種差はありますが、一般的には常染色体優性遺伝の脱髄型である CMT1Aの頻度が最も高いことが知られています。今回の論文で取り上げられているのは、同じく常染色体遺伝の脱髄型である CMT1Bです。

CMT1Bは Myelin protein zero (MPZ; P0) の異常で発症します。P0はミエリンを形成するシュワン細胞の最終分化の間に合成される蛋白質です。ミエリン蛋白の 20~50%を占めます。膜同士の密着化、機能維持に関与するとされています。

著者らは P0の 63番目のセリンを欠失させた S63delマウスを用いた実験を行いました。S63del変異は、脱髄型ニューロパチーである CMT1Bの原因となります。変異マウスでは、P0 S63delがミエリン鞘で検出されず、小胞体に留まり、そこで凝集して小胞体ストレス応答 (UPR) の原因となっていました。これは、この変異が “toxic gain of function” であることを示唆しています。小胞体ストレス応答のメディエーターである Chop遺伝子を欠損させると、S63delマウスの運動機能が完全に回復し、脱髄も改善します

著者らは、小胞体ストレス応答と CHOPが果たす役割を調べるため、生後 28日の時点で、Chopノックアウトマウスに対して tunicamycin (UPRの activator) 投与後の転写解析を行い、CHOPの標的遺伝子として最終的に Gadd34を同定しました。小胞体ストレス応答が起こると、eIF2αがリン酸化され、mRNA翻訳が低下しますが、Gadd34は eIF2αを逆に脱リン酸化して翻訳の低下を防ぐ役割をしています (Gadd34は PP1-phosphatase複合体の活性化サブユニット)。

Chop遺伝子を欠失させると S63delマウスの運動機能が回復することはわかっていましたが、Gadd34をノックアウトしても同じようにS63delマウスの表現型が回復することが、神経伝導検査や病理学的評価で確認されました。また、Gadd34による eIF2αの脱リン酸化を阻害する Salubrinalという小分子が、S63delマウス胎児由来の後根神経節培養細胞の脱髄を抑制し、S63delマウスの表現型を回復することもわかりました。eIF2αのリン酸化は misfolded protein (うまく折りたたまれず、きちんとした 三次構造がとれない蛋白質) に関連したニューロパチーの治療ターゲットになりそうです。

ちなみに、Saxenaらが筋萎縮性側索硬化症 (ALS) のモデルマウスに対して Salubarinalを用いた実験を行った際、それなりの効果が認められたそうです。一方で、Morenoらは、Gadd34の過剰発現はプリオンによる神経変性に保護効果を示し、salubrinal処理をしたマウスでは神経の生存に悪影響がでることを報告しています。また、eIF2αの脱リン酸化をターゲットとした薬剤では、salubrinalより guanabenzのような薬剤の方が毒性が少ないかもしれないとも言われているそうです。

この論文は、有効な治療法が存在しない遺伝性ニューロパチーにおいて、ごく一部ではありますが治療法が開発できる可能性があることを示した意味で意義のあるものだと思います。CMT1B以外の末梢神経障害において、salubrinalや guanabenzによる神経保護効果が見られるのかも興味があります。


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