FOSMN

By , 2014年4月13日 5:52 AM

数年前に、医局の先輩が Facial onset sensory motor neuronopathy (FOSMN) という病気を抄読会で紹介したとき、何じゃその病気、と思いました。FOSMNは顔面や上肢の感覚障害で発症し、徐々に筋力低下や筋萎縮をきたします。TDP-43病理が報告されていることなどを根拠に、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の類縁疾患だと考えられています。しかし、ALSでは通常感覚障害はみられないはずなので、類縁疾患と言われてもピンと来ません。

2014年3月3日の Journal of Neurology Neurosurgery Psychiatry (JNNP) 誌に、FOSMNで ALSの原因遺伝子である SOD1変異が見られたという論文が掲載されました。

Short report: Heterozygous D90A-SOD1 mutation in a patient with facial onset sensory motor neuronopathy (FOSMN) syndrome: a bridge to amyotrophic lateral sclerosis

以下、簡単に要点をまとめます。

・FOSMNは 2006年に初めて報告された。初期に三叉神経領域や上肢の感覚障害があり、数ヶ月ないし数年後に球症状や上肢の筋力低下などがみられる。診察所見では角膜反射の消失がみられる

・生存期間は ALSより長く、8~21年

・家系内発症は報告されていない

・今回報告された症例は、 53歳男性。5年前に口唇及び鼻部の軽度の チクチクした感じが出現し、その 3年後に 10 kg/5ヶ月の体重減少、次いで全身脱力感や上肢筋力低下が出現。肺炎を繰り返した。神経伝導検査では、上肢のみ感覚神経 SNAP振幅低下があり、また左尺骨神経の運動神経 CMAP振幅低下があったが、伝導速度は正常だった。針筋電図では、上肢およびオトガイ筋の脱神経電位と、四肢の神経原性変化を認めた。Blink reflex, jaw reflexは異常だったが、顔面の神経伝導検査は正常だった。磁気刺激検査では、中枢運動神経伝導時間は正常だった。遺伝子検査では、SOD1 heterozygous pD90A変異を認めた。TARDBP, FUS, C9ORF72に変異はなかった。

・homozygous D90A-SOD1変異は、緩徐進行性 ALSを引き起こすが、 heterozygous D90A-SOD1変異で変わった表現型を示した報告が複数ある

ALSの原因遺伝子である SOD1の異常で、かたや感覚障害を欠く ALSになり、かたや感覚障害で発症する FOSMNを起こすというのは、不思議な感じがします。何故なのかというのは、現在のところ不明です (※興味深いことに、heterozygous D90A-SOD1変異の ALSで感覚障害を呈したという報告は散見されるようです)。

今回、SOD1 D90A変異を示した症例が報告されたことで、FOSMNが ALSなどの運動ニューロン疾患スペクトラムに含まれるという考え方は、より強固なものになりそうです。

Post to Twitter


17 Responses to “FOSMN”

  1. モリスやよい より:

    初めてまして。モリスやよいと申します。
    現在オーストラリアのクイーンズランド州、サンシャインコーストに家族と住んでます。
    オーストラリアンの主人が、このFosmnシンドロームにかかってます。何故か、日本とオーストラリア、フランスで症状で見られてるようですね。発症したのは、2013年ですが、この病名がわかるまで、かなりの時間がかかりました。症状例が少ないだけに(オーストラリアでは、4人と言われてます)、何かその後の情報、また日本でかかれる病院名、サポート状況など教えていただけたら、ありがたいです。又、主人も症状例の情報提供をしたいと申しております。

    よろしくお願いします。

    yayoi@live.com.au

    • migunosuke より:

      モリスやよい様。
      コメントありがとうございます。稀な疾患であり、なかなか初期には診断は難しいことがありますね。
      日本では、どの辺りの地域でお考えですか?どちらであっても大学病院クラスであれば、対応可能かと思います。
      サポートについてですが、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は厚生労働省の難病に指定されているものの、感覚障害の存在などから厚生労働省が定める ALSの診断基準を満たすことは難しいかもしれません。おそらく、国籍などの問題をクリアして日本での制度が利用可能であれば、介護保険、状況によっては身体障害者手帳などのシステムを用いることになるのではないでしょうか。この辺りは、重症度などにもよります。
      旦那様の病状が少しでも良くありますよう、お祈り申し上げます。

      • モリスやよい より:

        Migunosuke様

        大変遅ればせながら、お返事ありがとうございます。
        私の実家は、岐阜市です。九州の福岡大学病院にFOSMNシンドロームの専門科があるという情報を目にしましたが、ご存知ですか?岐阜の大学病院でも対応可能なのでしょうか。

        モリス

        • migunosuke より:

          FOSMINは稀で、大学病院クラスで患者さんが数名いるかどうかだと思います。従って、そのための専門の科はないと思います。

          岐阜大学脳神経内科の下畑教授は、ALSを始めとする神経変性疾患に造詣が深く、お薦めできると思います。下畑教授のブログは下記です。

          https://blog.goo.ne.jp/pkcdelta

        • aito より:

          初めまして。aitoと申します。現在山口県山口市に住んでおります。
          去年の夏ごろ、九州大学病院の脳神経内科でFOSMNではないかとの診断を受け、やっと自分の病名がわかりました。多分ですが発症してからほぼ13年が経過していると思います。(去年Ivigをやりましたが効果なしでした)
          九州大学病院脳神経内科の吉良教授はFOSMNに関する論文をいくつか出されていますので参考にされてはいかがでしょうか。

  2. モリス やよい より:

    Migunosuke 様

    情報ありがとうございます。
    参考にさせて頂きます。

  3. のせ たかこ より:

    初めまして。長年 原因が判らなかった体調不良の原因が、この病気と診断されて こちらのブログにて理解を深める事ができました。感謝申し上げます。
    札幌在住で 昨年の還暦時に診断を受けました。発症からは その時点で8年が経過しておりました。現在は札幌医大附属病院にて、数ヶ月に一度の免疫グロブリンの集中点滴を受けて 脱力症状と肺機能低下の改善を図っております。

    私の場合は 小脳萎縮を伴い、特に左小脳が萎縮が進んでいる為、左半身の機能低下が著しいです。
    無駄な努力かもしれませんが、リハビリも行い、諦めずに緩和治療を続けながら、体力維持を努めていこうと思っております。

    • migunosuke より:

      のせ様
      当ブログがお役に立ててよかったです。
      治療やリハビリにより、のせ様の症状が緩和されることをお祈りいたします。

  4. 都医学研より より:

    migunosuke先生、大変にご無沙汰しております。NMです。以前に、文献情報の検索か何かでこのサイトにたどり着いたのですが、更新が無く、ひどくお忙しいのだろうと思っていました。今日、本当にたまたま、何年かぶりにこのサイトを訪ねたところ、「結婚されて、家族が増えられた」という文章を拝見しました。本当におめでとうございます。本の量がすごいという話は聞いていましたが、どうか耐震作業だけはお忘れなきよう!今後の変わらぬご活躍を祈念しております。

    • migunosuke より:

      お久しぶりです。ありがとうございます。懐かしいです。
      以前は読んだ論文の備忘録として書き込んでいたのですが、単著で教科書を執筆するのに忙しかったのと、内容が重複しそうなことから、更新をさぼっていたら、なんとなくフェードアウトになってしまいました。

      地震の心配ありがとうございます。2021年2月の大地震で本棚やCDラックが倒れてきたので、必要な本以外全て売却し、CDも全部HDDにスキャンして売りに出しました。
      最低限の本棚はありますが、つっかえ棒などで固定しました。子供が出来て、大きな地震も経験し、地震対策は万全です。

      コロナが大変な状況ですが、NMさんもお体に気をつけて、研究頑張ってください。
      たまに、ラボのメンバーの名前でPubmed検索して、最近どんな研究をしているのか眺めています。

  5. yadokani より:

    初めまして、千葉のyadokaniです。よろしくお願い致します。
     10月30日Fosmnシンドロームの診断を受けました。現在、免疫グロブリン療法を受ける為に、入院待ちでいます。
    免疫グロブリン療法を受けて進展が御座いましたら、報告申し上げます。

    • migunosuke より:

      yadokaniさん
      コメントありがとうございます。
      免疫グロブリンが効いてくれると良いですね。
      改善を祈念しております。

  6. まりこ より:

    初めまして。東京のまりこと申します。
    一昨年の夏、私の父もFOSMNの診断を受けました。2015頃から発症をしておりましたが、診断を受けたのは2020年でした。
    現在は免疫グロブリンの療養を受けておりますが、依然回復の見込みはない状況です。
    このブログを見て、父と同じ病気の方が何名かいらっしゃるのだと気づき、思わずメッセージを送っております。今後もこのブログを通して情報共有、提供ができれば幸いです。

    実はこのブログ経由で、コメントにいらっしゃるモリスやよいさんと先日お話をさせていただきました。
    なかなか患者も少なく、難しい病気です。もし他にご連絡出来る方がおりましたら下記メールアドレスにご連絡頂けますと幸いです。

    bcn.zumodenaranja@gmail.com

  7. まりこ より:

    こんにちは。東京のまりこと申します。
    一昨年の夏、私の父もFOSMNの診断を受けました。2015頃から発症をしておりましたが、診断を受けたのは2020年でした。
    現在は免疫グロブリンの療養を受けておりますが、依然回復の見込みはない状況です。
    このブログを見て、父と同じ病気の方が何名かいらっしゃるのだと気づき、思わずメッセージを送っております。今後もこのブログを通して情報共有、提供ができれば幸いです。

    実はこのブログ経由で、コメントにいらっしゃるモリスやよいさんと先日お話をさせていただきました。
    なかなか患者も少なく、難しい病気です。もし他にご連絡出来る方がおりましたら下記メールアドレスにご連絡頂けますと幸いです。

    bcn.zumodenaranja@gmail.com

  8. まりこ より:

    突然失礼いたします。東京のまりこと申します。
    一昨年の夏、私の父もFOSMNの診断を受けました。2015頃から発症をしておりましたが、診断を受けたのは2020年でした。
    現在は免疫グロブリンの療養を受けておりますが、依然回復の見込みはない状況です。
    このブログを見て、父と同じ病気の方が何名かいらっしゃるのだと気づき、思わずメッセージを送っております。今後もこのブログを通して情報共有、提供ができれば幸いです。

    実はこのブログ経由で、コメントにいらっしゃるモリスやよいさんと先日お話をさせていただきました。
    なかなか患者も少なく、難しい病気です。もし他にご連絡出来る方がおりましたら下記メールアドレスにご連絡頂けますと幸いです。

    bcn.zumodenaranja@gmail.com

    • migunosuke より:

      まりこ様

      お返事が大変遅くなって申し訳ありません。
      拙ブログを通じて、患者さん同士の繋がりが出来て何よりです。
      お父様の回復をお祈りしております。

  9. ホーマン でんき より:

    こんにちは、九州福岡在住です、私もいFOSMNと診断されて3年がたちます
    久留米大学病院で2012-04FOSMNと診断されて、グロブリンの点滴を受けました。
    その後、九州大学病院脳神経内科に転院して、そちらでもブロブリンの点滴を2022-07に受けましたが、変わりはないようです。
    同じ病気で悩んでる方と情報の交換が出来ればと思います。

Leave a Reply to モリス やよい

Panorama Theme by Themocracy