臨床研究の道標

By , 2014年5月27日 6:07 AM

「臨床研究の道標 (福原俊一著, 健康医療評価研究機構)」を読み終えました。1年前に購入して「読む本リスト」に入っていたのですが、臨床研究をやりたいという医師に相談を受けた時に推薦書として貸したら戻ってこなくなり、再度購入したのです。

冒頭で「医者の過重労働が診療に影響を与えているのではないか」という clinical questionが提示され、それを元に主人公の Oliveが臨床研究をデザインする様子を描いた本です。どのようなプロセスを経て研究デザインが組まれるのか、実際の例を通じて解説されるため、非常に理解しやすいです。教科書っぽくなく、読みやすかったです。

読みやすい一方で、内容のレベルは決して低くなく、「線形性の確認をしないで連続変数で解析することの危険性」「リスク・発生割合 (一定期間のアウトカム新規発生割合) と発生率 (アウトカム新規発生の速さ, 分母が総人年などになる) の違い」「propensity scoreは、測定可能な交絡因子のみで調整する多変量解析による調整と変わりがないことが明らかになってきていること」「点推定+区間推定を用いず p値を用いることの問題点」「p値関数」などについては、本書で初めて知りました。

そして、医師主導型臨床研究についての記述は、まさに私が考えていることと同じでした。

一方、治験以外の臨床試験として、近年増えている「医師主導型臨床試験」はどうでしょうか?これはあたかも、医師や研究者が、独自あるいは公的研究費を財源として、製薬企業と関係なく研究を行っているように聞こえますが、すべてはそうではありません。多くの「医師主導型臨床試験」が、特定あるいは複数の製薬企業からの委託や寄付によって研究費の一部あるいは、全部が賄われている可能性があります (詳細なデータは公開されてないことが少なくありません)。この種の研究に対して、規制や監視は行われていないのが現状です。筆者は、利益相反が問題となり得るのは、治験よりも、この「医師 (研究者) 主導型臨床試験」の方ではないかと見ています。 (248ページ)

臨床疫学の勉強を始めたい方に、「医学的研究のデザイン」と並んで薦めたい本です。

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