緑の天啓

By , 2014年6月7日 6:00 PM

先日の神経学会総会で無料配布されていた「緑の天啓 SMON研究の思い出 (井上尚英著, 海鳥社)」を読み終えました。

SMON (Subacute Myelo-Optico-Neuropathy) は、キノホルム製剤により、亜急性に脊髄、視神経、末梢神経の障害や消化器症状が出現する疾患です。昭和 30~40年代に問題となった、我が国最大級の薬害でした。原因が薬の副作用だったにもかかわらず、それがわかるのに長い年月を必要としました。私は本書を読むまでは、「通常、薬剤内服歴はチェックするはずなのに、なぜそれがわからなかったのか」と疑問に思っていましたが、実はそれにはいくつも理由があったようです。

・薬剤を内服してから症状が出るまで、数週間のタイムラグがあった。

・量依存的に症状が出現するため、少量であれば飲んでも影響がなかった。「飲んでいても大丈夫」な患者がいたため、疑いにくかっった。

・キノホルムを含む整腸剤に副作用はなく無害だと思われていた (海外では投与量が制限されていたが、日本の説明書ではそこが省かれていた。安全だと信じこんで大量投与を行う医師がいて、その地域に患者が集中した事情があったらしい)。

・キノホルムを含有する薬剤は複数あり、単一の商品ではなかった。そのため商品名だけチェックしてもわかりにくかった。

・キノホルムが胃腸炎などで消化器症状を呈した患者に対する治療薬として使われため、内服後に副作用で消化器症状が出たとしても、もともとの病気の症状と判断されてしまった。

原因不明と思われた SMONは、日本中の神経内科医らがしのぎを削って研究し、最後はあっけなく原因が同定されました。研究の過程で登場するのは、豊倉先生、高須先生、黒岩先生、椿先生、井形先生など、そうそうたる神経内科医たちです。まさに叡智を結集してと言って良いです。

この薬害から改めて思うことは、「クスリはリスク」ということです。副作用のない薬はないと考え、必要ない薬は使わない、使うとしても用量をきちんと検討することが重要ですね。

本書を読みながら、薬害に苦しんだ患者や、良かれと思ってキノホルムを処方して薬害を作ってしまった医師たちの心中を考え、心が痛みました。

SMONの原因が同定されてから数十年が経ちます。私を含め、今の若い医師たちはあまりこの問題を知らないと思います。風化させてはいけないと思いますので、是非多くの方にこの本を読んで頂きたいです。


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