第6回抄読会

By , 2007年7月31日 6:05 AM

7月24日に、有志で第6回抄読会を行いました。

K先生は、「Stebbins GT et al. Altered cortical visual processing in PD with hallucinations. Neurology 63: 1409-1416, 2004」を紹介しました。

 慢性的に幻覚のあるパーキンソン病 (Parkinson disease; PD) 患者と全く幻覚を認めないパーキンソン病患者に2種類の視覚刺激を与えて fMRIの活動性を検討しました。方法としては、MMSE24点以上、12例の幻覚を伴う PD症例と、マッチした正常コントロール PD12例を比較しました。結果として、幻覚群ではとくに動的視覚刺激に対する後頭葉皮質の活性化が認められませんでしたが、一方で前方系皮質(前頭葉)、尾状核の活性化が見られました。非幻覚群では、中側頭・後頭領域 (V%/MT; 運動視に関与) の活性化が目立ちました。stroboscopic stimulationでは、活性の違いはみられませんでした。(→静的刺激は差がなかったけれど、動的刺激に対する反応が、幻覚群では低下していたということです。)

 過去に知られている知見として、
①視覚障害に伴う幻覚では、SPECTにて側頭葉皮質、線条体、視床のHyperperfusion, fMRIにて腹側線条体外領域の賦活
②Lewy小体病では、SPECTにて後頭葉皮質の血流低下、PETにてグルコース利用の低下
③幻覚を伴う PD症例では、SPECTにて左側頭葉~側頭後頭領域の血流が幻覚のない群と比較して低下
があり、それらを総合すると、幻覚を伴う PD患者では、視覚情報に注意を向けるシステムの障害があるのではないか?と考えられます。

 外的視覚システム (bottom-up system) よりも内的視覚システム (top-down system) が、幻覚群では優位になっているのではないかという仮説が立てられ、外的視覚刺激に対する感受性が低下したため、前頭葉活動が異常に亢進して、誤った感覚視覚的記憶を呼び覚まして、幻覚を構築するのではないかと推測されます。

 興味深い論文ですが、幻覚を伴う PDは DLBだったのではないかという疑問は残ります。ただ、DLBの生前診断は困難ことがしばしばですからね。アリセプトを使用して、どう幻覚が変化したかも調べてみたいものです。

I先生は、「Kaji R, et al. Activity-dependent conduction block in multifocal motor neuropathy. Brain 123: 1602-1611, 2000」を紹介しました。多巣性運動ニューロパチー (multifocal motor neuropathy; MMN) 患者では、しばしば易疲労感を訴えます。その原因を調べようという独創的な研究です。この結果を応用すると、良く CIDP患者が「疲れた」というのが理解出来そうです。

 正常患者とMMN患者とALS患者に筋収縮させて、その間の筋電図を記録しました。正常では振幅の低下はなく、ALS群でも最初から振幅は低いながら途中で低下することはありませんでしたが、MMN患者では病巣側で筋収縮中に振幅が低下しました。最大筋収縮 (Maximum voluntary contraction; MVC) とその後の時間経過を分析したところ、MMN患者のconduction blockは、MVCで悪化し、数 10秒で回復しました。運動による conduction blockの悪化が、MMN患者の易疲労性に関与していると言えそうです。運動による conduction blockの悪化の原因には、電位の過分極が示唆されており、sodium-potassium pumpの活性化が影響しているのではないかと考えられています。

 私は、脳動静脈奇形(AVM)と片頭痛について纏めました。

 AVM患者では、しばしば拍動性頭痛発作を訴えます。このような発作では、片頭痛との鑑別が問題となります。AVM患者に伴う頭痛が、AVMによる頭痛なのか、片頭痛なのかは、これまで議論されてきています。片頭痛であるとして治療してきた患者に AVMが見つかった個人的経験を元に、関連する論文を調べました。

-頭痛の合併-
特に後頭葉の AVMでは、視覚症状(片頭痛前兆に類似)を伴った片頭痛様頭痛を起こしやすい。AVMに合併する頭痛の頻度は、3~79.2%とばらつきがある。

 Monteiro JMPらは脳内血管奇形の患者 51名に対し、「self-administered headache questionnaire」及び IHS criteriaを用いた問診を行った。51名中 38名が AVMで、13名が海綿状血管腫であった。51名中 40名 (78.4%) に頭痛があった。24名は片頭痛タイプの頭痛であった。6名が前兆を伴う片頭痛であり、11名が前兆を伴わない片頭痛であり、7名はすべての診断基準を満たさなかった。40名中 16名は緊張型頭痛で、時々の頭痛が 8名、慢性頭痛が5名、すべての診断基準を満たさないのが 3名であった。片頭痛タイプの頭痛の24名のうち、頭痛が血管奇形のある側と一致していたのは、21名 (87.5%) であり、一致しなかったのが 3名であった。AVMに限って言えば、AVMと頭痛のある側が一致したのは 88.8%であった。

 Kuritaらの検討では、AVM患者37名中、17名 (45.9%) に周期的な頭痛の合併があった。9名はAVMの側の拍動性頭痛であった。9名中7名には、AVMと反対側の視覚前兆 (閃輝暗点など) があった (注:視覚伝導路を思い出してください)。5名は視覚路にnidusがあった。7名のうち、4名はIHSの片頭痛診断基準を満たし、3名は 4分以上の前兆という診断基準を満たさなかった。3名では吐き気、嘔吐を伴った。9名中 2名は、AVMと同側の頭痛があり、発作中ないし発作後にも視覚症状を伴った。17名中の残り 8名は、緊張型頭痛であり、頭痛の優位側や視覚症状はなかった。いずれのタイプの頭痛も、AVMが1.9cm3を越えると頭痛の頻度が増加した。視覚野病変や鳥距動脈の関与は、片頭痛様頭痛の存在と相関しなかった。

-AVM患者にみられる頭痛は片頭痛なのか?それとも AVMによる頭痛か?-
・たまたま AVMに偏頭痛が併存しただけとする立場
Troost and Newton:AVMにおける片頭痛の有病率は、一般人の片頭痛有病率と比較して多くないため、両者は関係ない。
Mohr:経験と文献から、たまたま併存したものと考える。
・AVMによる頭痛とする立場
Waltimoら:AVMに伴う片頭痛は、特に女性で、一般人の片頭痛より頻度が多いため、関係ある(男性14%, 女性58%)。
Bruyn:AVMに伴う片頭痛は、偶発的に合併するであろう頻度より多い。
→つまり、どちらの意見もあり、決着はついていない

-AVM患者における片頭痛前兆様視覚症状-
Kupersmithらの 70名の AVM患者の検討では、39名に頭痛があった。頭痛に関連した視覚症状の内訳は下記の通り。

 頭痛前は Scintillating scotomas 15名、Jagged flickering fortifications 7名、Transient homonymous hemianopsia 13名、Spots in one hemifield 1名、Permanent homonymous hemianopia 7名、Blurred vision 1名、Tunnel vision episodes 1名、Diplopia episodes 2名。頭痛中は Jagged flickering fortifications 3名、Spots in one hemifield 1名。頭痛後は、Spots in one hemifieldが2名。

-治療への反応-
治療により頭痛は改善するとする報告、変化しなかったとする報告、治療が初めて片頭痛様頭痛を来すようになった報告があり一定しない。Kuritaらの報告によれば、radiosurgeryの治療効果と、術後の頭痛の改善は密接に関与していたとしている。

-結論-
AVM患者にみられる頭痛が、たまたま AVMと片頭痛を合併しただけか、それとも AVMにより片頭痛様の症状がみられているのかは議論の余地がある。しかし、AVMの存在する側と症状の左右優位性に関係がありそうなため、AVMにより片頭痛様頭痛、視覚前兆が引き起こされる可能性が高いと考えられる。

 片頭痛か、AVMによる頭痛かは、特に後頭葉の AVMで鑑別が難しいことがある。両者とも拍動性頭痛である。更に、後頭葉の AVMは片頭痛に似た視覚前兆を伴いやすい。その際、視覚前兆は片側 (AVMと反対側) に現れやすい傾向にある。

 AVM患者で片頭痛が多いか、AVM患者と一般人との片頭痛有病率の差から検討した研究もあるが、結論は出ていない。

 AVMに伴う頭痛で、AVMの治療をした後の経過は、報告により異なるが、radiosurgeryが可能な症例では、AVMに対する治療が上手くいけば、術後の頭痛の改善が期待できるかもしれない。

-AVMに伴う頭痛と片頭痛の鑑別点-

Table. Characteristic features distinguishing migraine from AVM. (Chen JSら)
Characteristic AVM Migraine
Onset Late (average age) Early (average age)
Frequency May be daily Typically monthly or less frequent
Laterality of headache Always ipsilateral to AVM Alternate
Family history Negative Positive in half of cases
Trigger factors Negative Positive
Onset of headache in relation to aura Concurrent/after After aura
Female: male ratio Affected equally 3:1
Photophobia, phonophobia, nausea Usually negative Positive
Duration of aura 5 to 30 seconds 20-60sminutes
Visual-field defect, if present Usually homonymous Usually unilateral

-参考文献-
①Soderman M, et al. Management of patients with brain arteriovenous malformations. Eur J Radiol 46: 195-205, 2003
②Maleki M, et al. Arteriovenous malformations of the posterior cerebral hemispheres. Can J Ophthalmol 18: 22-27, 1983
③Haas DC. Arteriovenous Malformations and Migraine: Case Reports and an Analysis of Relationship. Headache 31: 509-513, 1991
④Monteiro JMP, et al. Migraine and intracranial vascular malformations. Headache 33: 363-365, 1993
⑤Chen JS, et al. Parieto-occipital arteriovenous malformation. Optometry 73: 477-491, 2002
⑥Kurita H, et al. Headaches in patient with radiosurgically treated occipital arteriovenous malformations. J Neurosurg 93: 224-228, 2000
⑦Kupersmith MJ, et al. Occipital arteriovenous malformations: Visual disturbance and presentation. Neurology 46: 953-957, 1996

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