Category: 神経学

ALSへのPerampanel

By , 2016年7月6日 5:46 PM

2014年10月26日のブログ記事で、私は次のように書きました。

ALSと陰性徴候

余談ですが、グルタミン酸受容体のなかで AMPA受容体と ALSの関係について最近多くの論文が発表されています。そんな中、2014年10月20日に、AMPA受容体拮抗薬 “Perampanel” が抗てんかん薬として FDAから承認されました。この薬が、ALSでの AMPA受容体が関与した細胞毒性を抑えてくれることはないのか・・・ふと思いました。論文検索してみても誰も研究していないみたいですし、何の根拠もない全くの妄想ですけれど・・・(^^; (開示すべき COIはありません)

なんと、東京大学神経内科らのグループが Perampanelを ALSのマウスモデルに使って有効性を示した論文が 2016年6月28日に発表されました。

The AMPA receptor antagonist perampanel robustly rescues amyotrophic lateral sclerosis (ALS) pathology in sporadic ALS model mice

俺って、センスあるじゃん」と、この論文の存在を知って嬉しくなりました。

ALSの進行、抗てんかん薬で抑制 東大、マウスで実験

瀬川茂子

2016年6月28日19時37分

全身の筋肉が衰えていく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の進行を抗てんかん薬の一種で止められる可能性を東京大などのグループがマウスの実験で示した。英科学誌サイエンティフィック・リポーツ電子版で28日、発表した。

グループは、筋肉の運動神経細胞にカルシウムが過剰に流入して細胞死を起こすことがALSの進行にかかわることを動物実験で確認してきた。そこで、細胞へのカルシウム流入を抑える作用のある抗てんかん薬「ペランパネル」に注目した。

ALSに似た症状をもつように遺伝子操作したマウスに、90日間、この薬を与えた。薬を与えなかったマウスは、次第に運動神経の細胞死が起こったが、薬を与えたマウスでは細胞死が抑えられた。回し車に乗る運動能力や、ものをつかむ力も実験開始時の状態を保つことができたという。

グループの郭伸(かくしん)・国際医療福祉大特任教授(神経内科)は、既存薬なので安全性は確認されているとして、「医師主導の臨床試験を始めたい」としている。(瀬川茂子)

今後は臨床試験を予定しているようですが、すでに海外で承認されている抗てんかん薬なので、比較的やりやすいと思います。ALSの場合は、マウスで効いても人では効かない・・・ということの繰り返しなので、実際にどういう結果がでるかはやってみないとわかりません (・・・個人的には五分五分よりは分が悪いと思っています) が、良い結果を期待したいと思います。

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最近の医学ネタ

By , 2016年6月29日 6:13 PM

ニュース感覚で論文チェックはしていますが、なかなか詳しく紹介する時間がありません。とりあえず、最近面白かった論文等の触りだけ紹介しておきます。

Delayed diagnosis of extraovarian teratoma in relapsing anti-NMDA receptor encephalitis

若い女性に好発する抗NMDA受容体脳炎の症例報告 (この疾患を知らない方はこちらを参照)。15歳の女性。意識障害/精神症状/てんかんや自律神経障害による心停止 4回などあり。抗NMDA受容体抗体陽性で診断し、ステロイドパルス、IVIg, 血漿交換, リツキシマブなどで治療。卵巣奇形腫はなかったが、FDG-PETをおこなってみたら、甲状腺に腫瘍があり、摘出すると奇形腫だった。血清 β-HCGや AFPは異常なかった。奇形腫は、NeuNや抗NR1抗体で染色された。

著者らによる、この症例のキモは次の通り。 “This case illustrates 2 important points in NMDAR encephalitis: (1) exclusion of ovarian teratomas with MRI or ultrasound is not sufficient in some patients as extragonadal teratomas may occur; and (2) tumors should be considered in patients with a prolonged relapsing disease course and persistent CSF NMDAR antibody titers, including the IgA isotype.”

Association of Progressive Cerebellar Atrophy With Long-term Outcome in Patients With Anti-N-Methyl-d-Aspartate Receptor Encephalitis

北里大学からの報告。抗NMDA受容体脳炎の長期予後について、15例を 5~6年 follow upしてみた。5例にびまん性脳萎縮があり、うち 2例に進行性小脳萎縮がみられた。進行性小脳萎縮のない症例では、びまん性脳萎縮は可逆性であり、基本的に予後は良好であった (1例を除き mRS 0-2;1例は下肢切断のため回復良好だったものの mRS 4と評価)。進行性小脳萎縮ある症例では、脳萎縮は一部可逆性であったが、予後不良 (mRS 4-5) と関連があった。

症例の一覧表はこちら

Association Between Gun Law Reforms and Intentional Firearm Deaths in Australia, 1979-2013

オーストラリアで 1996年に銃規制の法律が強化されたこと影響を見るため、銃による死亡、銃による大量殺人 (犠牲者 5名以上) を調べた。銃規制の法律が強化される前 (1979-1996年) は、大量殺人が 13件あったが、強化された後(1996~2016年) には 1件もなかった。法律が強化される前 (1979-1996年) には、銃による死亡は平均 3.6/人口10万人であったが、強化された後 (1996~2013年) は平均 1.2/人口10万人であった。

もともと、銃による死亡は年々減っていたので、どこまで銃規制が影響しているか判断するのは難しいけれど、少なくとも大量殺人はなくなった。この論文が、2016年6月12日のアメリカでの銃乱射事件の直後 (2016年6月22日) に発表されていることに、感じるものがある。さすが、JAMA!

Screening for Colorectal Cancer

USPSTFによる大腸癌のスクリーニングの推奨ステートメント。”The USPSTF recommends screening for colorectal cancer starting at age 50 years and continuing until age 75 years (A recommendation). The decision to screen for colorectal cancer in adults aged 76 to 85 years should be an individual one, taking into account the patient’s overall health and prior screening history (C recommendation).” ということで、50~75歳は要スクリーニング、76~85歳は個々の症例に応じて判断。ただし、これは平均的なリスクの患者についてであって、家族性大腸腺腫症などでは話は別。スクリーニング法やスクリーニングの間隔については本文参照。

Pharmaceutical Industry–Sponsored Meals and Physician Prescribing Patterns for Medicare Beneficiaries

製薬会社からの食事提供と処方には正の相関がある。

もう、こういう風習やめればよいのに。ちなみに、私は学会参加時、製薬会社の資金提供のあるランチョンセミナーには数年間行っていない (学会を運営する側からすると、この資金提供はとても助かるらしいんですけれどね・・・)。最近では、ほかに製薬会社が共著者にいる研究はポジティブな結果が多いという研究もあり。

Association Between CYP2C19 Loss-of-Function Allele Status and Efficacy of Clopidogrel for Risk Reduction Among Patients With Minor Stroke or Transient Ischemic Attack

CHANCE trial (過去のブログ記事に簡単な紹介あり:対象患者は高リスク TIA (ABCSD2 >4点), Minor stroke (NIHSS score ≦3点), 感覚障害のみ/視野障害のみ/めまいのみ/MRI正常を除外。介入群:初日クロピドグレル 300 mg+アスピリン 75~300 mg, 2~21日クロピドグレル 75 mg+アスピリン 75 mg, 22~90 日 クロピドグレル 75 mg, コントロール群:初日アスピリン 75~300 mg, 2~90日アスピリン 75 mgとしたところ、介入群で脳卒中再発は減少したが、出血性イベントは増えなかった。) に参加した患者を解析。クロピドグレルとアスピリンの併用で新規脳梗塞リスクが減少したのは、CYP2C19の機能喪失変異がない患者群のみであった。

クロピドグレルはプロドラッグであり、CYP2YC19等の代謝を受けて効果を発現するため効く患者と効かない患者がいるのが問題で、それが端的に現れた結果だと思う。

Alemtuzumab and Multiple Sclerosis

多発性硬化症の治療薬アレムツズマブでノカルジアの中枢神経感染を起こした症例報告に対しての editorial論文。アレムツズマブの副作用が網羅されていて、参考になる (アレムツズマブに関する過去のブログ記事はこちらから)。約30~40%に自己免疫性甲状腺疾患、1~3%に自己免疫性血小板減少症、0.3%に糸球体腎炎 (Goodpasture syndrome or membranous glomerulonephritis)。ほかの免疫調整薬同様、悪性腫瘍と感染症には注意が必要だが、悪性腫瘍は数が少ない。特にヘルペス感染には注意が必要。その他、スピロヘータ歯肉炎、化膿性肉芽腫、食道カンジダ、結核、リステリア髄膜炎など。

Associations of urinary sodium excretion with cardiovascular events in individuals with and without hypertension: a pooled analysis of data from four studies

高血圧患者は塩分摂取量が多い (Na排泄量 7 g/day以上) と心血管イベントや総死亡が増えるが、正常血圧者では増えない。一方、塩分摂取量が少ない (Na排泄量 3 g/day未満) と、高血圧があろうがなかろうが、心血管イベントや総死亡は増える。

Characteristic Pulvinar Sign in Pseudo-α-galactosidase Deficiency Syndrome

視床枕の T1強調像高信号 (Pulvinar Sign) はファブリー病に特徴的な所見であることが知られている。細胞内での活性が正常であるにも関わらず、遺伝子変異のため in vitroでは α-ガラクトシダーゼの酵素活性が低下していた Pseudo-α-galactosidase Deficiency Syndrome (PAGD) でも Pulvinar Signが見られたという症例報告。この症例のキモは下記。”This unique instance of Fabry disease raises 3 important points: (1) the finding of pulvinar hyperintensity on T1-weighted images (also known as pulvinar sign) can be seen in patients with pseudo-α-galactosidase deficiency syndrome; (2) this finding may occur in the absence of renal or cardiac manifestations; and (3) neurocognitive function in patients with PAGD is proportionally less affected than brain structure by imaging, even given the unusual finding of diffuse atrophy.”

Roche anticipates quicker U.S. approval for new MS drug

FDAの fast track reviewのため、Ocrelizumabが年内にも承認される可能性。多発性硬化症の治療薬はたくさん開発なので、フォローするのが大変。下のスライドは、私が今年の春に某所で講演した時に簡単にまとめたもの。講演の後、ジメチルフマル酸 (商品名:テクフィデラ) が 2016年4月19日に本邦で承認申請と発表あり。

多発性硬化症 disease modifying therapy

多発性硬化症 disease modifying therapy

子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚

村中璃子氏によるセンセーショナルな記事。村中氏の仕事は評価するけれど、一点だけ気になるのは、村中璃子氏はワクチンを開発している会社の元社員じゃないかという噂がネット上で散見されていることで、もし本当にそうであれば COI (conflict of interest; 利益相反) を開示すべき。HPVワクチンの問題は、時間が経つにつれて、どんどん混迷を極めているように見える (HPVワクチンの問題については過去のブログ記事も参考に)。

続・だいたいウンコになるので専門家に通称DU薬(DAITAI UNKO)とすら呼ばれる抗菌薬について知っておきたいこと

経口第三世代セフェムの批判記事。その通りと思う。(過去のブログ記事「妊婦の尿路感染症」も参考に)

Acute bacterial meningitis in adults

Lancet Neurologyの細菌性髄膜炎の総説。よくまとまっている。

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JAMA論文撤回

By , 2016年6月18日 7:47 PM

2015年5月22日のブログ記事で、脳卒中後の患者にビタミンB12と葉酸を投与すると大腿骨頚部骨折が減少するという論文に関する疑念について書きました。この論文が本当に正しいのか、JAMA誌が疑念を寄せていた問題です。

JAMAから寄せられた疑念

その論文が、2016年6月14日に撤回されたそうです。

Notice of Retraction: Sato Y, et al. Effect of Folate and Mecobalamin on Hip Fractures in Patients With Stroke: A Randomized Controlled Trial. JAMA. 2005;293(9):1082-1088.

撤回となった理由は “acknowledgment of scientific misconduct resulting in concerns regarding data integrity and inappropriate assignment of authorship” と書いてありますが、それ以上は不明です。

日本の臨床研究の信頼性を損なったという意味で、残念な結果です。

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認知機能低下,運転は大丈夫?

By , 2016年6月17日 6:22 AM

いつも楽しく勉強させていただいている「ここが知りたい!高齢者診療のエビデンス」シリーズの第三話は認知機能低下と運転についてでした。

[第3回]認知機能低下,運転は大丈夫?

認知機能と運転能力は必ずしも相関しないんですね。警察からの指示で、高齢者の認知機能を評価しなければならないことがあるので、色々と考えさせられます。2016年6月2日に発表された論文にも、同じようなことが書いてありました。

Cognitive Tests and Determining Fitness to Drive in Dementia: A Systematic Review

The findings from this review support the use of composite batteries comprising multiple individual tests from different cognitive domains in predicting driving performance for individuals with dementia. Scores on individual tests or tests of a single cognitive domain did not predict driver safety. The composite batteries that researchers have examined are not clinically usable because they lack the ability to discriminate sufficiently between safe and unsafe drivers. Researchers need to develop a reliable, valid composite battery that can correctly determine driver safety in individuals with dementia.

話は変わりますが、認知症といえば、最近下記の論文を知って驚きました。この研究によると、脳出血後なんと 5人に1人が半年以内に認知症を発症するんですね。平均 74.3歳ですが、明らかに高頻度だと思います。なお、脳出血後の半年間に認知症を発症しなかった場合の認知症発症リスクは年間 5.8%だったそうです。(JAMA Neurology, 2016.6.13 published online)

Risk Factors Associated With Early vs Delayed Dementia After Intracerebral Hemorrhage

Among 738 patients who had experienced ICH (mean [SD] age, 74.3 [12.1] years; 384 men [52.0%]), 140 (19.0%) developed dementia within 6 months. A total of 435 patients without dementia at 6 months were followed up longitudinally (median follow-up, 47.4 months; interquartile range, 43.4-52.1 months), with an estimated yearly incidence of dementia of 5.8% (95% CI, 5.1%-7.0%). Larger hematoma size (hazard ratio [HR], 1.47 per 10-mL increase; 95% CI, 1.09-1.97; P < .001 for heterogeneity) and lobar location of ICH (HR, 2.04; 95% CI, 1.06-3.91; P = .02 for heterogeneity) were associated with EPID but not with DPID. Educational level (HR, 0.60; 95% CI, 0.40-0.89; P < .001 for heterogeneity), incident mood symptoms (HR, 1.29; 95% CI, 1.02-1.63; P = .01 for heterogeneity), and white matter disease as defined via computed tomography (HR, 1.70; 95% CI, 1.07-2.71; P = .04 for heterogeneity) were associated with DPID but not EPID.

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Nuclear receptor NR1H3 in familial multiple sclerosis

By , 2016年6月3日 6:15 AM

Neuron誌に驚きの論文が掲載されました (2016.6.1 published online)。家族性多発性硬化症の exome sequenceで NR1H3変異が証明されたというのです。表現型は急速進行型多発性硬化症でした。単一遺伝子変異でも多発性硬化症を発症することがあるのですね。ビックリしました。興味のある方は論文をどうぞ (締め切り直前の仕事が立て込んでおり、詳しく解説している余裕がなくてすみません)。

Nuclear Receptor NR1H3 in Familial Multiple Sclerosis

 

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第57回日本神経学会学術大会

By , 2016年6月1日 5:45 AM

2016年5月18~21日に行われた神経学会総会に行ってきました。というか、あまりアカデミックなことには触れることなく・・・。とりあえず、どんなことがあったか振り返っておきます。

まず、5月20日の学会のコングレスディナーと 5月21日のポスターセッションでの演奏依頼があったことを記しておく必要があります。演奏するのは、神経内科医、言語聴覚療法士、他科の医師数名の団体。

20日はレスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア第3曲 (レスピーギ)」「日本の四季~夏 (早川正昭)」「アイネ・クライネ・ナハトムジーク第 3楽章 (モーツァルト)」、21日は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク第1楽章 (モーツァルト)」「カノン (パッヘルベル)」「花は咲く」を演奏する予定でした。私は第1ヴァイオリンを演奏することになっていましたが、tuttiでしたので、後ろの方で小さな音で弾いていればよいかと思い、ほとんど練習していませんでした。ところが・・・。以下、日記風に。

5月15日(日):「20日の演奏で、ソリスト兼コンサートマスターが外来を閉め忘れて来られなくなった。代役を御願いします」との電話。俺氏青ざめる。カラオケボックスに篭もり 2時間ほど音取り。

5月16日 (月):当直で練習出来ず

5月17日 (火):19~21時まで雑誌の編集会議があり、その後 2時間ほどカラオケボックスで練習。

5月18日 (水):仕事を終えて、新幹線で神戸へ。23時30分頃ホテルサンルートソプラ神戸に到着。ホテルのルームキーが壊れており、最上階のツイン・ルーム (応接セット付き) を 3日間使って良いことになる。ちょっとラッキー。

5月19日 (木):Cochrane systematic reviewの締め切りが 5月20日だったので、午前中は学会場の喫茶店に篭もり作業。午後は岩田誠先生の「小脳症候学の確立」の講演のみ聴講。素晴らしい講演だった。ポスターを眺めてから三宮に戻り、飲み会を断ってカラオケボックスで 2時間楽器の練習。その後、ステーキランド神戸店で神戸牛+ワインを堪能してホテルへ。

5月20日 (金):午前中、学会の喫茶店で Cochrane systematic reviewの担当者に「間に合いません。締め切り延期してください」の泣きメール (爆)。午後、合奏のメンバーの一人 Kentaru先生と合流して、ポスターを眺めてから二人でグリル金プラにて私的ランチョンセミナーへ。食事をしてから一緒にカラオケボックスで練習。現実逃避をして、バッハの「二台のヴァイオリンのための協奏曲」などを合わせて遊ぶ。その後、ラ・スイート神戸オーシャンズガーデンのコングレスディナーで演奏。奇跡的に上手くいって、多くの拍手をいただく。ディナーの後、三宮で二件ハシゴ酒。

5月21日(土):二日酔いで学会場へ。本来のコンサートマスターが到着したため、tuttiの一員として気楽に演奏。ポスターを眺めてから、三宮駅前へ。Kentaru先生とBeer Cafe De Bruggeに入り、何気なくルースというビールを頼んでからふとメニューを見て、5980円という表記を見つけビックリする。店を出て、新神戸駅で大量の酒を買い込み、新幹線で飲み会開始。二人で音楽談義をして盛り上がる。学会で勉強したことの情報交換など。東京で解散。

ということで、学会ではあまり勉強はしませんでしたが、久々に音楽漬けの数日間を送ることができました。

そして後日、この演奏を聴いた方から、別の学会での演奏依頼が舞い込んできたのでした(^^)

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これだけは知っておいて欲しい筋疾患

By , 2016年5月28日 6:15 PM

2016年5月13日、郡山ビューホテルで行われた第9回福島末梢神経研究会に参加しました。西野一三先生の「これだけは知っておいて欲しい筋疾患」という講演が面白かったので備忘録としてメモしておきます。

①Sporadic late-onset nemaline myopathy (SLOMN):ネマリンミオパチー

・成人発症で、亜急性・進行性である。運動ニューロン疾患に似た経過をたどる。治療できる場合があるので、見逃してはならない。

・SLOMN with MGUSは予後不良で、5/7例が呼吸不全で死亡 (予後 1-5年)。

・SLOMN without MGUSは 5/5例生存→治療として、高用量メルファラン+自家幹細胞移植 7/8例で生存、改善している。 

・SLOMN with MGUSは治療として、高用量メルファラン+自家幹細胞移植 7/8例で生存、改善している。(記事末尾の追記およびコメント欄参照)

・狭高口蓋は先天性ミオパチーを示唆する。Nemaline myopathyが鑑別となる。ミオパチーを疑ったら、口腔内の上側をきちんと評価すること。

・四肢筋力が保たれるにも関わらず、呼吸筋麻痺が目立つミオパチーとして、nemaline myopathy, Pompe病がある。歩けているのに呼吸不全をきたし、患者自身が自分でアンビューを押す事例もあるらしい。

②Inclusion body myositis (IBM): 封入体筋炎

・深指屈筋が侵されやすい (前腕の筋萎縮が目立つ) +大腿四頭筋萎縮が目立つ

・深指屈筋が侵されると、ペットボトルの蓋が開けにくい。深指屈筋の筋力低下のみだと、握力計は役に立たないことがある。

・疫学としては、米国、オーストラリアに多い。タイ、インド、イスラエルにはほとんど存在せず、報告があったとしても全部外国人。食生活が影響?

・IBM患者では HCV感染症が多く、28.8%というデータがある。非IBM患者だと 3.4%とされている。米国の IBM患者は HIVの合併が多いと言われている。

・筋病理は、autophagyを反映して rimmed vacuoleがみられる。Endomysiumにリンパ球がみられ、炎症を示している。壊死・再生がないのにリンパ球がみられるというのが特徴。

・高齢者にしか起こらない筋疾患として、眼咽頭筋型筋ジストロフィー (OPMD), IBMがある。

③Immune mediated necrotizing myopathy (iNM): 免疫介在性壊死性ミオパチー

・筋病理としては、筋の壊死・再生がみられるが、リンパ球浸潤はほとんどない。

・様々な自己抗体が見られる。SRP>HMGCR>ARS>M2>others (抗SS-A抗体など)。SRP, HMGCR, ARS, M2については routineにチェックすべき。

・SRPは signal recognition particleで、ERに入る分泌型の蛋白質についているシグナルを認識している。ELISA法だと抗原認識部位により抗体を検出できないことがあるので注意。

・抗HMGCR抗体は最初スタチン内服患者での myopathyで検出された。しかし、その後スタチンを内服していない患者でも報告されている。

④Limb-girdle muscular dystrophy (LGMD) 2B:肢帯型筋ジストロフィー2B

・筋病理は、壊死・再生線維がみられ、血管周囲にリンパ球がみられる。perimysiumにもリンパ球がみられるが、これは反応性であり、診断的意義はない。

⑤Polymiositis (PM):多発筋炎

・皮膚科やリウマチ膠原病科では多発性筋炎と呼ぶが、神経内科では多発筋炎が正しい。

・筋病理では、endomysiumにリンパ球 (cytotoxic T cell) 浸潤 (=筋を攻撃している) がないと、多発筋炎とは診断できない。

・2012年に国立精神神経センターに送られてきた 732例の検体の臨床診断は、多発筋炎 35%, 皮膚筋炎 18%, 封入体筋炎 17%, その他 30%だった。ところが病理診断を行うと、実際には壊死性ミオパチー 44%, 多発筋炎 6%, 皮膚筋炎14%, 封入体筋炎 22%, その他 14%だった。いかに壊死性ミオパチーが多いか、いかに多発筋炎が稀かということ。実は多発筋炎はとてもめずらしいのだ。

・1975年の Bohan-Peter基準 (Polymyositis and dermatomyositis (part 1, part 2)) は非常に緩い基準だったので、これを用いて多発筋炎と診断される患者は多かった。しかし、2015年の ENMC分類 (筋炎患者を皮膚筋炎、多発筋炎、封入体筋炎、壊死性ミオパチー、抗synthetase症候群、非特異的筋炎に分類) を厳格に適用すると、多発筋炎患者は極めて少なくなる。

⑥Anti-Aminoacyl-tRNA Synthetase (ARS) antibodies: 抗ARS症候群

・myositis (筋炎), interstitial pneumonia (間質性肺炎), Mechanic’s hand (機械工の手: カサカサ) が重要

・筋病理では perifascicular necrotizing myopathyである。

・Jo-1, PL-7, PL12, EJ, OJ, KS, YRS, Zoなどたくさんの抗体が見つかってきている。Jo-1, PL-7, PL-12, EJ, OJは抗ARS抗体としてスクリーニングすべきである。抗ARS抗体の一つ Jo-1のみでスクリーニングをかけると、7割を見逃すことになる (抗Jo-1抗体は、抗ARS症候群の中で 30%くらいにしか検出されない)。

⑦皮膚筋炎

・MDA5, TIF-1γ, Mi-2, NXP2, SAEなどさまざまな抗体が見つかってきている。

(2016.7.16追記)

なんと、演者の先生から修正を頂きました。コメント欄から転載します。

神経センターの西野です。ウェブを検索していて偶然ブログを見つけ拝見させて頂きました。講演をまとめて頂き大変光栄です。

一点だけ、先生の記録を修正させて下さい。メルファランで治療可能なのは、SLOMN with MGUSです。この疾患は生命予後不良なのに、見つけてちゃんと治療すれば救命でき、筋力も改善するという点がミソです。without MGUSの方は、治療法はないものの生命予後良好はです。

どうぞよろしくお願いいたします。

(参考)

多発筋炎と皮膚筋炎

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とろみ

By , 2016年5月24日 7:21 AM

神経疾患で嚥下障害を呈することは珍しくなく、栄養管理をどうするのかというのは常に問題になります。水で誤嚥が起こることが多いので、ぎりぎり経口摂取可能な程度の嚥下障害がある方は、トロミをつけて食事をしていただくことがしばしばあります。慣習的なもので、そのエビデンスについて、私は深く考えたことがありませんでした。この問題について、下記のブログを読んでとても勉強になったので紹介しておきます。

LESS IS MORE: トロミ剤の不適切使用 The horrible taste of nectar and honey-Inappropriate use of thickened liquids in dementia A teachable moment

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最近の医学ネタ

By , 2016年5月20日 8:40 AM

論文の reviseの締め切りとか、雑誌の編集会議用の資料作りとか、色々重なって、ブログを更新する時間が全く取れませんでした。最近出た論文や医学系ニュースも概要のみチラッとチェックしているだけですが、後々見返すことがありそうなので、備忘録として簡単にメモしておきます。

Low-Dose versus Standard-Dose Intravenous Alteplase in Acute Ischemic Stroke

“Approximately two thirds of the patients were Asian, and 43% were recruited from China. ” とアジア人を多く含む試験で、アルテプラーゼ 0.6 mgは 0.9 mgに死亡や障害で非劣性を示せず。rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版 にも「アルテプラーゼの至適用量に関するデータは国内外ともに未だ乏しく、このような用量の差が人種 差に基づくものか否かも含めて今後の更なる検討が必要である」とか書いていますし、今後は、アジア人のみを対象として至適用量を探す研究が出てくるんですかね。今のところ、clinicaltrials.govでそれっぽいのはないけれど。

Ticagrelor versus Aspirin in Acute Stroke or Transient Ischemic Attack

発症 24時間以内の急性虚血性脳卒中が対象。13199人をランダム化比較された。1:1割り付けで、薬物の用量は下記。
Patients received either ticagrelor (a loading dose of 180 mg given as two 90-mg tablets on day 1, followed by 90 mg twice daily given orally together with loading and daily doses of aspirin placebo) or aspirin (a loading dose of 300 mg given as three 100-mg tablets on day 1, followed by 100 mg daily given orally together with a loading dose and twice-daily doses of ticagrelor placebo).

Ticagrelorはアスピリンに脳卒中、心筋梗塞、死亡の複合エンドポイントで優位性を示せず。
In conclusion, in our trial involving patients with acute ischemic stroke or transient ischemic attack, ticagrelor was not found to be superior to aspirin in reducing the risk of the composite end point of stroke, myocardial infarction, or death.

二次エンドポイントである虚血性脳卒中もギリギリだめ。
The main secondary end point, ischemic stroke, occurred in 385 patients (5.8%) in the ticagrelor group and 441 patients (6.7%) in the aspirin group (hazard ratio, 0.87; 95% CI, 0.76 to 1.00; nominal P=0.046)

あと、Ticagrelorは呼吸苦での内服中断が 1.4%あり。
Dyspnea and bleeding events were the most frequent factors accounting for the difference, with rates of discontinuation due to dyspnea in the ticagrelor and aspirin groups of 1.4% and 0.3%, respectively, and rates of discontinuation due to any bleeding of 1.3% and 0.6%.

やはり、脳卒中の急性期治療でアスピリンに勝てる薬剤は無いんですね。

Popular Pain Drug Linked to Birth Defects

神経障害性疼痛の治療で用いられるプレガバリン (商品名:リリカ) で先天性異常のリスクが高まる可能性があり、妊婦さんは注意を。

Olanzapine: Drug Safety Communication – FDA Warns About Rare But Serious Skin Reactions

抗精神病薬のオランザピンで DRESS (Drug Reaction with Eosinophilia and Systemic Symptoms) の報告。1996年以降 23件の報告が FDAに寄せられているが、報告されていないものもあるため、実際にどの程度生じるかは不明。

Mucocutaneous Findings and Course in an Adult With Zika Virus Infection

ジカウイルスでは皮膚粘膜の所見に注意。講演で忽那先生がおっしゃっていた通り

Migraine photophobia originating in cone-driven retinal pathways

片頭痛患者は光過敏を示すが、緑色よりも白色や青色、黄色、赤色で悪化する。円錐由来の網膜経路が関与しているらしい。

Metformin for chemoprevention of metachronous colorectal adenoma or polyps in post-polypectomy patients without diabetes: a multicentre double-blind, placebo-controlled, randomised phase 3 trial

ポリペクトミーの既往のある非糖尿病患者へのメトホルミン投与で、異時性大腸腺腫やポリープが減るらしい。

メトホルミンの癌に対する効果の研究は最近色々と行われています。

Intensive vs Standard Blood Pressure Control and Cardiovascular Disease Outcomes in Adults Aged ≥75 Years

Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT) で高齢者のサブグループを調べた研究。糖尿病のない 75歳以上の高齢者において、収縮期血圧 140 mmHg未満よりも 120 mmHg未満で管理した方が、主要な心血管イベント、総死亡は減るようだ。

高齢者の降圧については凄く議論のある分野で、ガイドラインは下げ過ぎない方向に向かっていて、この研究だけでプラクティスを変えるようなことにはならなさそう。今回は時間がなくてアブストラクトしか見てないので、時間ができたら先行研究と比較吟味したいところ。

ここが知りたい!高齢者診療のエビデンス [第1回]認知症治療薬,どう使う?
✓ 認知症治療薬は,効果が限定的であることも,改善効果を示すこともあり,各薬剤の特徴を知って適切に使用したい。
✓ 認知症治療薬は少量から開始し,有害事象にも注意しながら12週間を目安に効果を判定する。
✓ 服薬中の錐体外路症状,興奮,不穏は,薬剤の有害事象である場合もある。
✓ 薬剤の有害事象かどうかの判断は,薬剤を中止してその症状が軽快するか否かで見極める。

ここが知りたい!高齢者診療のエビデンス [第2回]スタチン,いつやめる?
✓ 1次予防でのスタチンの適応は,リスク計算や年齢だけでは判断できない。
✓ 1次予防目的でスタチンを始める場合,効果発現には2年程度かかる可能性がある。
✓ 虚弱高齢者へのスタチンの継続は,目的をきちんと話し合う。
✓ 終末期のスタチンの中止は,患者にとって害にはならず,QOLの改善につながる可能性もあることから,中止も考慮したい。

Effects of aspirin on risk and severity of early recurrent stroke after transient ischaemic attack and ischaemic stroke: time-course analysis of randomised trials

TIAもしくは虚血性脳卒中でアスピリンとプラセボと比較して、二次予防効果を検討。過去の 12の臨床試験のデータを使用。アスピリンは 6週間の虚血性脳卒中再発リスクを 60%低下し、重症ないし致死性虚血性脳卒中を 70%低下させた。特に TIAや minor stroke患者で効果が大きかった。これは重症脳卒中の低減効果によるものだった。これらの効果は投与量や患者の特性、TIA/虚血性脳卒中の原因に独立してみられた。

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極論で語る感染症内科

By , 2016年5月3日 10:05 AM

極論で語る感染症内科 (岩田健太郎著, 丸善出版)」を読み終えました。

「極論」とは言っても、第一版から青木本を読んで育ってきた我々世代にとっては、感染症診療の原則そのものが書いてあるなぁ・・・という印象でした。最終章の HIV/AIDSは少しマニアックな感じがしましたけれども。

神経内科医としては、髄膜炎の章は是非読んでおくべきでしょう。細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014ではカルバペネムが推奨されるシチュエーションが多いですが、私は基本的に、岩田健太郎先生が書いているのと同じように、第三世代セフェム+バンコマイシン±アンピシリンで治療しています。カルバペネムの温存と、肺炎球菌のカルバペネムへの耐性化が進んでいることが理由です。本書には、JANISのデータで、5%弱の肺炎球菌がカルバペネム耐性であること、髄液検体だと 10%以上は感性でないことなどが書かれており、そこまで耐性化が進んでいるのかと思いました。あと、細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014では、MICの縦読みがされていることを私は気にしているのですが、そのことへの言及はありませんでした。実際、どうなんでしょうね。感染症の専門家の意見が聞きたいです。

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