アルコール誘発性喘息

By , 2007年6月22日 11:30 PM

郡山の病院時代、一緒に働いていた数名や、私の親しい医師でメーリングリストを作りました。そこで、色々と意見交換をしています。

ある先生がアトピー、喘息で悩んでおられて、酒を飲むと喘息発作が出やすくなるという話題となりました。

そこで、呼吸器科のN先生が色々と調べてくれました。内輪の話で済ませるにはもったいないので、N先生の了解を得て、転載します。

アルコール誘発性喘息について少し調べてみました。

飲酒による喘息の誘発はほとんどが日本からの報告で、その背景にアセトアルデヒド分解酵素の活性があるようです。

長崎大学の第二内科からアルコール誘発性喘息に関して報告が出ていました
まとめてみると
・エタノール経口負荷試験では健常者・誘発陽性喘息患者・誘発陰性喘息患者について調べた。
・血中アルコール濃度には3群で有意差は認められなかったのに対して、血中アセトアルデヒド濃度と血中ヒスタミン濃度は誘発陽性患者で陰性群と比較して有意に高値を示した。
・白血球ヒスタミン遊離試験ではエタノールにはヒスタミン遊離作用は認められなかったが、アセトアルデヒドに対しては用量依存性にヒスタミン遊離が認められた。
・健常者と比較して誘発陽性患喘息患者では有意にアセトアルデヒドに対するヒスタミン遊離が促進していた。
・誘発陽性患者の代謝酵素の遺伝子解析では日本人の平均的な分布と差異は認められなかった。
・変異型ホモでは100%、ヘテロでは53%、正常型ホモでは22%の患者にアルコール誘発性の喘息が認められた。

つまり、飲酒を契機に喘息が誘発される方はアセトアルデヒド代謝酵素の活性が低く、マスト細胞などからのヒスタミン放出を介して喘息発作が生じることになります。
ヒスタミンによる喘息ですので、H1ブロッカーの内服が効果があると考えられます。
(ただし、もともと気道過敏性を持っているために喘息が誘発されると考えられるので、通常の喘息の治療も必要と考えます。)

ちなみに、アセトアルデヒド分解酵素の活性を落とすジスルフィラムをあらかじめ内服させた喘息をもつ欧米人に飲酒をさせたところ、喘息が誘発されたとの報告もあります。
また、一部のセフェム系抗菌薬にもジスルフィラム様作用があり、注意が必要です。

ある報告では飲酒2時間程度前のH1ブロッカー内服と、30分程度前のβ刺激薬吸入が発作の予防に有効であるとされていました。

(稀ですが、飲料そのものに含まれる添加物や原料に対するアレルギーもあり、ワインやビールでは保存料や大麦・ホップに対するアレルギーで喘息が誘発されることもあるようです。)

アルコール誘発性喘息とアセトアルデヒド代謝酵素の関係については以下のものに記載されていました。
Correlation between alcohol-induced asthma and acetaldehyde dehydrogenase-2 genotype.
J Allergy Clin Immunol. 1998 May;101(5):576-80.

アセトアルデヒドに対する気道過敏性の上昇については以下のものに記載されています。
Increased airway responsiveness to acetaldehyde in asthmatic subjects with alcohol-induced bronchoconstriction.
Eur Respir J. 1999 Jul;14(1):19-22.

飲酒前のH1ブロッカー内服、β刺激薬吸入に関しては以下のものに記載されています。
Inhibitory effect of terfenadine, a selective H1 histamine antagonist, on alcoholic beverage-induced bronchoconstriction in asthmatic patients.
Eur Respir J. 1995 Apr;8(4):619-23.

アルコールと喘息  押方智也子, 谷口正実, 秋山一男
独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター  臨牀と研究, 83(11) : 1683-1685, 2006

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