吾輩はビールである

By , 2009年8月19日 6:55 AM

「吾輩はビールである (小泉武夫編著、廣済堂出版)」を読み終えました。文字が大きく、イラスト(南伸坊)が豊富で絵本のようでした。さらっと読むだけなら1~2時間くらいで読めます。

この本は、ビールの歴史から始まります。紀元前4000~3000年頃にシュメール人(メソポタミア)が残したと思われる陶板にビール造りの様子が描かれているそうです。

紀元前3000年のエジプトでもビールは飲まれており、ピラミッドの壁画にも描かれているのだとか。さらに、役人の給与や罰金など、通貨の役割をも果たしていた話があります。給料がビールで支払われるなんて、私だったら喜んで受け入れそうです。

以後、ビールの製法は進化し、狂犬病ワクチンで有名なパスツールが1876年に「ビール研究」という論文で、発酵が酵母の作用によることを明らかにし、細菌によるビールの変質を防ぐため、低温殺菌法 (パストリゼーション) を提唱しました。パスツールも研究が幅広いですね。研究で言えば、森鴎外がドイツ留学の際に、ビールの利尿作用について研究し、病気治療に有効であることを医学誌に発表しているそうです。現在では、利尿薬を心不全などの治療に使うことが一般的になっています。森鴎外はデキル男です (^^)

本書では、他にビールの種類、ラベルの見方、原材料について・・・などと盛り沢山です。

麦についての面白い記述は、ビールが昔は小麦から作られていたこと。ただ、小麦はパンの材料であったので、小麦をパンに使うかビールに使うかもめることがあり、13世紀末のニュールンベルクで「ビールは大麦以外から製造してはならない」という法律が布告されたそうです。このおかげで、人類はパンもビールも安心して供給できるようになったのですね。

冗談のような話は、ビールの泡裁判。昭和15年にビアホールで出されたビールの泡が多いと、訴えた客がいたそうです。いつの時代でもトンデモな客はいるものです。結果は、(全体の15~30%までという条件付きで)泡はビールの一部としてビアホールの勝訴。この裁判を通じた検証で、泡の方がビールそのものよりアルコール、蛋白質、苦み成分が多いことがわかったそうです。そういう意味では無駄ではない裁判だったのかもしれません。

訴訟つながりで言うと、ハムラビ法典では、「目には目を、歯には歯を」の精神がビールにも貫かれています。 麦5杯で造られるビールの量は6杯までとされ、それ以上増やすための水の使用が禁じられていました。水増ししたものは、水に投げ込まれ溺死させることになっていたそうです。恐ろしい世の中です。

最後に豆知識。ビールの王冠のギザギザ (スカート) は21個で、これが一番抜けにくい。ビールの語源は諸説あり、一説にはラテン語の「ビベレ (飲む)」、他説には北方ゲルマン民族の「ベオレ (穀物)」というものがあります。ビールの他の呼び方に北方ゲルマン民族の「アル “ale”」があり、イギリスではエールと呼ばれました。ゲルマン民族は、「ベオレ」は神の飲み物で、「アル」は庶民の飲み物として区別していたそうです。ラテン語圏では「セレビシア」が使われることもあり、大地の神「セレス」と力を意味する「ヴィス」の合成からなり、「大地の力」を意味するそうです。

ビールは本当に奥が深いですね。イラストが綺麗な本ですので、是非絵本感覚で読んでみてください。

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