誰も知らない「名画の見方」

By , 2010年12月1日 7:57 AM

誰も知らない「名画の見方」(高階秀爾著、小学館)を読み終えました。1~2日で読める薄い本ですが、非常に勉強になりました。

私が絵画を見始めたのは、大学生時代、ヴァイオリンの師に「音楽を理解するためには、絵を見たり、作曲家の時代背景を知ることも大事なのよ」と言われたのがきっかけでした。以来、海外旅行をするときは必ずその土地の美術館を訪れるようにしていました。絵の見方はわからなかったのですが、やはりヴァイオリンの師に「良い絵ばかり見ていれば、自然と良い絵が良いものだとわかるようになるから」と言われ、絵画史など全く知らずにただ眺めていました。

そうして鑑賞を繰り返していたさなか、カルチャーショックを受けたのが、昔紹介した本「見る脳・描く脳 (岩田誠著)」でした。巷で言われる美術史と全く違う視点で捉えた「絵画の進化」という言葉に驚きました。それから「心像絵画」「網膜絵画」「脳の絵画」という進化の視点で作品を見るようになりました。一方、先日北欧旅行をした際は、「なぜ画家はこの風景を描かないといけなかったのだろうか?この風景のどの部分が画家の心を動かしたのだろうか?」などと、絵画と同じくらい画家の心象を妄想しながら楽しみました。絵画には色々な楽しみ方があるなぁと感じたのがその時でした。

このように手探りで探した鑑賞法で絵画を楽しんでいた中、大きなインパクトを与えてくれたのが本書です。絵画史や個々の画家に疎い私のニーズを満たすものでした。

例えば、ムンクは「叫び」という作品が有名ですが、彼は身近な体験に基づいて絵画を描きました。ムンク作品の大きな柱は、男女間の相克の末に最後にはかならず女性が勝利するというテーマであるそうです。こうした事実を知ると、ムンク美術館に行ったとき、作品が倍楽しめそうな気がします。

レオナルド・ダ・ヴィンチは、彼の「無限に変化するもののなかにある美」という主題を表すために、スフマート技法 (ぼかし技法) を発達させました。著者は「絵画を見る者は、画家が選んだ描き方を通じて画家の主題を理解することができるのである。つまり、絵画を見る際には、作品の見せかけの美しさを鑑賞するだけでなく、画家がどんな主題に基づいて、その作品を描いたかを『考える』ことで理解を深めることができるわけだ」と書いています。やはり、こうした勉強は鑑賞をもっと楽しくするのですね。

著者は東京大学教授、国立西洋美術館館長などを経て、岡山県倉敷市にある大原美術館の館長となりました。大原美術館は小学生の頃遠足で行ったのですが、絵についての記憶はありません。実家に戻る機会があったら、改めて訪れてみたいと思いました。ちなみに、大原美術館にはベヒシュタインのピアノがあり、いくつかのコンサートがされてきたようです。「展覧会の絵」の例を持ち出すまでもなく、音楽と絵画は親和性が高いのでしょうね。

最後に、本書の目次をお伝えしておきます。魅惑的なタイトルが溢れているので、実際に読みたくなる方が多いと思いますが、お薦め出来る本だと思います。

 目次

第一章 「もっともらしさの秘訣」
白い点ひとつで生命感を表現したフェルメール
見る者を引き込むファン・エイクの「仕掛け」
影だけで奥行きを表したベラスケス

第二章 時代の流れと向き合う
激動の時代を生き抜いた宮廷画家ゴヤ
時代に抗った「革新的な農民画家」ミレー
時代を代弁する告発者ボス

第三章 「代表作」の舞台裏
いくつもの「代表作」を描いたピカソ
タヒチでなければ描けなかったゴーガンの「代表作」
二種類の「代表作」をもつボッティチェリ

第四章 見えないものを描く
科学者の目で美を見出したレオナルド・ダ・ヴィンチ作
人を物のように描いたセザンヌの革新的な絵画
音楽を表現したクリムトの装飾的な絵画

第五章 名演出家としての画家
依頼主を喜ばせたルーベンスの脚色
演出した「一瞬」を描いたドガ
絵画の職人ルノワールの計算

第六章 枠を越えた美の探求者
女性の「優美な曲線」に魅せられたアングル
見えない不安を象徴したムンクの「魔性の女性像」
イギリス絵画の伝統を受け継いだミレイ

第七章 受け継がれるイメージ
カラヴァッジョのドラマチックな絵画
働く人々を描いた色彩画家ゴッホ
西洋絵画の歴史を塗り替えたマネ

第八章 新しい時代を描き出す
人間味あふれる農民生活を描いたブリューゲル
新しい女性像を描いたモリゾ
20世紀絵画の予言者モロー


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