ALS患者の 6塩基リピート – GGGGCC

By , 2011年9月29日 11:55 PM

9月 24日に上司からメールが届き、Neuron誌に驚くべき論文が掲載されることを知りました。2011年 10月 20日の Neuron誌に載るようですが、オンラインでは一足早く紹介されています。

 Neuron

ONLINE EARLY: New Gene Identified as Major Cause of Familial ALS and FTD
Two independent groups have identified a repeat expansion in C9ORF72 as the underlying genetic defect on chromosome 9p21 responsible for frontotemporal dementia (FTD) and amyotrophic lateral sclerosis (ALS).

Renton et al. A Hexanucleotide Repeat Expansion in C9ORF72 Is the Cause of Chromosome 9p21-Linked ALS-FTD

DeJesus-Hernandez et al. Expanded GGGGCC Hexanucleotide Repeat in Noncoding Region of C9ORF72 Causes Chromosome 9p-Linked FTD and ALS

上記二本の論文の内容ですが、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 及び前頭側頭型認知症 (FTD) に関係する遺伝子が同定されました。それは C9ORF72という遺伝子のイントロンでの、GGGGCC 6塩基反復配列です。2つのグループから独立に報告されているので、かなり信頼性がありそうです。

Rentonらの論文を読んだので、簡単に紹介します。要旨は下記。

・過去に報告されていた chromosome 9p21に locusを持つ ALS-FTD家系を調べたところ、C9ORF72の第1 exonの 63塩基セントロメア側に GGGGCC 6塩基反復配列を同定した。
・フィンランドの 402名の ALS患者、478名のコントロール群を用いた解析では、ALS患者 113名 (28.1%), コントロール群 2名 (0.4%) で、この反復配列を認めた。ALS患者でみると、家族性 ALS患者の46.4%, 孤発性 ALS患者の 21.0%にこの反復配列を認めた
・6塩基リピート数は、ALS群で平均 53 (30-71), コントロール群で 2 (0-22) だった。
・北アメリカ 198名、ドイツ 41名、イタリア 29名の家族性 ALS患者についても調べたが、この遺伝子異常は 102名 (38.1%) に見られた。
・FTD患者 75名についても調べた。進行性非流暢性失語症 6名、行動障害型認知症 16名、合計 22名 (29.3%) でこの変異が見られた。22名中 8名にはALSの家族歴があった。
・C9ORF72の RNAは脊髄や小脳など神経系に広く検出された。ALS患者と健常者の前頭葉皮質の組織での RNA発現量は同程度であった。

6塩基リピートというと、神経内科医が思い浮かべる疾患があります。トリプレット・リピート病と呼ばれる、3塩基リピートを来す疾患群です。しかし、同じリピート病といいながら、C9ORF72の場合は 6塩基リピートというのが興味深いです。

ALSの病因研究に関して大きく一歩進んだ印象ですが、未解決の問題は山ほどあります。例えば、元々 chromosome 9p21に locusを持つ ALS患者で同定された C9ORF72ですが、この haplotypeを持たない ALS患者でも C9ORF72の異常が見つかっているのは何故なのかは、わかっていません。また、表現促進現象 (anticipation) があるのかないのかもわかっていません。C9ORF72の RNA発現量が各神経組織でそれほど変わらないのに何故 ALSでは運動野の神経細胞を中心に脱落するのかも謎のままです。

未解決の問題が一つずつクリアされ、一日も早く治療法が開発される日が来ることを願っています。

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