What’s dose it mean to be musical?

By , 2012年11月27日 6:41 AM

2012年2月23日の Neuron誌に、”What’s does it mean to be musical?” という論文が掲載されました。音楽能力についての科学的な検討です。

かなり難しい論文だったのですが、私に理解できた範囲で簡単に内容を紹介します。

What Does It Mean to Be Musical?

<The functional neuroanatomy of music>

研究初期には、言語は左半球、音楽は右半球と考えられていたが、もっと詳しくわかってきた。音程 (ピッチ) の処理は、ピアノの鍵盤のように音程順に大脳皮質に分布した tonopic mapによって説明される。異なった楽器の音 (音色) は、後Heschel回と上側頭溝の特定の領域で処理される。テンポやリズムの処理には小脳や基底核の階層的オシレーターが用いられるとされている。音の大きさは、脳幹から下丘、側頭葉への経路で処理される。音の位置の把握には、両耳間での音の到着時間の差、周波数及び時間スペクトラムの変化などが用いられる。

音楽における、より高次な音の認知には、特定の神経処理ネットワークが関わっている。音楽を聴くと、側坐核、腹側被蓋領域、扁桃体といった報酬経路が活性化し、ドパミン産生が調節される。音色やハーモニー、リズムの予測を必要とする課題では、前頭前野、特に Brodmann 44, 45, 47野、及び、辺縁系や小脳を含む皮質ネットワークの一部である前帯状回、後帯状回が賦活される。

音楽のトレーニングは、灰白質体積や皮質再現の変化に関与している。鍵盤奏者の小脳体積は、練習効果により増加している。

作曲に関与する経路は、文字を書く経路とは異なるようで、文字の失書を伴わない音楽失書の症例が報告されている。また、音楽失書と、音楽失読の解離も報告されている。

<Defining Musicality>

楽譜を読んだり音楽を記憶したり、演奏の様々な特性を聴き取ったり、楽器を弾いたり・・・といった各々のコンポーネントは、直感的には音楽能力と関係があるといえるだろう。これらには遺伝的影響が関与する可能性がある。それは単一の「音楽遺伝子」というより、むしろ複数の遺伝子が関与していそうだ。例えば、catechol-O-methyl transferase (COMT) の遺伝子多型は前頭前野のドパミンを調節し、それにより作業記憶に影響を与える。他の遺伝子多型も、間違いなく一連のリズムにおける目と手の協調運動や、聴覚的長期記憶に影響を与える。

ただ、音楽能力の研究で難しいのは、何を以て音楽能力があるとするかである。例えば、楽器が違ったり、やっている音楽が違うと単純に比較はできない。

ディスクジョッキーは曲の1秒くらいを聴いて、タイトル、作曲家、演奏家などを当てることができる。そして普通の人が気付かない音楽の結びつきを明らかにする (例えば、Foscariniの “Toccata in E” を逆再生して Led Zeppelinの “Gallows Pole” との結びつきを明らかにする)。これには曲のある要素を抽出する能力と共に詳細な音楽的記憶を必要とする。こうした結びつきを認識することは、どんな音楽家にも出来ないことである。

音楽の一番の目的は、人の感情を動かすことだと推測され、これもまた音楽能力の評価の対象である。音楽家の中にはこのことに長けている者もいて、その音楽家がある特性を欠いている時に特に明らかになる。例えば、Bob Dylanや Bruce Springsteenは美声とは言い難いけれども、多くの人たちに感動を与える。

また、独自性や新規性も大切である。全ての音楽家が備えている訳ではないが、これらを持っている音楽家は賞賛を集める。 Mozart, Louis Armstrong, Beatlesなどは、彼らが有する音楽能力は別として、それに相応しい。彼らは音楽に最大級の独創性をもたらす。

<Nonmusical Genetic Factor>

一般認知機能や身体的要素は音楽的成功に関与しているが、これにも遺伝的要素が関係してくるかもしれない。例えば、親のしつけと DRD4遺伝子 (新規探索傾向や、努力、ドパミン機能と関連) の関係は、研究の出発点になるのかもしれない。

<Amusia>

失音楽は様々な原因による様々な集まりを含む概念である。歌が識別出来ないとか、うまく歌えないというのもあるし、また脳損傷あるいは先天的な原因でリズム、ピッチ、音色に関する能力がそれぞれ特異的に欠落した人々もいる。色々と研究が盛んな分野だ。

<Quantifying Musicality and the Future of Music Phenotyping>

最もよく使われる音楽テストは Seashoreの音楽能力テストである。しかし、個性や情動、創造性を評価できるものではない。実際にプロの演奏家が、Seashoreテストの 6項目中 3項目で一般人と差がなかったりする。Seashoreテストに代わるような、新しい評価法が必要とされる。

<Targeting Genes>

ダンスについての遺伝学的研究から、 AVPR1a (Vasopressin) という遺伝子が浮かび上がった。これは、かつて親和的、社会的、求愛的行動、学習、記憶、興味、疼痛感受性などを調節するとされていた遺伝子である。加えて、ダンサーと非ダンサーでセロトニン輸送体 SLC6A4に有意に違いがあるということもわかっている。SLC6A4は、霊的体験に関与することがかつて報告されている。SLC6A4は脳での Vasopressinの放出を促進することから、これらの遺伝子には相互作用がありそうだ。

Vasopressin遺伝子は、音楽能力にも関与しているようだ。AVPR1aは聴き手としての振る舞いや音声構成能力に関係しているとされている。AVPR1aと SLC6A4のプロモーター部分の遺伝子多型と音楽的記憶にはかなりの遺伝的相互関係がある。共感を含む哺乳類の社会的行動に関与し、AVPRa1との関連が知られている oxytocin (OTXR) をコードする遺伝子のさらなる研究も望まれるところだ。

また、AVPR1aは、不安や抑うつと関係していて、音楽的創造性と不安や抑うつの関係はよく知られている。

性格の多様性と遺伝的多型の関係については、盛んに研究が行われており、これらの研究から、音楽的才能と関係した遺伝子が今後見つかるだろう。

音楽遺伝子については、この論文で初めて知りました。音楽好きとしては興味深いです。今後の発展に期待しています。

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