年末年始の予定

By , 2012年12月31日 10:54 AM

年末年始の予定です。クリスマスイブに引き続き、年始から日当直と、イベントを悉く当直で祝うみぐのすけです。

12月31日 (月) 実験, 妹の夫の実家で飲み会

1月1日 (火) 日当直

1月2日 (水) 帰省

1月3日 (木) 大山乗馬センターで乗馬, 地元の友人と飲み会

1月4日 (金) 帰京, 実験 (培養細胞の世話など)

1月5日 (土) 秋田で当直

1月6日 (日) 妹夫婦と旅行 (南三陸 観洋泊)

1月7日 (月) 帰京, 実験 (培養細胞の世話など)

1月8日 (火) 病棟業務開始

1月6日は温泉に浸かって、被災地の酒蔵をいくつか回るとともに、自分がボランティアで行った地域がどうなっているか見てきたいと思います。

それでは皆様良いお年を。

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東日本大震災復興祈念「会津第九演奏会2011」

By , 2012年12月31日 10:49 AM

Youtubeで第九の演奏を漁っていたら「東日本大震災復興祈念『会津第九演奏会2011』」という動画を見つけました。会津市民オーケストラによる演奏で、ちょっとアマチュアっぽさが漂う箇所はありますが、音楽的に自然な演奏です。私が郡山に住んでいた頃なら、足を伸ばして弾きに行ったかもしれません。

・東日本大震災復興祈念「会津第九演奏会2011」 第1・2楽章

・東日本大震災復興祈念「会津第九演奏会2011」 第3・4楽章

ちなみに、会津と第九の縁について、会津第九の会のサイトに載っていました。これは初耳でした。第九が初演された捕虜収容所の松江豊寿所長は会津出身だったんですね。

会津第九の会

今でこそ年末のシーズンによく耳にするこの交響曲第9番であるが、1918年6月1日に徳島県板東町(現・鳴門市)にあった板東俘虜収容所でドイツ兵捕虜により演奏されたのが日本での初演である。
このとき収容所所長を務めたのが会津出身の松江豊寿(1872年-1956年)であり、第9代若松市長である。

豊寿は1872年6月に現在の会津若松市で会津藩士、松江久平の長男として生まれ、明治政府によって朝敵の汚名を着せられた会津藩士の悲哀を味わいながら育つ。
仙台陸軍地方幼年学校、士官学校を経て陸軍に入った豊寿は、1914年徳島俘虜収容所の所長に任命される。
時は第一次世界大戦、中国山東半島の青島(チンタオ)を攻略した日本軍は、駐留していたドイツ兵を捕虜として日本に護送した。1917年に12ヶ所の収容所が6ヶ所にまとめられ、豊寿は板東俘虜収容所の所長に就く。
この当時、捕虜に対する非人道的な扱いが一般的ななか、豊寿は武士の情けをもって接した。

豊寿の計らいにより所内での音楽活動は盛んに行われ、収容されているドイツ人捕虜たちが松江所長や地域住民との温かい交流に感謝して演奏したのが「交響曲第9番」である。

Wikipediaで板東俘虜収容所を調べると、日本での第九初演までを描いた「バルトの楽園」という映画があるそうです。是非見てみたいと思います。

板東俘虜収容所

1917年に丸亀、松山、徳島の俘虜収容所から、続いて1918年には久留米俘虜収容所から90名が加わり、合計約1000名の捕虜が収容された。収容所長は松江豊寿陸軍中佐(1917年以後同大佐)。松江は捕虜らの自主活動を奨励した。今日に至るまで日本で最も有名な俘虜収容所であり、捕虜に対する公正で人道的かつ寛大で友好的な処置を行ったとして知られている。板東俘虜収容所を通じてなされたドイツ人捕虜と日本人との交流が、文化的、学問的、さらには食文化に至るまであらゆる分野で両国の発展を促したとも評価されている。板東俘虜収容所の生み出した“神話”は、その後20年余りの日独関係の友好化に寄与した。

板東俘虜収容所は、多数の運動施設、酪農場を含む農園、ウイスキー蒸留生成工場も有し、農園では野菜を栽培。また捕虜の多くが志願兵となった元民間人で、彼らの職業は家具職人や時計職人、楽器職人、写真家、印刷工、製本工、鍛冶屋、床屋、靴職人、仕立屋、肉屋、パン屋など様々であった。彼らは自らの技術を生かし製作した“作品”を近隣住民に販売するなど経済活動も行い、ヨーロッパの優れた手工業や芸術活動を披露した。また、建築の知識を生かして捕虜らが建てた小さな橋(ドイツ橋)は、今でも現地に保存されている(現在では保存のため通行は不可)。文化活動も盛んで、同収容所内のオーケストラは高い評価を受けた。今日でも日本で大晦日に決まって演奏される、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲第9番が日本で初めて全曲演奏されたのも、板東収容所である。このエピソードは「バルトの楽園」として2006年映画化された。

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世田谷一家殺害事件

By , 2012年12月30日 10:30 AM

2012年12月30日は、世田谷一家四人殺害事件から丁度 12年目にあたります。

先日、成城警察署から私に電話がかかってきてビックリしました。叩けば埃のでる体なので、「どの出来事だろう?」と思いながら、聞かれてもいない犯罪をベラベラ喋りそうになり、「医師逮捕」の見出しの新聞記事を思い浮かべた頃、捜査員が「世田谷一家四人殺害事件について聞きたい」と言ってきました。12年前の 12月 30日のアリバイなんて覚えていません。ブログ記事があれば思い出す手がかりにはなりますが・・・。ひょっとして犯人として疑われているのかしら???

ところが真相は違いました。私の学会発表を聞いた聴衆が、「ひょっとして犯罪捜査に使えるのではないか?」といって匿名で警察に電話してきたらしいのです。そこで学会発表の内容を教えて欲しいとのことでした。

12月21日に、捜査員 2名に疾患についてと遺伝学の基本について 1時間ほど講義しました。無償で講義したお礼に、捜査員は私が女性にハレンチなことをして逮捕されるときに見逃すことを約束してくれました。

講義を終えた後、犯人の血液が残されていることを知り、全塩基配列を読んでみてはどうかと提案しました。サンプルには限りがあるので、デジタルデータを持っていた方が、あとから解析しやすいと思ったのです (科学技術のここ数年の劇的な進歩で、2013年には 10万円以下で、15分以内に解析できると言われています)。ところが、法的な問題が色々あるらしいです。

こうした凶悪事件について、「国会議員の 2/3以上の賛同が得られた事件についてのみ、遺伝子情報を自由に解析して捜査に用いることが出来る」とか法改正できないものかと思いました。

被害者のご冥福をお祈りすると共に、一刻も早く犯人が捕まることを願っています。

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rt-PA

By , 2012年12月30日 9:33 AM

少し古い話になりますが、2012年8月にアルテプラーゼによる血栓溶解療法 (rt-PA) の保険適応が変更になりました。それまで発症 3時間以内のみ保険適応であった治療が、発症 4.5時間以内まで保険適応となったのです。

アルテプラーゼの保険適用の変更に伴う診療報酬上の取扱について

また、2012年 10月には、”rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版” が公開され、rt-PAが発症 4.5時間後まで行える旨が記載されました。意外と知らない人が多かったので、下にガイドラインのリンクを貼っておきます。

rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版

もちろんリスクのある治療だし、治療してもよくならない患者さんも多いけれど、神経内科にコンサルト頂くときの参考にして頂きたいと思います。

(参考)

rt-PA静注療法ガイドラインの改定

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エアコン

By , 2012年12月29日 4:42 PM

ついにぬくもりのある生活を取り戻しました。エアコンが直ったのです。これで明日、明後日の実験も、気合が入るというものです。

(参考)

眠れない熱帯夜

発熱

エアコン

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抄読会

By , 2012年12月29日 8:17 AM

12月25日は医局の抄読会でした。24日の当直の合間に配布資料を作っていたところ、22時頃少し席を離した隙に作業中のファイルが全部消えるというアクシデントに見まわれ、そこから徹夜で仕上げました。Windows7、勝手に OSをアップデートして再起動するの、やめて欲しいです。

さて、読んだのは多発性硬化症について、2012年11月27日に Nature communicationsに掲載された論文です。

Fibrinogen-induced perivascular microglial clustering is required for the development of axonal damage in neuroinflammation

Cx3cr1 GFP/+マウス (ケモカイン Cx3cr1は非免疫細胞ではミクログリアなどに発現しており、種々の免疫細胞を誘導する) に実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE) を誘導して、2量子顕微鏡で観察しました。その結果、「血液脳関門の破綻→血管周囲にフィブリンが検出される→ミクログリアに Cx3cr1陽性の cluster形成がみられる→臨床症状の出現がみられる」ことがわかりました。つまり、症状が出来る前からミクログリアには変化があるということです。そして、初期にフィブリンが検出されるのは、多発性硬化症の病理所見に合致します。興味深いのは、局所にフィブリノゲンを注射すると Cx3cr1の cluster形成や軸索損傷が誘導できるのに対して、CD11/CD18結合 motifに変異を入れたフィブリノゲンを注射するとこれらが起こらないことです。また抗凝固薬 Hirudinを投与してフィブリン形成を阻害しても、これらの Cx3cr1の cluster形成や軸索損傷は抑制できます。多発性硬化症での炎症に対して、フィブリンは何か大事な役割を担っているのかもしれませんね。

動物実験レベルでの話なのでまだ何とも言えませんが、多発性硬化症に対して、抗凝固薬や CD11b/CD18に対する分子標的治療薬などが用いられる時代は来るのでしょうか?

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第 2回 Journal club

By , 2012年12月23日 11:49 AM

12月21日に第 2回 Journal clubを開催しました。

ぶぶのすけ先生は、多発性硬化症についての論文を読んできました。

Shift work at young age is associated with increased risk for multiple sclerosis.

2つの独立した population based, case-control studyを元に調べた。20歳以下でシフトワークすることは、多発性硬化症に罹患するリスクとなる。原因としては、日内リズムの障害や睡眠制限がメラトニン分泌の障害と関係しており、炎症反応をもたらすためかもしれない。

シフトワークというのは、日勤とか夜勤を交互に繰り返す勤務形態ですが、日内リズムが障害されやすく、様々な疾患リスクを高めることが報告されています。この論文は、疫学から迫った研究のようですが、メラトニン分泌の障害が何故多発性硬化症を起こしやすくするのかなど、いまいち釈然としませんでした。また、20歳以下でシフトワーカーになるということは、経済的に貧しい人が多いのではないかと推測され、そのバイアスはどうなのだろうと感じました。

次に、兄やん先生は、ラクナ梗塞に対する抗血小板薬についての論文を読んできました。

Effects of clopidogrel added to aspirin in patients with recent lacunar stroke.

この論文の内容については、別のブログで紹介されていたので、そちらへのリンクを貼っておきます。

ラクナ梗塞の二次予防に対して、アスピリンにクロピドグレルを併用すると出血と死亡リスクが上昇

ラクナ梗塞の発症メカニズムを考えると、アスピリンとクロピドグレルを併用してもあまり効かないことは想像できるし、ラクナ梗塞では micro bleedsの頻度が多いことから、ある程度頭蓋内出血が増えることも想像できます。消化管出血は言わずもがなです。

私は、Hoehnと Yahrが書いた論文を読んできました。1967年の古い論文です。Parkinson病の “Hoehn & Yahr分類” というと分かる人が多いかもしれません。

Parkinsonism: onset, progression and mortality.

内容については、Power Pointに纏めたので下に貼っておきます  (※二次使用の際は、miguchi@miguchi.netまで御一報ください)。Parkinson病の中に進行性核上性麻痺や多系統萎縮症などが含まれていることが推測されたり、色々割り引いて評価しないといけない部分はありますが、疾患の特徴をかなり詳細に評価しており、参考になります。単なる重症度分類として意味があるだけではありません。

Parkinsonism抄読会用ファイル

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エアコン

By , 2012年12月20日 3:44 PM

夏から闘病中の私のエアコン。全然機能しなくなり、最近ではあまりの寒さに耳が痛くて朝目が覚めます。本日、電気会社の方が往診にいらっしゃいました。

「この 4回点滅して止まるのは、コンプレッサーの障害ですね。空気を圧縮して送り出す心臓部分だから、取り替えないとダメですよ」とのことでした。

応急処置をしてくださって、少し暖かい空気が出るようになりましたが、いずれ大掛かりな手術が必要なようです。そして、日程的には年明けになるかもしれません。

修理が終わるまで避難出来るような、エアコンの効いた女性の部屋を募集中ですm(_ _)m

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第二回電王戦

By , 2012年12月18日 7:47 AM

コンピューター将棋と人間が激突する、第二回電王戦の組み合わせが決定しました。

【レポート】プロ棋士VSコンピュータ将棋「電王戦」にA級棋士参戦&ニコ生決定、来年3月に火蓋が切って落とされる

第1局(3/23):阿部光瑠 四段vs習甦(しゅうそ)(開発:竹内章/第22回世界コンピュータ将棋選手権5位)

第2局(3/30):佐藤慎一 四段vsponanza開発:山本一成/第22回世界コンピュータ将棋選手権4位)

第3局(4/6):船江恒平 五段vs ツツカナ開発:一丸貴則/第22回世界コンピュータ将棋選手権3位)

第4局(4/13):塚田泰明 九段vsPuella α開発:伊藤英紀/第22回世界コンピュータ将棋選手権2位)

第5局(4/20):三浦弘行 八段vs GPS将棋開発:田中哲朗・森脇大悟/第22回世界コンピュータ将棋選手権1位)

第一回電王戦は前将棋連盟会長の米長邦雄氏がコンピューター相手に惨敗でした。今回のプロ棋士は全員現役です。公式戦で男性プロ棋士がコンピューター将棋に負けたことはありませんが、今回は流石に分が悪そうです。私はプロ棋士から見て 1勝4敗か 0勝5敗と予想しています。

確かに、プロ棋士によるタイトル戦をソフトで解析していると、コンピューター将棋はたまに簡単な一手を見落としていたりします。数十手先まで読んでいる筈なのに、終盤にその一手で負けになるという手が見えていないのです。しかしそれは年に数局で、例外的です。

私がコンピューター将棋の強さをまざまざと知ったのは、コンピューター将棋同士が対戦した、この動画です。ある程度将棋を知ると、凄さがわかると思います。

・【コンピュータ】激指 vs. ツツカナ【将棋】

さて、12月14日発売の激指12が届きました。軽く遊んでみましたが、強いこと、強いこと。圧倒的に優勢な局面から遊べるモードがあるのですが、あっという間に逆転されます。これでトレーニングすれば、相当強くなりそうです。しかし、その前に惨めな負け方を繰り返して、嫌気が差して触らなくなるかも・・・。

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The musicality of Franz Liszt

By , 2012年12月17日 8:28 AM

The Musicality of Franz Liszt」という論文が、2011年10月28日号 Cell Culture誌の読み物として掲載されたので、「おっ?」と思って読んでみました。内容は直接リストに関係したものではなかったのですが、リストの生誕 200周年を記念して、聴覚と認知について興味深いトピックスが紹介されていました。短い論文ながら、内容は 4部構成となっています。以下簡単に紹介します。

The Musicality of Franz Liszt

①Frequency Detection a Presto

リストは超絶技巧で有名でしたが、聴衆の耳は彼の奏でる複雑な和声や速いフレーズを瞬時に分離することができました。そのメカニズムに関する知見です。

耳にある外有毛細胞の細胞膜には prestinと呼ばれる陰イオン輸送体が多数あります。Cl-が prestinの細胞内側の表面に結合すると脱分極し、prestin容積の減少と細胞の短縮といった構造変化が起こります。2008年に Dallosが prestin変異のマウスを作製したところ、変異 prestinは細胞膜に正しく局在したものの、外有毛細胞を短縮させることは出来ませんでした。そのマウスは音への感度低下を示し、音波を個々の振動数に分離する能力が低下しました。

prestinの働きは、音による振動を増大させることによって、有毛細胞がその下にある基底膜と共に作り出す振動数マップの分離能を向上させているようです。

音波は有毛細胞の脱分極と過分極の周期を作り出し、prestinはそれに合わせて細胞を繰り返し伸縮させます。基底膜は音波と同じ振動数で振動することになり、シグナルは増幅され、周波数の選択性は増します。なんと、prestinは他の蛋白質の約 1000倍もの速さで機能し (μ秒単位)、細胞膜の分極がそのようなスピードについていくことが出来るそうです。

②Pitch Picking

リストは “perfect pitch” を持っていました。つまり、音符を見ずに、音名を当て、同じ高さの音を再現することが出来ました。

2005年に、Bendorと Wangは音程に特異的に応答する神経細胞の一群を見つけ、オクターブにまたがっていたり異なる楽器の楽音を人がどのように認識するのかに言及しました。

ピアノで “A (ラ)” の鍵盤を叩くと、440 Hzの倍音成分 440, 880, 1320, 1760…Hzが発生します。しかし聴き手は最も低い周波数 440 Hzのみを認識します。基礎となる 440Hzの周波数を失ってさえ、脳は (倍音成分に含まれる) 別の周波数から音を再構成し、その音程が 440Hzの “A” であると認識します。

そのような神経細胞を探していて、Bendorと Wangは marmoset monkeyの聴覚皮質で活動電位を記録しました。低周波数領域の境界部を調べたとき、彼らは 131個の神経細胞のうち 51個が音程の選択性に関わっているのを見つけました。これらの神経細胞はそれぞれ基礎となる音に由来する倍音の周波数に応答していました。例えば、ある神経細胞は 200 Hzとその倍音成分である 800, 1000, 1200 Hzの組み合わせに応答しました。聴神経細胞が非常に狭い範囲の周波数に対応していることにより、音程の選択性が生まれることは驚くべきことです。

2011年に Chenらは、”high-speed two-photon microscopy method” を用いて、マウス聴神経細胞の樹状突起棘のシナプスカルシウムシグナルを記録しました。約 45%の樹状突起棘が 1オクターブ以内の周波数に応答しました。しかしもっと驚くことに、同じ樹状突起にあるそれぞれ隣り合う樹状突起棘は異なった周波数で同調されることです。ニューロン全体の最適な刺激は、最適ではない周波数刺激と比べて 2倍もの樹状突起棘でシナプスのカルシウム信号を誘導します。これは、単なる個々の音から調和的に関連した音の周波数まで扱うピッチ選択的ニューロンを形成する仕組みを示唆しています。

③O Please Gentleman, A Little Bluer!

“perfect pitch” に加え、リストは共感覚を有していたと言われています。共感覚とは、ある感覚刺激が、刺激と関係ない感覚の引き金となることです。リストは音符や和音が色に見えました。共感覚は、脳の隣り合った領域の相互刺激によるものであると考えられていますが、よくわかっていません。

2010年、Neelyらは新しい「痛み遺伝子」の研究中にこの現象に出くわしました。彼らはショウジョウバエの高温面からの逃避行動をみることで、痛み知覚を研究しました。彼らは個々の遺伝子を knock downして調べましたが、580個調べた遺伝子の中の一つが straightjacket でした。straightjacket遺伝子は voltage-gate Ca2+ channelのサブユニットをコードしていました。straightjacket遺伝子の哺乳類でのホモログは α2δ3であり、神経痛の 2つの治療薬の分子ターゲットとなっています。また、この遺伝子を除去したマウスは、温度や炎症による熱への感受性が低下します。この遺伝子変異のあるヒトは熱や慢性疼痛への感受性が低下することから、α2δ3はハエからヒトまで保存された「痛み遺伝子」と考えられます。

驚くべきことは、α2δ3欠損がどのように痛覚の認知を変えるかです。有害な熱刺激は脳の疼痛に関係した部位を賦活します。しかしα2δ3変異マウスでは、この領域の不活化が減少し、視覚野や聴覚野、嗅部が賦活されることがわかりました。言い換えると、α2δ3の障害は痛みが「見えて、聞こえて、匂う」共感覚の原因になるのです。α2δ3遺伝子はシナプス発達に関係しています。そのため、α2δ3欠損は視床と高次の痛覚中枢を結ぶシナプス回路を微妙に変化させるのだと考える研究者もいます。

④Lisztomania in the Striatum

リストは音楽の組織やチャリティーに快く応じる慈善家でした。精神疾患に対する音楽療法を試みた最初の一人であるとさえ考えられています。それから 150年近く経って、感動に満ちた音楽は、セックスや薬物、食事と同じように、快楽中枢や報酬中枢にドパミンを放出させることが報告されました。

過去の研究では、音楽は脳の報酬回路を賦活しますが、ドパミン活性を直接調べた研究はありませんでした。さらに、音楽も実験者に選ばれたものが用いられていました。

Salimpoorらは、被験者に自分の好きな曲を選んでもらい、曲のクライマックスで一貫して身震いするような人々に焦点を当てました。ドパミン活性の測定には、ドパミンの D2受容体と競合する 11C-racloprideを用いた PET検査を用いました。普通の音楽と違って、身震いを起こさせるような音楽は、線条体、特に側坐核でのでのドパミン放出の引き金となります。ここは、コカインでの高揚感と関係した部位です。functional MRIと併せて解析すると、歌の感情的なクライマックスは側坐核のドパミンと関連していますが、クライマックスの瞬間への予感は、報酬の予測と関係した尾状核を活性化させることがわかりました。このことで、「リストマニア」を説明できると考える研究者もいます。

 

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