自然災害とてんかん発作

By , 2013年1月24日 7:23 AM

気仙沼市立病院脳神経外科から非常に興味深い論文が発表されました。

Increase in the number of patients with seizures following the Great East-Japan Earthquake

In the afternoon of March 11, 2011, Kesennuma City was hit by the Great East-Japan Earthquake and a devastating tsunami. The purpose of this retrospective study is to document possible changes in the number of patients with distinct neurologic diseases seeking treatment following this disaster. Because of Kesennuma’s unique geographical location, the city was isolated by the disaster, allowing for a study with relatively limited population selection bias. Patients admitted for neurologic emergencies from January 14 to May 5 in 2011 (n = 117) were compared with patients in the corresponding 16-week periods in 2008–2010 (n = 323). The number of patients with unprovoked seizures was significantly higher during the 8-week period after the earthquake (n = 13) than during the same periods in 2008 (n = 6), 2009 (n = 3), and 2010 (no patients) (p = 0.0062). In contrast, the number of patients treated for other neurologic diseases such as stroke, trauma, and tumors remained unchanged. To our knowledge, this is the first report of an increase in the number of patients with seizures following a life-threatening natural disaster. We suggest that stress associated with life-threatening situations may enhance seizure generation.

自然災害は精神的、身体的健康に影響を与えます。ノースリッジ地震では心臓突然死が増加し、阪神大震災では血糖コントロールが悪化したとの報告があります。ストレスでてんかん発作が増えるとの報告はありますが、自然災害がてんかんのような神経疾患にどう影響を与えるかはよくわかっていません。

著者らは、2011年 3月 11日の東日本大震災の前後 8週間の期間、すなわち 1月 14日~5月 5日までに気仙沼市立病院脳神経外科に入院した患者について調べ、2008~2010年と比較しました。患者はてんかん、脳卒中、外傷、腫瘍、その他に分類しました。その結果、震災後てんかん患者は有意に増加していましたが、脳卒中患者数に変化はありませんでした (下記 Figure 2)。

figure2

Figure 2

2011年3月11日以降に入院したてんかん患者 13例のうち、11例はもともと脳の疾患を持っていました (特発性/症候性てんかん 5例, 外傷後 4例, 髄膜腫術後 1例, 陳旧性脳梗塞 1例)。てんかんの発作型は、13名中 9名が単純部分発作でした (9例のうち 8例が全般化しました)。 3例は複雑部分発作で、1例は診療録から発作型は不明でした。

その他、採血結果で 2008-2010年と 2011年で違いがあったのは、総タンパク質でしたが、パンやコメ食を余儀なくされたからかもしれません。実際、この大震災の後に行われた別の研究では、不適切な食事によって糖尿病患者の血糖値や血圧が悪化したとされています (Ogawa et al., 2012)。

著者らは、自然災害によるストレスがてんかんに影響を与えたのではないかとしています。ただし、こうしたストレスは誰にでもてんかんのリスクを高めるのではなく、もともと脳病変がある人でリスクを高めるのかもしれません。また、おそらく震災により抗てんかん薬を入手できなかったせいで、てんかん発作を起こした人が一人いました。

今後、近いうちに関東や東南海で大地震が起こると予測されていますが、その際てんかん発作を起こす患者が増えるだろうというのは、頭に入れておいた方が良さそうです。そして、抗てんかん薬の供給をどうするかも考える必要があります (抗てんかん薬を内服している患者さんは、手元にある程度予備の薬を持っておいた方が良いでしょう)。

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