参考文献

By , 2013年2月27日 7:38 AM

論文を書く時、参考文献のリストも記載しなければなりません。しかし、手入力するとミスしやすいし、Endnoteは使い方が結構難しい・・・というときに使えそうなサイトを見つけました。

参考文献表にそのままコピペ可能な文献情報を出力するウェブサービス

例えば、上記リンク先で紹介されているMedical & Scientific Citation Generatorを使ってみましょう。2013年2月19日のブログで紹介した Nature論文で試してみました。この論文の DOIは “10.1038/nature11647″ なので、入力フォームに DOIをそのまま入力します。すると下記のように表示されました。

Tachibana M, Amato P, Sparman M, et al. Towards germline gene therapy of inherited mitochondrial diseases. Nature. 2013;493(7434):627-31.

投稿する雑誌によっては、少し整形が必要なものの、手でチマチマと入力していくより圧倒的に楽です。まだ試してはいませんが、上記リンクで Medical & Scientific Citation Generator以外のサービスを使うと、もう少し表示形式を変えることもできそうです。

その他、Facebook経由で得た情報だと、下記のサービスを使っている方もいるようです (その方から聞いた話では Wordへの引用も、参考文献一覧作成もワンクリックとのことですが、未確認です)。

MENDELEY

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Saving AccountとChecking Account

By , 2013年2月26日 7:46 AM

私は英文校正ではいつも editage社に御世話になっています。

editage社のサイトに、利用者のインタビューが載っていました。笑ってはいけないのかもしれないけれど、笑ってしまったインタビューがあったので紹介します。

日本の臨床研究や医療体制に危機感

アメリカに到着後一番困った場面は、銀行で口座を開設する時でした。Saving AccountとChecking Accountの違いが銀行員の方の説明で十分に理解できないまま「yes please!」と言ったら、お金が全部Saving Accountに入ってしまって、お金を引き出せなくなってしまいました(笑)。

渡米していきなりこれは焦りますね (^^:

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MUSICOPHILIA

By , 2013年2月24日 10:19 AM

音楽嗜好症 (オリヴァー・サックス著、大田直子訳、早川書房)」を読み終えました。

オリヴァー・サックスの書いた本を読むのは初めてでしたが、彼は独特の研究スタイルを持っていると感じました。多くの科学者は、間違いないと確認されたことを足がかりに次のステップに進んでいきますが、彼の場合はとりあえず正確かどうかは二の次にして手に入る限りの情報を集めて、その中からエッセンスを抽出する方法を取っているようでした。そのため、所々「本当にそう言い切れるのかな?」と感じさせる部分はありましたが、独自の視点で音楽について論じることが出来ていました。

本書は、音楽に対して医学的にあらゆる角度からアプローチしています。症例が豊富ですし、論理を裏づけるために引用した科学論文も膨大な量です (末尾に文献集があります)。

特に印象に残ったのはパーキンソン病と音楽療法についてです。日本では林明人先生が「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」を出されていますが、L-Dopa登場前に既に行われていて、大きな効果を上げていたことは初めて知りました。

また「誘惑と無関心」と題された、失音楽に関する章でイザベル・ペレッツの名前を見た時は驚きました。メールのやり取りをしたことがある研究者だったからです。この業界では有名人なので、登場してもおかしくはないのですが。

それと、ウイリアムズ症候群の患者達がバンドを組んでデビューしている話も興味深かったです。Youtubeで動画が見られます。

The Williams Five

5足す 3が出来ないくらいの mental retardationがありながら、プロの音楽家として立派に活躍しているというのは、音楽がそういうことは別に存在していることを示しています。

このように興味深い話題が豊富なのですが、内容をすべては紹介できないので、代わりに目次を紹介しておきます。本書がどれだけ広範な角度から音楽にアプローチしているか、伝われば幸いです。

序章

第1部 音楽に憑かれて

第1章 青天の霹靂―突発性音楽嗜好症

第2章 妙に憶えがある感覚―音楽発作

第3章 音楽への恐怖―音楽誘発性癲癇

第4章 脳のなかの音楽―心象と想像

第5章 脳の虫、しつこい音楽、耳に残るメロディー

第6章 音楽幻聴

第2部 さまざまな音楽の才能

第7章 感覚と感性―さまざまな音楽の才能

第8章 ばらばらの世界―失音楽症と不調和

第9章 パパはソの音ではなをかむ―絶対音感

第10章 不完全な音感―蝸牛失音楽症

第11章 生きたステレオ装置―なぜ耳は二つあるのか

第12章 二〇〇〇曲のオペラ―音楽サヴァン症候群

第13章 聴覚の世界―音楽と視覚障害

第14章 鮮やかなグリーンの調―共感覚と音楽

第3部 記憶、行動、そして音楽

第15章 瞬間を生きる―音楽と記憶喪失

第16章 話すことと、歌うこと―失語症と音楽療法

第17章 偶然の祈り―運動障害と朗唱

第18章 団結―音楽とトゥレット症候群

第19章 拍子をとる―リズムと動き

第20章 運動メロディー―パーキンソン病と音楽療法

第21章 幻の指―片腕のピアニストの場合

第22章 小筋肉のアスリート―音楽家のジストニー

第4部 感情、アイデンティティ、そして音楽

第23章 目覚めと眠り―音楽の夢

第24章 誘惑と無関心

第25章 哀歌―音楽と狂喜と憂鬱

第26章 ハリー・Sの場合―音楽と感情

第27章 抑制不能―音楽と側頭葉

第28章 病的に音楽好きな人々―ウィリアムズ症候群

第29章 音楽とアイデンティティ―認知症と音楽療法

謝辞

訳者あとがき

参考文献

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RAB7L1と LRRK2

By , 2013年2月23日 8:50 AM

2013年2月6日の Neuron誌に興味深い論文が掲載されました。

RAB7L1 interacts with LRRK2 to modify intraneuronal protein sorting and Parkinson’s disease risk.

家族性パーキンソン病の原因遺伝子はこれまで 20近く同定されています。これらの遺伝子がコードするタンパク質には、協調して働いているものがあるらしいことが最近明らかになってきました。例えば、Parkin, PINK1は一つの系として、異常ミトコンドリアを検出し、ミトコンドリア外膜タンパク質をユビキチン-プロテアソーム系で分解したり、ミトコンドリアのオートファジーである mitophagyを誘導する役割を担っています。DJ-1もどうやらこの系に含まれるようです。

今回の Neuron誌の論文は、LRRK2, RAB7L1, VPS35が一つの系として細胞内輸送に関係しているらしいということを明らかにしました。この系の役割には未解明の部分が多いですが、今後研究が進んでいくものと思われます。

この論文は筆頭著者が日本人であり、FIRST AUTHOR’Sというブログにわかりやすく纏められていますので紹介しておきます。

 RAB7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する

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ACP Japan Chapter 2013

By , 2013年2月22日 8:19 AM

American Collage of Physicians Japan Chapter Annual Meeting 2013に参加申し込みました。私はACP日本支部の会員ではありませんが、素晴らしい講演が目白押しなのと、知り合いの先生が講演されるため、参加することにしました。 


私が申し込んだ講演は下記です。

5月25日 (土)

9:30-11:00 臨床推論ケースカンファレンス~総合内科医の思考プロセスを探る~ 徳田 安春(筑波大学水戸地域医療教育センター・水戸協同病院)

11:30-12:30 「Snap Diagnosis」 須藤 博(大船中央病院)

13:00-14:30 「総合内科が知っておくべき膠原病診療ピットフォール~身体診察から鑑別診断まで~」 高杉 潔(道後温泉病院)・岸本 暢将(聖路加国際病院)萩野 昇(帝京大学)

19:00-20:40 Reception

5月26日 (日)

9:30-11:00 「臨床研究デザインの道標~研究デザイン7つのステップ~」栗田 宜明・福間 真悟(京都大学)

12:30-13:30 「膠原病の検査の見方~乱れ打ちは今日からやめよう!」 岸本 暢将(聖路加国際病院)

時間がかぶったため、泣く泣く諦めた講演もたくさんありました。例えば、「感染症ケース・スタデイ」、「論文の書き方」、「水・電解質を極める」、「一般内科医のためのリンパ腫診断のコツ」、「内科救急の御法度」、「問診」といった講演は、また機会があれば是非聴きたいと思いました。

ネットで簡単に申し込みできますので、 興味のある方は参加してみては如何でしょうか?

 

(参加するまでに、京都での飲み屋さんをチェックおかないと・・・ボソボソ)

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絶対音感を身につけるタイミング

By , 2013年2月21日 7:05 PM

2013年 1月 29日に、音楽に関する sensitive periodについての論文を紹介しました。

絶対音感にも、sensitive periodがあり、大人になってから身につけようと思っても、まず無理です。「では、何歳までなら大丈夫なのか?」という問いに答えた論文を見つけましたので、紹介します。

Absolute pitch among American and Chinese conservatory students: Prevalence differences, and evidence for a speech-related critical period a

Absolute pitch is extremely rare in the U.S. and Europe; this rarity has so far been unexplained. This paper reports a substantial difference in the prevalence of absolute pitch in two normal populations, in a large-scale study employing an on-site test, without self-selection from within the target populations. Music conservatory students in the U.S. and China were tested. The Chinese subjects spoke the tone language Mandarin, in which pitch is involved in conveying the meaning of words. The American subjects were nontone language speakers. The earlier the age of onset of musical training, the greater the prevalence of absolute pitch; however, its prevalence was far greater among the Chinese than the U.S. students for each level of age of onset of musical training. The findings suggest that the potential for acquiring absolute pitch may be universal, and may be realized by enabling infants to associate pitches with verbal labels during the critical period for acquisition of features of their native language.

© 2006 Acoustical Society of America

[背景]

絶対音感は、参照にする音がなくても音名がわかったり、その高さの音を出したりする能力ですが、アメリカやヨーロッパでは非常に稀とされ、おそらく 10000人に 1人以下であると言われています。稀ということもあって、絶対音感はしばしば、非常に優れた能力であるとみなされます。しかし、実際には絶対音感がなくても優れた音楽能力を持つ人はたくさんいます。ドイチュらは、2006年の論文に「ヴェトナム語と北京語を母国語として話す人たちは、単語のリストを読む時に非常に正確な絶対音感を示す」ことを報告しました。

声調言語はピッチの高さとそのコントロールに規定されます。声調言語である北京語では、例えば「マー」と発音したとき、第一声 (高い音で平板に) だと母、第二声 (中ぐらいの高さで始めてさらに高く) だと麻、第三声 (中ぐらいの高さからいったん低く下げ、最後は尻上がりに) だと馬、第四声 (高い音から低い音に下げる) だと非難・・・といった感じです。このように微妙なピッチの感覚を子供の頃から身につけていると、絶対音感取得に役立つのではないかというのがドイチュらの推測です。さらにドイチュらは英語のような非声調言語より、声調言語の方が絶対音感の保持率が高くなるのではないかと推測しました。子供の頃に微妙なピッチの感覚が身につかない非声調言語では、それを応用して絶対音感を身につけることができないので、特に音楽を開始する年齢が強調されるのです。

今回、絶対音階を身につけるために言語に関連した臨界期 (critical period) を調べるため、北京中央音楽学校 (Central Conservatory of Music; CCOM) とイーストマン音楽学校 (Eastman School of Music; ESM) の 1年生を比較しました。

[方法]

①被験者

CCOM: 男性 28名、女性 60名、平均年齢 20歳 (17-34歳)

ESM: 男性 54名、女性 61名、平均年齢 19歳 (17-23歳)

音楽開始年齢別分類 (比較の関係上、少なくとも 9名以上含まれるサブグループを用いた)

CCOM: 4-5歳 43名、6-7歳 22名、8-9歳 12名

ESM: 4-5歳 21名、6-7歳 31名、8-9歳 24名、10-11歳 20名、12-13歳 9名

②音源

音源は Kurzwei K2000 synthesizerによるピアノ音で、C3 (131 Hz) ~ B5 (988 Hz) の音を用い、CDないし DVDを通じて被験者に聴かせました。相対音感を使いにくくするためにそれぞれの音の感覚は 1オクターブ以上離しました。チューニングは A4= 440Hzとして、音の長さは 500 msとしました。検査は 12個の音を含む 3つのブロックに分け、ブロック内での音と音の感覚は 4.25秒とし、ブロック間では 39秒の休憩をとりました。

[結果]

Fig.1A 正解率 85%以上を絶対音感ありとしました。

Fig. 1B 半音の間違いは許容した上で、正解率 85%以上を絶対音感ありとしました。

Fig1

Fig. 1

・CCOMにおいても、ESMにおいても、早期から音楽トレーニングを始めるほうが絶対音感保有率が高いことがわかりました

・絶対音感保有率は、どの音楽開始年齢においても CCOMの方が ESMよりはるかに高かいことがわかりました

・絶対音感保有率に性差はありませんでした

[考察]

 今回の研究で、絶対音感の獲得には声調言語でも非声調言語でも臨界期が存在することが示されました。絶対音感は、声調言語を用いる中国人の方が保有率が高いですが、ひょっとすると遺伝的な要素も影響を与えているかもしれません。

  この論文の Figure. 1を見ると、絶対音感を身につけるためにはだいたい 9歳くらいまでに音楽を始める必要があるのがわかりますし、若ければ若いほどよさそうです。弦楽器奏者及びピアノ奏者の方が管楽器奏者より絶対音感保有率が高いことは広く知られているので、楽器別の分析に興味が湧きましたが、残念ながら論文中にそれらについての記載はありませんでした。

さて、実は日本人とポーランド人の音楽性を比較した研究も 2012年 11月に発表されています。この研究を行った宮崎先生は日本での絶対音感研究の第一人者です (昔、研究室のサイトに論文が公開されていて、読んで勉強させて頂いていたのですが、いつの間にかなくなっていて、がっかりしています)。

Prevalence of absolute pitch: a comparison between Japanese and Polish music students.

Source

Department of Psychology, Niigata University, Niigata 950-2181, Japan. miyazaki@human.niigata-u.ac.jp

J Acoust Soc Am. 2012 Nov;132(5):3484-93. doi: 10.1121/1.4756956.

Abstract

Comparable large-scale surveys including an on-site pitch-naming test were conducted with music students in Japan and Poland to obtain more convincing estimates of the prevalence of absolute pitch (AP) and examine how musical experience relates to AP. Participants with accurate AP (95% correct identification) accounted for 30% of the Japanese music students, but only 7% of the Polish music students. This difference in the performance of pitch naming was related to the difference in musical experience. Participants with AP had begun music training at an earlier age (6 years or earlier), and the average year of commencement of musical training was more than 2 years earlier for the Japanese music students than for the Polish students. The percentage of participants who had received early piano lessons was 94% for the Japanese musically trained students but was 72% for the Polish music students. Approximately one-third of the Japanese musically trained students had attended the Yamaha Music School, where lessons on piano or electric organ were given to preschool children in parallel with fixed-do solfège singing training. Such early music instruction was not as common in Poland. The relationship of AP with early music training is discussed.

PMID:23145628

論文にアクセスできなかったので、abstractから抜粋して紹介させて頂きます。

音楽学生を調べた所、絶対音感保有者はポーランドでは 7%だったのに対し、日本人では 30%でした。絶対音感保有者は 6歳までに楽器を始めていました。日本人の音楽学生は、ポーランド人学生に比べて平均 2歳早く音楽を始めていました。幼い頃よりピアノトレーニングを開始していた音楽学生は、日本人では 94%だったのに対し、ポーランド人では 72%でした。日本人音楽学生の 1/3が、固定ドで英才教育をするヤマハ音楽学校で習っていました。このような教育法はポーランドでは一般的ではありません。この論文では絶対音感と早期音楽トレーニングについて考察しました。

ちなみに私はヴァイオリンの音域だけ絶対音感があります。それも第 1-3ポジションで弾ける音のみです。コンクールでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第 3番を弾いたのが 8歳の時で、この曲は第 3ポジションまでの音を使いますから、私の絶対音感はヴァイオリンを始めた 4歳からおよそこの頃までに身についた能力なのだということが感覚としてわかります。もし私が鍵盤楽器を練習していれば、絶対音感はもう少し幅の広いものになったでしょう。

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第 4回 Journal club

By , 2013年2月19日 5:30 PM

2月15日に第 4回 journal clubを開催しました。

兄やん先生は、細菌性髄膜炎におけるステロイドの投与について調べて来ました。

Dexamethasone and long-term survival in bacterial meningitis

301例の細菌性髄膜炎患者に対し、157例では抗菌薬投与前にデキサメタゾン 10 mg q6h (15-20分で drip) 4日間を開始し、144例ではデキサメタゾンの代わりにプラセボを使用しました。デキサメタゾン投与群では、8週間以内の死亡率が有意に低く、その後の生存曲線のスロープは両群間でほぼ同様でした。肺炎球菌による髄膜炎で、デキサメタゾンの効果はより明らかに見られました。

細菌性髄膜炎のステロイド投与については諸説あり、投与法も人によって様々ですが、今後参考になるスタディーなのではないかと思いました。

ホワイトロリータ先生は、バレンタインデーに因んで、チョコレートと頭痛について調べていました。

A Double-Blind Provocative Study of Chocolate As A Trigger of Headache

チョコレートが頭痛の誘発因子になるかどうか調べた論文です。チョコレートと同じ味でカフェイン等が含まれないキャロブという菓子をプラセボに用いました。その結果、片頭痛においても、緊張型頭痛においても、あるいは両者の混合した頭痛においても、頭痛の誘発因子にはならないことがわかりました。ちなみに、この研究は “Raymond and Elizabeth Bloch Educational and Charitable Foundation” と “American Cocoa Research Institute” から grantを得て行われています。

チョコレートは片頭痛の誘発因子になるとこれまで言われてきましたが、私は経験的に「チョコレートを食べると片頭痛が起こる」という患者さんを診たことがこれまでありませんでした。ひょっとするとあまり関係ないのかもしれませんね。

長友先生 (顔がサッカーの長友選手に似ているので勝手に命名) は、チョコレート摂取と脳卒中リスクについて調べてきました。

Chocolate consumption and risk of stroke: A prospective cohort of men and meta-analysis

スウェーデン人男性 37103名を 10.2年に渡り調査した研究です。チョコレート 62.9 g/week摂取している男性では、脳卒中が少なかった (相対リスク 0.83) そうです。ネットで調べたところ市販の板チョコは 1枚 70 gくらいらしいです。この研究ではメタアナリシスも行なっており、チョコレート摂取による脳卒中の相対リスクを 0.81としてます。その原因として、チョコレートに含まれるフラボノイドなどの成分を挙げています。

ということで、愛する男性にはチョコレートを贈りましょう。

続いて、下半身ネタ大好きな「ぶぶのすけ」先生は 巷で噂になっているアノ研究を読んできました。

Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile.

難治性の偽膜性腸炎患者の消化管に鼻からチューブを入れて他人の便流し込むという治療はこれまで報告があり、そのインパクトにより多くの医者に知られてはいました。しかし、今回は天下の New England Journal of Medicineに論文が掲載され話題になりました。内容について、まとまったサイトがあるので紹介しておきます (というか、まとまったサイト多すぎwww みんなこういうネタ好きなんですね)。

ドナーの便の十二指腸注入による再発性C. difficile感染治療

バンコマイシン継続より効いたというのが凄いですね。そのうち、どんな便が良く効くかとか調べられるんでしょうか?より有効そうな便の持ち主のところに依頼が殺到して、本人もより効果的な便を出すための食生活とか考えちゃったりして・・・。

さて、最後に私が 2013年 1月 31日号のNatureから非常にインパクトのあった論文を紹介しました。

ミトコンドリア脳筋症は母系遺伝をする病気で、ミトコンドリア機能障害のために、特に脳や筋肉に異常を来たします。また糖尿病の原因になることも知られています。しかし、妊娠を諦める以外にこれらの遺伝を回避する方法はありません。私は、母親がこの疾患であることを知った娘が将来自分も発症する可能性があることを悲観して自殺を図った症例を知っています。子孫に疾患を伝えることなく子供を持てる方法はないものでしょうか?

この問いに答えるような画期的な論文を今回紹介しました。どうやら筆頭著者は日本人のようです。

Towards germline gene therapy of inherited mitochondrial diseases.

著者らは、紡錘体移植 (spindle transfer; ST) によって、卵母細胞ミトコンドリア DNA (mtDNA) を置換することを試みました。106個のヒト卵母細胞のうち、65個で相互に STを行い、33個は対照群としました。

Figure 1aには実験の方法が書いてあります。ドナー1の卵母細胞から紡錘体を取り出し、ドナー2の卵母細胞の紡錘体と入れ替えます (=紡錘体移植; ST)。その後、人工授精させると、前核形成を経て、胚盤胞となります。今回の実験ではそこから胚性幹細胞株を樹立しました。両群間で受精率は同等でした (Figure 1b)。

figure1

Figure. 1

ところが、ST受精卵では、52%が前核の数の異常によって診断される異常受精を示しました (Figure 2a)。この原因は卵母細胞が Metaphase IIでとどまらないといけない時期に、Anaphase IIに移行してしまう “premature activation” という現象のせいではないかと推測されました。

figure2

Figure. 2

Figure 3では、ドナー1の卵母細胞由来の胚性幹細胞は、ミトコンドリア DNAがドナー1の遺伝子で、核の DNAがドナー2の遺伝子であることが確認されました。

figure3

Figure. 3

Table1では更に詳細な解析をしています。得られたそれぞれの胚性幹細胞の核型は 46XXないし 47 XYでしたが、唯一異常受精により前核形成が 1前核 3極体 (正常は 2前核 2極体) だった卵母細胞由来の胚性幹細胞では、69XXXという核型を示しました。また、紡錘体移植の際に、少量のミトコンドリアが紡錘体と一緒に移植されていないか (mtDNA carry over) を調べました。Restriction-fragment length polymorphism (RFLP) 法では、紡錘体と一緒に移植された mtDNAは検出されませんでしたが、より感度の高い ARMS-qPCRでは、少量検出されました (max 1.70%)。

table1

Table. 1

紡錘体移植は技術的に可能であることがわかったのですが、臨床応用するにはまだ大きな問題があります。一つには、卵巣周期が異なる二人から、同日に卵子を得ることが困難なことです。よって、紡錘体移植するためにはどちらかの卵母細胞を凍結する必要が出てきます。著者らはサルの卵母細胞を用いてこの問題について実験しました。ミトコンドリアのドナーとなる卵母細胞を凍結し、新鮮な卵母細胞から紡錘体を取り出して移植しても胚盤胞はほとんど形成されなかったのに対し、紡錘体のドナーとなる卵母細胞を凍結し、新鮮な卵母細胞に移植すると問題なく胚盤胞が形成されることがわかりました。(Table 2)

table2

Table. 2

最後に、紡錘体移植により出生したサルを 3年間観察しました。血算、生化学、血液ガス分析といった採血項目ではコントロール群とくらべて差がありませんでした。体重もコントロール群と差はありませんでした。皮膚線維芽細胞を採取して調べた ATPレベルやミトコンドリア膜電位といった評価項目も正常でした。また、紡錘体移植の際に一緒に移植されてしまった mtDNAについても変化はありませんでした。

 この研究を臨床応用していくには倫理的な問題を含めていくつかクリアしなければならない問題がありますが、実用化されれば次のように移植が行われるようになるでしょう。

まず、ミトコンドリア病の Aさんの卵母細胞を凍結保存しておきます。次に健常者の Bさんから新鮮な卵母細胞を採取して紡錘体を除去した後、Aさんの卵母細胞から取り出した紡錘体を Bさんの卵母細胞に移植します。そして試験管内で受精させ、Aさんに戻します。生まれてくる子供は、Aさん (と夫) の核 DNAと、Bさんのミトコンドリア DNAを持つ筈です。Aさんのもつ病気のミトコンドリア DNAは子供に伝わらないことになります。ただし紡錘体移植にともなって、Aさん由来のミトコンドリアも少しは混入してしまいます。しかし、同じく 2013年 1月 31日号の Natureに掲載された “Nuclear genome transfer in human oocytes eliminates mitochondrial DNA variants.” という論文では、ゲノム移植によって別の卵母細胞に一緒に伝わってしまったミトコンドリア DNAは、最初 1%弱検出されるようですが、徐々に検出されなくなっていくということなので、実際にはおそらく問題にならないのではないかと想像されます。

過去の Journal club

第 1回 Journal club

第 2回 Journal club

第 3回 Journal club

 

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シャンプーとコンディショナー

By , 2013年2月17日 7:07 PM

私は洗髪するのに、シャンプーとリンスが 1回で済む「Soft in One」を使っていました。しかし使い果たしてコンビニに買いに行ったら品切れ。そこでシャンプーとコンディショナーが別々になっている商品を買うことにしました。

それが事件の始まりでした。使い始めて何か髪がボサボサするなと思ってはいたのですが、その翌日に洗髪しようとしたところ、シャンプーとコンディショナーの位置が、自分が思っていたのと逆になっているのに気付きました。つまり、それまでコンディショナーで髪を洗ってから、シャンプーを使っていたのです。

「シャンプー・コンディショナー取り違え事故」について直ちにアクシデントレポートが提出され、謝罪会見が開かれることになりました (嘘

そして知り合いにこの話をしたら、こんなトリビアを教えてくれました。

「シャンプーのきざみ」
家庭の中でのユニバーサルデザインの代表格ではないでしょうか、シャンプーとリンスを間違えないように、シャンプー容器の側面にギザギザがついています、「洗髪時に、眼をつぶっていても区別がつくといい」「目が不自由なので工夫してほしい」との声に1991年、花王より開発され発売されています。

当初は「実用新案」を出願しての発売でしたが、花王は、シャンプー容器にきざみを入れるということが、業界で統一していないと消費者が混乱してしまうと考え、実用新案の申請を取り下げ、シャンプーのきざみが業界統一のものとなるように、日本化粧品工業連合会を通じて業界各社に働きかけました、なんてすばらしい企業のユニバーサルマインドでしょうかε=ε=(ノ≧∇≦)ノ

実際に自宅のシャンプーを見てみたら、やはり側面にギザギザがついていました。これは役立ちそうな知識です。

さらに、その知り合いは、こんな再発予防策を提案してくださいました。今後の検討課題とさせて頂きますm(_ _)m

予防原則にもとづいて
壁に備え付けにする
2in1に変更
シャンプーレスにする
毛髪なしの状態を保つ などの対策案があります

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Alemtuzumab

By , 2013年2月10日 12:08 PM

多発性硬化症に対する治療薬 Alemtuzumab (Lemtrada) が FDAに承認申請され、受理されました。Sanofi社は、今年下半期までに承認されることを期待しているようです。

Sanofi expects FDA decision on Lemtrada in H2

PARIS | Wed Jan 30, 2013 5:31am EST

(Reuters) – Sanofi expects the U.S. Food and Drug Administration to rule on its application for multiple sclerosis treatment Lemtrada by the second half of this year.

The injectable drug, chemically known as alemtuzumab, is one of the new products the French drug maker is betting on to restore growth after losing several blockbusters to generic rivals.

The drug, which late-stage trials have shown helps people who have not responded to other multiple sclerosis treatments, has already been submitted for review by the European Medicines Agency.

In a statement, the French drugmaker also said that an expert committee at the EMA was expected to give its opinion on the medicine in the second quarter of 2013.

Sanofi’s biotech subsidiary Genzyme developed Lemtrada, which was sold until September 2012 under the name Campath as treatment for leukemia and given more frequently at a higher dosage. Sanofi withdrew it from the market while it seeks to get it approved as a treatment for MS, although it remains available free of charge to leukemia patients.

Analysts said the move would allow the company to adjust the price to match that of rival MS drugs on the market.

(This story has been corrected to show that it is the European Medicines Agency that is due to give an opinion in the second quarter)

(Reporting by Leila Abboud; Editing Dominique Vidalon and Helen Massy-Beresford)

Alemtuzumabは、CD52に対するモノクローナル抗体で、Bリンパ球及び Tリンパ球の消失、再生を通じて獲得免疫の長期に渡る変化を引き起こします。臨床試験では、再発寛解型多発性硬化症患者において、インターフェロンβ1aと比較してかなり良好な成績を残していますが、副作用が多岐にわたり、気になる所です。また、効果が長いので、副作用があったときに、薬を中断しても薬の効果が続いてしまう恐れもありそうです。

多発性硬化症は治療薬がどんどん増えてきていて、もし承認されれば治療薬の使い分けにさらに頭を悩ませる時代が来そうです。

下に簡単に過去の臨床試験の結果を紹介しておきます。いくつか試験がありますが、患者背景によってデータが結構変わっていますね。

Alemtuzumab versus interferon beta 1a as first-line treatment for patients with relapsing-remitting multiple sclerosis: a randomised controlled phase 3 trial

[背景] 再発寛解型多発性硬化症に対して、第一選択薬としてのアレムツズマブの有効性と安全性を調べた第三相臨床試験

[方法] 過去に治療されたことのない 18-50歳の再発寛解型多発性硬化症患者を 24ヶ月間観察 (無作為化試験)

アレムツズマブ群 (376名):最初に 12 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与

インターフェロン群 (187名):インターフェロンβ1a 44μgを週 3回皮下注射

[結果]

再発率 (2年間):インターフェロン群 40% (122 events), アレムツズマブ群 22% (119 events) (アレムツズマブはインターフェロンに対して 54.9%の再発抑制効果)

再発のなかった患者の割合 (2年間):インターフェロン群 59%, アレムツズマブ群 78%

機能障害の継続:インターフェロン群 11%, アレムツズマブ群 8%

副作用:

アレムツズマブでは 90%に静脈注射に関連した副作用が見られた。頻度の多いものとして、頭痛 43%, 皮疹 41%, 発熱 33%, 吐き気 14%, 蕁麻疹 11%, 顔面紅潮 11%, 悪寒 10%があった。静脈注射における重篤な副作用は 3%に見られ、心房細動、血圧低下、徐脈、頻脈などであった。

感染症はインターフェロン群の 45%, アレムツズマブ群の 67%でみられた。特にヘルペス感染はインターフェロン群 2%, アレムツズマブ群 16%であり、アレムツズマブ群に多かった。

甲状腺関連の副作用はインターフェロンの 6%、アレムツズマブ群の 18%で見られた。アレムツズマブ群の 2例では、甲状腺乳頭癌を発症した。

アレムツズマブ群のみで、1%に自己免疫性血小板減少症が見られた。

 

Alemtuzumab for patients with relapsing multiple sclerosis after disease-modifying therapy: a randomised controlled phase 3 trial

[背景] 他薬での治療にも関わらず再発した、再発寛解型多発性硬化症に対して、有効性と安全性を調べた第三相臨床試験

[方法] インターフェロンβあるいは glatiramerで治療中に、少なくとも一回以上再発した 18-55歳の再発寛解型多発性硬化症患者を 24ヶ月間観察 (無作為化試験)

アレムツズマブ高容量群 (426名):最初に 24 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与→中止となったが安全性情報の解析にはデータを使用した

アレムツズマブ通常容量群 (170名):最初に 12 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与

インターフェロン群 (202名):インターフェロンβ1a 44μgを週 3回皮下注射

[結果]

再発率 (2年間):インターフェロン群 51% (201 events), アレムツズマブ群 35% (236 events) (アレムツズマブはインターフェロンに対して 49.4%の再発抑制効果)

再発のなかった患者の割合 (2年間):インターフェロン群 47%, アレムツズマブ群 65%

機能障害の継続:インターフェロン群 20%, アレムツズマブ群 13%

副作用:

アレムツズマブでは 90/97% (通常用量/高容量) に静脈注射に関連した副作用が見られた。頻度の多いものとして、頭痛 43/57%, 皮疹 39/53%, 発熱 16/20%, 吐き気 17/24%, 蕁麻疹 15/24%, 不眠 10/11%, 倦怠感 9/13%, 悪寒 7/14%, 胸部不快感 6/14%, 呼吸苦 6/11%, 筋痛 6/11%があった。

静脈注射における重篤な副作用は 3/3%に見られた (多岐に渡るが、不整脈はなかった)。

感染症はインターフェロン群の 66%, アレムツズマブ群の 77/83%でみられた。特にヘルペス感染はインターフェロン群 4%, アレムツズマブ群 16/16%であり、アレムツズマブ群に多かった。

甲状腺関連の副作用はインターフェロンの 5%、アレムツズマブ群の 16/19%で見られた。アレムツズマブ群の 2例では、甲状腺乳頭癌を発症した。

アレムツズマブ群のみで、1/1%に自己免疫性血小板減少症が見られた。

 

Alemtuzumab vs. interferon beta-1a in early multiple sclerosis.

[背景] 未治療で初期の再発寛解型多発性硬化症に対する第二相臨床試験

[方法] 未治療で、発症 3年以内、EDSS 3点以下の再発寛解型多発性硬化症を 36ヶ月間観察 (無作為化試験)

アレムツズマブ高容量群 (110名):最初に 24 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与→中止となったが安全性情報の解析にはデータを使用した

アレムツズマブ通常容量群 (112名):最初に 12 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与

インターフェロン群 (111名):インターフェロンβ1a 44μgを週 3回皮下注射

[結果]

年間再発率:インターフェロン群 36%, アレムツズマブ高容量群 8%, アレムツズマブ通常用量群 11%

再発のなかった患者の割合:インターフェロン群 51.6%, アレムツズマブ高容量群 83.5%, アレムツズマブ通常用量群 77%

EDSSの変化:インターフェロン群 +0.38, アレムツズマブ高容量群 -0.45, アレムツズマブ通常用量群 -0.32

MRIで測定した脳の容積 (3年間): インターフェロン群 -1.8%, アレムツズマブ高容量群 0%, アレムツズマブ通常用量群 -0.9%

副作用:

アレムツズマブでは 99.1/98.1% (通常用量/高容量) に静脈注射に関連した副作用が見られた。頻度の多いものとして、頭痛 66.7/55.6%, 皮疹 99.1/98.1%, 発熱 38.9/36.1%などがあった。

静脈注射における重篤な副作用は 1.9/0.9%に見られた。

感染症はインターフェロン群の 46.7%, アレムツズマブ群の 65.7/65.7%でみられた。特にヘルペス感染はインターフェロン群 2.8%, アレムツズマブ群 8.3/8.3%であり、アレムツズマブ群に多かった。

甲状腺関連の副作用はインターフェロンの 2.8%、アレムツズマブ群の 19.6/25.9%で見られた。

インターフェロン群の 0.9%, アレムツズマブ群の、3.7/1.9%に免疫性血小板減少性紫斑病が見られた。

(追記)

Reuterから訂正記事が出ていましたが、内容に大きな変更はありません。

CORRECTED-Sanofi expects FDA decision on Lemtrada in H2 2013

 

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ハンセン病

By , 2013年2月3日 5:51 PM

1月 17日の Cell誌に、ハンセン病について興味深い論文が掲載されました。

Reprogramming Adult Schwann Cells to Stem Cell-like Cells by Leprosy Bacilli Promotes Dissemination of Infection

Cell, Volume 152, Issue 1, 51-67, 17 January 2013
Copyright © 2013 Elsevier Inc. All rights reserved.
10.1016/j.cell.2012.12.014

Referred to by: Mighty Bugs: Leprosy Bacteria Turn Schwa…

Authors

  • Highlights
  • Leprosy bacteria reprogram adult Schwann cells by altering host-gene expression
  • Bacterially reprogrammed cells resemble progenitor/stem-like cells (pSLC) of mesenchymal trait
  • pSLC promote bacterial spread to mesenchymal tissues by redifferentiation
  • pSLC secrete immune factors, recruit macrophages, transfer bacteria, form granulomas, and disseminate infection

Summary

Differentiated cells possess a remarkable genomic plasticity that can be manipulated to reverse or change developmental commitments. Here, we show that the leprosy bacterium hijacks this property to reprogram adult Schwann cells, its preferred host niche, to a stage of progenitor/stem-like cells (pSLC) of mesenchymal trait by downregulating Schwann cell lineage/differentiation-associated genes and upregulating genes mostly of mesoderm development. Reprogramming accompanies epigenetic changes and renders infected cells highly plastic, migratory, and immunomodulatory. We provide evidence that acquisition of these properties by pSLC promotes bacterial spread by two distinct mechanisms: direct differentiation to mesenchymal tissues, including skeletal and smooth muscles, and formation of granuloma-like structures and subsequent release of bacteria-laden macrophages. These findings support a model of host cell reprogramming in which a bacterial pathogen uses the plasticity of its cellular niche for promoting dissemination of infection and provide an unexpected link between cellular reprogramming and host-pathogen interaction.

ハンセン病で、らい菌 (Mycobacterium leprae; ML) がどうやって広まるかを明らかにした論文です。筆頭著者は日本人のようです。反響の大きな論文で、Cell誌の Leading Edgeに “Mighty Bugs: Leprosy Bacteria Turn Schwann Cells into Stem Cells” として扱われていますし、Nature Newsでも “Leprosy bug turns adult cells into stem cells” として紹介されました。ハンセン病は神経内科医としても興味ある疾患ですので、論文を読んでみました。非常に専門的かつボリュームのある論文でしたので、ごく簡単に内容を記します。

らい菌は末梢神経を覆うシュワン細胞を侵しますが、著者らはらい菌が感染したシュワン細胞の核から Sox10が失われていることを発見しました。Sox10は成熟したシュワン細胞に発現しており、細胞のホメオスターシスやミエリンの維持などに関与している大事な因子です。感染したらい菌の量が少ない時は問題ありませんが、らい菌の量が多くなると、シュワン細胞の核から Sox10が除去され、Mpzを含む遺伝子群のダウンレギュレーションが起こります。このようなシュワン細胞では、細胞のリプログラミングが起こり、前駆/幹様細胞 (progenitor/stem-like cells; pSLC) としての性質を持ちます。FACSでの解析から、pSLCではミエリンのマーカーである p75や Sox10が消失している一方で、Sox2が維持されていることが明らかになりました。Sox2は山中の 4因子の一つで、分化多能性維持に働く転写因子です。同じマイコバクテリウムであっても、Mycobacterium smegmatisではこのようなリプログラミングは起こりません。 

pSLCまでリプログラミングされた細胞は、中胚葉、特に筋肉に分化することが可能になります。実際に、らい菌に感染した pSLCは、骨格筋や平滑筋に移動し、そこで筋肉に分化し、感染を拡大します。

さらに、pSLCは筋肉から筋周膜の結合組織を経て骨格筋皮膚間に移動します。そこで、らい菌の感染は pSLCからマクロファージに広がります。また筋肉の炎症によっても、pSLCから炎症部位に集まったマクロファージにらい菌がうつります。一旦マクロファージが感染すると、感染していなかったマクロファージにも感染が広がって行きます。pSLCは骨格筋皮膚間でマクロファージとともに肉芽腫様構造物を作りますが、ここから感染したマクロファージが放出されることで、さらに感染が拡大します。

もっと簡略化して説明すると次のようになります。論文の Figure. 7Fの図がとてもわかりやすいです。

多くのらい菌がシュワン細胞に感染すると、シュワン細胞は前駆/幹様細胞までリプログラミングされます。前駆/幹様細胞は筋肉に移動して、らい菌を含んだまま筋肉に分化して感染を拡大します。また、前駆/幹細胞にいるらい菌がマクロファージに移ることでも感染は拡大します。前駆/幹細胞がマクロファージとともに形成する肉芽腫様構造物は、そこから感染したマクロファージを放出することで感染の拡大に貢献します。

Figure. 7F

感想ですが、同じマイコバクテリウム属の結核菌や非定型抗酸菌でこのようなリプログラミングが起きているのかどうかが、気になりました。

上に示した Nature newsの記事は、アルツハイマー病などでの再生医療につながる可能性についても、最後の一文のみではありますが、ちらりと触れています。

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