Kyoto Heart Study

By , 2013年3月6日 7:49 AM

2012年末~2013年初旬にかけて、バルサルタン (商品名ディオバン) に関する臨床研究 “Kyoto Heart Study” についての論文が立て続けに撤回されました。

Journal retracts two papers by Japanese cardiologist under investigation

Study of blood pressure drug valsartan retracted

日本循環器学会は京都府立医大に調査を依頼したようですが、大学側は 3教授による内部調査のみで済ませたようです。3教授にしてみても、他科の教授のクビを切ることになる報告書を作れるわけないですよね・・・。玉虫色の調査結果となりました。

しかし、このスキャンダルは一般紙でも取り上げられることになりました。

降圧剤論文撤回:学会が再調査要請 京都府立医大に不信

毎日新聞 2013年02月20日 15時00分

京都府立医大のチームによる降圧剤「バルサルタン」に関する臨床試験の論文3本が、「重大な問題がある」との指摘を受け撤回された問題で、日本循環器学会が吉川敏一・同大学長に対し再調査を求めていたことが20日分かった。大学側は今年1月、捏造(ねつぞう)などの不正を否定する調査結果を学会に出していたが、学会は納得せず不信感を抱いている。

問題になっているのは松原弘明教授(55)が責任著者を務め、09〜12年に日欧の2学会誌に掲載された3論文。患者約3000人で血圧を下げる効果などが確かめられたとする内容だ。昨年末、3本中2本を掲載した日本循環器学会が「深刻な誤りが多数ある」として撤回を決めるとともに、学長に事実関係を調査するよう依頼した。

しかし大学は調査委員会を作らず、学内の3教授に調査を指示。「心拍数など計12件にデータの間違いがあったが、論文の結論に影響を及ぼさない」との見解を学会に報告し、松原研究室のホームページにも同じ内容の声明文を掲載した。

学会はこれに対し、永井良三代表理事と下川宏明・編集委員長の連名で2月15日付の書面を吉川学長に郵送した。(1)調査委員会を設け、詳細で公正な調査をする(2)結論が出るまで、松原教授の声明文をホームページから削除する−−ことを要請している。

毎日新聞の取材に、学会側は「あまりにもデータ解析のミスが多く、医学論文として成立していないうえ、調査期間も短い。大学の社会的責任が問われる」と説明。大学は「対応を今後検討したい」とコメントを出した。

バルサルタンの薬の売り上げは薬価ベースで年1000億円以上。多くの高血圧患者が服用している。【河内敏康、八田浩輔】

騒ぎが大きくなったためか、最終的には、責任者の教授は辞任に追い込まれました。

京都府立医大:責任著者の教授、辞職へ 降圧剤論文撤回で

毎日新聞 2013年02月28日 02時30分

京都府立医大のチームによる降圧剤「バルサルタン」に関する臨床試験の論文3本が、「重大な問題がある」との指摘を受けて撤回された問題で27日、論文の責任著者の松原弘明教授(55)が大学側に月末での辞職を申し出、受理されたことが大学への取材で分かった。松原教授は大学に対し、「大学や関係者に迷惑をかけた」と説明したという。

大学によると、辞職申し出は2月下旬。大学を所管する府公立大学法人が受理した。

問題になっているのは、09〜12年に日欧2学会誌に掲載された3論文。血圧を下げる効果に加え、脳卒中のリスクを下げる効果もあるかなどを約3000人の患者で検証した。

3論文のうちの2本を掲載した日本循環器学会は昨年末、「深刻な誤りが多数ある」として撤回を決め、吉川敏一学長に調査を依頼。これに対し、大学は学内3教授による「予備調査」で、捏造(ねつぞう)などの不正を否定する結果を学会に報告した。その後、学会は再調査を求めており、大学は「対応を検討中」としている。【八田浩輔】

ここにきてやっと、京都府立医大は 3月 1日付けで調査本部を設置しました。

「Kyoto Heart Study」に係る研究発表論文に関する対応について

 本学大学院医学研究科の研究グループが実施した臨床研究「Kyoto Heart Study」の発表論文に係る学会誌からの撤回案件につきましては、次のとおり対応することとしましたので、お知らせします。
  なお、本学の研究活動につきましては、今後とも、なお一層、研究者の行動規範等の徹底を図っていくこととします。
 1  本学研究者が行う研究活動の「知の品質管理」を常に行うことにより、本学の研究活動の質を確保するために、学長を本部長とする「京都府立医科大学研究活動に関する品質管理推進本部」を平成25年3月1日付けで設置したこと。
  具体的な取組内容
   (1)研究活動の質を確保するための支援
   (2)研究活動上の不正を防止するための指導、啓発
   (3)研究論文内容の精査力向上のための研修、支援 など
 2 「京都府立医科大学研究活動に関する品質管理推進本部」の中に「Kyoto Heart Study精度検証チーム」(外部の有識者を含む6~7名程度のチーム員で構成)を早急に設置し、「Kyoto Heart Study」の臨床研究の精度の検証を行うこととしたこと。

多くの患者さんたちが研究に協力してくれていたのに、この医師たちはどういう気持でずさんなデータ処理をしていたのでしょうか?そればかりでなく、医師は臨床研究の結果が記された論文を治療の根拠にするため、誤った論文はそのまま患者さんの不利益になります。

こうなった以上は、(場合によっては生データを開示して) 何が問題だったか徹底的に膿を出してほしいものです。もしここで中途半端な報告が出ると、「京都府立医大の臨床研究は、こんな杜撰にやっても咎められない環境で行われているのか」と周囲から見られることになります。

責任者の教授は、論文不正ではなくデータの解析ミスを主張していますが、彼は過去に研究不正の疑惑が取りざたされており、信憑性に欠けます (最近さらに別の論文が撤回されています)。本当に不正がなかったか追求する必要があります。

もっとも、今回の研究に関しては、研究結果が医師の実感や欧米での研究と解離 (ARBにそこまでの脳卒中予防効果はない) していたため、勘の良い医師たちは信じていなかったのも事実です。この問題が話題になる前に、既に論文に問題があることを指摘していた人もいます。

余談ですが、バルサルタンには他にも怪しげな研究があり、かなり手厳しい批判がされています。では悪い薬かというとそういう訳ではありません。脳卒中予防において、一番大事なのは、血圧を下げることです。副作用なく血圧を下げられれば、とりあえずの目標達成といえます (ただし、どこまで下げれば良いかには諸説あり、最近ではあまりにも下げすぎるのは逆に良くないともされています)。バルサルタンは、そういう意味では優れた薬剤です。しかし、その上で同系統の薬剤に対する優位性を出すには、血圧を下げるプラスアルファの効果 (pleiotropic effect) が大事になります。”Kyoto Heart Study” はこういう状況下で、背伸びをした結果を出そうとして、おそらくデータを都合よく解釈してしまったのでしょう。普通は、あまりに常識から離れたデータが出たら、データを疑って解析し直してみるものだとは思いますけれど、そのまま発表されたのには、恣意的な何かがあったのかもしれません。

今回の件が研究の不正だったかどうかは今後の調査結果を待つ必要がありますが、研究不正についてノーベル賞学者の野依良治先生の論文を元に、安西祐一郎氏が素晴らしい文章を書いていますので、是非御覧ください。

科学研究の目的はトップジャーナルに論文を載せることなのか?

その他、研究不正について書かれたいくつかのリンクを貼っておきます。

医学論文の捏造

Vol.128 論文捏造疑惑

研究不正が起きる根本原因について

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