ある科学者の死と報道

By , 2014年8月12日 6:08 AM

STAP細胞に関する論文疑惑で渦中に合った笹井芳樹氏が亡くなりました。お悔やみを申し上げます。

笹井氏の死について、科学者の小野昌弘氏が胸に刺さる詩を書いています。

科学者の死

亡くなるまで知りませんでしたが、笹井氏は、昔医師として筋萎縮性側索硬化症や脊髄小脳変性症の患者さんの診療にあたっていたそうです。臨床現場でこうした疾患を診て、なんとかしたいという思いが基礎医学の研究を始めるモチベーションになるのは、昔の私もそうだったのでよくわかります。私の場合は、才能と努力の問題で、彼のようにずっと基礎医学を続けることにはなりませんでしたが。

笹井芳樹博士が語った「これまでの道のり」と「再生医療の未来」

もともとは内科医だとうかがっています。

──1980年代後半に研修医として,大学病院ではなく臨床の最前線だった病院に入りました。これからの医学に必要なことを肌で感じたいと思ったのです。
当時,脳のようすを撮影できるCTやMRIが通常の診療にも使えるようになり,高精度で診断できる病気がふえていました。ですが,神経の難病には,治療法や特効薬はないものが多かった。たとえば,いずれも運動障害がおきるALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄小脳変性症などの患者さんも担当しました。そうしたなかで,体の中で脳がいちばんわかっておらず,脳がいたんだときの病気はいたましいことを知ったのです。

なぜ基礎研究をはじめたのですか?

──治療法を探るにしても,臨床医として研究できる範囲は限られると思ったことが一つです。また当時,脳の神経細胞ではたらく遺伝子の機能を,ごくわずかな細胞からでも調べることのできる分子神経生物学がちょうどはじまったころでした。これは革新的かもしれないと思い,大学院に進んで研究をはじめました。

笹井氏がどれほどまでに優れた研究をしてきたかは、下記のサイトで初めて知りました。科学界にとっては大きな損失です。

笹井芳樹博士が科学界に遺した、偉大な業績まとめ

さて、今回取り上げたいのは、彼の死に関する報道です。自殺を大きく報道すればするほど自殺率が上がるなどとする説が知られてます。ウェルテル効果というらしいです。そして自殺の連鎖を防ぐため、内閣府のサイトでは、WHOガイドラインを紹介しています。

自殺予防 メディア関係者のための手引き(2008年改訂版日本語版)

ところが、今回の笹井芳樹氏の件では、この WHOガイドラインに反して、自殺の具体的な場所や手段までもが、大手メディアにより繰り返し報道されました。そこで、私の知人が NHKを始め多くの報道機関に抗議文を送っています。今後は適正な報道がなされるようになることを願ってやみません。

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