骨粗鬆症治療薬ビスホスホネートの適切な使い方

By , 2016年4月23日 8:19 AM

医学界新聞に「骨粗鬆症治療薬ビスホスホネートの適切な使い方」という良記事を見つけました。

骨粗鬆症治療薬ビスホスホネートの適切な使い方

■FAQ1 BPによる治療で,本当に骨折は予防できるのでしょうか。
■FAQ2 BPの投与によってかえって増える骨折があるそうですが,どのように対処したらよいのでしょうか。
■FAQ3 BPの長期投与には弊害もあるため,5年間継続したら休薬すべきとの意見もありますが,どうしたらよいでしょうか?

この記事で特に素晴らしかったのは下記の部分です。

ただ,BPによる骨折予防効果を得るには,正しく治療されることが必要とされています。「正しく」というのは,少なくとも1年以上継続して,治療期間内の処方率が80%以上で,内服方法が遵守され,かつビタミンDやカルシウムが充足していれば,ということを意味します。そのため,骨粗鬆症治療を行う場合には,薬剤の選択のみならず,正しく治療を続けるための工夫が大変に重要なポイントです。

ビタミンDやカルシウムが充足していることが前提条件なんですね。

ここで、日本のステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドラインに脱線します。この問題は、いつか書こうと思っていたので。

ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014年改訂版

読んでみると、とても突っ込みどころの多いガイドラインです。例えば下記の部分です。

・ガイドライン作成者の利益相反が開示されていない

→いまどき、利益相反の開示されていないガイドラインなんてありえません。このガイドラインは、製薬会社が宣伝に使っています (実際、私のところに、このガイドラインを持ってビスホスホネート製剤の宣伝に来た MRがいます)。「製薬会社にいくらもらってこの宣材 (=ガイドライン) 作ったんだ」と言われても、利益相反が開示されていなければ反論できないでしょう (ない、なら、ないって書けよっていう話です)。

・骨折の予測因子について

→「骨折を予測する因子」をコホート研究で作成し、スコアをつけています。そのコホート研究は、スコア作成に男性 117名、女性 786名のデータを用い、男性 1名、女性 143名のデータを用いて検証しています。検証に用いたデータが男性 1名って・・・。さらに、基礎疾患のほとんどが RA, SLE+PM/DM+血管炎です。他の疾患に外挿できるデータなのでしょうか?

・いきなりビスホスホネート

→欧米のほとんどのステロイド性骨粗鬆症ガイドラインでは、ビタミンD, カルシウムを内服した上でリスクの高い患者にのみビスホスホネートを使用することになっています。骨を作るための材料を入れずに、骨を作るように命令するような薬 (ビスホスホネート) を内服したところで「空打ち」になるからです (この表現は知り合いのリウマチ科医に習いました)。そもそも、このガイドラインでも引用しているような、ビスホスホネートの有効性を示した臨床研究では、「血清ビタミンDの低い患者を除外」し、「ビタミンDおよびカルシウムを内服している」上での追加効果をみているのです (例えばこの研究)。それを、このガイドラインではビタミンDやカルシウム内服なしでビスホスホネートをいきなり始めるように推奨しており、どう考えても変です。

私は、ステロイド内服患者にはまずビタミンD製剤を優先して内服してもらっています。カルシウム製剤との併用でなくビタミンD製剤を優先しているのは、併用で高カルシウム血症の副作用が出やすくなるのを危惧するのと、下記の理由からです。

①カルシウムのサプリメント (単剤) で心血管イベントが増える報告がある。

Effect of calcium supplements on risk of myocardial infarction and cardiovascular events: meta-analysis

②カルシウムを単独で内服しても骨折リスクは減らないとする報告がある (ステロイドを内服していない患者ですが) 。

Calcium intake and risk of fracture: systematic review

③種々の免疫疾患で、ビタミンD低下が病状の悪化と関連するという報告がある。下記は多発性硬化症。

多発性硬化症と緯度の話

④ビタミンDは USPSTFが高齢者の転倒予防として推奨している薬剤である。

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【1日目】

ビタミンD製剤を内服した上で、リスクの高い患者さんにはビスホスホネートなどを内服して頂いています。

(参考) 過去のブログ記事

ステロイドと骨粗鬆症

Glucocorticoid-Induced Bone Disease

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