重症筋無力症と抗cortactin抗体

By , 2016年7月6日 6:06 PM

重症筋無力症 (MG) は、全身型の約 80%、眼筋型の約 50%で抗AChR抗体が陽性となり、全身型の約 5%で抗MuSK抗体が陽性となります。抗AChR抗体陰性の重症筋無力症を従来 sero-negative MGと呼んでいましたが、抗MuSK抗体が見つかってからは、抗AChR抗体と抗MuSK抗体の両方が陰性の重症筋無力症を double sero-negative MGと呼ぶようになりました。重症無力症には他にも抗LRP4抗体などが知られています。

2016年7月5日、JAMA Neurology誌に重症筋無力症における抗cortactin抗体についての論文が掲載されました。

Clinical Characteristics of Patients With Double-Seronegative Myasthenia Gravis and Antibodies to Cortactin

250名の重症筋無力症患者のうち、double sero-negative MGは 38名 (15.2%) でした。残りは、201名 (80.4%) は抗AChR抗体が陽性で、11名 (4.4%) は抗MuSK抗体が陽性でした。抗cortactin抗体は、sero-negative MG 38名中 9名 (23.7%), 抗AChR抗体陽性MG 201名中 19名 (9.5%) で検出された一方で、抗MuSK抗体陽性MGや正常コントロール群では全て陰性でした。抗 cortactin抗体陽性患者において、抗LRP4抗体や抗横紋筋抗体は全て陰性でした。

発症は、抗cortactin抗体陽性 double sero-negative MG 9人中 6名が眼筋型、3名が MGFA IIaで、眼筋型のうち 2名は後に全身型となりました。

抗cortactin抗体陽性患者でみると、double sero-negative MGでは抗AChR抗体陽性 MGに比べて軽症での発症が多く、最重症時に球症状が少ない傾向がありました (統計学的有意差あり)。また、抗cortactin抗体陽性患者のうち、double sero-negative MGは抗AChR抗体陽性 MGに比べて眼筋型が多い傾向にありましたが、統計学的な有意差はありませんでした。Double sero-negativeの眼筋型 MG患者 17名のうち、抗cortactin抗体陽性は 4名 (23.5%) でした。

なお、抗cortactin抗体は ELISAおよび Western blotで検出し、抗AChR抗体/抗 Musk/抗横紋筋抗体は通常の方法、抗LRP4抗体は cell-based assayで検出しました。

Cortactinは agrin/LRP4/MuSKの下流にあり、AChRの clusteringを促進する役割があるようです。

重症筋無力症と抗contactin抗体

重症筋無力症と抗contactin抗体

以前、double sero-negative MGでも、cell-based assayで調べると 38.1%で抗AChR抗体が検出できたという論文を紹介したことがありましたが、抗cortactin抗体が検出されることも結構あるんですね。重症筋無力症患者から抗cortactin抗体が検出されることは 2014年に既に報告されていたそうですが、勉強になりました。

問題は、こういう症例を疑ったときにどこで検査ができるかということです。抗LRP4抗体など測定してくださっている川棚医療センターなどで検査できるようにならないか、密かに期待しています。

神経疾患における自己抗体等の測定

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ALSへのPerampanel

By , 2016年7月6日 5:46 PM

2014年10月26日のブログ記事で、私は次のように書きました。

ALSと陰性徴候

余談ですが、グルタミン酸受容体のなかで AMPA受容体と ALSの関係について最近多くの論文が発表されています。そんな中、2014年10月20日に、AMPA受容体拮抗薬 “Perampanel” が抗てんかん薬として FDAから承認されました。この薬が、ALSでの AMPA受容体が関与した細胞毒性を抑えてくれることはないのか・・・ふと思いました。論文検索してみても誰も研究していないみたいですし、何の根拠もない全くの妄想ですけれど・・・(^^; (開示すべき COIはありません)

なんと、東京大学神経内科らのグループが Perampanelを ALSのマウスモデルに使って有効性を示した論文が 2016年6月28日に発表されました。

The AMPA receptor antagonist perampanel robustly rescues amyotrophic lateral sclerosis (ALS) pathology in sporadic ALS model mice

俺って、センスあるじゃん」と、この論文の存在を知って嬉しくなりました。

ALSの進行、抗てんかん薬で抑制 東大、マウスで実験

瀬川茂子

2016年6月28日19時37分

全身の筋肉が衰えていく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の進行を抗てんかん薬の一種で止められる可能性を東京大などのグループがマウスの実験で示した。英科学誌サイエンティフィック・リポーツ電子版で28日、発表した。

グループは、筋肉の運動神経細胞にカルシウムが過剰に流入して細胞死を起こすことがALSの進行にかかわることを動物実験で確認してきた。そこで、細胞へのカルシウム流入を抑える作用のある抗てんかん薬「ペランパネル」に注目した。

ALSに似た症状をもつように遺伝子操作したマウスに、90日間、この薬を与えた。薬を与えなかったマウスは、次第に運動神経の細胞死が起こったが、薬を与えたマウスでは細胞死が抑えられた。回し車に乗る運動能力や、ものをつかむ力も実験開始時の状態を保つことができたという。

グループの郭伸(かくしん)・国際医療福祉大特任教授(神経内科)は、既存薬なので安全性は確認されているとして、「医師主導の臨床試験を始めたい」としている。(瀬川茂子)

今後は臨床試験を予定しているようですが、すでに海外で承認されている抗てんかん薬なので、比較的やりやすいと思います。ALSの場合は、マウスで効いても人では効かない・・・ということの繰り返しなので、実際にどういう結果がでるかはやってみないとわかりません (・・・個人的には五分五分よりは分が悪いと思っています) が、良い結果を期待したいと思います。

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