COVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群

By , 2020年5月2日 12:57 AM

COVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群について、最近みかけた論文を備忘録に残しておきます。

Guillain-Barré syndrome associated with SARS-CoV-2 infection: causality or coincidence? (Lancet Neurol. 2020.4.1 published online)

症例は61歳女性。2020年1月19日に武漢から帰還。発熱や呼吸器症状などなし。1月23日から下肢筋力低下が出現し、四肢筋力低下に進行。神経伝導検査では脱髄を示唆。ギラン・バレー症候群の診断。蛋白細胞乖離あり。1月30日に発熱、咳があり、胸部CTで肺炎像確認。咽頭スワブでのRT-PCRでSARS-CoV-2陽性確認。治療は、Guillain-Barre症候群に対して免疫グロブリン大量静注療法、COVID-19に対してarbidol, lopinavir, and ritonavirが投与された。筋力、呼吸器症状とも改善した。

臨床経過に少し違和感があります。COVID-19感染からしばらくしてGuillain-Barre症候群発症なら納得できるけれど、この症例では神経症状が出てからCOVID-19の症状が出ているからです。ただ、その後に次々と出てきた報告を見ると、COVID-19がGuillain-Barre症候群を合併しうることはほぼ確実と思われます。

Guillain Barre syndrome associated with COVID-19 infection: A case report. (J Clin Neurosci, 2020.4.15 published online)

症例は65歳男性。急速進行性の四肢麻痺で入院した。患者は入院5日前から急速進行性の両下肢筋力低下があり、入院前日に四肢麻痺となった。両側顔面麻痺も伴っていた。入院2週間前に、咳、発熱、呼吸苦があり、鼻咽頭検体採取、胸部CTの後に、COVID-19と診断されていた。SARS-CoV-2 RT-PCRが陽性だったので、その時にヒドロキシクロロキン、ロピナビル/リトナビル、アジスロマイシンで治療されていた。基礎疾患には糖尿病がありメトホルミンを内服中であった。入院9日目におこなった電気生理検査では、CMAPが低下しており、SNAPは導出されなかった。患者の同意が得られず髄液検査はおこなわなかった。Guillain-Barre症候群のAMSAN (acute motor-sensory axonal neuropathy) と診断した。免疫グロブリン大量療法をおこなった。

イランからの報告です。Guillain-Barre症候群として典型的な経過だと思います。

Guillain-Barré Syndrome associated with SARS-CoV-2 infection. (IDcases, 2020.4.18 published online)

症例は54歳男性。2日間続く両下肢のしびれ感と筋力低下を自覚した。麻痺は進行し、寝たきりとなった。救急外来では、38.9℃の発熱があり、アモキシシリンやステロイドで改善せず10日持続する乾性咳嗽があった。彼は2日前にクロストリジウム・ディフィシルによる腸炎を2日前に発症したが、治療で改善した。喀痰からはライノウイルスが検出された。またSARS-CoV-2を提出した。著者らの病院に到着したとき、四肢筋力低下 (MMT 2-3程度) があり、腱反射は消失していた。Guillain-Barre症候群の診断で免疫グロブリン大量投与が行われた。著者らの病院でSARS-CoV-2が再検され、前医とともに陽性であることが判明した。ヒドロキシクロロキンが投与された。典型的な症例であり感染制御の観点から、筋電図や髄液検査は行わなかった。症状は改善し、免疫グロブリン投与4日目で人工呼吸器を離脱した。上肢筋力は良くなったが、下肢の筋力低下は残存し、リハビリテーションを継続した。

COVID-19を発症してから5-10日で出現した筋力低下であり、Guillain-Barre症候群として典型的な経過です。

Guillain-Barre syndrome associated with SARS-CoV-2 (N Engl J Med, 2020.4.19 published online)

5例報告。77歳女性、23歳男性、55歳男性、76歳男性、61歳男性。COVID-2019の症状が出てから5-10日後に発症。抗ガングリオシド抗体は3例で陰性、2例で未検。MRIでは神経根や脳神経の造影効果がみられた。全例髄液SARS-CoV-2のPCRは陰性。軸索型3例、脱髄型2例。治療はIVIg (1例で血漿交換追加) が行われ、4週間後の予後は、2例がICU、2例が神経症状のためリハビリ継続、1例が独歩退院。

臨床像

この報告をみると軸索型、脱髄型も同じくらい起こしうるのでしょうか。それぞれの臨床経過は、他の感染症に伴うGuillain-Barre症候群と比べて大きくは違わなさそうな印象です。これまでの症例で、抗ガングリオシド抗体が検出されたとの報告はなく、抗体との関連は気になる所です。

Miller Fisher syndrome and polyneuritis cranialis in COVID-2019 (Neurology, 2020.4.17 published online)

2例報告。眼筋麻痺を含む末梢神経障害。50歳男性、39歳男性。1例目は、2日間垂直性複視、口周囲のしびれ感、歩行障害で受診。受診5日前にCOVID-19の症状。抗GD1b抗体陽性。SARS-CoV-2のPCRは咽頭で陽性、髄液で陰性。IVIgで改善。2例目は複視で受診。3日前から下痢などCOVID-19の症状。SARS-CoV-2のPCRは咽頭で陽性、髄液で陰性。対症療法で帰宅し、telemedicineでの経過観察となった。そのため、抗ガングリオシド抗体は提出せず。1例目では抗体が検出されているので、ウイルスによる障害よりも免疫学的機序が想定される。Miller Fisher syndromeは抗GQ1b抗体が有名だが、抗GQ1b抗体陽性よりも、抗GD1b抗体陽性の方が回復は早いことが知られているとのこと。

Guillain-Barre症候群を起こすのなら、当然Fisher症候群も起こるのでしょう。抗GQ1b抗体ではなく、抗GD1b抗体だったというのが興味深いです。

Guillain-Barré syndrome following COVID-19: new infection, old complication? (J Neurol, 2020.4.24 published online)

症例は70歳女性。3月28日に、1日以内に進行する脱力感、四肢感覚障害、歩行障害で救急外来を紹介受診。彼女は3月4日に発熱 (38.5℃) の発熱、乾性咳嗽があり、1日後に鼻咽頭から採取した検体でSARS-CoV-2-RNAのRT-PCRが陽性だったが、それは数日で軽快していた。

救急外来では、胸部CTですりガラス陰影がみられたが、SpO2 98%で採血検査でも好中球優位の白血球増加のみであった。鼻咽頭のSARS-CoV-2-RNAを再検したが陰性だった。3月31日の髄液検査では、細胞数 1 /ulと正常範囲内で、蛋白48 mg/dlと軽度上昇していた。神経伝導検査が行われ、患者はGuillain-Barre症候群と診断された (神経伝導検査の結果をみると脱髄型 (AIDP) と考えられる)。免疫グロブリン大量静注療法が開始された。4月1日に挿管され、人工呼吸器管理となった。抗ガングリオシド抗体は検索されなかった。

とにかく早く報告することを意識していたのか、治療を開始したところで報告が終わっています。他の疾患の除外が不十分と考察されているが、臨床的にはGuillain-Barre症候群でほぼ間違いはないでしょう。

Guillain-Barre syndrome related to COVID-19 infection (Neurology, 2020.4.28 published online)

症例は71歳男性。亜急性の経過で四肢の感覚障害、次いで3日前から急速に進行する四肢遠位の弛緩性麻痺を発症し、救急外来に紹介されてきた。前の週に、彼は微熱が数日間続いていた。既往歴は高血圧症、腹部大動脈瘤、肺癌術後があったが、神経疾患はなかった。神経学的には、四肢筋力低下及び感覚障害、腱反射消失がみられた。室内気でPaO2 65 mmHgの低酸素血症があった。胸部CTではすりガラス影やconsolidationがあり、COVID-19に典型的だった。鼻咽頭ぬぐいでは、SARS-CoV-2が陽性だった。髄液は細胞数9 /ulと軽度の細胞数増多があり、蛋白 54 mg/dlと上昇していた。髄液のSARS-CoV-2は陰性だった。神経伝導検査を行い、脱髄型Guillain-Barre症候群と診断した。入院数時間後から免疫グロブリン大量静注療法を行った。非再呼吸式マスクでの60-80%酸素投与、抗ウイルス療法 (ロピナビル+リトナビル)、ヒドロキシクロロキン投与を行った。しかし入院24時間で呼吸不全が進行し、CPAP導入、腹臥位療法を行った。しかし、患者は数時間後に呼吸不全で死亡した。

ミラノからの報告。考察に “Early respiratory support, including ICU admission, is indicated but not always feasible during the current pandemic” と書いてあり、医療が崩壊しているイタリアの状況が伝わってきます。抗ガングリオシド抗体がどうのとかは言ってられない状況のようです。

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COVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎

By , 2020年5月2日 12:55 AM

COVID-19とCOVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎について、最近みかけた論文を備忘録に残しておきます。

専門家「新型コロナが中枢神経系を攻撃、想定内しかも低確率」 (人民網 日本語版 2020年3月6日)

北京地壇病院は5日、新型コロナウイルスが中枢神経系を攻撃することを初めて証明した。また世界初の新型肺炎の脳炎合併患者がこのほど退院したと発表した。羊城晩報が伝えた。

新型肺炎の重篤患者で、脳炎を合併していた許さん(56)がこのほど、首都医科大学付属北京地壇病院で完治し、退院した。北京地壇病院重症医学科、検査科、中国疾病予防・管理センター感染症研究所の共同作業チームは、採取された脳脊髄液のメタゲノミクス次世代シーケンシング及び感染症の病原体の鑑定においてその他の病原体を排除し、SARS-CoV-2ウイルスの遺伝子配列を取得した。

ゲノムシーケンシングにより脳脊髄液に「SARS-CoV-2」が存在することが証明され、ウイルス性脳炎と臨床診断された。同検査は初めて新型コロナウイルスが中枢神経系を攻撃する可能性があることを証明した。同事例に関する報道は世界初となった。

中山大学附属第三病院感染科副科長の林炳亮氏は取材に対し、より詳細に説明した。林氏によると、現在の報道を見ると、北京地壇病院が患者の脳脊髄液から新型コロナウイルスの配列を検出したが、ウイルスが中枢神経系を直接攻撃したのか、血液に入ってから脳膜に入り脳脊髄液から検出されたのかについては、さらなる研究が必要だという。

新型コロナウイルスがある臓器を攻撃する場合、その臓器の細胞にACE2受容体が含まれる必要がある。分かりやすく言えばウイルスは鍵、関連受容体は錠で、鍵と錠が合わなければ細胞の扉を開くことができない。肺が新型コロナウイルスから最も攻撃を受けやすいのはACE2受容体が多いからだ。一部の患者に消化器の症状が出ているが、これもそこにACE2受容体があるからだ。

現在のデータを見ると、脳細胞には関連する受容体が見つかっていない。しかしACE2受容体の他の受容体を通じ入ったかについては定かではない。新型コロナウイルスは新たに発見されたウイルスであり、さらなる研究と認識が必要な多くの未知の領域が残されている。

林氏は、「新型コロナウイルスが中枢神経系に入る可能性は低いはずで、それを恐れる必要はない。患者に意識障害などの関連症状が出た場合、臨床医は必ずこれに注意し、直ちに干渉措置を講じるはずだ」と補足した。

おそらく最初の報道と考えられます。しかし、このニュースについての論文はまだ見当たりません。

COVID-19-associated Acute Hemorrhagic Necrotizing Encephalopathy: CT and MRI Features. (Radiology, 2020.3.31 published online)

50歳代後半の女性の空港職員。3日間続く咳、発熱、意識障害があり、鼻咽頭ぬぐいRT-PCRでSARS-CoV-2が検出された。髄液検査は血性となってしまい、詳細な評価はできなかった。CTで両側視床内側核に低信号域があり、MRIでは両側視床、側頭葉内側、傍島領域に出血を伴う造影病変を認めた。急性壊死性脳症と診断した。呼吸器系に配慮し、高用量ステロイドではなく、免疫グロブリン投与を開始した。

壊死性脳症

MRI画像が結構印象的です。

コロナウイルスは、鼻腔から神経向性に中枢神経に入るという説と、血行性に中枢神経に入るという説があります。神経向性に入るという説の根拠として、

  • SARS-CoVやMERS-CoVをマウスの鼻に入れると、嗅神経を経由して脳に入る。そして視床や脳幹に広がる。ウイルスは肺では見つからず脳でのみ検出される。
  • 他のコロナウイルス (HEV67など) や鳥インフルエンザウイルスでは、神経終末から経シナプス性に中枢神経に入るとされている。
  • HEV67は、経口・経鼻的に子豚の鼻粘膜、扁桃、肺、小腸に感染し、末梢神経を逆行性に延髄に運ばれ、嘔吐病と呼ばれる原因となる。
  • 鳥インフルエンザウイルスをマウスの鼻に投与すると、孤束核や疑核を含む脳幹で検出される。

と説明している論文がありました。視床病変というのはまさにその通りであるなぁと感じました。なお、血行性という説は

  • ウイルスを含む血液が中枢神経系に入った後、血流が遅くなる毛細血管で上皮細胞に発現しているACE2とウイルスで相互作用が促進されるかもしれない。
  • 一方で、感染した脳の非神経細胞からはウイルスが検出されないので、考えにくい (血行性などであれば神経細胞以外の細胞にもウイルスが検出されるはず)。

とする論文 () があり、それより説得力が弱い印象です。

A first case of meningitis/encephalitis associated with SARS-Coronavirus-2. (Int J Infect Dis. 2020.4.3 published online)

山梨大学からの報告。症例は24歳男性。海外渡航歴なし。2020年2月下旬に頭痛、全身倦怠感と発熱を自覚。インフルエンザの臨床診断でlaminamivirと解熱薬を処方された。インフルエンザ抗原の迅速検査は陰性だった。症状が悪化し、5日目に別のクリニックを受診。9日目に意識障害で山梨医科大学に搬送。1分間の全般発作がみられた。項部硬直もあった。全身CTで脳浮腫はなかったが、胸部にすりガラス影を認めた。髄液圧は320 mmH2O以上で、細胞数は12/ul (単核球:多形核球=10:2) だった。SARS-CoV-2のRT-PCRが鼻咽頭ぬぐいと髄液で検査されたが、髄液でのみ陽性だった。気管挿管し、ICUでてんかん発作の管理、エンピリックにセフトリアキソン、バンコマイシン、アシクロビル、ステロイド、てんかん発作に対してレベチラセタムの投与が行われた。また、ファビピラビルも投与された。頭部MRIでは右側脳室下角の壁に沿って拡散強調像高信号、側頭葉内側や海馬にFLAIR高信号を認めた (鑑別はけいれん性脳症)。右脳室炎と脳炎が疑われた。15日目、治療を継続中である。

頭部MRIで髄膜の造影効果が見られることがあるという知見と合わせても、やはりCOVID-19で髄膜炎は起こしうるのだろうなと思います。この症例では、髄液PCRでSARS-CoV-2が陽性となったことが興味深いです。

無菌性髄膜炎を合併した COVID-19 肺炎の 1 例 (日本感染症学会ウェブサイト, 2020.4.3.公開)

神奈川県立足柄上病院からの報告。73歳男性、発熱、意識障害。基礎疾患に、糖尿病、高血圧、脂質異常症などあり。入院14日前に発熱、呼吸器症状があり、一時的に解熱した。入院2日前に発熱、意識障害が出現。項部硬直があり、髄液検査をおこなったところ、細胞数 9/μL (リンパ球 22%、好中球 22%、単球様 44%、好酸球 11%)、蛋白 76mg/dL、 糖103mg/dLという結果だった。シクレソニド 200μg インヘラー1 日 2 回、1 回 2 吸入、セフトリアキソン、アシクロビルなどで加療。入院当日に行った髄液を神奈川県の衛生研究所に提出し SARSCoV-2 PCRは陰性。4日目の髄液検体を山梨大学に提出し、SARS-CoV2 PCR 陽性だった。症状は入院2日目には改善した。

髄液を衛生研究所で検査して陰性で、山梨大学に測定して陽性とのことでした。なぜそうだったのか考察は全くされていませんが、PCRのアッセイ系が問題だった可能性はないのかなと感じます。

前述③の山梨大学の論文では、「Viral RNA was extracted from clinical specimen using magLEAD 6gC (Precision System Science Co., Ltd.). The SARS-CoV-2 RNA was detected using AgPath-IDトレードマーク One-Step RT-PCR Reagents (AM1005) (Applied Biosystems) on CobasZ480 (Roche). The diagnostic assay for SARS-CoV-2 has three nucleocapsid gene targets (Supplementary Materials).」と記載があり、ロシュのアッセイ系を用いていることがわかります。なお、新型コロナウイルス感染症のPCRには、下記の3つのアッセイ系が用いられることが多いらしいようです。

臨床検査として「SARS-CoV-2 核酸検出」を実施する際に考慮すべき事項

・感染研マニュアル nested PCR 法(ORF1a、S 遺伝子)

・感染研マニュアル real-time PCR 法(N 遺伝子の 2 箇所)

・ロシュ社キット real-time PCR 法(N および E 遺伝子)

そして、これらの感度には多少違いがありそうです。

「SARS-CoV-2 核酸検出」PCR 反応系の比較検討

「陽性コントロールを用いた検討では、N2 アッセイでは TaqPath, LC 2-step, LC 3-step 全てで 5 コピー/反応の検出が可能だったが、N アッセイでは 50 コピー/反応であり、N アッセイの感度が低いと考えられた。マスターミックス・プログラムの比較では、その増幅効率は TaqPath>LC 2-step > LC 3-step である可能性が示唆された。

臨床検体を用いた検討では、感染研 N2, German E, Roche E アッセイでは5サンプルが陽性と判定された。しかし、感染研/German N, Roche N, Roche RdRP では、それぞれ 2~3, 3, 4 サンプルが陰性と判定され、感度が低いことが示唆された。上記と異なる5サンプルは全てのアッセイで陰性と判定され、偽陽性はないと考えられた。」

検体採取日が異なれば、髄液中のウイルス量が変化して結果が変わる可能性はもちろんありますが、その他の可能性としてアッセイ系の違いは気になりました。

Encephalitis as a clinical manifestation of COVID-19. (Brain Behav Immun. 2020.4.10 published online)

武漢の男性が1月28日から発熱、呼吸困難、筋痛が出現。頭部CTは正常で、胸部CTではGGOsがあり、SARS-CoV-2が陽性だった。意識障害、項部硬直があり、Babinski徴候が陽性だった。アルビドールと酸素投与で治療されたが、意識は改善しなかった。髄液検査は、細胞数、蛋白、糖ともに正常範囲内だった。髄液のSARS-CoV-2 PCR、抗SARS-CoV-2 IgM/IgGは陰性だった。支持療法のみで、マンニトールを投与した。2月24日に意識は完全に回復し、2月27日に退院した。

脳炎をきたしたが、自然治癒した症例。頭部MRIがどうだったのかは気になる所です。改めて、self-limittingな疾患なのだなぁと思いました。

COVID-19-Associated Acute Disseminated Encephalomyelitis – A Case Report (preprint, 2020年4月23日アクセス)

症例は40歳代前半の女性。同居の親族は、海外旅行から帰ってきて翌日に頭痛、筋痛を発症したが軽症で、4日間で自然治癒したため受診はしていなかった。患者は、入院11日前に頭痛、筋痛を発症したが、それはその親族が海外旅行から戻ってきた4日後だった。近医ではキャパシタティーオーバーでCOVID-19の検索はおこなわれず、アジスロマイシンで治療された。患者は嚥下障害、構音障害、脳症を入院2日前に発症。

救急外来では体温39℃、頻呼吸と低酸素血症があった。呼吸逼迫はないが、ラ音 (rhonchi) を聴取した。神経学的には、構音障害、表出性失語、球麻痺、右注視優位性、軽度の左顔面麻痺、軽度の両側筋力低下があった。髄膜刺激症状はなかった。
髄液検査は細胞数、蛋白、糖はいずれも正常で、各種ウイルスPCRは陰性だった。頭部CT/MRIで白質病変を認めた。脳では発作を示唆する所見はなかった。入院2日後にSARS-CoV-2の核酸が検出された。

急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) の診断で、ヒドロキシクロロキン、セフトリアキソン、免疫グロブリン大量静注療法 (IVIg, 5日間) で加療された。COVID-19を悪化させることを懸念して、ステロイドは仕様しなかった。IVIg 5日間の後、唾液の嚥下、構音障害が改善し、呼吸器症状なく解熱した。

おそらく、COVID-19に伴う急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) の最初の報告です。ADEMはステロイドが標準治療ですが、肺病変のことを考えると使いたくないところです (ARDS合併など、時期によってはむしろ使用することが考慮される場合もあるようです)。そこでIVIgを使用したというのは、私でもまず考える選択肢かなと思います。

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COVID-19と脳卒中

By , 2020年5月2日 12:51 AM

COVID-19と脳卒中について、最近みかけた論文を備忘録に残しておきます。

Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection. (N Engl J Med, 2020.4.15 published online)

重症SARS-CoV-2感染症の患者を評価

・筋弛緩を中止したら、58名中40名(69%)に易興奮性。

・58名中39名(67%)に錐体路徴候

・45名中15名(33%)に遂行機能障害症候群

 

局所脱落症状なかった13名のMRIを撮ると

・8名に髄軟膜の造影効果

・11名に両側前頭葉の血流低下

・2名に急性期無症候性脳梗塞

・1名に亜急性無症候性期脳梗塞

 

7名に髄液検査をすると

・細胞数増多はなし

・2名にオリゴクローナルバンド

・1名に髄液蛋白やIgG上昇

・全員髄液RT-PCRは陰性

神経症状

中枢神経症状はそれなりにあるようで、例えば、「Concomitant neurological symptoms observed in a patient diagnosed with coronavirus disease 2019. (J Med Virol, 2020.4.15 published online)」などもそれを示唆する報告です。

MRIで見られた髄軟膜の造影効果は髄膜炎を反映している可能性があります。それ以外に、無症候性脳梗塞があるのは、凝固異常を反映しているのでしょうか?COVID-19で抗凝固薬 (ヘパリン、ナファモスタットメシル酸) の議論があることと関連があるかもしれません。その他の可能性として、重症ARDSだと水分を引き気味に管理するから、脱水で血液濃縮など考えますが、血管炎という根拠は今の所なさそうです。

Neurologic Manifestations of Hospitalized Patients With Coronavirus Disease 2019 in Wuhan, China. (JAMA Neurol. 2020.4.10 published online)

・武漢の患者を後方視的に調べた研究では、神経筋症状はそれなりに多い。

・脳血管障害は、重症群で梗塞4名、出血1名、非重症群で梗塞1名。

・味覚障害5.6%、嗅覚障害5.1%

・重症患者では筋症状 (筋痛、CK上昇) が多い

臨床像

Preprintの段階で、職場の抄読会で紹介した論文でした。脳血管障害は、重症群で梗塞4名、出血1名、非重症群で梗塞1名みられましたが、機序は考察されていません。脳出血は、ECMOの合併症なのか、抗凝固療法を併用していたのか、そういうことも不明です。重症患者では筋症状 (筋痛、CK上昇) が多いようです。意識障害は重症群で多いですが、これについては重症になれば意識状態が悪くなるのは当たり前といえば当たり前と思います。一番気になったのは、データのとり方です。後方視的にカルテをひっくり返して纏めた論文であり、カルテに記載がなければ、なかったことになっています。従って、味覚障害5.6%、嗅覚障害5.1%と頻度は低くなっており、他の研究のデータと結構乖離しています。参考までに、他の研究ではどのくらいの頻度で味覚、嗅覚障害が見られるかというと、症状としては3人中2人以上といったところでしょうか。

Association of chemosensory dysfunction and Covid-19 in patients presenting with influenza-like symptoms.→インフルエンザ様症状の患者を対象とした研究で、嗅覚、味覚障害はCovid-19陽性患者のそれぞれ68%, 71%で見られた。一方でCovid-19陰性患者ではそれぞれ16%, 17%に過ぎなかった。

Smell dysfunction: a biomarker for COVID-19.→検査で98%に何らかの嗅覚障害があった。

Large-Vessel Stroke as a Presenting Feature of Covid-19 in the Young. (N Engl J Med, 2020.4.28 published online)

若年性の大血管脳梗塞の5例。33, 37, 39, 44, 49歳で、NIHSSの平均は17点。基礎疾患は、糖尿病2名 (うち1名は軽症脳卒中既往)、高血圧症+高脂血症1名。rt-PA 1名、血栓回収療法4名 (うち1名はrt-PA後に血栓回収)。予後は、自宅退院~COVID-19で挿管管理までまちまちであった。

臨床的特徴

臨床的特徴 (続き)

COVID-19が凝固異常をきたしやすいことを裏付ける報告です。データについては表をみれば一目瞭然です。D-dimerは高値が多いです。最近の報道からも、このウイルスによる脳梗塞は結構トピックスとなってきていることがわかります。

なお、この論文の著者はニューヨークのマウントサイナイ病院ですが、同様の事例が同病院から4月23日に発表されていました。

新型コロナで突然の脳梗塞、30~40代の患者で相次ぐ 米

(CNN)  新型コロナウイルスに感染した30~40代の患者が脳梗塞(こうそく)を併発する症例が相次いでいる。米ニューヨークのマウントサイナイ病院が22日に報告した。

同病院によると、新型ウイルスの感染者で病院があふれ返っているという話を聞き、救急車を呼ぶことをためらう患者もいるとみられる。

新型コロナウイルスをめぐっては、血栓を引き起こしたという報告が増えており、結果として脳梗塞を発症したと思われる。

マウントサイナイ病院は、同病院で診察した患者5人の症例を報告した。いずれも50歳未満で、新型コロナウイルス感染症の症状は軽症か無症状だった。

同病院のトーマス・オックスリー医師は、「同ウイルスの影響で大動脈の血栓が増大し、重度の脳卒中につながったと思われる」と説明する。「我々の報告では、若い患者が突然の脳卒中に見舞われた症例はこの2週間で7倍に増えた。ほとんどの患者に既往症はなく、症状が軽かった(2人は無症状だった)ため、自宅にいた」

新型コロナウイルスの検査では、全員が陽性と判定された。2人については救急車を呼ぶのが遅れていた。

この年代で脳卒中を発症する患者はそれほど多くない。マウントサイナイ病院の場合、それまでの12カ月間は、大きな血管の脳梗塞のために治療を受けた50歳未満の患者は、2週間ごとの平均で0.73人にとどまっていた。

こうした血栓はすぐに摘出しなければ重い障害が残ることもある。同病院で診察した患者のうち少なくとも1人は死亡し、残る患者もリハビリ施設や集中治療室などに入院しているという。1人だけは退院できたが、集中的な介護を必要とする状態にある。

オックスリー医師は、新型コロナウイルス感染症の症状があり、脳卒中が疑われる場合は、すぐに救急車を呼ぶよう促している。

COVID-19と凝固異常については、かなり注目されているトピックスです。以下、参考までに。

COVID-19では微小塞栓症に関連して肺血栓塞栓症が想定外に多いのでは? -Radiologyからの報告を元に (4月23日)

肺血栓塞栓症を含む多臓器塞栓症とCOVID-19について、日本語でのわかりやすいまとめです。

Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. (Lancet, 2020.4.20 published online)

ウイルスが血管内皮細胞に炎症を起こすことが報告されていて、ひょっとするとこれが凝固異常と関連しているのではないかなと私は推測しています。

Microvascular COVID-19 lung vessels obstructive thromboinflammatory syndrome (MicroCLOTS): an atypical acute respiratory distress syndrome working hypothesis. (Crit Care Resusc. 2020.4.15 published online)

集中治療の専門家から、「MicroCLOTS」という概念があることを教えて頂きました。

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