Search: C9orf72

Adult polyglucosan body disease

By , 2015年2月17日 5:48 AM

2014年2月9日の JAMA neurologyに adult polyglucosan body disease (APBD) の遺伝子について論文が掲載されていました。

Deep Intronic GBE1 Mutation in Manifesting Heterozygous Patients With Adult Polyglucosan Body Disease

APBDは 50歳以降に、脊髄障害や末梢神経障害に起因する進行性の錐体路性四肢麻痺、遠位優位の感覚障害、神経因性膀胱、歩行障害を呈する疾患である。多くの患者はアシュケナージ系ユダヤ人で、glycogen branching enzyme gene (GBE1) p.Y329Sのホモ接合変異がある。一部の患者では、p.Y329Sと p.L224Pのヘテロ接合変異を合併している。30%の患者では、p.Y329Sのヘテロ接合変異のみで発症する。なぜ、このヘテロ接合変異のみで発症するのか、著者らは遺伝学的検索を行った。

16名のヘテロ接合の APBD患者を調べたところ、全例でグリコーゲン分岐鎖酵素活性がホモ接合 APBD患者より低下していることがわかった。これは、正常なはずの対立遺伝子が機能していないことを示している。

著者らが GBE1の mRNAの解析を行ったところ、全ての患者に c.986A>Cのホモ接合変異があり、もう一方の対立遺伝子 (正常であるはずの対立遺伝子) では mRNAを完全に欠いていることがわかった。さらに詳しく調べると、その対立遺伝子のイントロン領域には GBE1-IVS15 + 5289_5297delGTGTGGTGGinsTGTTTTTTACATGACAGGT変異があり、これが遺伝子トラップを形成し、異所性の last exonを形成していることがわかった。このため、mRNA転写産物は exon16と 3’非翻訳領域が機能せず、異常な GBEをコードしてしまい、酵素活性が 18%から 8%に低下している。

今回の研究で、ヘテロ接合変異の患者が何故 APBDを発症するかわかり、ひと通り遺伝学的な説明がついたと言えます。この研究でもそうですが、神経疾患でイントロン領域というのはホットな分野ですね。ALSでの C9orf72とか、SCA36での NOP56とか、様々なことがわかってきています。

APBDはユダヤ人に多く、一生診ることのない疾患かもしれませんが、神経内科医の教養として知っておきたいと思います。臨床所見は、下記のブログがまとまっています。

Adult polyglucosan body disease という病気が、ある。

 

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Pharmacological Treatment of Parkinson Disease

By , 2014年5月5日 11:24 AM

2014年 4月 22日号の JAMAが神経特集でした。面白かったのが、Parkinson病の運動症状、非運動症状の治療薬についての総説でした。

Pharmacological Treatment of Parkinson Disease

運動症状の治療薬選択について、日本の診療ガイドラインでは高齢者を「70~75歳以上」としていましたが、この総説では 60歳で区切っていたのが印象的でした。

Parkinson病の認知機能障害にリバスチグミン (イクセロンパッチ)、ドネペジル (アリセプト)、ガランタミン (レミニール) は良さそうだけど、メマンチン (メマリー) は効かなさそうだとか、L-dopaにアマンタジン (シンメトレル) を追加したら病的賭博が出現した症例があったとか、勉強になりました。また、Parkinson病の患者で流涎を訴える方がたまにいて、どう治療するか悩むのですが、アトロピン、グリコピロレート (ロビナール) 内服、ボツリヌス治療と書かれていました。残念ながら、ロビナールは日本では 1999年8月に発売中止されているようですね。

わりと網羅的に書かれていますので、神経内科医は読んでおくと良いと思います。特に Table.5の、非運動症状と治療薬の一覧表が纏まっています。

この論文とは別に、Health Agencies Updateというコーナーでは、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の話が取り上げられていました。

ALS Linked to 3-D Changes in DNA

そこでは、C9ORF72遺伝子の六塩基反復の伸長がある患者では C9ORF72の立体構造がおかしくなり、核の機能が障害され、細胞が脆弱になるという 2014年3月5日に公開された Nature論文が紹介されていました。C9orf72の分子メカニズムも徐々に明らかになってきているようですね。

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FOSMN

By , 2014年4月13日 5:52 AM

数年前に、医局の先輩が Facial onset sensory motor neuronopathy (FOSMN) という病気を抄読会で紹介したとき、何じゃその病気、と思いました。FOSMNは顔面や上肢の感覚障害で発症し、徐々に筋力低下や筋萎縮をきたします。TDP-43病理が報告されていることなどを根拠に、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の類縁疾患だと考えられています。しかし、ALSでは通常感覚障害はみられないはずなので、類縁疾患と言われてもピンと来ません。

2014年3月3日の Journal of Neurology Neurosurgery Psychiatry (JNNP) 誌に、FOSMNで ALSの原因遺伝子である SOD1変異が見られたという論文が掲載されました。

Short report: Heterozygous D90A-SOD1 mutation in a patient with facial onset sensory motor neuronopathy (FOSMN) syndrome: a bridge to amyotrophic lateral sclerosis

以下、簡単に要点をまとめます。

・FOSMNは 2006年に初めて報告された。初期に三叉神経領域や上肢の感覚障害があり、数ヶ月ないし数年後に球症状や上肢の筋力低下などがみられる。診察所見では角膜反射の消失がみられる

・生存期間は ALSより長く、8~21年

・家系内発症は報告されていない

・今回報告された症例は、 53歳男性。5年前に口唇及び鼻部の軽度の チクチクした感じが出現し、その 3年後に 10 kg/5ヶ月の体重減少、次いで全身脱力感や上肢筋力低下が出現。肺炎を繰り返した。神経伝導検査では、上肢のみ感覚神経 SNAP振幅低下があり、また左尺骨神経の運動神経 CMAP振幅低下があったが、伝導速度は正常だった。針筋電図では、上肢およびオトガイ筋の脱神経電位と、四肢の神経原性変化を認めた。Blink reflex, jaw reflexは異常だったが、顔面の神経伝導検査は正常だった。磁気刺激検査では、中枢運動神経伝導時間は正常だった。遺伝子検査では、SOD1 heterozygous pD90A変異を認めた。TARDBP, FUS, C9ORF72に変異はなかった。

・homozygous D90A-SOD1変異は、緩徐進行性 ALSを引き起こすが、 heterozygous D90A-SOD1変異で変わった表現型を示した報告が複数ある

ALSの原因遺伝子である SOD1の異常で、かたや感覚障害を欠く ALSになり、かたや感覚障害で発症する FOSMNを起こすというのは、不思議な感じがします。何故なのかというのは、現在のところ不明です (※興味深いことに、heterozygous D90A-SOD1変異の ALSで感覚障害を呈したという報告は散見されるようです)。

今回、SOD1 D90A変異を示した症例が報告されたことで、FOSMNが ALSなどの運動ニューロン疾患スペクトラムに含まれるという考え方は、より強固なものになりそうです。

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TDP-43とFUS/TLS

By , 2013年4月8日 8:08 AM

2013年 3月 25日のブログで、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の原因蛋白質 hnRNPA2B1と hnRNPA1についてお伝えしました。これらは RNA代謝に関係した蛋白質です。

同じように ALSの原因かつ RNA代謝に関係した蛋白質で、ここ数年で知見が研究が急速に進歩している TDP-43, FUS/TLSについての総説が Muscle & Nerve誌 3月号に掲載されていたので読んでみました。非常によくまとまった論文だったので、紹介します。

ちなみに著者 ASHOK VERMAの肩書きは MD, DM, MBAです。MDはDoctor of Medicineで、MBAは Master of Business Administrationなのは良いとして、DMという称号は初めて見ました。よくわからない肩書きなのですが、Wikipediaで “Doctor of Medicine” のインドの項に、”The DM and MCh degrees are super-specialties and are very high ranked/prestigious” と書いてあります。専門医では “DM in xxx” と名乗ることができるようなので、同じ “Doctor of Medicine” ではあっても、他国で言う MDとはおそらく違う扱いなのだと思われます。もう一人の著者 RUP TANDANは MD, FRCPです。FRCPは Fellow of Royal College of Physiciansの略らしいです。

RNA quality control and protein aggregates in amyotrophic lateral sclerosis: a review.

・15年前には、SOD1 (Cu-Zn superoxide dismutase 1) が ALSの原因遺伝子であり、その変異が家族性 ALSの 20%を占めることしかわかっていなかった。しかし、SOD1変異の同定は、ALSの分子生物学的研究が行われる草分けとなる出来事であった (1993, Nature)。

・ALS病因研究の大きな転換点は、2006年の TDP-43 (43-kDa transactive response DNA-binding protein) の同定による (Science, 2006, Biochem Biophys Res Commun, 2006)。2008年には、TDP-43変異を伴った ALS症例が報告された(Science, 2008) 。2009年には、RNA/DNA結合蛋白質である FUS/TLSの変異が ALSの原因として同定された (Science, 2009)。 TDP-43および FUS/TLS変異の表現形は、特徴的な病理所見を伴った古典型 ALSであ る。ALS研究の過程でその他、survival motor neuron (Cell, 1995), senataxin (Am J Hum Genet, 2004 ), angiogenin (Nat Genet, 2006 ), optineurin (Nature, 2010), TAF15 (Nat Rev Neurol 2011, Proc Natl Acad Sci U S A, 2011 ) など、いくつかの RNA結合蛋白質の変異が明らかになっている。

・最近、C9orf72のイントロン領域 6塩基リピートが、家族性 ALSの一般的な遺伝型であることが明らかになった。これは似たようにイントロン領域で 3塩基リピートを起こす Friedreich失調症や筋強直性ジストロフィーを思い起こさせるが、これらはすべて RNAスプライシング、mRNA翻訳、mRNA安定性制御の変化が疾患プロセスに関与している。さらに、プロテアソームやオートファジーによる凝集蛋白の排除に関連した遺伝子、UBQLN2 (Nature, 2011) や SQSTM1 (Arch Neuro, 2011) も家族性 ALSに関係していることがわかった。さらに酵母モデルおよび in vitroレベルでは、TDP-43, FUS/TLS, TAF15のプリオン様 “prinoid” ドメインが、これらの蛋白質の自己凝集や疾患プロセスの神経内伝播の中核をなすのではないかと言われている。

・TDP-43は 414アミノ酸で、RNA recognition motif (RRM) 1, RRM2, C-terminal glycine-rich regionを有する。ALSに関連した変異はすべて常染色体優性遺伝で、glycine-rich regionに存在する。TDP-43変異 ALS患者の脳や脊髄の剖検では、孤発性 ALSに似た TDP-43細胞質内封入体が見られた。正常脳では TDP-43は主に核内に存在しているが、ALS患者では神経細胞の細胞質、変形神経突起、グリア細胞の細胞質を中心に局在するようになる。

・FUS/TLSは 526アミノ酸で、グルタミン、グリシン、セリン、チロシンが豊富な QGSY region, RRM, arginine-rich region, アルギニン及びグリシンが豊富な RG region, C-terminal zinc finger motifを有する。TDP-43同様、変異部位は glycine-rich regionであり、常染色体優性遺伝である。正常では TDP-43同様、主として核に存在しているが、FUS/TLS変異を持つ ALS患者では神経細胞やグリア細胞に FUS/TLS細胞質封入体を形成する。この封入体は TDP-43と反応しないので、FUS/TLSによる神経変性プロセスは TDP-43の局在異常とは独立に存在するのではないかと推測されている。

・TDP-43は、HIV-1の TAR DNAに結合する転写抑制因子として同定されたので、そのような名前が付いた。したがって RNAの転写に関与している。FUS/TLSも間接的にではあるが、転写開始に影響する因子を介して、転写に関与している。

・TDP-43はスプライシングの制御に重要な hnRNPA2と相互作用する。FUS/TLSの RNAスプライシングにおける役割はわかっていないが、in vitroにおいて 、pre-RNAの 5’スプライス部位に結合する転写スプライシング複合体に関与することがわかっている。

・TDP-43と FUS/TLSは核と細胞質をシャトルしている。細胞質では、TDP-43と FUS/TLSは RNA-transporting granule内に見られる。

・TDP-43と FUS/TLSは micro-RNA (miRNA) processingに関与している。miRNAは pre-miRNAから 2段階のプロセッシングを受ける。最初のステップは、核内における pre-miRNAの RNAse “Drosa” による切断である。次のステップは、細胞質内での RNAse “Dicer” による miRNAの切断である。切断された miRNAは、最終的に約 21塩基の 2本鎖 RNAとして RISC (RNA-induced silencing complex) に組み込まれる。TDP-43や FUS/TLSは Drosaおよび Dicer複合体に関与している。(※ Droshaが一般的な呼称と思われ、引用文献でも Droshaとなっているが、、本論文中では Drosaで統一されている)

・TDP-43と FUS/TLSは RNA processingに関与しているとする知見はあるが、神経細胞での特異的な RNAターゲットは完全には同定されていない。TDP-43に結合する RNAを免疫沈降法で調べた実験は、実験手技によって結果が異なる。

・マウスやヒトで TDP-43により、スプライシングやプロセッシングレベルに 影響を受ける RNAターゲットには、神経の発達や機能に関連した蛋白質をコードしたものがある。後者には NMDA受容体、イオンチャネル型グルタミン受容体、neurexions-1 ,3など、シナプス活動に関与した蛋白質が関係している。TDP-43はさらに ataxinに結合し、発現やスプライシングを制御する (ataxin-2の中等度伸長は孤発性 ALSのリスクとされる)。また、TDP-43の mRNAのターゲットには、HDAC6 (histone deacetylase 6) や ニューロフィラメントの NF-L subunitがあるが、いずれも ALS患者において減少していることが報告されている。

・FUS/TLSの RNA結合パートナーとして、最初に報告されたのが、樹状突起のアクチン安定化を司るアクチン安定化蛋白 Nd1-Lである。TDP-43同様、HDAC6も FUS/TLSのターゲット mRNAであるため、FUS/TLSと TDP-43は同じ系で働いているのかもしれない。

・変異 SOD-1, TDP-43, FUS/TLSはプリオン様メカニズムで伝播するシード凝集を起こしうる。TDP-43, FUS/TLSにはグルタミン/アスパラギンの豊富な Q/N rich domainがあり、”yeast prion (酵母プリオン)” と呼ばれるホモログを含む。TDP-43の疾患変異のほとんどは Q/N rich domainに集中している。

・SOD-1, TDP-43, FUS/TLSは試験管内では直ちに凝集するが、正常細胞内では起こらない。おそらくシャペロンの働きによるのだろう。”yeast prion domain” は、 intrinsic unfolded stateと、aggregated folded stateの 2つの状態がある。どのようにして凝集体の蓄積が始まるのかはわかっていないが、SOD-1, TDP-43, FUS/TLS変異による ALSではこれらの蛋白質の自己凝集性が増していること、高齢発症の孤発性 ALSでは保護システムが弱くなっていること、未知の環境的ないし遺伝的要因がトリガーとなるのかもしれない。培養細胞の実験では、いくつかの “hit” が組み合わされることが必要なのではないかと推測されている。

・ALSの発症機序が、TDP-43, FUS/TLSが核から失われる (loss of function) ことなのか、細胞質凝集体をつくる (toxic gain of function) ことなのか、その両者なのかはよくわかっていない。

・多くの動物モデルでは TDP-43を knock downしても、ヒト野生型 TDP-43を過剰発現しても、表現型として悪影響が出る。変異型 TDP-43ではそれがより顕著となる。しかし。それが神経系に限局するかどうかはわかっていない。

・ヒトALSでは、TDP-43の copy numberや脳での TDP-43 mRNAレベルは変化がないことが示唆されている。

・ゼブラフィッシュモデルでは、ヒト野生型ないし変異 FUS/TLSの過剰発現で表現型は正常であった。ラットモデルでは中枢神経細胞の脱落がみられ、正常型より変異 FUS/TLSで顕著であったが、single transgenic lineのため、別のメカニズムによる影響を受けている可能性も否定はできない。

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hnRNPA2B1とhnRNPA1

By , 2013年3月25日 8:23 AM

2013年 3月 3日、Nature誌にまた筋萎縮性側索硬化症 (ALS) での遺伝子変異が報告されました。次から次へと出てきて、何が何だか分からなくなりますね (^^;

Mutations in prion-like domains in hnRNPA2B1 and hnRNPA1 cause multisystem proteinopathy and ALS

Hong Joo Kim, Nam Chul Kim, Yong-Dong Wang, Emily A. Scarborough, Jennifer Moore, Zamia Diaz, Kyle S. MacLea, Brian Freibaum, Songqing Li, Amandine Molliex, Anderson P. Kanagaraj, Robert Carter, Kevin B. Boylan, Aleksandra M. Wojtas, Rosa Rademakers, Jack L. Pinkus, Steven A. Greenberg, John Q. Trojanowski, Bryan J. Traynor, Bradley N. Smith, Simon Topp, Athina-Soragia Gkazi, Jack Miller, Christopher E. Shaw, Michael Kottlors et al.

Nature (2013) doi:10.1038/nature11922
Received 05 January 2012 Accepted 17 January 2013 Published online 03 March 2013

Abstract

Algorithms designed to identify canonical yeast prions predict that around 250 human proteins, including several RNA-binding proteins associated with neurodegenerative disease, harbour a distinctive prion-like domain (PrLD) enriched in uncharged polar amino acids and glycine. PrLDs in RNA-binding proteins are essential for the assembly of ribonucleoprotein granules. However, the interplay between human PrLD function and disease is not understood. Here we define pathogenic mutations in PrLDs of heterogeneous nuclear ribonucleoproteins (hnRNPs) A2B1 and A1 in families with inherited degeneration affecting muscle, brain, motor neuron and bone, and in one case of familial amyotrophic lateral sclerosis. Wild-type hnRNPA2 (the most abundant isoform of hnRNPA2B1) and hnRNPA1 show an intrinsic tendency to assemble into self-seeding fibrils, which is exacerbated by the disease mutations. Indeed, the pathogenic mutations strengthen a ‘steric zipper’ motif in the PrLD, which accelerates the formation of self-seeding fibrils that cross-seed polymerization of wild-type hnRNP. Notably, the disease mutations promote excess incorporation of hnRNPA2 and hnRNPA1 into stress granules and drive the formation of cytoplasmic inclusions in animal models that recapitulate the human pathology. Thus, dysregulated polymerization caused by a potent mutant steric zipper motif in a PrLD can initiate degenerative disease. Related proteins with PrLDs should therefore be considered candidates for initiating and perhaps propagating proteinopathies of muscle, brain, motor neuron and bone.

骨 Pagetと前頭側頭型認知症を伴った封入体筋炎 (inclusion body myopathy associated with Paget’s disease of the bone and fronto-temporal dementia; IBMPFD) とその原因遺伝子 VCPについて、2010年12月のブログ記事で紹介したことがありました。VCPは ALSの原因遺伝子でもあります。ちなみに、IBMPFD/ALSは広い表現型や特徴的な病理を反映して、最近では multisystem proteinopathy (MSP) と呼ばれるようです。

著者らは、まず VCP関連 MSPと同じような臨床像を呈する家系 (family 1) を調べました。この家系の患者は VCP変異はなく、エクソーム配列解析および連鎖解析により、hnRNPA2B1に変異 (c.869/905A>T, p.D290V/D302V) が見つかりました。hnRNPA2B1は RNA結合タンパクで、A2, B1という isoformがあります。hnRNPA2の方がアミノ末端の 12アミノ酸短く、isoformの存在のせいで、変異部位は 2ヶ所表記となっています。このアミノ酸は進化的に保存されています。

さらに過去に VCP陰性-MSPとして報告された家系 (family 2) を遺伝子解析しました。その結果、hnRNPA1に変異 (c785/941A>T, p.D262V/D314V) が見つかりました。

次に、212名の家族性 ALS患者で hnRNPA2B1と hnRNPA1変異を調べると、1例で hnRNPA1変異 (c.784/940G>A: p.D262N/D314N) が見つかりました。

これらの変異は、3つの意味で著者らの興味を引きました。

①hnRNPA2B1と hnRNPA1が直接 TDP-43と相互作用し、RNA代謝を協調して制御すること

②VCP関連変性を抑制する因子として TDP-43, hnRNPA2B1と hnRNPA1のハエホモログが同定されたこと

③hnRNPA2B1が過去に神経変性との関係を指摘されていること (hnRNPA2B1は脆弱X関連振戦/運動失調症候群 (fragile-X-associated tremor ataxia syndrome; FXTAS) の RNA foci中にあり、riboCGG repeatと結合する)

さらに、著者らは、筋病理の分析を行いました。正常では、hnRNPA2B1や hnRNPA1は核に存在しますが、family 1の患者では、hnRNPA2B1が核から消失し、約 10%の筋線維で細胞質封入体に凝集しているのがわかりました。この患者では、VCP関連封入体筋炎および孤発性封入体筋炎がそうであるように、TDP-43病理も見られました。また、hnRNPA2B1病理は、VCP関連封入体筋炎および孤発性封入体筋炎でも見られました。

family 2の患者では、約 10%の筋線維において、hnRNPA1が核から消失し、約 10%の筋線維で hnRNPA1の細胞質封入体が見られました。hnRNPA2B1病理、TDP-43病理も同時に見られました。さらに、hnRNPA1病理は VCP関連封入体筋炎や孤発性封入体筋炎でも見られました。これらの症例では FUS/TLS病理は見られませんでした。二重染色では、TDP-43病理を伴った筋線維では通常 hnRNPA2B1病理や hnRNPA1病理を伴っており、部分的には共局在していました。一部、ユビキチンや p62も陽性でした。

hnRNPA2B1と hnRNPA1はいずれも C末端に glycine-richドメインを持ち、この部位は活性の保持や TDP-43との相互作用を介在するのに必須です。これらのドメインは、蛋白質の三次構造として折りたたまれずに存在すると予想されており、また酵母のプリオン・ドメインとアミノ酸組成が似通っています。このようなドメインは prion-like domain (PrLD) と呼ばれ、TDP-43や FUSを含む多くの hnRNPに存在します。疾患の原因となる変異は、PrLDの中心近くに存在し、プリオン様の振る舞いを強めるのではないかと考えられます。さらに、ZipperDBで調べたところ、hnRNPA2B1と hnRNPA1の PrLDにおける変異は、アミロイド線維の背骨構造を作る “steric zippers” という自己相補的な β-strandをより形成しやすくすることが予想されました。

そこで、著者らは hnRNPA2と hnRNPA1が線維形成しやすいのかどうか、またそれが疾患の原因となる変異で促進されるかを調べました。まず、 hnRNPA2B1 D290V, hnRNPA2 D262Vをそれぞれ含む 6アミノ酸ペプチドを合成したところ、容易に線維形成しました。次に GSTタグをつけて沈降分析と電子顕微鏡で評価したところ、hnRNPA2B1, hnRNPA2は変異を導入しなくても、凝集する傾向があることがわかりました。その律速段階は核生成のようでした。また、hnRNPA2B1のシードは hnRNPA2B1の凝集は起こすものの hnRNPA1の凝集を起こさず、逆もまたそうであることがわかりました。疾患変異を導入すると、hnRNPA2B1, hnRNPA1の線維形成は著明に促進しました。また、変異 hnRNPA2B1は野生型 hnRNPA2B1の、変異 hnRNPA1は野生型 hnRNPA1の線維形成をも促進しました。一方で、これらが TDP-43のような PrLDを持った他の RNA結合タンパクの凝集を促進することはありませんでした。”steric zipper” モチーフの 6アミノ酸を欠失させると、このような凝集は起きなくなりました。そのため、PrLDの中央に位置する “steric zipper”モチーフが線維形成に重要であると言えます。

さらに、酵母でも調べてみました。酵母プリオン蛋白 Sup35の核生成ドメインを野生型ないし変異 hnRNPA2B1の PrLDに置換した場合でもプリオン形成は行われ、変異 hnRNPA2B1で著明に促進されました。また全長 hnRNPA1および hnRNPA2は細胞質内凝集体を形成し、酵母に対して毒性を持ちました。

hnRNPA2B1や hnRNPA1の PrLDは、RNA顆粒を作るのに必須である (TDP-43や FUSを含む) hnRNPの “low-complexity sequence (LC配列)” に相当します。ストレス顆粒 (stress granule) は、翻訳複合体の抑制によって形成される細胞質リボ核蛋白です。TDP-43や FUSはストレス顆粒に誘導され、疾患変異によりそれが促進されます。著書らは培養細胞を用いた実験で、arsenite処理により、hnRNPA2も stress顆粒に誘導され、疾患変異があるとそれがより速やかに行われることを見つけました。患者由来の線維芽細胞では、変異 hnRNPA2が TDP-43, VCP及び eIF4G (翻訳のため mRNAをリボソームに運ぶ役割と関係がある蛋白質) 陽性のストレス顆粒内に凝集していました。

著者らは更に、ショウジョウバエの間接飛翔筋に hnRNPA2を発現させました。野生型 hnRNPA2を発現させると、いくつかの筋の吻側に軽度の変性がみられましたが、D29V変異を導入すると全ての筋で強い変性が生じました。また、PrLDを削除した Δ287-292変異を持つ hnRNPA2を過剰発現した場合、筋肉の異常はみられませんでした。免疫組織学的検討では、野生型 hnRNPA2および hnRNPA2 Δ287-292では hnRNPA2は核に存在しましたが、hnRNPA2 D29Vでは細胞質封入体への凝集がみられました。蛋白質の溶解度をしらべたところ、野生型 hnRNPA2と hnRNPA2 Δ287-292は可溶性画分に存在しましたが、hnRNPA2 D290Vは不溶性画分に存在しました。これらの結果から、hnRNPA2を発現したショウジョウバエの筋変性の程度は、細胞内封入体と hnRNPA2の溶解度に関連していることがわかりました。最後に、マウスの前脛骨筋に hnRNPA2を発現させたところ、野生型 hnRNPA2は核に存在するのに対し、 hnRNPA2 D290Vは核から排除され、MSP患者のように細胞質封入体に存在することを確認しました。

ALSアルツハイマー病パーキンソン病などいくつかの神経変性疾患では、seed 仮説という学説が議論されています。これは、seedという 種のような物ができて、それを元に蛋白質が重合し、安定化して排除されなくなってしまうことで細胞に傷害を及ぼすというものです。seedは伝播することもあります。

今回の論文では、hnRNPA2B1および hnRNPA1が細胞質内で seed仮説の原因蛋白質によくみられるように線維形成をすること (これは疾患変異で促進される)、それがプリオン様ドメインによること、いくつかの ALS関連蛋白質が同じような振る舞い (RNA顆粒を形成する) をしていることが明らかになりました。Natureに掲載されるのに相応しい、画期的な論文と言えます。

ALSの原因蛋白質はいくつもありますが、hnRNPA2B1, hnRNPA1, TDP-43, FUSなどのように RNA顆粒を形成する蛋白質は一つの系として纏められる時代がくるかもしれません。また、線維形成を引き起こすドメインに対するアプローチも色々考えられそうです。今後、RNA顆粒を形成する蛋白質の研究は、競争が激化するでしょう。個人的には、こうした RNA顆粒を形成する蛋白質が、C9orf72と関係あるのかないのかも興味をそそるところです。

最後に、RNA顆粒形成について Cell誌に掲載された論文が日本語で読めますので、紹介しておきます。hnRNPや FUSが登場します。

試験管内におけるRNA粒子の形成

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ALSの新規遺伝子

By , 2013年3月4日 8:30 AM

2013年 1月に、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)  の遺伝子関連で、興味深い報告が 2報ありました。

まずは、2013年 1月 4日の Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration誌に報告された新規原因遺伝子です。 

Detection of a novel frameshift mutation and regions with homozygosis within ARHGEF28 gene in familial amyotrophic lateral sclerosis

Rho guanine nucleotide exchange factor (RGNEF) is a novel NFL mRNA destabilizing factor that forms neuronal cytoplasmic inclusions in spinal motor neurons in both sporadic (SALS) and familial (FALS) ALS patients. Given the observation of genetic mutations in a number of mRNA binding proteins associated with ALS, including TDP-43, FUS/TLS and mtSOD1, we analysed the ARHGEF28 gene (approx. 316 kb) that encodes for RGNEF in FALS cases to determine if mutations were present. We performed genomic sequencing, copy number variation analysis using TaqMan real-time PCR and spinal motor neuron immunohistochemistry using a novel RGNEF antibody. In this limited sample of FALS cases (n=7) we identified a heterozygous mutation that is predicted to generate a premature truncated gene product. We also observed extensive regions of homozygosity in the ARHGEF28 gene in two FALS patients. In conclusion, our findings of genetic alterations in the ARHGEF28 gene in cases of FALS suggest that a more comprehensive genetic analysis would be warranted.

その遺伝子の名前は ARHGEF28といいます。その遺伝子産物は Rho guanine nucleotide exchange factor (RGNEF)  というタンパク質です。RGNEFの役割を知るためには、まずニューロフィラメント (Neurofilament; NF) を理解する必要があります。

細胞は、形態を維持したり、細胞内輸送を行うために ”細胞骨格” と呼ばれる構造物を持ちます。細胞骨格はアクチンフィラメント、中間径フィラメント、微小管に分類されます。ニューロフィラメントは神経細胞に広く分布している中間径フィラメントです。分子量が 68 kDaの低分子量ニューロフィラメント (low molecular weight NF; NFL), 160 kDaの中分子量ニューロフィラメント (middle molecular weight NF; NFM), 200 kDaの高分子量ニューフィラメント (high molecular weight NF; NFH) があり、ヘテロ多量体を構成します。

RGNEFは NFLの mRNAに結合し、3’末端非翻訳領域の不安定化を介して、mRNAの安定性に影響を与え、細胞の NFLレベルを調節します。中間径フィラメントの化学量論的異常は運動ニューロン死を起こすことが過去に報告されていますし、NFL量の調節は ALSの NF陽性封入体の出現にも関与しているのではないかと言われています。

今回著者らは、既知の SOD1, FUS/TLS, TARDBP変異のない 7例の家族性 ALS患者 (男性 5名, 女性 2名, 年齢 54-71歳) を調べました。ただし、4例 (ALS-3, ALS-5, ALS-6, ALS-7) では C9orf72変異がありました。

遺伝子検査の結果、下記の 3例で ARHGEF28変異を認めました。

・ALS-2 : Homozygosis

・ALS-4 : Homozygosis

・ALS-5 : Exon 6と Intron 6の境界に一塩基欠失あり、frameshift もしくは spilicing異常の原因となっている。結果として遺伝子産物は非常に短くなる。

病理学的に RGNEF陽性細胞質封入体は ALS-1, ALS-2, ALS-4~6で確認されました。RGNEF陽性細胞質封入体と C9orf72遺伝子変異の間に明らかな関連はなさそうでした。

ALSでは RNA代謝の障害が話題になっていますが、RNA結合蛋白質である RGNEF、それもニューロフィラメントに関係した蛋白質の発現に関与する遺伝子が同定されたというのは、興味深いことだと思います。

2013年 1月に興味を引いたもう一つの報告は、p62という蛋白質をコードする SQSTM1 (squestosome 1) 遺伝子についてです。p62はユビキチン会合ドメインと LC3認識配列を持ち、不良蛋白質を処理するユビキチン・プロテアソーム系、オートファジー両者に関係した蛋白質として近年注目されています。2011年 11月の archives of neurology誌に、SQSTM1米国で孤発性 ALSの約 4.4%を占める原因遺伝子として報告されました。今回、2013年 1月 29日号の Neurology誌には日本人での 解析結果が掲載されています。

Mutations in the gene encoding p62 in Japanese patients with amyotrophic lateral sclerosis

Neurology January 29, 201380:458-463
Hirano M, Nakamura Y, Saigoh K, Sakamoto H, Ueno S, Isono C, Miyamoto K, Akamatsu M, Mitsui Y, Kusunoki S.

Abstract
OBJECTIVE:
The purpose of this study was to find mutations in the SQSTM1 gene encoding p62 in Japanese patients with amyotrophic lateral sclerosis (ALS), since this gene has been recently identified as a causative gene for familial and sporadic ALS in the United States.
METHODS:
We sequenced this gene in 61 Japanese patients with sporadic and familial ALS. To our knowledge, we describe for the first time the clinical information of such mutation-positive patients.
RESULTS:
We found novel mutations, p.Ala53Thr and p.Pro439Leu, in 2 patients with sporadic ALS. The clinical picture of the mutation-positive patients was that of typical ALS with varied upper motor neuron signs. Although this gene is causative for another disease, Paget disease of bone (PDB), none of our patients showed evidence of concomitant PDB.
CONCLUSION:
The presence of mutations in this racial population suggests worldwide, common involvement of the SQSTM1 gene in ALS.

孤発性及び家族性 ALS 61例の遺伝子を調べた所、2例に p.Ala53Thr, p.Pro439Leu変異が見つかりました。SQSTM1遺伝子は骨 Paget病の原因遺伝子としても知られていますが、今回の症例の中に骨 Paget病の存在を示唆する患者はいませんでした。

ALSの原因遺伝子はこのように続々と見つかってきていますが、それらがどうやって疾患を引き起こしているか、詳細なメカニズムの解明が待たれます。

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ALSの治療ターゲット候補 EPHA4

By , 2012年9月16日 8:40 AM

2012年 9月 1日に筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の新規遺伝子 profilin1についての論文をお伝えしました。その論文が発表されたのは 7月15日でしたが、約 1ヶ月後の 8月 26日に、Epha4というタンパク質が ALSの予後と関係していて治療ターゲットになりうることが Nature Medicineに発表されました。

これまでの ALS研究の経緯について簡単に触れると、1993年に家族性 ALSの原因遺伝子として SOD1が同定されて以降、活性酸素除去システムの障害が注目されてきましたが、TDP-43発見が孤発性 ALSを考える上で一つのターニングポイントになりました 。生化学的、あるいは病理学的に大きなブームとして研究される一方で、 FUS/TLS, Optineurin, DAOVCP, Ubiquilin2などの ALS原因遺伝子が立て続けに見つかり、TDP-43との関連が議論されています。2012年にはフィンランドの孤発性 ALSの約 2割に C9orf72の異常が見つかり、非常に大きなインパクトを与えました (日本人には少ないとされています)。また、孤発性 ALSに対して、ADAR2活性低下と RNA編集異常といった切り口での研究も説得力を持って行われています。しかし、残念なことに、まだこれらは治療に結びつく段階ではなく、「どうやったら病気が良くなるのか、進行を遅らせられるか」についての情報は非常に少ないのが現状です。挙げるとすれば、HGF (2012年 6月に臨床試験への参加条件が変更になっています) や Dexpramipexioleなどが、現時点で注目されるところでしょう。

こうした中、「治療」という観点で、Epha4は今後注目されてくることが予想されるので、前述の Nature medicine論文を紹介しておきたいと思います。

EPHA4 is a disease modifier of amyotrophic lateral sclerosis in animal models and in humans

ALSは症例によって予後がかなり違います。家系内での同じ遺伝子変異であってさえ、ばらつきがあります。また、発症年齢も 20~90歳代と幅広く分布しており、遺伝的修飾因子が関係しているものと推測されています。その修飾経路が同定できれば、治療介入のターゲットになるかもしれません。

著者らは、まず SOD1変異遺伝子を発現したゼブラフィッシュで、 morpholinoというアンチセンスオリゴを用いて、ライブラリーに含まれる 303個の遺伝子の翻訳をブロックする実験を行いました。その結果、 SOD1変異による軸索変性をレスキューする遺伝子が 13個見つかりました。最も効果の強かったのが Rtk2でした。Rtk2は ヒトの EPHA4と 67%の相同性があります。Molpholinoで Rtk2のスプライスをブロックする実験でも、SOD1変異による軸索変性レスキューには再現性がありました。また、ヒト EPHA4と 83%の相同性があるサカナ Rtk1パラログを morpholinoにより抑制すると、変異 SOD-1による軸索変性をレスキューしました。

次に、G93A変異を入れたヒト SOD1をマウスに過剰発現させ、Epha4を欠損による効果を調べました。作製した Epha4ヘテロ及びホモ欠損マウスは、脊髄前角細胞数や神経筋接合部の神経支配、筋構造などは正常でした。ただ、Epha4ホモ欠損マウスは、出生第 1週の体重が少なく、出生してくる数も少なかった (※胎生期に問題を起こしている可能性がある) ので、ヘテロ欠損マウスを解析することにしました。その結果、SOD1 G93A+Epha4ヘテロ欠損マウスでは、ただの SOD G93Aマウスと比べ、ALS発症時期や運動機能は変わらなかったものの、生存期間は延長しました。前角細胞や神経筋接合部の正常な神経支配の割合の評価から、 Epha4のヘテロ欠損は、SOD1 G93Aマウスの運動ニューロン変性を遅らせることが示されました。全生存期間の延長はわずかでしたが、発症後の生存期間は 57%延長し、運動能力の増悪は緩やかでした。

実際に遺伝子ノックダウンをしなくても、2,5-dimethylpyrrolyl benzoic acid という薬剤は、morpholinoを用いたゼブラフィッシュでの Rtk1ノックダウンと同等の効果があり、SOD-1変異による軸索変性をレスキューしました。また、SOD1 G93A変異 ALSラットモデルに Epha4阻害ペプチドを脳室内投与すると、疾患の発症が遅くなり、生存期間も延長しました。

そこで、Epha4欠損が運動ニューロンの変性を抑制するメカニズムを調べました。 Epha4は、SOD1を過剰発現したマウスの脊髄運動ニューロンでは検出されますが、アストロサイトやミクログリアでは検出されません。著者らは、マウスの脊髄運動ニューロンでの Epha4を mRNAレベルで定量しました。すると、SOD1 G93A変異で末期まで残存するような傷害されにくい運動ニューロンでは、Epha4の mRNAレベルが通常の運動ニューロンより低いことがわかりました。また、大きな運動ニューロンは小さな運動ニューロンより傷害されやすいとされますが、大きな運動ニューロンは小さな運動ニューロンより Epha4の発現レベルが高いことがわかりました。マウスでの軸索切断実験では、神経再支配は Epha4の発現量依存的に抑制されました。どうやら Epha4は ALSの神経に対して傷害性に働いているようです。

今度は、ヒトの患者ベースで調べることにしました。2925名の ALSの患者と 9605名の正常コントロールを用いた SNP解析では、EPHA locus周囲 900 kbにある 654の SNPsと ALSの感受性に関係は見い出せませんでした。また、生存率、発症年齢に関連した SNPも見つけることはできませんでした。患者血液の解析では、EPHA4の発現が低いほど発症年齢は高かった一方で、 正常コントロールでは EPHA4のmRNAレベルと年齢に相関はありませんでした。重回帰解析では、EPHA4の発現量が低いほうが罹病期間が長そうだということがわかりました。このことから、EPHA4の発現量が低いと、発症年齢や疾患の進行に影響を与えるようです。

家族性 ALS 96名、孤発性 ALS 96名の Direct sequencingでの解析では、21個の変異がみつかり、9個は既知のもので、12個は新規に見つかったものでした。このうち、種によって保存されている R514X (C1540T), R571Q (G1712A) の 2つを更に調べると、これらは正常コントロールには存在しないものだとわかりました。そして興味深いことに、これらの変異は ALSでの例外的な長期生存に関係しているとわかりました (症例1: 56歳で発症して 89ヶ月生存した孤発性 ALS患者は R514X変異あり, 症例2: 43歳で発症して 149ヶ月生存した家族性 ALS患者は R571Q変異あり)。NSC-43という運動ニューロンの不死化培養細胞に 変異EPHA4を遺伝子導入して解析した結果では、nonsense mutationである R514Xは nonsense mutationのため発現がみられず、missense mutationである R571Qではシグナル伝達機能に異常があり、自己リン酸化の障害がありました。

ここまでの知見から、魚、マウス、ラット、ヒト、全てにおいて EPHA4の発現低下は疾患の重篤性を軽減することが示唆されます。著者らは、疾患修飾因子の SNP解析でこの変異が見つからなかったのは、発現がさまざまな要因で制御されているからだと考えています。

TAR DNA-binding protein 43 (TDP-43) をコードする TARDBPは、まれではありますが家族性 ALSの原因遺伝子であり、TDP-43が神経変性に果たす役割には関心が集まるところです。そこで、Epha4とTDP-43の関連を調べました。ゼブラフィッシュの TDP-43 A315T変異による軸索変性に対する実験で、Epha4ノックダウンあるいは Epha4阻害薬は、軸索の伸長障害や異常な枝分かれをレスキューしました。

最後に、ゼブラフィッシュを用いて、Smn1遺伝子ノックダウンでの運動ニューロン軸索異常に対する Epha4の効果について調べました。Smn1ノックダウンは、下位運動ニューロンを侵す脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy; SMA) のモデルとされています。Epha4欠損および Epha4阻害薬は、Smn1ノックダウンによる軸索の表現型をレスキューしました。これらの知見から、Epha4の阻害による保護効果は神経変性の原因によらないものと推測されます。

Epha4阻害薬については更なる研究が必要です。副作用として現在のところ懸念されるのは、Epha4ホモ欠損マウスで見られたような、長期記憶の障害です。

Ephという受容体型チロシン型キナーゼには、A typeとして Epha 1~10, B typeとして Ephb 1~6が存在することが知られています。ここで紹介した Epha4は Eph A typeのうちの一つです。Eph受容体ファミリーには様々な役割がありますが、今回の論文では、どうやら「軸索反発因子」としての作用を抑制することがキーになってくるようです。

Scientists identify new gene that influences survival in ALS

In an exciting, related development, a new ALS gene (profilin-1) identified last month by UMMS scientists works in conjunction with EphA4 in neurons to control outgrowth of motor nerve terminals. In effect, gene variants at both the top and the bottom of the same signaling pathway are shown to effect ALS progression. Together these discoveries highlight a new molecular pathway in neurons that is directly related to ALS susceptibility and severity and suggests that other components of the pathway may be implicated in ALS.

そして、驚くべきことに、Epha4は先日お伝えした profilin1と協力して働くそうです。今後、Epha4-profilinの系は、目が話せませんね。

今回は内容が難解だったので、専門外の方にもわかるように、まとめをしておきます。

①Epha4というタンパク質が、ALSにおいて悪影響を及ぼしているらしく、ALSでの様々な動物モデル (SOD1, TDP-43異常) で Epha4を働かなくすると神経保護作用が見られた。ALS以外の神経変性疾患モデル (Smn1異常) でも、Epha4をノックダウンすると同様の神経保護効果が見られた。

②ALSで進行の遅い患者を調べたら、Epha4に変異が入って、機能しなくなっていた。

③Epha4は、最近新たに見つかった ALSの原因遺伝子 Profilin1と同じ系で働いているらしい。

④Epha4を抑制する作用のある薬剤 (2,5-dimethylpyrrolyl benzoic acid) は既に知られていて、動物実験にも用いられている。

⑤ただし、Epha4を抑制した場合、長期記憶の障害などが問題になるかもしれない。

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神経学会総会

By , 2012年5月27日 11:14 AM

以前お伝えしたとおり、5月22~25日に神経学会総会があり、行ってきました。なかなか有意義な数日間が過ごせました。この数日間を簡単にお伝えしようと思います。

5月22日

神経学会生涯教育セミナー Hands-on 6 「高次脳機能」に参加しました。WAIS-IIIは自分で検査したこともされたこともあったので、検査の初歩的説明は私にはあまり面白くなかったです。しかし、次期 WAIS-IVから評価項目の記載が代わると話など、いくつか新しい知識が得られました。聞き終わってからラボに実験に行きました。

5月23日

8時から「ビデオで見る不随意運動の基礎」という講演を聞きました。不随意運動は見る機会があっても、最初は「これが○○だよ」と誰かに教えて貰わないと、なかなか正しく学習出来ません。教科書を読んでも、文字からでは想像しにくいものが多いのが事実です。そういった意味で、得難い勉強の機会でした (とはいえ、10年も神経内科医をやっていれば、ビデオで見た不随意運動のほとんどは既に経験したものですが・・・)。

9時からは絞扼性末梢神経障害の手術についての講演でした。亀田総合病院の整形外科の先生が、講演してくださいました。内容は、carpal tunnel syndrome (手根管症候群), ulnar neuropathy at elbow (昔、肘部管症候群と言われていたもの), Guyon’s canal syndrome, tarsal tunnel syndrome, T.O.S. (胸郭出口症候群), piriphormis syndrome (梨状筋症候群), meralgia parestheticaについてでした。我々は診断をつけたら整形外科に患者さんを紹介することが多い訳ですが、整形外科の先生がどのような基準でどのように治療するかがわかって、非常に勉強になりました。また、手根管症候群の一部で、Palmar cutaneous branchが障害されると非典型的な症状 (母指の障害) を出し、Tinel’s signの部位が通常と異なることは初めて知りました。こんなに面白い話なのに、非常に参加者が少なかったのが残念でした。

10時頃からポスターをみて、ラボに行き、実験をしました。そして、15時の講演に合わせて会場に戻りました。15時からの「小脳症状とは何か」という講演は、期待はずれでした。あまり「小脳症状とは何か」という問に答えていない演者が多かった気がします。

5月24日

8時から「てんかん発作を診て勉強しよう」の講演を聞きました。基本的な話が中心で、新しく勉強になったことは少なかったですが、入院でビデオ+脳波同時期録ができる施設が羨ましいと思いました。なかなかそういう環境でないと、ヒステリー (偽発作) と本当のてんかん発作の鑑別が難しいことがあるからです。

9時からは「感覚情報と大脳基底核」の講演を聞きました。内容としては、「Motor」「Oculomotor」「Prefrontal」「Limbic」の系は (細かいことを別にすれば) 閉じている、一方感覚系は閉鎖ループではなく、一種の open loopとして大脳基底核に関わっている、という話でした (一部閉鎖ループはあるかもしれないが、その影響は小さい)。つまり、運動の実行、プラン時に感覚野は大脳基底核の機能に影響を与え、この障害は基底核で運動症状を作ると言うことです。また、Sensory trickは、大脳基底核障害で回らない基底核ループの感覚情報の修飾、paradoxical gaitは感覚情報を用いた小脳による運動の補正 (大脳基底核:internal triggerな運動を制御、小脳:external triggerな運動を制御) と説明するとわかりやすいのではないかと提案されました。なんとなくわかった気がしたのですが、いつも話がわかりやすい宇川先生を以てしても難しい話でした。

10時からはポスターを見ました。紀伊半島古座川 ALSに 3名の C9ORF72変異が見つかった話、Parkinson disease with dementiaでは MMSEより HDS-Rの方が鋭敏であること、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) のレスパイト入院では年間医療費はほとんど増えないという話などが面白かったです。ポスターを見てからラボに実験に行きました。

5月25日

前日、将棋の橋本八段達と午前 1時過ぎまで飲んでいて朝辛かったですが、何とか遅刻せずに間に合いました。

8時からの「てんかんと運転免許」は今トピックの話でした。てんかんの方に運転免許が与えられるようになってきた経緯、それを規定する法律内容について説明がありましたが、詳しく書くと長くなってしまうので、いくつかに絞って紹介します。

・医師の責任について。てんかん患者が運転免許を取るときに必要な診断書は、虚偽の記載をすれば虚偽公文書作製罪に問われます。しかし、適合と判断したのに非適合あったケースでは、医師の刑事責任は問われません。

・事故件数について。日本での運転免許保持者は 8101万人、総人身事故は 72.6万件/年、うちてんかん発作によると思われる事故は 71件 (そのうち免許取得/更新時に申請していたのは 5名) と、有病率を考えれば決して多くありません。

・ヨーロッパでは欧州連合指令による規定があります。自家用運転での発作抑制期間 (この期間発作がなければ免許がとれる) は、てんかん 1年、初回発作 6ヶ月、薬物調整時 6ヶ月、てんかん手術後 1年、職業運転での発作抑制期間は、てんかんの場合内服なしで 10年、初回発作 5年です。今後これが global standardになっていくのではないかと考えられています。ちなみに、発作抑制期間の長さにより、あまり事故率は変わらないというデータがあるそうです。

・運転適性 がない (発作の恐れがある) のに運転していた人のうち、35%が仕事や生活の必要性のため免許がどうしても必要なので申告していなかったそうです。

講演後、フロアから、いくつか良い質問がありました。

①初回発作のときどうするか?

てんかんは、 2回以上の発作があって初めて確定診断されることが多いです (初回発作があっても、半分の患者さんはその後発作を起こさない)。なので、初回発作のみでは診断できない場合があります。このとき運転免許をどうするかに関しては、明確な決まりはないそうです。

②仕事がなくなるのが怖いから、患者さんは申請できないのでは?

現行ルールを守って貰うため、世間を巻き込んだ議論をする必要があります。現行ルールで良いのかは学会で方針を出したい、とのことでした。

③減薬をどうプランニングするか?

成人に成る前にトライすべきで、成人になってからは極めて慎重であるべき、とのことでした。

(2012年 10月11日16:00-18:00に日本てんかん学会のワークショップ「てんかんと運転」があり、そこで様々な事が決まる見込みなのだそうです)

9時からは、「実地に役立つ神経遺伝学」の講義でした。家族性 ALSと診断されていた MJD, MERFF, Friedrich ataxia with retained reflexes, Posterior column ataxia, hereditary spastic palarysisが症例としてあげられました。遺伝形式などにより使う手法が違うので臨床診断がしっかりしていないと無駄が多くなってしまう、という話でした。どのような場合にどのような解析法を使うかなど、勉強になりました。参加者が少なかったのが残念でした。

10時からポスターを見に行きました。京都からの報告で、 ALS/Paget病の患者さんで VCP変異が見つかった話などが興味深かったです。日本ではその変異はないかと思っていたのですが、実際にはあったのですね。

13時 30分から、「東日本大震災:あれから一年」というシンポジウムに参加しました。まず岩手医大、東北大学の先生が、震災により生じる健康被害についてどう研究をするか、どうデザインを組むかを話されました。私は「そういう話は学会誌の読み物にまとめて、こういう場じゃないと聞けない話をすればよいのに」と思いました。

3人目の演者、福島県立医大の宇川教授は「調査する側とされる側の思いは違う」とチクリと言って、講演を始めました。福島県は、浜通り、中通り、会津と 3地域にわけられますが、それぞれの震災後の状況、現状を話されました。放射能汚染についても触れました。現在、福島市の放射線量はローマと同じくらいですが、雨樋など一部高い場所もあるようです。どの程度怖がるかは、科学じゃなくて価値観の問題なので難しいようです。考えさせられました。

4人目の演者は斎藤病院の斎藤先生でした。石巻の民間病院の院長です。周囲が全て津波に飲まれ、1個のおにぎりを半分にして、それを 1日 2回にして飢えを凌いだとおっしゃっていました。斎藤病院では、震災後救急患者が 2-3倍になりすぐに満床になりました。DMATは石巻赤十字病院には来ましたが、斎藤病院には来ず、その後東北大学が様々な支援をしたそうです。支援物資の分配も上手くいっていなかったそうで、民間病院や在宅の方へは届くのが遅れました。石巻では 3ヶ月で 70%, 6ヶ月で 86.8%の病院が再開しました。民間病院には、建物に半分の補助がでましたが、医療機器は補償されず、官民格差を感じたとのことでした。最後のまとめで斎藤先生がおっしゃっていたのは、①震災時に拠点病院以外の病院をどうするのか?②卸売り業者が被災して薬が手に入らなくなった場合、メーカーから直接買えるようにならないか?③支援物資をどう届けるのか?④予算案が国会を通るのに何故 8ヶ月も空白が生じたのか?ということでした。

5人目の演者はいわき病院の先生でした。いわきは揺れ、津波、原発事故のトリプルパンチをくらいました。原発事故後、1週間は外を車が走っていなかったと証言されていました。いわき病院では、津波時に寝たきりの患者さんを院内の高いところに避難させ、その後全ての患者さんを他院に搬送し、そして戻ってきて診療を再開しました。講演では、被災後の ALSの患者さんの動向などについて話されました。現在のいわきでは、流出した人はいるものの相双地区から流入した人がいて、若干人が増えたそうです。転勤してくる方の住む家がないほどだとおっしゃっていました。

まだシンポジウムは続いていたのですが、被災地の先生の話が終わったため、別のシンポジウムに出るため、途中で抜けました。このシンポジウムで残念だったのは、参加者が非常に少なかったことです。他に勉強しなきゃいけないことがたくさんあるのはわかりますが、1年経つと人の関心は移ろうものだなぁ・・・と。まだ引きずっている私の方がおかしいのでしょうか?

さて、15時 15分からは「神経学と精神」というシンポジウムに出ました。まずは神経疾患で見られる精神症状について。急性自律性感覚性ニューロパチーでは半数以上に精神症状が見られる、片頭痛で遁走が見られることがある、post stroke depressionでは中前頭回の血流が低下している、CADASILではアパシーが見られる、パーキンソン病では性欲亢進が見られることがある、抗 NMDA受容体抗体脳炎では意識・自我の障害がみられる、拒食症では insulaとの関係が指摘されている、視床梗塞では personality障害が出る・・・という話でした。その後、精神科の先生からの話を聴き、神経内科とは違った立場からの見方に新鮮さを感じました。

これで私が聴講した全ての講演が終わりました。参加できた講演はこれでもごく一部で、神経学の幅広さを実感しました。

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Dexpramipexole

By , 2011年12月3日 9:58 AM

2011年 11月 21日、非常に興味深い論文が Nature Medicineに掲載されました。掲載された日に読んだのですが、紹介するのが遅れるうち、別のブログに要約したのを見つけました。

takのアメブロ 薬理学などなど。-筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるdexpramipexole (KNS-760704)の効果

内容としてはこの通りなのですが、もう少し追加すると、Dexpramipexoleはパーキンソン病治療薬 Pramipexole (商品名:ビ・シフロール) の鏡像異性体 (R体) です。

 About dexpramipexole

Dexpramipexole, also known as (R+) pramipexole, was developed under the name KNS-760704 by Knopp Biosciences (then called Knopp Neurosciences) of Pittsburgh.

Dexpramipexole’s chemical structure is the mirror image of Mirapex, a prescription drug approved for the treatment of Parkinson disease and restless legs syndrome. The structural difference between the two molecules results in significantly different pharmacological effects.

Mirapex, also known as (S-) pramipexole, mimics the actions of a neurotransmitter called dopamine, which would be an undesirable strategy for ALS.

Although its mechanism of action in ALS remains unclear, dexpramipexole has demonstrated neuroprotective properties in multiple studies involving cell cultures and laboratory animals. It may work by improving the function and efficiency of cellular “energy factories” called mitochondria. In ALS, mitochondria endure a cell-damaging process called oxidative stress. It’s suspected that dexpramipexole may help maintain energy production in stressed mitochondria within motor neurons. (See Knopp Neurosciences to Pursue Development of ‘Mirror-Image’ Molecule.)

この薬剤、ミトコンドリア機能を改善する作用があるかもらしいのですが、詳しくはよくわかっていないそうです。しかし、ALSに対して、初めてある程度の効果が期待出来そうな薬剤なので、今から注目しています。一応リルゾールも生存期間を多少延長する効果があると言われていますが、効果を実感出来るほどではないのが現状です。

Dexpramipexoleは、論文中で機能スコアの低下を送らせ、観察期間内で死亡率を減少させているので、期待のかかる薬剤です。しかし、現時点では低下した機能を改善する作用や進行を完全に停止させる作用は確認されていないみたいですので、更に効果のある治療薬の開発が望まれます。個人的には、先日明らかになった C9ORF72の解析から、新しい治療薬が出てくることに期待しています。

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ALS患者の 6塩基リピート – GGGGCC

By , 2011年9月29日 11:55 PM

9月 24日に上司からメールが届き、Neuron誌に驚くべき論文が掲載されることを知りました。2011年 10月 20日の Neuron誌に載るようですが、オンラインでは一足早く紹介されています。

 Neuron

ONLINE EARLY: New Gene Identified as Major Cause of Familial ALS and FTD
Two independent groups have identified a repeat expansion in C9ORF72 as the underlying genetic defect on chromosome 9p21 responsible for frontotemporal dementia (FTD) and amyotrophic lateral sclerosis (ALS).

Renton et al. A Hexanucleotide Repeat Expansion in C9ORF72 Is the Cause of Chromosome 9p21-Linked ALS-FTD

DeJesus-Hernandez et al. Expanded GGGGCC Hexanucleotide Repeat in Noncoding Region of C9ORF72 Causes Chromosome 9p-Linked FTD and ALS

上記二本の論文の内容ですが、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 及び前頭側頭型認知症 (FTD) に関係する遺伝子が同定されました。それは C9ORF72という遺伝子のイントロンでの、GGGGCC 6塩基反復配列です。2つのグループから独立に報告されているので、かなり信頼性がありそうです。

Rentonらの論文を読んだので、簡単に紹介します。要旨は下記。

・過去に報告されていた chromosome 9p21に locusを持つ ALS-FTD家系を調べたところ、C9ORF72の第1 exonの 63塩基セントロメア側に GGGGCC 6塩基反復配列を同定した。
・フィンランドの 402名の ALS患者、478名のコントロール群を用いた解析では、ALS患者 113名 (28.1%), コントロール群 2名 (0.4%) で、この反復配列を認めた。ALS患者でみると、家族性 ALS患者の46.4%, 孤発性 ALS患者の 21.0%にこの反復配列を認めた
・6塩基リピート数は、ALS群で平均 53 (30-71), コントロール群で 2 (0-22) だった。
・北アメリカ 198名、ドイツ 41名、イタリア 29名の家族性 ALS患者についても調べたが、この遺伝子異常は 102名 (38.1%) に見られた。
・FTD患者 75名についても調べた。進行性非流暢性失語症 6名、行動障害型認知症 16名、合計 22名 (29.3%) でこの変異が見られた。22名中 8名にはALSの家族歴があった。
・C9ORF72の RNAは脊髄や小脳など神経系に広く検出された。ALS患者と健常者の前頭葉皮質の組織での RNA発現量は同程度であった。

6塩基リピートというと、神経内科医が思い浮かべる疾患があります。トリプレット・リピート病と呼ばれる、3塩基リピートを来す疾患群です。しかし、同じリピート病といいながら、C9ORF72の場合は 6塩基リピートというのが興味深いです。

ALSの病因研究に関して大きく一歩進んだ印象ですが、未解決の問題は山ほどあります。例えば、元々 chromosome 9p21に locusを持つ ALS患者で同定された C9ORF72ですが、この haplotypeを持たない ALS患者でも C9ORF72の異常が見つかっているのは何故なのかは、わかっていません。また、表現促進現象 (anticipation) があるのかないのかもわかっていません。C9ORF72の RNA発現量が各神経組織でそれほど変わらないのに何故 ALSでは運動野の神経細胞を中心に脱落するのかも謎のままです。

未解決の問題が一つずつクリアされ、一日も早く治療法が開発される日が来ることを願っています。

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