ドイツ旅行(2009年9月2日〜9月9日)

ミュンヘン第2日目

 朝あまりに早く目が覚めたので、前日に買った日経新聞に載っていた王座戦第 1局 (羽生王座対山崎 7段) の棋譜をパソコンの将棋ソフトに打ち込み、眺めていた。相懸かりからの力戦だったが、両端を上手く攻めた羽生王座が、相手の角を封じ込め、飛車を苛め、最後はかなりの大差となった将棋で、羽生王座の大局観が光った一局だった。

 朝食にソーセージとゆで卵だけ書き込むと、ミュンヘン中央駅へ。ミッテンバルトに遊びにいくのだ。ミッテンバルトはオーストリアとの国境にある街で、登山客で賑わう山村である。

 ミュンヘン中央駅の自動券売機でミッテンバルト駅行きの往復切符を買ったのだが、これが失敗。何故失敗かは後で明らかになる。

 駅では日本の新聞と、ビールと御菓子を買い込み、意気揚々と電車へ、。山間を縫うように走る電車からビールを片手に景色を眺め、日本の友人にメール。時に景色が開けて湖が現れたりもする。

 しばらく走ると車掌が乗車券を見に巡回して来た。私の切符を眺めた車掌は「ミッテンバルトには停まらないよ。(季節のせいか曜日のせいかは良く聞き取れなかったが) 客が少ないから、Garmisch駅からバスを使ってくれ」というような内容を話した。

 Garmisch駅からは、どのバスに乗れば良いかわからず、とりあえずミッテンバルト通りと書いてあるバスに乗ったのが大失敗。山奥のミッテンバルト通りで降りたのだが、これがミッテンバルトとは縁もゆかりもない場所。山道をとぼとぼと歩いたが、街の見つかる気配はない。しかし、ミッテンバルトという看板が見え、立ち止まっていくつかの選択肢を思案。歩いていく、近くの店に入りタクシーを頼む、ヒッチハイクをする・・・など。選択を誤ると大変なことになりそうだ。

レストラン

 都合良く、近くにホテルを見つけ、昼食がてら入ることにした。ホテルのレストランは人が誰もいなくて、庭で食べても良いと言われた。ビールを片手に、ホテルの方推奨のマッシュルームサラダを頼んだ。これが大当たり。クリームソースのようなものが塗してあるマッシュルームは柔らかく、野菜も素材が良かった。良くホテルの朝食に出てくる野菜は、育ちすぎた大味なものが多いが、ここの野菜は小振りで、味が凝縮されていた。庭で山を眺めながらビールを飲み、至福のひとときを味わった。遠くにはスキーのジャンプ台が見え、吹く風は涼しげだった。風に吹かれて、本を広げて、優雅に読書を楽しんだ。

 と、蜂が 2匹、私の食べ物に群がり始めた。手で追い払うが効果がない。蜂と食べ物を争ったのは生まれて初めてだ。仕方なく屋内に避難したのだが、ドアと窓が開いていて蜂も移動してきた。しかし、蜂達はたまたま屋内のレストランに入ってきた男性と赤ん坊と遊ぶことを選んだらしい。私は食事を終えることが出来て、タクシーを呼んで貰うことに成功した。

 タクシーで山中を走る間、酔いも手伝って、最高に多幸的な気分になった。山の中に開けた牧場の合間を颯爽と走り抜ける。牧場に放たれた牛、馬、羊。詩の一つでも浮かびそうなものだ。タクシーは山を 3つばかり越え、ミッテンバルトに着いた。おそらく 10 kmくらいあっただろう。歩こうと無謀な決心をしなくて良かったと思った。途中で分かれ道もあったことだし、ドイツの山奥で迷子というシャレにならない事態だってあったかもしれない。

楽器博物館

 ミッテンバルトでは、楽器博物館に入った。ミッテンバルトはヴァイオリン製作の街として有名だが、創始者のマティアス・クロツから始まる一族の楽器と、製作に使う道具などが展示されていた。規模はクレモナの楽器博物館に及ぶべくもないが、こぢんまりとした良い博物館だった。

 山々を眺めた後、ミッテンバルト駅に行き、時刻表をチェックした。ミュンヘン行きは、1時間くらい待つことになりそうだ。しかも、来たときのことを考えると、必ずこの駅にとまるとはどうして言えようか?私しかホームにいない現状では、停まらない可能性も十分考えられる。

ミッテンバルト駅

 どうやってミュンヘンに戻るか考えていると、近くにいたおばさんが話しかけてきた。「どこに行くの?」と言われたので、「ミュンヘン」と答えると、発音が悪く通じなかったようだ。ミュンヘンからの往復の切符を見せると、「これ以上払わなくて良いわよ」といって、「付いてらっしゃい」と言われた。付いていくと、バス乗り場で、「このバスで Garmisch駅に行くように」と言われた。何のことはない。電車が停まらない代わりに、タダで Garmischとミッテンバルトをバスが往復しているのだ。

 バスの中では、イタリア人夫婦 (?) が喧嘩をしていて、ドイツ人女性が「静かに!」と注意する光景が見られた。人伝に、「新婚旅行は長いと喧嘩が多くなるから、あまり長くない方が良いわよ」と言われたのを思い出した。男女が長いこと旅で過ごすのは危険だという典型だ。まぁ、私は当分そんな心配はしなくて良いようだが。

 Garmischでは電車が出発する 30分前に乗り込んだおかげで、余裕を持って座ることが出来たが、徐々に電車が混み合った。窓から外を見ると、ミュンヘンに向かう道路も渋滞していた。日曜日でもあるし、ミュンヘンから山に遊びに出掛けた人たちが帰る途中なのかと推測した。電車は尚混み合い、若者達が次々と老人に席を譲っていて、それに倣った。

ミュンヘンについてから、夕食を食べに街にくりだした。ところが、日曜日のためか、前日あれほど賑やかだった大通りは閑散とし、多くのビアハウスも閉まっていた。そこで、ふと目に付いたアウグスティナー (Augustiner) に入り、ビールとグラーシュスープ、牛肉 (タン?) の煮込みを注文した。あまり美味しいとは言えなかったけれど、腹は満たせた。

 ホテルに戻る途中に、例の怪しい通りを通ったが、「World sex」「Sex shop」「Erotic shop」と書かれた看板や、裸の女性の看板が立つピンクネオンの「Candy bar」などが私を誘ったが、公序良俗に反することをしない主義の善良な日本人は、横目で眺めるに留めるにして、ホテルに戻った。


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