第 3回 Journal club

By , 2013年1月31日 7:10 AM

1月29日に第 3回 Journal clubを行いました。

兄やん先生は、抗てんかん薬 zonisamideが徐放性 carbamazepineに対し、部分発作で非劣性を証明した論文を読んできました。

Efficacy and tolerability of zonisamide versus controlled-release carbamazepine for newly diagnosed partial epilepsy: a phase 3, randomised, double-blind, non-inferiority trial.

ただし、この研究は、zonisamideを販売するエーザイから資金提供を受けているのを考慮する必要があります。

ホワイトロリータ先生は、輸液の留置針を換えるタイミングについての論文を読んできました。色々な所で話題になっていた論文です。

Routine versus clinically indicated replacement of peripheral intravenous catheters: a randomised controlled equivalence trial.

留置針は 72-96時間で交換することが推奨されていますが、定期的に交換するのと、詰まるなどして必要になったときに交換するのだと、どちらが良いか調べた研究です。ブログにまとめている方がいましたので、リンクを貼っておきます。

定期的 vs 臨床指示下の末梢静脈カテーテルの再留置:無作為対照同等性試験

ちなみに、定期的に交換する群では 48-96時間で、臨床的に必要になった時に交換する群では 48-561時間で交換していたそうです。

ちょび髭王子は、てんかんと性機能についての論文を読んできました。何故こんな論文にしたかというと、「何を読んだら良いかわかりません。時間がないので長い論文は無理です。」と、み○のすけ氏に相談したら、これを勧められたからです。

Sexual dysfunction and epilepsy: The reasons beyond medications.

てんかんおよび抗てんかん薬が原因で性機能低下が見られることがあるという論文です。てんかんによる性機能低下は、動物実験では発作後時間とともに改善したと記されていました。

最後に、私は高齢者における一過性身震い様不随意運動についての論文を紹介しました。この疾患は、知っているとひと目で診断出来るのですが、知らないと相当ビックリします。救急をやっている先生から相談されることが多いですね。

Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients: a new syndrome?

高齢者における一過性身震い様不随意運動について

断片的に全般化して数日続く、明らかな代謝的あるいは器質的異常を伴わない高齢者の急性ミオクローヌスおよび羽ばたき振戦について報告する。同様の症状は、過去に 1986年に水谷らが報告した「臨床神経学」誌の ”Recurrent myoclonus associated with Epstein-Barr virus infection in an elderly patient“ という論文にのみ見られる。

この論文では、奈良県の天理よろづ相談所病院かかりつけで、震えを主訴に神経内科に紹介された 7例の患者 (78歳女性, 79歳女性, 63歳男性, 64歳男性, 82歳男性, 71歳男性, 69歳女性) について、ビデオ撮影、表面筋電図、脳波、体性感覚誘発電位 (SEP) を用いて評価した。

その結果、以下の臨床的特徴が明らかになった。

①    高齢者および慢性疾患保持者に起こりやすかった

②    意識レベルはほぼ正常もしくは軽度に障害されていた

③    ミオクローヌス反射は自発的に起こり、動作によりわずかに増強した。全身広範に出現するが、主に頸部、肩帯、上肢に見られた。前頭筋、眼輪筋、腹筋群は侵されにくかった。オプソクローヌスは見られなかった。

④    いくらか声の震えがあった

⑤    感覚刺激でミオクローヌス反射は誘発されなかった

⑥    羽ばたき振戦はミオクローヌス反射の出現部位に出現した。羽ばたき振戦様の運動が提舌で見られた。

⑦    ミオクローヌス及び羽ばたき振戦以外の神経学的異常所見はなかった

⑧    脳波では、非特異的徐波ないし不規則性が見られたが、てんかん波はなかった

⑨    発症はかなり急であったが、数時間かけて更に顕著になった

⑩    ミオクローヌスと羽ばたき振戦は 2-3日間のジアゼパム投与で消失した。一旦症状が消失すると、更なる治療は必要なかった。

⑪    後遺症はなかったが、再発を起こす傾向にあった

著者らの行った median SEPでは 7例中 2例で振幅増加が見られた。しかし、P27に比較して N20の振幅が大きかった。これはミオクローヌスで出現するいわゆる Giant SEP (ミオクローヌスで有名な所見) とは異なり、高齢者でたまに非特異的に経験される所見であった (著者の私見)。

水谷らによる同様の症状の報告では EB virus IgGが高値だった。しかし、これらの 7例で抗体価が有意に上昇していた患者はいなかった。

臨床所見については、まさにこの通りです。気になったのは median SEPの解釈についてです。私は某基幹病院で外来をやった帰りに、技師さんが行った SEPのレポートを作成していますが、年に数件くらいミオクローヌスのない症例で、この論文に見られるような Giant SEP様の所見を認めます。著者らは高齢者でたまに非特異的に見られる所見としていますが、その臨床的意義は何なのだろうと思いました。今度電気生理検査に詳しい先生に会う機会があったら、聞いてみようと思います。


失語の国のオペラ指揮者

By , 2013年1月30日 7:29 AM

「失語の国のオペラ指揮者 神経科医が明かす脳の不思議な働き (ハロルド・クローアンズ著、吉田利子訳、早川書房)」を読み終えました。以前紹介した、「医師が裁かれるとき」という本と同じ著者です。

教科書では読めないような、神経学に関する話題が満載でした。どの話も面白かったのですが、「音楽は続く、いつまでも」というエッセイを読んだときには、電車内であったにも関わらず、「あっ」と声を上げました。なぜなら、「脳梗塞と音楽能力」でエントリーで紹介した患者のことが書かれていたからです。この本では患者は論文と別の名前になっていますが、明らかに同一人物です。著者は、担当医による紹介を経て患者に実際会っており、そのときのエピソードが綴られています。論文には記されていない裏話が満載です。

もう一つ紹介しておきたいのが「シーフ・リヴァー・フォールズの隠者 病気の名祖との最初の対面」というエッセイです。末梢神経障害、運動失調、網膜炎を症状とする患者を診療する機会があり、一年目の研修医であった著者は Refsum病と診断しました。そして、なんと名付け親となった Refsum教授が症例検討会に参加することになりました。Refsum病は、本来「heredopathia atactica polyneuritiformis (遺伝性失調性多発神経炎)」というラテン語名が正式名称です。Refsum教授は一度も “Refsum病” と口にしたことはなく、正式名称で呼んでいたそうですが、著者は「もし、新しい病気を発見して名前をつけることがあれば、正確ではあってもややこしいラテン語の名前をつけよう。そうすれば、すぐに名祖になれる。病名として名が残れば、十五分で忘れ去られることはない」と冗談めかして書いています。Refsum教授は巧みな問診で患者の生活歴を暴き、治療方針を立てました。Refsum氏が指示した治療、フィタン酸を多く含む木の実の摂取制限は有効だったそうです。

このエッセイ「シーフ・リヴァー・フォールズの隠者 病気の名祖との最初の対面」は、Sigvald Refsumが Georg Herman Monrad-Krohnと編集した教科書についてのエピソードで結ばれています。その教科書に掲載されている気脳図 (CTや MRIがなかった時代は、髄腔から空気を入れてレントゲンを撮り、空気が入った脳室の形を見て判断することがあったが、激烈な頭痛を伴い、しばしば命を落とす侵襲的な検査だった) は、ある有名政治家、ナチスに協力したクヴィスリンクのものらしいです。第二次大戦後、クヴィスリンクの異常な行為が疾患のせいではないことを確かめるため気脳図を撮られ、正常であることを確認後に銃殺されたそうです。どうやらその時の写真が正常像として教科書に使われたらしいのです。

余談ですが、ノルウェーがドイツに占領されていた時期、食料がドイツに送られ、国民が菜食を強いられました。そのため、Refsum病の原因となるフィタン酸が蓄積しやすい状況が作られました。Refsum教授が Refsum病を発見したのには、このような時代背景のため Refsum病の患者が増加していた事情があったようです。

私が師匠に Refsum教授の話をすると、師匠は彼が来日した際、講演を聞いて話をしたことがあると仰っていました。Refsum教授は素晴らしい紳士で、風格のある方だったらしいです。そして、Sigvald Refsumと Georg Herman Monrad-Krohnが纏めた教科書は素晴らしく、Parkinson病患者の表情の情動的不全麻痺の記載には感銘を受けたと仰っていました。

ちなみに、Refsumと Monrad-Krohnが編集した教科書は「神経疾患検査法 (医博 稲永和豊訳, 医歯薬出版)」として邦訳されています。邦訳版を手に入れたので、掲載されていた気脳図の写真を下に示しておきます。クローアンズの言うとおりなら、クヴィスリンクのものかもしれません。

あおむけの姿勢でとられた正常な気脳撮影写真

うつむけの姿勢でとった正常な気脳撮影像

正常気脳撮影写真側面像


音楽を習い始めるタイミング

By , 2013年1月29日 7:33 AM

2013年 1月 13日の The Journal of Neuroscience誌に、音楽を始める時期についての論文が掲載されていました。人間のいくつかの能力には “sensitive period” というものがあり、ある時期までに始めないと高度には身につかないものがあります。外国語の勉強をする時などに身に沁みて感じます。

音楽についても “sensitive period” は当然存在すると考えられています。優れたソリストのほとんどが、子供の頃から楽器を始めていることを考えれば感覚的にわかると思います。

Early Musical Training and White-Matter Plasticity in the Corpus Callosum: Evidence for a Sensitive Period

Training during a sensitive period in development may have greater effects on brain structure and behavior than training later in life. Musicians are an excellent model for investigating sensitive periods because training starts early and can be quantified. Previous studies suggested that early training might be related to greater amounts of white matter in the corpus callosum, but did not control for length of training or identify behavioral correlates of structural change. The current study compared white-matter organization using diffusion tensor imaging in early- and late-trained musicians matched for years of training and experience. We found that early-trained musicians had greater connectivity in the posterior midbody/isthmus of the corpus callosum and that fractional anisotropy in this region was related to age of onset of training and sensorimotor synchronization performance. We propose that training before the age of 7 years results in changes in white-matter connectivity that may serve as a scaffold upon which ongoing experience can build.

この論文では、被験者を 7歳までにトレーニングを開始した音楽家、7歳以降にトレーニングを開始した音楽家、非音楽家に分けて評価しました。その結果、7歳までにトレーニングを始めると脳梁 (特に posterior midbody/isthmus) の発達が良いことが確認されました。またこの部位において、拡散テンソル画像で調べた異方性度 (fractional anisotropy; FA, 白質の変化を反映) は、トレーニング開始年齢と感覚運動同期パフォーマンスに関連していることがわかりました。

小さい頃から音楽を始めることが高度に能力に発達させるために大事であることは様々な研究で示されていますが、この研究によると、 7歳までに音楽を始めることで、それに対応して脳梁の白質線維連絡が強化するようです。おそらく、これは高度な音楽能力に貢献しているのでしょう。

ということで、私も自分の子供が 7歳になるまでに音楽トレーニングを開始しようと思いました。問題は、子供の母親が私と出会っていなくて、従ってまだ生まれてくる見込みがないことです (^^;


胸部X線診断に自信がつく本

By , 2013年1月28日 9:00 AM

胸部X線診断に自信がつく本 (群義明著、カイ書林)」を読み終えました。

本書は 講義と実際の読影を繰り返す形式になっています。

講義はレベルが高く、非常によく纏まっていて勉強になりました。この部分を読むだけでも、本書を購入する価値があると思います。一方で、読影の方は、簡単過ぎて講義とのギャップが大きすぎました。「講義を読んで初めて異常所見を拾えるようになった」とかだと満足感がありますが、講義部分が読影部分にあまり反映されていなかったは残念でした。


タイサブリに関する教訓的症例

By , 2013年1月27日 7:33 AM

2013年 1月 18日に多発性硬化症治療薬 Natalizumab (タイサブリ) についてお伝えしました。現在、多発性硬化症の第一選択薬として FDAと European Medicines Agencyで審査されている薬剤です。その時、私は下記のようなコメントをしました。

タイサブリ

JC virusが検出限界以下のコピー数だった患者さんが、薬の使用のせいでウイルスが増殖して PMLを発症することがあるかどうかの知見は未知数だと思いますが、現実的には meritと riskを天秤にかけて判断されるべきことでしょう。

何というタイミングか、2013年 1月 21日の Archives of Neurology誌に教訓的な症例が掲載されました。

Lessons Learned From Fatal Progressive Multifocal Leukoencephalopathy in a Patient With Multiple Sclerosis Treated With Natalizumab

Objective  To describe the clinical, radiological, and histopathological features of a fatal case of progressive multifocal leukoencephalopathy (PML) in a patient with multiple sclerosis treated with natalizumab. We will use this case to review PML risk stratification and diagnosis.

Design  Case report.

Setting  Tertiary referral center hospitalized care.

Patient  A 55-year-old, JC virus (JCV) antibody–positive patient with multiple sclerosis who died of PML after receiving 45 infusions of natalizumab.

Main Outcome Measures  Brain magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid JCV DNA polymerase chain reaction results.

Results  The patient developed subacute onset of bilateral blindness following his 44th dose of natalizumab. Ophthalmologic examination was normal, the brain magnetic resonance imaging was not suggestive of PML, and cerebrospinal fluid analysis did not reveal the presence of JCV DNA. The patient was subsequently treated for a presumed multiple sclerosis relapse with high-dose corticosteroids. Two weeks after his 45th dose of natalizumab, he developed hemiplegia that evolved into quadriparesis. Repeated magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid studies were diagnostic for PML. Postmortem histopathological analysis demonstrated PML-associated white matter and cortical demyelination.

Conclusions  The risks and benefits of natalizumab must be reassessed with continued therapy duration. When there is high clinical suspicion for PML in the setting of negative test results, close clinical vigilance is indicated, natalizumab treatment should be suspended, and JCV polymerase chain reaction testing and brain magnetic resonance imaging scans should be repeated.

症例は 49歳の男性です。多発性硬化症の再発予防に対し、当初は Interferon-beta Iaを使用していましたが、忍容性の問題で、natalizumab治療に変更しました。抗 JCV抗体が陽性であることが判明した後も、彼は natalizumabによる治療を選びました。第 44回目の natalizumab投与後、彼は視力障害を訴えましたが、頭部 MRI所見は 1年前と変化なく、JC virus DNA-PCRも陰性でした。眼科医による診察でも異常はありませんでした。そこで、ステロイドの静脈投与及び 45回目の natalizumab治療が行われました。しかし視覚症状の改善はなく、3週間後に新たに右片麻痺が出現しました。入院して血漿交換が行われましたが増悪し、更に脳症及び四肢麻痺を発症しました。その時点で施行された MRI検査で PMLに合致した所見があり、髄液の JC virus DNA-PCRは陽性となっていました。入院 5日後に患者は死亡しました。剖検による診断も PMLとされました。レトロスペクティブに視覚症状出現直後の頭部 MRIを見ると、PMLに合致した病巣が確認されました。

本症例で教訓的なのは、JC virus DNA-PCRが陰性でも PMLの可能性は残り、またMRIでの PML病巣は経験を積んだ神経放射線科医でも見逃され得るということです。

Natalizumabによる PML発症リスクは最初の 12回まででは 1000人に対して 0.04人なので稀であることがわかります。治療 1~24回目まででは 1000人に対して 1人以下ですが、24回目以降では 1000人に対して 2.5人と上昇することが知られています。元々患者の状態が良く (EDSS 2点), 再発も少なかったため、24回以上 natalizumabを投与するのは、benefitより riskの方が高かったのではないかと著者らは指摘しています。

この報告は、FDAと European Medicines Agencyでの審査に影響を与えるかもしれません。効果は優れた薬剤ですが、こうした報告を読むと、第一選択薬で使用するのには躊躇します。症例を選んで使用すべきだと思います。


外来を愉しむ攻める問診

By , 2013年1月26日 7:49 AM

外来を愉しむ攻める問診 (山中克郎著、文光堂)」を読み終えました。

診察において問診は極めて重要で、問診のみでほぼ診断がつく病気は珍しくありません。診察や検査は、それを裏づけるための補助的なものにすぎないことはしばしばです。また、通常問診によって当たりをつけてから、行う検査を決定します。従って、問診の巧みさは医師の診断能力に直結しています。

本書は、主訴別に想定しなければならない疾患を挙げ、それに対する問診の仕方について、感度・特異度を織り交ぜながら解説しています。また頻度の少ない疾患であっても、見逃すと危険性が高い疾患をピックアップするテクニックも示されています。

内容が豊富で一度読んだだけでは消化できなかった部分があるので、時間をあけてから再度読みたいです。何度も読むだけの価値のある本だと思います。

なお、最近患者家族になった知り合いの先生曰く、「問診は時に侵襲的ですので、用法用量を守って正しくご使用ください」とのことですので、それは肝に命じておきたいと思います。


南相馬のクリニック

By , 2013年1月25日 6:57 AM

2012年8月に紹介した南相馬のクリニックの院長が、亡くなられたそうです。

「子育てのできる南相馬に」がん抱えつつ被災地支えた産婦人科医 高橋亨平さん死去

2013.1.23 23:04
「やり残したことがある」と被災地にとどまり、地域医療の屋台骨となった医師が亡くなった。東日本大震災で大きな被害を受けた福島県南相馬市で、末期がんのため「余命半年」と告げられながら診療を続けた「原町中央産婦人科医院」院長、高橋亨平(きょうへい)さんが22日午後、肝機能障害のため南相馬市内の病院で死去。74歳だった。

高橋さんは福島県立医科大を卒業後、昭和46年から原町市立病院(当時)で産婦人科医を務めた。55年に開業し、取り上げた赤ちゃんは1万人を超える。

「自分のやれることをやらなければ」。多くの市民が避難し、医師不足が顕著になった南相馬市。それでも地元に残り、診療を続けた。

強い意志の宿った体は病魔にむしばまれていた。平成23年5月に大腸がんが発覚。転移も判明し、「余命半年」の宣告を受けた。しかし、「子育てのできる南相馬に」との思いを胸に新しい生命を取り上げ、被災地の医療を支えた。

数週間に1回、福島市の病院で治療を受け、痛みや吐き気などの症状と闘いながら、「南相馬、そして日本の復興のため、まだまだやり残したことがある」と、昨年12月に入院するまで診療を続けた。

南相馬市のよつば保育園の副園長、近藤能之さん(46)は、高橋さんらと保育園の除染を行うなど、子供たちのための活動を展開。昨年12月17日に開かれた74歳の誕生会で会ったのが最後となった。

ご冥福をお祈りします。


自然災害とてんかん発作

By , 2013年1月24日 7:23 AM

気仙沼市立病院脳神経外科から非常に興味深い論文が発表されました。

Increase in the number of patients with seizures following the Great East-Japan Earthquake

In the afternoon of March 11, 2011, Kesennuma City was hit by the Great East-Japan Earthquake and a devastating tsunami. The purpose of this retrospective study is to document possible changes in the number of patients with distinct neurologic diseases seeking treatment following this disaster. Because of Kesennuma’s unique geographical location, the city was isolated by the disaster, allowing for a study with relatively limited population selection bias. Patients admitted for neurologic emergencies from January 14 to May 5 in 2011 (n = 117) were compared with patients in the corresponding 16-week periods in 2008–2010 (n = 323). The number of patients with unprovoked seizures was significantly higher during the 8-week period after the earthquake (n = 13) than during the same periods in 2008 (n = 6), 2009 (n = 3), and 2010 (no patients) (p = 0.0062). In contrast, the number of patients treated for other neurologic diseases such as stroke, trauma, and tumors remained unchanged. To our knowledge, this is the first report of an increase in the number of patients with seizures following a life-threatening natural disaster. We suggest that stress associated with life-threatening situations may enhance seizure generation.

自然災害は精神的、身体的健康に影響を与えます。ノースリッジ地震では心臓突然死が増加し、阪神大震災では血糖コントロールが悪化したとの報告があります。ストレスでてんかん発作が増えるとの報告はありますが、自然災害がてんかんのような神経疾患にどう影響を与えるかはよくわかっていません。

著者らは、2011年 3月 11日の東日本大震災の前後 8週間の期間、すなわち 1月 14日~5月 5日までに気仙沼市立病院脳神経外科に入院した患者について調べ、2008~2010年と比較しました。患者はてんかん、脳卒中、外傷、腫瘍、その他に分類しました。その結果、震災後てんかん患者は有意に増加していましたが、脳卒中患者数に変化はありませんでした (下記 Figure 2)。

figure2

Figure 2

2011年3月11日以降に入院したてんかん患者 13例のうち、11例はもともと脳の疾患を持っていました (特発性/症候性てんかん 5例, 外傷後 4例, 髄膜腫術後 1例, 陳旧性脳梗塞 1例)。てんかんの発作型は、13名中 9名が単純部分発作でした (9例のうち 8例が全般化しました)。 3例は複雑部分発作で、1例は診療録から発作型は不明でした。

その他、採血結果で 2008-2010年と 2011年で違いがあったのは、総タンパク質でしたが、パンやコメ食を余儀なくされたからかもしれません。実際、この大震災の後に行われた別の研究では、不適切な食事によって糖尿病患者の血糖値や血圧が悪化したとされています (Ogawa et al., 2012)。

著者らは、自然災害によるストレスがてんかんに影響を与えたのではないかとしています。ただし、こうしたストレスは誰にでもてんかんのリスクを高めるのではなく、もともと脳病変がある人でリスクを高めるのかもしれません。また、おそらく震災により抗てんかん薬を入手できなかったせいで、てんかん発作を起こした人が一人いました。

今後、近いうちに関東や東南海で大地震が起こると予測されていますが、その際てんかん発作を起こす患者が増えるだろうというのは、頭に入れておいた方が良さそうです。そして、抗てんかん薬の供給をどうするかも考える必要があります (抗てんかん薬を内服している患者さんは、手元にある程度予備の薬を持っておいた方が良いでしょう)。


ALSと臓器移植

By , 2013年1月23日 6:52 AM

2012年2月号の Annals of Neurology誌の “POINT OF VIEW” に 、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) と臓器移植についての報告がありました。

Organ Donation After Cardiac Death in Amyotrophic Lateral Sclerosis

Patients with amyotrophic lateral sclerosis (ALS) are often told that solid organ donation is not possible following death, although the reasons for exclusion are not evidence based. Because ALS patients typically remain sentient until death, organs may be procured under donation after cardiac death protocols. Anticipating this need, our institution created a process for organ donation in ventilator-dependent ALS patients that was subsequently implemented. To our knowledge, this is the first report of organ donation in a patient with rapidly progressive ventilator-dependent ALS.

ALSは運動ニューロンが侵されて徐々に動けなくなる疾患です。最終的に呼吸筋麻痺を起こして人工呼吸器がなければ生きられなくなります。前頭側頭型認知症を合併した場合は別として、基本的に認知機能は保たれます。そこで著者らは、人工呼吸器に依存するようになった患者さんからの同意を元に、手術室で苦痛を緩和する薬剤を使用してから人工呼吸器を外し、直後に死体腎移植を行いました。他にいくつかこうした事例はあり、摘出された臓器は腎臓、肝臓が多いようです。

この報告を受けて、2012年12月の Annals of Neurology誌の “POINT OF VIEW” に 、ALSと臓器移植についての議論が掲載されました。

Amyotrophic lateral sclerosis and organ donation: Is there risk of disease transmission?

A new protocol suggests that patients with amyotrophic lateral sclerosis (ALS) are a viable source of tissue for organ transplantation. However, multiple lines of evidence suggest that many neurodegenerative diseases, including ALS, might progress due to transcellular propagation of protein aggregation among neurons. Transmission of the disease state from donor to host thus may be possible under the permissive circumstances of graft transplantation. We argue for careful patient selection and close longitudinal follow-up of recipients when harvesting organs from individuals with neurodegenerative disease, especially dominantly inherited forms. ANN NEUROL 2012;72:832-836.

近年、神経変性疾患の研究では シード (Seed) 仮説という言葉を聞く機会が増えています。多くの神経変性疾患は、異常な構造を持ったタンパク質が毒性を持ち、蓄積することが原因だと考えられています。シード仮説によると、シードと呼ばれる種により、タンパク質の異常な折りたたみが促進するそうです。いくつかの神経変性疾患では、このことは細胞あるいは動物実験レベルで確認されています。アルツハイマー病でのアミロイドβ、パーキンソン病での αシヌクレインなどがそれに相当します。こうして重合したタンパク質は壊れにくく、細胞に対して害となります。

シードという形式をとるかどうかはともかく、「変性疾患の原因蛋白質が臓器移植で伝わってしまうことがないだろうか?」というのが著者らの懸念です。

現に、胎児ドパミンニューロン移植を受けたパーキンソン病患者の移植片を後に調べると、Lewy body病理がみられることが、相次いで報告されました (Li JY, et al. Nat Med, 2008; Kordower JH, et al. J Biol Chem, 2010)。健康な細胞を患者に移植したにも関わらず、移植された細胞が病気になったというもので、疾患が伝播しうることが示唆されました。

また、プリオン病患者の組織を移植された多くの患者が、医原性のプリオン病を発症したのも記憶に新しいところです。最初の報告は 1974年の角膜移植ですが、その後、硬膜移植、ヒト成長ホルモン投与での感染が報告されました。

ALSではどうか?実は実験室レベルでは SOD1や TDP-43というタンパク質がシードによって凝集することが報告されています。ALSは運動神経しか侵さないので大丈夫という意見もありそうですが、SOD1変異患者において、SOD1陽性封入体は肝臓や腎臓でも検出されています。これまで実際に ALSが伝染したという報告は無いものの、riskは払拭できません。急性肝不全などで緊急に移植を行わければならない場合は議論の余地がありますが、そうでない場合はリスクとベネフィットを慎重に見極める必要があります。それと同時に、臓器移植を行う場合には、レシピエントに ALSの危険因子がないかスクリーニングがされるべきで、ALS患者から移植を行った場合には慎重な経過観察が必要だというのが著者らの意見です。

現在の日本では一度つけた人工呼吸器を外すというシチュエーションが考えにくいので、こうした移植は行われないかもしれませんが、海外を中心に議論が盛んになりそうです。


Zecuity

By , 2013年1月22日 7:33 AM

片頭痛で面白そうな治療が FDAに承認されました。

パッチを貼って、薬剤を投与したいときにボタンを押すと、持続的に皮膚抵抗を感知しながら 4時間に渡り、スマトリプタン 6.5 mgを経皮的に注入してくれるのだそうです。高そうなパッチに見えますが、単回使用で使い捨てです。

このニュースを読んで感じたのは、群発頭痛の患者さんに使えないかなということです。私は群発期の明け方の激しい頭痛に対し、半減期の長いナラトリプタン (アマージ) を眠前に飲んでもらって翌朝の頭痛を軽減することがありますが、それでも寝る前に飲んだナラトリプタンの薬効が切れてから頭痛発作が始まる場合があります。そうした患者さんでは、頭痛を避けるために夜中に一回起きて薬を飲んでから再度寝たりしています (ナラトリプタンは群発頭痛に対して保険適応はありませんが、頭痛を専門に診ている医師なら、このような使い方を試した医師は少なくないのではないかと思います)。このパッチにタイマーをつけて、午前 4時くらいからスマトリプタンが徐々に注入されるようにすれば、明け方の発作が軽減できる可能性があるのではないかと思うのです。このパッチが日本で使えるようになれば、検討してみると面白いかも・・・。どっかの会社がやってみないかなぁ。

あと、記事にはなかったけれど、生物学的利用率はどのくらいなのでしょうか。スマトリプタンは、経口だと 15%, 皮下注射だと 96%と、大きく異なりますので、パッチだとどうなのか気になります。

January 17, 2013 18:17 ET

NuPathe’s Zecuity Approved by the FDA for the Acute Treatment of Migraine

First FDA-Approved Migraine Patch

Conference Call Scheduled January 18 at 8:30 a.m. EST

CONSHOHOCKEN, PA–(Marketwire – Jan 17, 2013) – NuPathe Inc. (NASDAQ: PATH) today announced that the U.S. Food and Drug Administration (FDA) has approved Zecuity™ (sumatriptan iontophoretic transdermal system) for the acute treatment of migraine with or without aura in adults. Zecuity is a single-use, battery-powered patch that actively delivers sumatriptan, the most widely prescribed migraine medication, through the skin. Zecuity provides relief of both migraine headache pain and migraine-related nausea (MRN).”The approval of Zecuity represents a major milestone for NuPathe and migraine sufferers,” said Armando Anido, CEO of NuPathe. “As the first and only FDA-approved migraine patch, we believe Zecuity will be a game-changing treatment option for millions of migraine patients, especially those with migraine-related nausea. We thank the patients and physicians who participated in our clinical trials as well as our employees for their support throughout the development of Zecuity. We now intensify our focus to securing commercial partners and preparing for the launch of Zecuity expected in the fourth quarter of this year.”

“In addition to severe headache pain, migraine patients present with other significant symptoms, which commonly includes migraine-related nausea,” said Lawrence C. Newman, MD, FAHS, FAAN, Director of the Headache Institute at St. Luke’s-Roosevelt Hospital in New York. “For these patients, physicians need to assess and offer treatments tailored to each individual patient’s array of migraine symptoms. In fact, the American Academy of Neurology guidelines recommend a non-oral route of administration for migraineurs who experience nausea or vomiting as significant symptoms.”

“Migraine-related nausea can be as debilitating as migraine headache pain itself,” said study investigator Stephen D. Silberstein, MD, FACP, FAHS, FAAN, Professor of Neurology and Director of the Jefferson Headache Center in Philadelphia. “Treatments bypassing the GI tract may be the best way to treat these patients.”

Zecuity was approved based upon an extensive development program with phase 3 trials that included 800 patients using more than 10,000 Zecuity patches. In these trials, Zecuity was proven safe and effective at treating migraine and relieving its cardinal symptoms (headache pain, migraine-related nausea and sensitivity to light and sound) two hours after patch activation.

In the phase 3 pivotal study, twice as many patients treated with Zecuity achieved freedom from headache pain at two hours compared with placebo (18% and 9%, respectively). Additionally, 53% of patients treated with Zecuity achieved relief from headache pain and 84% were nausea free at two hours (29% and 63%, respectively, with placebo). The incidence of triptan-associated adverse events known as “atypical sensations” and “pain and other pressure sensations” was 2% each in Zecuity-treated patients. The most common (greater than 5%) side effects of Zecuity were application site pain, tingling, itching, warmth and discomfort.

About Zecuity
ZECUITY™ (sumatriptan iontophoretic transdermal system) is indicated for the acute treatment of migraine with or without aura in adults. Zecuity is a single-use, battery-powered patch applied to the upper arm or thigh during a migraine. Following application and with a press of a button, Zecuity initiates transdermal delivery (through the skin), bypassing the gastrointestinal tract. Throughout the four-hour dosing period, the microprocessor within Zecuity continuously monitors skin resistance and adjusts drug delivery accordingly to ensure delivery of 6.5 mg of sumatriptan, the most widely prescribed migraine medication, with minimal patient-to-patient variability.


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