偉大な記憶力の物語

By , 2013年3月29日 8:25 AM

偉大な記憶力の物語 ある記憶術者の精神生活 (A.R.ルリヤ著、天野清訳、岩波現代文庫)」を読み終えました。ルリヤは歴史的に有名な神経心理学者です。

ここに登場するシィーは、著者が「文献に述べられたなかで最もすぐれた記憶力の持ち主」と評した人物です。シィーの記憶力は凄まじいものでした。例えば、次のような表を 3分間見せたとします。

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この表を彼は軽々と再生しました。そればかりでなく、逆から再生、斜めに再生も問題なくできました。そして、数カ月後にも同じように再生しました。

その他、イタリア語を理解しない彼にイタリア語で「神曲 (ダンテ)」を読み聞かせたときも、彼はイタリア語で再生しました。15年後に予告なく再生を促した時も、それをそのまま再生したのでした。数学のでたらめな長い公式も、簡単に暗記し、15年後に聞いた時、そのまま再生できました。

このように忘却を知らない彼の記憶力の裏付けは、鮮明な直観像と共感覚でした。見たものを像として通りに配置し、その風景を覚えると、あとは脳内の通りを歩くだけで再生できたのです。音を味として感じ、数字が像として見える共感覚は、このような方法で覚えた記憶を強化するのに役立ちました。

ただし、彼のこの能力には欠点がありました。読むものが直ぐに像に置き換わってしまうため、抽象的な文章や詩が解釈できないのです。また、「無」のようにイメージ出来ない言葉が苦手で、「無限」という言葉も実感を持って理解できませんでした。

最初には超人のように見えた彼の能力をルリヤは鮮やかに解き明かしていきます。専門的な内容を平易に書いていますので、神経心理学に興味がある方は、是非読んでみてください。200ページくらいの薄い本です。

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