リン脂質とアルツハイマー病

By , 2014年3月17日 6:01 AM

2013年3月9日に、Nature medicine誌にアルツハイマー病 (Alzheimer disease; AD)/軽度認知機能障害 (mild cognitive impairment; MCI) のバイオマーカーについての論文が掲載されました。採血で、数種類のリン脂質を測定すると、2~3年以内に AD/MCIを発症するか、90%の正確性でわかるというものです。

Plasma phospholipids identify antecedent memory impairment in older adults.

研究者らは、地域在住の、70歳以上、及び健常人525名の参加者を 5年間観察しました。対象には、MCI/AD 46名、Converters (途中で MCI/ADを発症) 28名、Normal control (NC) が含まれました。3年目の時点で、53名の MCI/ADを選びました。そのうち、18名は converterでした。また、諸条件を合わせて、53名の normal controlを選びました。これらの対象を対象として、非標的型メタボローム解析 (untargeted metabolomic analysis) を行いました。その結果、以下の 10種類の metaboliteを同定。

phosphatidylcholines (PCs): PC diacyl (aa) C36:6, PC aa C38:0, PC aa C38:6, PC aa 40:1, PC aa C40:2, PC aa C 40:6, PC acyl-alkyl (ae) C40:6
lysophophatidylcholine: lysoPC a C18:2
acylcarnitines (ACs): Propionyl AC (C3), C16:1-OH

更に別のグループ 40名で独立にメタボローム解析、リピドミクス解析を行い、再現性を確認しました。

さらにメタボローム解析のデータを用いて ROC曲線を作成し、感度 90%, 特異度 90%の結果を得ました。このように、脂質が関係してくる理由は、アルツハイマー病での脳細胞の細胞膜の障害によるものと推測されています (細胞膜にはリン脂質が豊富に含まれる)。

メタボローム解析や脂質代謝については素人なので、この研究を完全に理解することは出来ませんでしたが、もし採血で AD/MCIを発症するかどうかわかれば画期的なことです。しかし臨床応用するには、①本研究は、normal controlと AD/MCIを比較して、検出されるリン脂質量のパターンに違いがあることを見出しているが、他の脳疾患でアルツハイマー病と同様のパターンを取るかどうかが検討されていない、②SID-MRM-MS (stable isotope dilution-multiple reaction monitoring mass spectrometry) という特殊な質量分析を行っているが、臨床現場で用いるには技術やコストの面で難しそう、という点に課題を感じました。

この研究は、いくつかのマスコミでニュースになっています。論文が掲載されてすぐに報道されているので、ひょっとすると研究機関の広報部からマスコミに売り込みがあったのかもしれません。邪推ですが。

血液検査でアルツハイマー予見、精度90%超 米大学

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