parkin, PINK1, そしてユビキチン

By , 2014年5月8日 10:05 AM

本邦で行われた遺伝性パーキンソン病についての研究が 2014年4月30日の Nature誌に掲載され、ニュースになっています。過去に話題になった研究の続報です。

<パーキンソン病>増加物質を突き止め 東京都医学総研

毎日新聞 5月7日(水)20時49分配信
神経難病「パーキンソン病」の原因となる細胞内の異常を除去する際に作り出される物質を突き止めたと、東京都医学総合研究所の田中啓二所長、松田憲之プロジェクトリーダーらの研究チームが、7日発表した。この物質の増加を検査で確認できれば、パーキンソン病を早期発見できる可能性がある。論文は英科学誌ネイチャー電子版に掲載された。

チームは、マウスやヒトの細胞を使い、環境や生活習慣と関係なく家族内で発症する遺伝性パーキンソン病(全体の1~2割)を調べた。遺伝性パーキンソン病は、二つの遺伝子「ピンク1」と「パーキン」が働かず、細胞内の小器官「ミトコンドリア」の不良品が蓄積し、神経細胞が失われて発病する。

今回、二つの遺伝子が異常ミトコンドリアを除去する詳細な仕組みが分かった。ピンク1が異常ミトコンドリアを見つけると、「ユビキチン」というたんぱく質にリン酸を結び付ける。この結合が合図となってパーキンが働き始め、異常ミトコンドリアの分解を促していた。遺伝性でないパーキンソン病でも同様の仕組みが働いている可能性があるという。

松田さんは「パーキンが働かない場合、もしくはピンク1やパーキンの処理能力を超える異常ミトコンドリアが生じた場合は、リン酸と結びついたユビキチンが急増し、パーキンソン病を発病する。このユビキチンを測定すれば早期発見できるようになるかもしれない」と話す。【永山悦子】

記事を読んでもこの研究の意義があまり伝わってこないかもしれないので、何故 Natrureに載るような研究だったのか、簡単に解説したいと思います。

パーキンソン病の約 9割は孤発性ですが、1割が遺伝性とされています。遺伝性の中で、常染色体劣性若年性パーキンソニズムの原因遺伝子として parkin, PINK1, DJ-1というのが知られています。遺伝性パーキンソン病の中で最も多く見られるのは、parkin変異です。Parkin遺伝子は parkin蛋白をコードし、ユビキチンという物質を不良蛋白質にくっつけるユビキチン・リガーゼとして働きます。ユビキチンがくっついた蛋白質は、プロテアソームという装置で分解されます。一方で、PINK1遺伝子は PINK1蛋白をコードし、特定の蛋白質にリン酸基を付加するキナーゼとして働きます。なぜこれらの異常で常染色体劣性若年性パーキンソニズムを発症するのかはよくわかっていませんでした。

2006年、ショウジョウバエを用いた研究で、parkinと PINK1が共通の経路にあり、かつ parkinが PINK1の下流に存在することが明らかになりました。そして 2010年、上記の記事に登場する松田氏らの研究により、PINK1が膜電位の保たれた健常なミトコンドリアでは速やかに分解され、膜電位が低下するとミトコンドリア外膜に集積し、parkinを誘導することがわかりました。つまり膜電位を維持できない不良ミトコンドリアの分解に、parkin/PINK1は大きな役割を果たしているといえます。2012年、同じ研究グループにより PINK1同士が互いにリン酸化をしていること、次いで PINK1が parkin S65をリン酸化することなどが明らかになってきましたが、それだけでは解決できない問題 (parkin S65に偽リン酸化変異を入れても、やはり PINK1を必要とすることなど) が残っており、PINK1のキナーゼとしての真の基質を探して研究が続けられていました。そして発表されたのが今回の論文です。

今回の Nature論文のキモは次の 2点です。

①PINK1のキナーゼとしての真の基質がユビキチンであることがわかった。言い換えれば、修飾因子であるはずのユビキチンが、リン酸化という修飾を受けることがわかった

②parkinがユビキチン・リガーゼとして活性化するためには、parkin S65のリン酸化に加えて、リン酸化ユビキチンが必要なことがわかった。 逆に、parkinは S65にリン酸化修飾を受け、周囲にリン酸化ユビキチンさえあれば、active formになることができることもわかった。

特に、ユビキチンは生体内でさまざまな役割を果たしていることがわかっていて、Pubmedで調べると 40000件ヒットします (2014年5月8日現在)。今回初めて明らかになった “リン酸化ユビキチン” という概念は、様々な分野に飛び火していくのではないかと思います。

ちなみにこの研究とほぼ同時に、Richard Youleらにより同様の事実が明らかにされ、独立したグループから再現性があることは確認されています。

(2014.5.10 追記)

プレスリリースを見つけました。

パーキンソン病の発症を抑制する細胞内の小分子を発見
-病理解析や診断マーカーの開発につながる発見-

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