ウィーン旅行(2003年10月6日〜10月12日)

ウィーン第3日目

 朝7時過ぎに起床しシャワーを浴びて食事へ。昨日の綺麗な女性がまた食堂の入り口に立っている。「Good morning! Room number, 508.」と挨拶し食堂に入る。きっと今日も忙しい一日になる。

 楽器を持ってホテルを出る。愛着ある楽器だし、今まで俺とほとんど音楽を共有してきた訳だからいろいろな場所につれていったやりたいという思いが ある。今日の最初の目的地はバーデンである。そこはベートーヴェンが良く夏の間過ごしていた保養地なのだ。ベートーヴェンが第九を作曲したときに住んでい た家はまだ残されている。こういった情報は「音楽ファンのためのウィーン完全ガイド(長島喜一郎編、音楽の友社)」に詳しい。

 バーデン行きの電車に乗るにはウィーン郊外なのでWochenkarteが使えない為、Fahrkarteを買い求める必要がある。とは言っても 数ユーロ程度だが。

 バーデン駅に着くと目の前は公園になっていて、自転車が整然 と公園に駐輪されていた。その向こう側には住宅街が広がる。住宅街の間を歩くと小川 が流れていて魚達が泳いでいる。住宅街の中心にある広場ではロマの楽師達が演奏していた。それを眺めながら通り過ぎ、いざベートーヴェンが第九を作曲した 家へ到着。

 ・・・と門は固く閉ざされている。家の1階が硝子細工の店になっており、店主に聞く。「夕方しか開いていないよ」と言われ一端ウィーンに戻る事に する。とはいってもウィーンまで20km程度、電車で数十分の距離。

 ウィーンに戻りまずWestbahnhof駅近くのハイドン記念館行 く。ここはハイドン最期の家であり、またブラームスに関する遺品もいくつか 展示されているのだ。ドアの上には、ハイドンの家であったことを示す銘板が ある。入るとハイドン自筆の楽譜などが展示されていた。彼の時代のチェンバロをみていると、チェンバロも時代により変化していく様が良くわ かる。結構広い家である。作曲家の住んでいた家に行くと、本当にその作曲家と同じ空間を共有しているかのような気分に浸る事ができる。同じ曲でも、そうし て聴くと作曲している演奏家の姿が浮かんでくるようだ。

ケルトナー大通り周囲

 Westbahnhof駅に戻ると、次は地下鉄(2番)でStephansplats駅へ行く。この辺りはウィーンの中心地で、ケルトナー大通り のまわりには様々な店が密集している。とはいえ、建物は全て古いものばかりで、ウィーンでは中に入る店が変わっても建物は保存されている。シュテファン寺院周囲は人でごった返していた。

 ドブリンガーというウィーン最大の楽譜屋 を目指す。なかなか見つからず、時間ばかりが過ぎていく。しかたないので近くのイタリア料理屋に入り、パ スタを食べワインを飲みながら地図をじっくり眺める。店は若者達で賑わっていて、ペットの犬を連れてきている人もいた。とてもラフな雰囲気である。

ドブリンガー

 店で店員に地図を見せたが「わからない」といわれ、そのままさまようことに。縮尺の書いていない地図を持っていた事が災いしたようだ。1時間近く 歩き回ってようやく見つける事が出来た。ドアの上に横に「MUSIKSALON DOBLINGER」と書いてあり、入って左が楽譜屋、右がCD屋である。楽譜屋でまず人から頼まれていた楽譜を購入。楽器を持った音大生らしき人も多数 いる。残念ながらロマ音楽の楽譜は見つける事が出来なかったが、ウィンナーワルツの楽譜を数点購入。また、「ブランデンブルグ協奏曲全曲(バッハ)」「ピ アノソナタ h-mol(リスト)」、「ピアノソナタ op.101(ベートーヴェン)」のファクシミリ(作曲家自筆譜のコピー)を購入。相当な金額になったため、忘れず店員に「tax free, please」と伝えた。

 「ドブリンガー」を出ると、いよいよ再びバーデンへ向かう事とした。車窓から流れる景色を見ながら、頭の中には第九交響曲(ベートーヴェン)が流 れている。一度朝来ているので最短の道を歩む。

金細工師の家

 目指すベートーヴェン博物館、別名 Kupferschmiedhaus(金細工師の家)に到着。当時の家主が金細工師だったためこの名がある。ドアの 上には銘板があり、「1821年、1822 年、1823年の夏、ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンはこの家に住み、その最後の年に第九交響曲の構想の 大部分を固めた。バーデン男性合唱会により献呈 1872年」とある。ドアを入ると、まず大きなガラスケースがあり、ベートーヴェンのデスマス クを始め、 ベートーヴェンゆかりの品が収められている。そのまま階段をあがるともう一つドアがあり、そこを開けると受付だった。男性が座っており、挨拶をして入場料 をはらい、コートを脱ぎ楽器を置く。そこはベートーヴェンが住んでいた当時玄関だった部屋の筈だ。次の部屋に進むと、壁にコートがかけてあり「ベートー ヴェンが着ていたかもしれないコート」と横に書いてある。そしてその奥にベートーヴェンの寝室が再現されている。受付の男性が気を利かせて博物館中に聞こ えるように第九のCDを流してくれているのを聞きながら鑑賞に浸る。客は俺一人しかいない。目を閉じて見る。こんな情景はどうだろうか?「雨の中馬車にゆ られて帰ってきたベートーヴェンはコートを壁にかけた。彼の頭の中には第九の1楽章が流れている。彼はベッドの上に横になり、天井を眺める。いくつものア イデアが浮かんでは消えていく・・・。」

 次の部屋は、ベートーヴェンがバーデンにいた頃住んでいた家のスケッチや地図が展示されている。バーデンだけでもいろいろな家がスケッチされてい る。ベートーヴェンが本当に良く引越しをしたようすが実感できる。また、当時の災害を記した公式文書も展示されている。他の部屋にはベートーヴェンの髪や 彼の作曲したカルテットの楽譜が展示されていた。展示されたベートーヴェンの髪をみていると「ベートーヴェンの遺髪(ラッセル・マーティン著、白水社)」 という本が思い出された。

 気がつくと第九は第4楽章が流れていた。まだまだこの部屋に居たい。たった数部屋しかない小さな家だけど、ベートーヴェンが作曲した部屋で聴く第 九は、今までに聴いたことがないくらい素晴らしい演奏だった。胸が熱い。でももう閉館の時間だ。受付でこの博物館の事を記した「BEETHOVEN UND BADEN」という小冊子と数枚のCDを購入して建物を後にした。

 ホテルに戻ると楽器を置いて、いよいよコンサートへ。コンサートが行われるのはシェーブルン宮殿のオランジェリルームだ。その部屋は植物を育てる 温室だったそうだ。ホテルからは一駅で、歩いても行ける距離。10月の夜のウィーンはとても風が冷たい。

 コンサート会場に着いてびっくり。日本人だらけなのだ。きっと観光客向けの演奏会ということでツアーのコースにでもはいっているのだろう。マナー の悪さをみていて赤面する。どうか演奏会の間は大人しく座っていてくださいますように・・・。

 コンサート会場は、物珍しそうに写真を撮る人、こんなところでしなくても良い話をする人、薀蓄を語る自称知識人などでごった返していた。演奏が始 まると少しは静かになったが、耳を澄ませると気に障って仕方ない物音がしばしば聞こえた。

 演奏はモーツァルトやヨハン・シュトラウスが中心。有名な曲ばかりだ。そして演奏家もとても曲に慣れていて余裕がある。耳に心地よい演奏なんだけ ど、途中からつまらなくなって来た。演奏者からのメッセージが希薄な音楽というのは、実際に演奏する人間にとってすぐに飽きてしまう。音が柔らかくて、音 程が合っているだけの演奏。でもみんな「素晴らしい」といいながら聴いていた。判断する耳が無ければ、どんな演奏だって「素晴らしい」、感動的だ(毒 舌)。

 演奏会が終わり、ホテルに戻りホテルの1階にあるバーへ行く。カウンターに座りカクテルを飲む。「FUJI MOUNTAIN」というカクテルを発見し、飲んでみる。緑色のカクテルでストローが二本付いている。味はそこそこだが、男一人で飲む飲み物ではない。し かしかなりアルコール度数の強いカクテルだ。他にいくつかカクテルを飲み部屋に戻った。


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