音大進学・就職塾

By , 2008年8月24日 11:19 AM

「音大進学・就職塾 (茂木大輔著、音楽之友社)」を読み終えました。

特に管楽器を中心に、プロになるために必要なことや、音大に入ってから気をつけること、プロになってからのギャラの相場などが書かれていて、楽しく読みました。文章もウィットに富んでいます。本の終わりには、「楽団員のための-古典音楽一般論必須知識」と題された章ががあり、これだけでも読み物として楽しめます。

プロになるために必要なもの、それは演奏水準、演奏経験、コネなのだそうです。もちろん演奏水準は当然必要でしょうし、場数も踏まなければ実力を出せないこともあるでしょう。面白いのは「コネ」だと言い切るところです。確かに、音楽の世界の場合、実力があったからといって、黙っていても仕事が舞い込んで来るわけではありません。誰かに演奏を聴いて貰わないと、観客に知られることもありませんし、雇う側も聴いたことがない演奏家に依頼しようとは思わないでしょう。

具体的に書いてある部分を引用します。

音大・プロ志望者が漠然と誤解していることが多いのが、

・「うまければ」
・「いつか誰かが (先生) が仕事をくれる」

となんとなく思っていること。

マチガイである。

技能の習得、向上は、プロを目指す以上当然の前提なのはもちろんだが、それだけをやって待っていても、一生シゴトは来ないのである。驚いたか。

この先大学院に行こうが留学しようが、「技術の向上」 (レッスンと練習) という自分の世界だけに没頭・逃避し続ける限り、状況は全然変わらない。

「シゴトを作る、もらう努力」は、別途行っていただきたい。

シゴトは、漠然とした「誰か」がくれるのではない。アンタが知っている、アンタを知っている、特定の誰かがくれるのだ。知り合いをたくさん作り、シゴトをしたい気持ち・熱意・連絡先を伝えておかなくてはならないということだ。

「コネ」を増す努力を、1年生、いや、受験生の時からしておくべきだった。これから毎日「コマネシ!」と唱えていなさい。 (古いか・・・)

シゴトを得るというだけでも、なかなか大変な世界なのですね。昔のヨーロッパでは芸術家の集まるサロンがあり、多くの音楽家が親交を結んだそうですが、日本ではあまりそういう話を聞きませんね。

さて、本書には「うまくなるには」という話も書いています。意識しなければいけないのが、音色・強弱、正確さ、雰囲気だとして、それぞれ個別に解説しています。良い音色の条件としては、雑音が少なく、音程がまっすぐでふらついていない、発音がクリアー、強弱のどちらのも思い通り進める余裕などが含まれます。また、正確さには読譜力、音程感覚、リズム感、楽器奏法上の自由があります。これらは、しばしばアマチュアに欠けているもので、プロと一緒に演奏すると、身につまされます。

そのために必要なことも議論されており、一部を引用します。

「さらう」場合に重要なのは、さらうという行いには、

・とにかく音にしてそれを聴く (ソルフェージュの補助)
・困難な箇所を発見する
・そこを克服するために、練習方法を考える (問題を整理、理解して対処法を考える>頭脳)
・それを実行し、偶然性を排除して確率を100%に近づけるために繰り返してさらう (肉体に覚えさせる)

の、4つのファクターが含まれているということ。ただバカのように繰り返して吹いているうちにいつのまにかできる、というのは、まさに偶然であり時間のムダであり、根本的な上達は望めない。

楽譜の表現が曖昧なまま、間違えていたり、イラナイ音が混じっていたり、その瞬間にくっきりと音が移り変わっていなかったり、音量や音色にばらつきがあったり、レガートが途切れていたり、スタッカートが整っていなかったり、なんとなく薄汚れた演奏をしている人間がとても多い。90点を出すのはたやすいが、それを 100点まで磨くのは地獄の特訓しかない。自分と向かい合い、録音し、意地悪く聴き、全部を直せ。

なかなか厳しい意見です。プロを志すには、必要なことなのでしょう。

幸い私はアマチュアなので、演奏に失敗しても「てへっ」って言っておけば、次から飯の種に困ることはないのですが、楽器の上達のために、上記のようなことを意識して、もう一段ステップアップしたいところです。

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Le Scaphandre et le Papillon

By , 2008年8月18日 6:26 AM

以前、「潜水服は蝶の夢を見る」という本を紹介しました。その本が映画化されたのですが、更にDVDになったため、買ってきて見ました。

見る前は、見たら泣いてしまうかなとも思ったのですが、安っぽい作りではなく、荘厳な音楽を聴くような心境で鑑賞し、泣くとか泣かないだとか、そんなレベルの作品ではないことを感じました。

このDVDで特筆すべきは、Bonus映像です。原作本の著者の実際の闘病生活の映像が収録されているのです。看護の様なども収録されており、日本との違いを興味深く感じました。

実は、現在、私は「閉じこめ症候群」の患者の主治医をしています。映画の言語療法士のようにアプローチしようとしているのですが、なかなか上手くいきません。患者さん自身が 100歳くらいなので、主人公とはベースの部分が違うのだろうなぁ・・・など考えているんですけれども、どうにかしてコミュニケーションが取れるといいなと思っています。

最後に一つだけ疑問点。この主人公は、著者の実際の映像も含め、右眼が不自由で、眼球の乾燥を防ぐため、上眼瞼と下眼瞼を縫い合わされてしまっています。ところが、映画の1時間19分前後のところでは、左目が不自由になっているのです。単純なミスなのか、何か伏線を見逃していたのか、未だに気になっています。映画を見て分かった方がいたら教えてください。

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ドーピング

By , 2008年8月16日 8:10 AM

β blockerってドーピングになるんですね。初めて知りました。競馬だとβ stimulantが禁止薬物なのに、作用が逆の薬が人間では規制されるのは興味深いです。

 北朝鮮キム・ジョンス、ドーピング違反でメダルはく奪
8月15日14時25分配信 YONHAP NEWS

【北京15日聯合】北京オリンピックの射撃で銀メダルと銅メダルを獲得した北朝鮮のキム・ジョンスが、禁止薬物検査で陽性反応を示したとしてメダルをはく奪された。国際オリンピック委員会(IOC)が15日、記者会見で発表した。
キム・ジョンスのサンプルからは、ベータ遮断剤の一種であるプロプラノロールの陽性反応が現れたという。ベータ遮断剤は心臓への負担を減らし血圧を下げるのに有用な薬物だ。

キムは9日に男子エアピストルで3位、12日の50メートルピストルでは韓国のチン・ジョンオに次いで2位だった。キムの失格で、エアピストルの銅メダルはターナー(米国)が、50メートルピストルの銀メダルは譚宗亮(中国)が受け取ることになった。

β blockerは慢性心不全や高血圧の治療で比較的良く使います。脈拍数を落としたり血圧を下げるという作用の他に、気管支を収縮させる副作用があるので、一般的にはスポーツには利がなさそうです。しかし、この選手の競技種目を見て納得しました。手が震えては的に当たらないので、それを防ぐ目的で使用したのですね。実は、β blockerには震えを止める作用があるのです。私は、本態性振戦という震えの病気で、しばしばこの薬を処方します(というか、一般的に第一選択薬です)。

ちなみに緊張したときの震えに、どのβ blockerも有効なのではなく、β2作用が大事なのです。したがって、β1選択性が高いメインテートやセロケン、テノーミンなどは、心不全の治療には有用でも、震えを止める作用はほとんどありません。むしろ、震えに対してはアルマールやインデラルといったβ2遮断作用を持つ薬剤を用いるべきです。ドーピング(?)豆知識でした。

徐脈性不整脈や喘息の方には、命に関わる副作用を起こすので、禁忌であることを忘れてはいけません。また、気管支を収縮させる作用もあるので、マラソンなどの競技にはマイナスの影響を及ぼすことは容易に想像できます。


(注)医療関係者以外の方へ
blocker=遮断薬
stimulant=刺激薬
それぞれ受容体に対する作用を意味しています。

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北京オリンピック

By , 2008年8月8日 7:05 AM

今日、オリンピックの開会式があります。

開会式の会場が、雨に弱いとかいうことで、雨が降るかどうかに最も関心があります。

中国を巡るドタバタを目にして、競技よりも、オリンピックが無事終わるかに興味を持っている人が多いのではないでしょうか?むしろ、何かおこるんじゃないかというハプニングを少し期待していたりして・・・。

アンサイクロペディアでは、そのブラックなジョークに笑ってしまいました。ブラック・ジョークが嫌いじゃない人は、是非一読を。

アンサイクロペディア-北京オリンピック-

ちなみに、Yahoo!Japanで「オリンピック」と検索すると、「Olympic」というスーパーがトップに来ます(^^)

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ガストン・プーレとドビュッシー

By , 2008年8月6日 9:38 PM

ヴァイオリンの名教師として、古くはレオポルド・アウアージョルジュ・エネスコイヴァン・ガラミアン、その後ヘルマン・クレッバースドロシー・ディレイザハール・ブロン・・・など。それぞれ一流の演奏家を多く育て、名声を得ました。

String誌の 2008年 8月号に、ジェラール・プーレ氏のインタビューがされていました。プーレ氏は、これまで何度か紹介してきた佐藤俊介氏の師匠です。やはりヴァイオリンの名教師として知られています。フランチェスカッティメニューインミルシタインシェリングらの薫陶を受けています。

そのプーレ氏、実は父のガストン・プーレがドビュッシーと親交があったようなのです。

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将棋の戦法

By , 2008年8月5日 7:04 PM

昔は将棋の戦法といえば矢倉に組んで居飛車が主流で、横歩取りなんて行儀が悪いし、最初から穴熊に組むのは不利だとかいわれていました。

ところが、序盤の研究が進むにつれて、過去に見向きもされなかった戦法が注目されるようになり、今では穴熊も有力な作戦です。新しい作戦についていけないせいで、序盤に勝負が決まってしまうことも珍しくありません。

最高峰といわれる名人戦で、今年は全て先手が優勢を築いたことにも象徴されるように、作戦を決定する権利を手に入れやすい先手の有利が常識となりつつあります。最初から先手が主導権をとって仕掛けると、後手が一方的に受ける展開になりやすいのです。そして、その展開がなかなか逃れられないように研究が進んでいます。そうなれば一本道です。

後手としては、出来るだけ研究を逃れる展開に持って行きたく、様々に研究されました。そして有力な作戦がいくつか生み出されました。ゴキゲン中飛車、一手損角換わりなどです。一手損角換わりなんていうのは、もともと一手遅く始まる後手が、更に一手損する手を指すという戦法で、ダブルで損じゃないかとも思うのですが、なかなかこれも有用なのです。

さらに、2手目3二飛車、4手目3三角といったユニークな戦法も羽生名人が公式戦で指し、注目を集めています。

ただ、戦法が複雑になりすぎて、アマチュアにはわかりづらいのも事実で、「序盤がつまらない」と思う人が多いのも無理はありません。最近、将棋のとても多くの戦法を網羅したサイトを見つけました。私も勉強中なのですが、実際にサイトにある将棋盤で駒を動かしながら棋譜を見られるので、非常に使いやすいです。作戦を知ってプロの棋譜を見ると、面白み百倍です。

千鳥銀の戦法図鑑

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裁判傍聴ブログ

By , 2008年8月3日 9:18 AM

裁判員制度までもう少しですね。実感がないうちに、とっくに残り1年をきっています。そんな裁判の傍聴について、元検弁護士のつぶやき-裁判傍聴ブログ-で紹介されていたのですが、下記のブログが面白いです。

阿曽山大噴火のつれづれ裁判日記

例えば7月31日のブログは、こんな感じです。

阿曽山大噴火のつれづれ裁判日記-リーダーの資格-

で、横領した金の使い途って大体決まってるんです。

■競馬、パチンコなどのギャンブル
■ブランド品、高級車など多額な買い物
■キャバクラ、ソープ、ホストなどの豪遊
■誰かに貢ぐ

この4つ。相場は決まってるんですよ。
でも、この被告人は一味違ってました。

「へ~」と思いながら読みました。面白かったので紹介しておきます。

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長寿国

By , 2008年8月2日 11:09 AM

平均寿命が更に延びているようです。

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お気に入りの主題

By , 2008年7月31日 7:38 AM

これまで、バッハ、モーツァルトの全集を聴いてきて、「使い回し」のように、同じ旋律を他の曲に使用することが如何に多いか感じていました。旋律そのものより、旋律をどう扱うのかに重点を置いていたからでしょうか。

バッハの場合は、毎週日曜日のミサまでに曲を完成させないといけませんでしたから、やむをえずといった事情があったのではないでしょうか?それだけではないでしょうが。

モーツァルトの場合は、主題の扱い方を変えることを楽しんでいたように思えます。変奏曲の得意なモーツァルトらしく、主題を色々なシチュエーションでいじくり回すことに興味を覚えたのではないでしょうか?

今、ベートーヴェンの全集を聴いています。そこに「プロメテウスの創造物」の主題を用いたピアノ曲がありました。曲名は長いのですが、「<プロメテウスの創造物>の主題による15の変奏曲とフーガ 変ホ長調 op.35 <エロイカ変奏曲>」といいます。

この主題、ベートーヴェンが気に入って、何回も使い回したものです。CDの解説書から一部引用します。

CD解説書より

この曲の主題は最初オーケストラのための<12のコントルダンス>WoO 14第7番に用いられ、次いでバレエ音楽<プロメテウスの創造物>作品 43のフィナーレに転用され、その次にこの変奏曲、最後に交響曲第3番<英雄>のフィナーレへと何度も使われた。

この曲は作品 34の変奏曲と同時に書かれた姉妹作であるが、作品 34とは違った手法が見られる。テーマの前に序奏を置き、主題の低音の持つ可能性を示す手法はバロック時代のパッサカリアを思わせるもので、しかも 2声、3声、4声と進められたのちに「テーマ」が現れるという個性的な作り方。曲想も作品 34に比べて雄大華麗であり、ベートーヴェンの変ホ長調作品に共通した明るさ、力強さ、英雄的な音楽性を感じさせるものである。

最後に、YouTubeから、「<プロメテウスの創造物>の主題による 15の変奏曲とフーガ 変ホ長調 op.35 <エロイカ変奏曲>」を紹介しておきます。交響曲第 3番「エロイカ」と聴き比べて、ご堪能ください。 まぁ、ベートーヴェンは他にも、交響曲第 9番の最終楽章の主題に、弦楽四重奏曲第 15番の最終楽章の主題を当初流用していたりと、いろいろあるようですが。

Glenn Gould – Beethoven 15 Variations and Fugue Op 35 (1/3)

Glenn Gould – Beethoven 15 Variations and Fugue Op 35 (2/3)

Glenn Gould – Beethoven 15 Variations and Fugue Op 35 (3/3)

Beethoven – Symphony No.3 E-flat major, Op.55 “Eroica” / Jordi Savall

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祝!合格

By , 2008年7月29日 6:33 AM

神経内科専門医試験に合格しました。様々な方に御世話になり、深謝いたします。

   通知書 

貴下は、第34回日本神経学会専門医試験の面接試験(第2次試験)に 合 格 しました。

 

2008年7月26日
日本神経学会認定委員会

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