Category: 医療問題/その他

南相馬のクリニック

By , 2013年1月25日 6:57 AM

2012年8月に紹介した南相馬のクリニックの院長が、亡くなられたそうです。

「子育てのできる南相馬に」がん抱えつつ被災地支えた産婦人科医 高橋亨平さん死去

2013.1.23 23:04
「やり残したことがある」と被災地にとどまり、地域医療の屋台骨となった医師が亡くなった。東日本大震災で大きな被害を受けた福島県南相馬市で、末期がんのため「余命半年」と告げられながら診療を続けた「原町中央産婦人科医院」院長、高橋亨平(きょうへい)さんが22日午後、肝機能障害のため南相馬市内の病院で死去。74歳だった。

高橋さんは福島県立医科大を卒業後、昭和46年から原町市立病院(当時)で産婦人科医を務めた。55年に開業し、取り上げた赤ちゃんは1万人を超える。

「自分のやれることをやらなければ」。多くの市民が避難し、医師不足が顕著になった南相馬市。それでも地元に残り、診療を続けた。

強い意志の宿った体は病魔にむしばまれていた。平成23年5月に大腸がんが発覚。転移も判明し、「余命半年」の宣告を受けた。しかし、「子育てのできる南相馬に」との思いを胸に新しい生命を取り上げ、被災地の医療を支えた。

数週間に1回、福島市の病院で治療を受け、痛みや吐き気などの症状と闘いながら、「南相馬、そして日本の復興のため、まだまだやり残したことがある」と、昨年12月に入院するまで診療を続けた。

南相馬市のよつば保育園の副園長、近藤能之さん(46)は、高橋さんらと保育園の除染を行うなど、子供たちのための活動を展開。昨年12月17日に開かれた74歳の誕生会で会ったのが最後となった。

ご冥福をお祈りします。

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医者が裁かれるとき

By , 2013年1月19日 9:43 AM

医者が裁かれるとき 神経内科医が語る医と法のドラマ (ハロルド・クローアンズ著、長谷川成海訳、白楊社)」を読み終えました。読み始めるとすぐに嵌ってしまい、一気に読了しました。

著者はシカゴのラッシュ-長老派-聖ルカ・メディカルセンター神経内科教授です。多くの裁判で専門鑑定人を務めています。その時の経験を中心に本に綴ったものです。

神経内科医としてはお馴染みの疾患がずらりと並んでおり、実感を持って読むことができました。「ヒステリーは難しい」というのは、改めて感じたところです。

驚いたことに、本書にギブズが登場します。ギブズは脳波研究で世界最高の権威の一人です。まさに歴史的人物です。この本を読んで知ったことですが、ギブズは医学部卒業後、臨床研修は行わず、すぐに研究室にこもってひたすら脳波を読み続けたそうです。患者を診察することはありませんでした。そのためか、訴訟において、「脳波のほうが臨床診断より有効だ」「もし脳波と臨床診断との間で違いが出たら、脳波をとる」と断言しています。現在ではそのような考えをする医師はまずいません。異常脳波で発作がないこともあるし、てんかん患者でも発作前後でなければ脳波で異常が見つからないことが少なくないことは、今日では一般的に知られています。著者は、一卵性双生児における遺伝性の小発作で、脳波所見が重篤な方が臨床症状は軽く、脳波所見が軽い方が臨床症状が重かった症例を経験しています。

本書は、読み物として非常に面白いので、一般の方にも是非読んで欲しいです。また、神経内科医なら読んで嵌ることを約束します。

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南相馬市のクリニックより

By , 2012年8月17日 9:32 AM

南相馬市医師会長の先生のサイトを最近知りました。

原町中央婦人科医院

サイトの右側に震災以降の状況が、不定期に綴られています。

2012年7月12日に、かなり深刻な文章が掲載されました。

停滞する復興
平成24年7月12日
原町中央産婦人科医院院長
高 橋 亨 平
東日本大震災及び原発事故後、1年4カ月になるが、除染も、復興らしき事
も、何も進展はしていない。前に進むべき法律が微妙に邪魔して、役人の権限、
解釈を複雑化し、前に進めない仕組になっている。予算が決まっても、縛りが
強く、何も出来ない地方自治体、結局、国に再度、まる投げ、待ってましたと
ばかりに、国と自治体は自信を持って、原発を作る企業側に又、 まる投げす
る。こんな事を繰り返しながら、いつの間にか、大きな予算が動き、検証しな
いまま消えていっている。地域住民は全く、相手にはされていないし、相変わ
らず、仕事もない。

現地での閉塞感は如何許と思っていたら、さらに深刻な文章が、8月12日に掲載されました。

私の体の現状と医師募集のお願い
平成24年8月12日
医療法人誠愛会
原町中央産婦人科医院
理事長 高橋 亨平
外なる敵と戦っている間にも、癌という内部の敵は決して手加減はしてくれ
なかった。そして又、抗がん剤の副作用に耐えられなく、もう治療はやめよう
と思い、やめてしまった人もたくさんいると聴いた。確かにその理由も分かっ
た。自分でも、何のためにこんな苦しみに耐える必要があるのかと、ふと思う
時がある。しかし、この地域に生まれてくる子供達は、賢く生きるならば絶対
に安全であり、危険だと大騒ぎしている馬鹿者どもから守ってやらなければな
らない。そんな事を思いながら、もう少しと思い、原発巣付近の痛み、出血、
の緩和のため、7月25日から、毎日放射線治療を開始、通院している。午前
9時から12時まで自医院の外来診療、その後、直ちに車に乗り1時間20分
かけて、福島医科大学放射線治療科へ、そこでリニアック照射を受け、直ちに
帰り、3時から再び自医院の外来診療を6時まで、しかし、遅れる事が多かっ
たので、最近は3時から4時に変更した。そんな私の我侭に対しても、患者さ
ん達は何も言わずに、ちゃんと待っていてくれた。それでも、多い日は100
人以上、少ない日でも70人は下らない。(略)

癌との闘いながら、頑張ってきたが、あまくは無いなと感じることが多くなっ
てきた。何時まで生かられるか分からない・・神の思し召すままに・・と覚悟
は決めていても、苦しみが増すたびに、もし、後継者がいてくれればと願って
やみません。私の最後のお願い、どうか宜しくお願い致します。

胸が張り裂けそうになる文章です。言葉がありません。

(追記)

8月17日夜、このことが CBニュースで報道されたようです。また、8月21日、読売新聞でも報道されたという情報を知りました。

勇気ある医師よ 南相馬の開業医が後継募集-原町中央産婦人科の高橋氏

医療介護CBニュース 8月17日(金)20時34分配信

東京電力福島第1原子力発電所の事故が起きた直後から、がんと闘いながら浜通り地域の産婦人科医療を支えてきた開業医が、後継者を募集している。現在では、午前と午後の診療をこなしながら、自身も放射線治療を受けているといい、「もし後継者がいてくれればと願ってやみません」と、全国のドクターに呼び掛けている。

後継者を募集しているのは、南相馬市で「原町中央産婦人科医院」を運営する医療法人誠愛会の高橋亨平理事長。
原発から近い県浜通り地域では事故の後、一時はお産のための場所がなくなったが、高橋氏はすぐに現場に戻り、診療を再開。地域の産婦人科医療を支えてきた。ところが昨年6月、高橋氏に大腸がんが見つかり、現在では、がん治療のため遠方の大学病院に通いながら診療を続けている。多い日には100人以上の患者を診療するという。
東日本大震災の発生から1年を機に、キャリアブレインが3月に行った取材では、診療に追われる合間に地域の現状を語ってくれた。

現在では、地域の複数の医療機関がお産の受け入れを再開しているが、高橋氏は今月12日付のブログの中で、「私の役割は終わったと思ったが、どうしてもという患者さんは断れない。もういいかなと、ふと頭をよぎる誘惑に、頑張っている20名の職員の笑顔がよぎる」と綴り、「全国のドクターにお願いがしたい。こんな診療所ですが、勤務していただける勇気あるドクターを募集します」と呼び掛けている。

専門の診療科は問わず、「広く学ぼうとする意思と実践があれば充分」としている。【兼松昭夫】

 

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南相馬にて

By , 2012年8月12日 12:15 PM

大学病院の職を辞して南相馬市立総合病院での勤務を始めた神経内科医小鷹先生の近況が、医療ガバナンス学会に寄稿されていました。考えさせられた言葉、心を動かされる言葉が多くありました。一部引用しますが、是非リンク先を読んでいただきたいと思います。

Vol.507 福島の医療現場から見えてきたもの

離職する看護師の夫は末期癌であった。そして、多発性硬化症の患者の母親は、震災後に自ら命を絶っていた。現状を目の当たりして、私は考えを是正せざるを得なかった。「何かを始めたい」と意気込んでは来たものの、”医療復興”というのは、システムを創造したり、パラダイムを変換したりすることではなかった。

むしろ丁寧に修繕するとか、再度緻密化するとか、改めて体系化するとか、有機的に規模を拡大するとか、人を集めてそれらを繋ぐとか、そういうことが医療の復興であった。

 

Vol.517 福島での意味

そういうことを考えると、世の中というものも「偶然その場に遭遇し、意外にも手を差し伸べることになり、行きがかり上そうなった」という行為の集まりで成 り立って欲しいと願う。「たまたまそこに出くわしてしまったが故に、巻き込まれて、なんだか知らないけどいろいろやってしまった」という、言ってみれば、 そういう合理的でないものに人は動かされるし、意味付けは後からなされるものである。

“意味”とは、ある価値に則った合理性のことだが、意味があることの方が正しくて、そうした価値観でしか物事が動かない世の中よりも、偶然居合わせてしまった状況で、意味を度外視して行動できる世の中の方が、ずっと暮らしやすいような気がする。(略)

医師の私が言うのも気が引けるが、人助けや人命救助なんてものに、さしたる意味など考えない方がいいのかもしれない。意味を超えた行為だから、人はどんな現場でも、それを実行することができるし、理由など考えずに仕事に没頭できるのである。

 

Vol.541 福島で足りないもの

離職する看護師の夫は末期癌であった。そして、多発性硬化症の患者の母親は、震災後に自ら命を絶っていた。
私の想像を遙かに凌駕する凄まじい、あまりにも壮絶な現実があった。苦悩を表に出さない態度の一方で、自暴自棄や抑うつ状態を理解して余りある圧倒的惨劇が、この地には横たわっていた。
私は想いを修正せざるを得なかった。不運に直面する人たちを前に、他人任せで悠長なことを言っていられるのか。この地で起こり得る心身の衰弱に対して、どう反応していけばいいのか。

 

Vol.556 福島での暮らし

勝手な言い方をすれば、福島に限らず社会というものは、そもそも劣悪である。しかし、どれほど劣悪であれ、私たちはその中で生き延びていかなくてはなら ず、その中で社会を再生・構築していくしかない。できることなら誠実に、前向きに、着実に。重要な真実や意義は、むしろそこにある。

 

Vol.565 福島の病院が、初めての研修医を迎えて

私たちの医療には解答がない。だから、正解を学ぶことはできないし、規範を教える術もない。
ここで学ぶことは、もちろん、医療技術を向上させるとか、医学的知識を増幅させるとか、そういうことを目指すことに異論はないが、それよりも”自分は何が できないか”を理解し、自分にできないことは、誰にどのように支援されればそれが達成できるのか。「そういう人に支持されなければ、有効に自分の学びが活 かされることはない」ということを体感することなのである。
一手先、二手先を見据えて「自分にできないこと」と、「自分にできること」とを、きちんとリンケージすることなのである。

 

(関連記事)

被災地の病院へ

 

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医療債務

By , 2012年6月21日 9:56 PM

いつも愛読している李啓充先生の「続・アメリカ医療の光と影」。ここ2回、「医療債務の陥穽」という内容でした。非常にショッキングな内容だったので、紹介しておきます。

医療債務の陥穽(1)
医療債務の陥穽(2)

アメリカは訴訟社会ということもあり、訴訟費用を医療費に上乗せしてきたことが、医療費高騰の一因なのかもしれません。Twitterでつぶやくと、かなり反響の大きい記事でした。

 

もう一つ、全く関係ない話ですが考えさせられた記事。T大の大学院まで出たエリートの悲劇の話です。

無題

人間の能力って同心円ではないので、ある分野に突出した才能を持っていても、ある分野では気付けないことが普通にあるのかもしれません。私は優秀には程遠いですが、自戒を込めて。

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大町病院から

By , 2012年5月20日 5:27 PM

以前、「南相馬市立総合病院の記録」という記事をお伝えしました。

同じく医療ガバナンス学会で、大町病院からいくつかの報告がなされています。記事へのリンクを貼っておきます。現場の人たちの思いが伝わってきます。

Vol.323 わだかまりを越えて 2011年11月23日
Vol.347 福島県南相馬市・大町病院から(2) 2011年12月23日
Vol.366 福島県南相馬市・大町病院から(3) 2012年1月15日
Vol.411 福島県南相馬市・大町病院から(4) 2012年2月22日
Vol.446 福島県南相馬市・大町病院から(5) 2012年3月29日
Vol.489 福島県南相馬市・大町病院から(6) 2012年5月16日

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喀痰の吸引

By , 2012年2月28日 8:11 AM

2012年4月1日から、介護福祉士や介護職員が喀痰の吸引をできるようになります。しかし、この資格を取得するのに、実習以外に 50時間の講義を聞かないといけないようです。個人的には、2日間くらいで全て終わるようにしないと、参加に躊躇する介護職の方が多いと思うのですが・・・。一方で、これから介護福祉士を目指す方の場合は、養成課程で資格を取得できるようです。

多くの神経疾患で、喀痰の吸引を必要とするだけに、気になる制度です。

平成24年4月から、介護職員等による喀痰吸引等(たんの吸引・経管栄養)についての制度がはじまります。(PDF)
厚労省:喀痰吸引等(たんの吸引等)の制度について

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南相馬市立病院

By , 2012年2月25日 2:05 PM

 神経内科医の小鷹先生が大学病院をやめて南相馬市立病院に勤務することをお伝えしました。

しかし、市の対応は十分ではないようです。上昌広先生が、twitterでこんな呟きをされていました。

南相馬市立総合病院での勤務を希望し、常勤医となった医師と話し、市の対応に呆れた。全国医学部長会議から派遣される若手医師が一週間で稼ぐ額と、月給が同じ。民間病院の半分以下だ。残業を多めにつけるとか、やりかたは幾らでもあるだろう。例年の三倍も予算があって、ゼネコンに丸投げしているのに

小鷹先生はそれなりの覚悟を持って行くのでしょうが、それに応える体制作りを考えていかないといけないと思います。

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被災地の病院へ

By , 2012年2月19日 11:11 AM

これまで、何度か小鷹昌明先生の医療ガバナンス学会への投稿をお伝えしてきました。

最新の文章によると、獨協大学医学部準教授の地位を捨て、被災地の病院に勤務することを選択されたらしいです。

一人の優秀な神経内科医がどのように考えてそのような道を選んだか、是非下記の文章をご覧下さい。

福島の医療現場へ

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思想から語る

By , 2012年1月8日 8:49 AM

ある高名な神経内科医の文章を過去に紹介しました。

論文捏造疑惑

同じ先生が、ある難病に対しての率直な思いを書いています。色々考えさせられる文章ですので、是非読んでみて下さい。

思想から語る「慢性疲労症候群」
※本論とは関係ありませんが、慢性疲労症候群における XMRVの Science論文は撤回されていることを付記しておきます (下記参照)。

Again: No XMRV-Chronic Fatigue Link

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