Neuro-imaging Refresher Club

By , 2008年11月3日 12:01 PM

昨日は勉強会に行ってきました。

開催日時:2008年11月2日(日)   9:00~
開催場所:品川コンファレンスセンター東京
〒108-0075 東京都港区港南1-9-36 アレア品川
電話 03-6717-7000  FAX 03-6717-7001
参加費用:¥10,000-

 

脳変性疾患:柳下 章(都立神経病院)
脳動脈支配の画像診断 脳底穿通動脈を中心に:高橋 昭喜(東北大学)
脳血管障害:井田 正博(都立荏原病院)
脱髄性疾患:早川 克己(京都市立病院)
感染症:田岡 俊昭(奈良県立医大)
非感染性炎症性疾患:前田 正幸(三重大学)
代謝性・中毒性疾患:大場 洋(帝京大学)

3連休のためか、全国の神経内科医、放射線科医が集まり、会場には人が入り切らなくなって、急遽別会場で中継講義も併設されました。会場に入りきらないことに対して、2000円のキャッシュバックもあるなど、多少混乱がありました。

変性疾患は、柳下先生。都立神経病院の先生で、私も悩ましい症例で、フィルムを持って相談に行ったことがあります。気さくな先生ですが、この分野の大家です。

最初は多系統萎縮症 (MSA) についてでした。MSA-pだと、被殻外側の線状の T2WI高信号域が有名ですが、頻度としては被殻の萎縮の方が多く、被殻の萎縮 (被殻外側の凸の消失、左右差) が重要な所見。MSA-Cでは、ponsの atrophyは pons内部の異常信号と相関し、軽度の atrophyの時は pons中央に縦に T2WI高信号を来たし、それ以上の atrophyで cross signが出ることが知られています。重要なのは、SCA1-3でも pons中央に縦の異常信号が出るということ。ただし、これは家族歴で鑑別出来ます。

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の画像所見も知られており、T2WIにおいて運動皮質に低信号を認め、中心前回には高信号を認めます。ただし、運動皮質の低信号は高齢者では有意ではありません。また、錐体路に異常信号を呈する疾患は多くありますが、それらの疾患は錐体路より広い範囲で障害されるのに対し、錐体路に限局するのが ALSの特徴です。ALS-Dでは前頭葉底部や側頭葉の白質に異常信号が見られますが、左右対称的なのが皮質基底核変性症 (CBD) との鑑別点です。ただし、皮質の異常信号は非特異的な変化なので、それだけでは何ともいえません。

CBDでは、片側前頭葉後部と前頭葉の萎縮を認め、中心前回や中心後回に異常信号を認めます。また、進行性核上性麻痺 (PSP) 同様、中脳被蓋の萎縮を認めます。PSPとの鑑別は、画像では脳梁体部の萎縮の有無でなされます。

脊髄小脳変性症 (SCD) でも、画像の特徴が知られています。SCDでは遺伝子検査が間違っていることもあり、診断は慎重になされる必要があります。また、SCA 6の保因者であっても、MSA-cを発症することがあり、鑑別の必要があります。SCA 1-3はよく似た画像所見なので、画像からの鑑別は出来ません。脳幹、小脳の萎縮があり、ponsに異常信号が出現することもあります。SCA 6は小脳のみ萎縮があり、ponsに異常信号はありません。SCA 20は歯状核に T2WI低信号が出現します。SCA 17は Huntington舞踏病様の症状を出すのですが、尾状核・小脳の萎縮があり、しばしば間違われます。

Huntington舞踏病では尾状核・被殻の萎縮や線条体の異常信号が見られます。Chorea + 尾状核萎縮という patternを見たら、Chorea acanthocytosis, DRPLA, パントテン酸キナーゼ関連神経変性症などの鑑別を考える必要があります。

以上、神経変性疾患に触れてきましたが、これらは例外も多く多くの場合診断が困難です。特に発症早期ほど根拠に乏しく、当たるも八卦、当たらぬも八卦の側面があり、正診率は 50%くらいが通常。これらの知見を元に、少しでも診断精度を高めたいものです。

次の講義は東北大学高橋先生。私も MRIの正常解剖について、彼の本で勉強しています。今回は特に穿通枝についての講義でした。結構マニアックな話も多かったような気がします。

前大脳動脈 (ACA) からの枝で大事なのがHeubner動脈。この動脈は中大脳動脈 (MCA) 領域と ACA領域の中間部を栄養します。Heubner動脈は ACAの A1部の走向と逆行する方向に分枝するため、反回動脈とも呼ばれます。

さて、脳梗塞の好発部位を考えたときに大事になってくる穿通枝があり、内側線条体動脈 (MSA)、外側線条体動脈 (LSA)です。MSAは A1や Heubner動脈から分枝し、基底核レベルの Coronalでみると、側脳室前角下部、Axialでみると側脳室前角後方を栄養します。具体的には前穿通野、視交叉上部、視床下部、尾状核や被殻の前下部、内包前脚です。LSAは M1から分枝し、尾状核、被殻、淡蒼球外節の一部を栄養します。こうした知識を知っていると、脳梗塞を見たときに、どの動脈が障害されているのか推測することが可能となります。神経内科医にとっては常識の範囲とは思いますが。

前交通動脈 (Acom) からは 3つの穿通枝があり、Subcallosal branch (脳梁吻部~膝部、透明中隔を栄養), Chiasmatic branch (視交叉周囲を栄養), Hypothalamic branch (視床下部周囲を栄養) です。前交通動脈梗塞では、小範囲の梗塞にも関わらず健忘症候群を呈することがあり、脳弓前方部の障害により、Papezの回路が障害されるためと推測されています。

前脈絡動脈は内頸動脈から直接分枝するのが特徴です。脈絡叢に達するのですが、それだけではなく、海馬頭部を始めとして様々な部位に枝を出しているので、多彩な症状を来します。また、ラットから進化を辿ってみると、大脳の発達に伴って、側脳室が湾曲するようになり、現在のような走向になったことがわかります。

視床を栄養する穿通枝には、視床灰白隆起動脈 (thalamotuberal artery; TTA), 視床交通動脈 (thalamoperforate artery; TPA), 視床膝状体動脈 (thalamogeniculate artery; TGA), 内側後脈絡動脈 (medial posterior choroidal artery; MPChA), 外側後脈絡動脈 (lateral posterior choroidal aretery; LPChA) があり、梗塞を起こしたときにそれぞれ視床のどの部分に障害が起こるか異なります。例えば、TPAだと両側視床内側病変が多く、しばしば失見当識を伴うことが知られています。MPChAは ataxiaを来すため、小脳梗塞と間違われることがあります。私見ですが、私のような一臨床家からすると、TPA梗塞は MRIと臨床症候から容易に診断出来ますが、他の部位の視床梗塞は、どの動脈か同定できないことが多い印象を持っています。

脳外科医から見てもこれらの動脈支配は極めて重要で、例えば弁外部腫瘍では LSAを損傷しやすく、また脳表の Medullary arteryからの血流も途絶えるので、錐体路に及ぶ梗塞を起こすことがあるそうです。

次の講義は江原病院の井田先生。話が上手でした。

学生・研修医レベルでの脳梗塞の病型の復習から始まりました。また、先の講義を受けて、穿通枝の走向を知っていると、CTで early signを見たときに、どの動脈が閉塞しているか推測することが出来ます。例えば、MCAの塞栓で基底核が保たれていれば、LSAが生きているので M1遠位より末梢の梗塞と知ることが出来るという話でした。

血管を MRIで見るということについては、T2WIで主要動脈の flow voidを checkするのが良いのですが、急性期梗塞か慢性期梗塞か鑑別出来ないことを知っておく必要があります。3D-TOFは有用ですが、屈曲や狭窄を過大評価されたり、逆向性の側副路を検出出来ない欠点があります。

また、脳出血を MRIで評価する方法も述べていました。出血直後は T2WI高信号となりますが、3-12時間後には等信号となり見逃す可能性があります。そして数時間後に T2WI低信号となります。裏を返せば、来院 90分くらいで T2WI高信号を認めたら、脳出血である可能性を考える必要があるということです。私見ですが、画像上の脳出血は、臨床的に意味を持つ出血よりも遙かに多いのですが、血栓溶解療法を検討する症例では、何らかの情報を与えてくれるのかもしれません。

次の講義は脱髄疾患。今 topicsになっている多発性硬化症 (MS) とNeuromyelitis optica (NMO) の鑑別などがテーマでした。今回は放射線科医の先生が講義してくださいましたが、この問題は、神経内科医の方が詳しいと思います。他には、ADEMや Marchiafava-Bignami病も紹介されましたが、神経内科医から見ると常識の範囲内。最後のPosterior Reversible Encephalopathy Syndrome (PRES) については、小脳に限局したり、くも膜下出血や脳出血を伴うことがあるというのが、勉強になった知見でした。

次の講義での中枢神経感染症における CJD、ヘルペス脳炎については常識的な話。私が見たことのなかったのは、HIV脳症で、T2WIで脳室周囲に淡い高信号が出ることが知られています。これから増える病気と思うので、勉強が必要です。亜急性硬化性全脳炎 (SSPE) は麻疹患者10万人に一人発症する致死的疾患ですが、脳の後方領域から異常信号が出ることが知られています。麻疹の予防接種を受けない人が増えていますから、いつか見る機会があるような気がします。脳膿瘍については、MRSAが起炎菌だと塊を作ることがありますが、肺炎球菌性だと散在性の DWI異常信号が見られることが多いそうです。MRIで困るのが硬膜下膿瘍で、硬膜下血腫と同様の異常 (DWI高信号など) となることがあるので、鑑別が難しいそうです。

更に稀なものだと、トキソプラズマ脳症について、脳実質に限局し、髄膜や上衣への広がりはないそうです。アスペルギルス感染は、菌糸が伸びるのに金属が必要なため、病巣周囲に T2WI低信号が見られるのが所見なのだそうです。

診療の穴となるのが、寄生虫感染。まず疑うことがないので、疑うことが大事です。顎口虫は虫が這った後が T2WI*で低信号となるのが知られています。マンソン孤虫症は皮下で見られますが脳を侵すことは稀です。脳で見られたときは、画像を撮る度に病巣の位置が異なったり、CTで小石灰化を来すらしいです。虫の画像が供覧されて、会場がどよめきました。

次の講義は非感染性炎症性疾患。特発性肥厚性硬膜炎、Wegener granulomatosis、神経サルコイドーシス、リンパ球性下垂体炎、Tolosa-Hunt症候群、SLE、Sjogren症候群など。これらは神経内科医は画像以外の症候から攻めますし、画像だけが手がかりになることは少ない気がします。また、Angiitis of the Central Nervous Systemは画像からも診断が困難なことが多く、生検が必要になることが多々あります。Behcet病や Sweet病は様々な画像を呈することが多いので、神経内科医が原因不明の MRI異常を見たとき、鑑別に入れることが多いですね。今回勉強になったのが Rosai- Dorman病。Rosai先生が日本に来たときに、労災病院が各地にあるのをみて、「私の名前の病院がいっぱいある」と感激したという逸話があるのですが、それは余談。この疾患は若年者に好発し、発熱、両側頚部リンパ節腫脹や白血球増加、血沈亢進を来たし、non-LCHの一つです。頭蓋内では髄膜病変として発生し、dural tail signや造影効果を伴うので meningiomaと区別できないのだそうです。non-LCHにはErdheim-Chester病という病気もあり、長管骨 (特に大腿骨) に骨硬化が見られるのが特徴です。

最後の講義は大場先生。大場先生の本は非常にわかりやすいのですが、講義はスライドの文字が大量で小さく、非常にわかりにくかった・・・(^^;

でも、水俣病の画像 (U-fiberに水銀が沈着し、特に鳥距溝周囲にT2WI低信号が出現)、スギヒラタケ脳症 (基底核~外包にT2WI高信号) などは勉強になりました。

せっかくの日曜日を潰して行った甲斐があって、楽しい会でした。次回は来年ですが、行かないといけません。次回は脊髄疾患などを中心として講義があるそうです。

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