アルツハイマーとビタミンの記事の感想

By , 2010年5月4日 9:33 PM

どういうルートでニュースになったのか気になるところです。何の医学雑誌に掲載されるのかは紹介して欲しかったです。査読のある医学雑誌に掲載されたということは、少なくとも科学的な審査はされ、掲載後に批判にさらされると言うことを意味するからです。医学雑誌に掲載されたというのでなければ、科学的審査をクリアしていないので、それに足らない研究という可能性もあり、信頼性はかなり低くなりますね。

葉酸・ビタミンB12投与、アルツハイマー改善

軽症期のアルツハイマー病患者にビタミンB群の一種の葉酸とビタミンB12を投与すると症状が改善することを、見立病院(福岡県田川市)の佐藤能啓副院長(神経内科)が実証した。

葉酸とビタミンB12が、アルツハイマー病の危険因子とされるホモシスチン(必須アミノ酸の老廃物)の血中濃度を下げることは従来の研究で明らかになっているが、患者の集団に投与して証明したのは初めて。

佐藤副院長は、同病院の軽症期の患者を〈1〉葉酸を1日1錠投与する第1群(90人)〈2〉1日に葉酸1錠とビタミンB12を3錠投与する第2群(92人)〈3〉アルツハイマー病の薬として国内で唯一使われている「アリセプト」を投与する第3群(40人)――に分け、2005年から1年間観察。重症度を示すミニメンタルテスト(30点満点で、値が低いほど重症)で効果を調べた。

この結果、観察前は第1~3群とも平均20点だったが、1年後には、第1群は23点に、第2群は25点に改善。一方、第3群は18点に悪化していた。また、第1、2群はホモシスチンの血中濃度も下がっていた。

さらに、第1群より第2群の方が改善していたことから、葉酸とビタミンB12を併用した方がより効果が大きいことも分かった。

ただ、佐藤副院長が別に行った調査では、中等症期以上の患者に葉酸やビタミンB12を投与しても改善しなかったことから、発病早期にのみ有効とみられる。

佐藤副院長は「根本療法にはならないが、病気の進行を遅らせるアリセプトしかない現状からみると、今回の知見は患者にとって朗報といえる。アルツハイマー病が疑われたら早めに受診してほしい」と呼び掛けている。(大野亮二)

(2010年5月3日15時21分 読売新聞) 

それにしても、記事にある葉酸 1錠、ビタミンB12 3錠って表記、頭悪すぎます。おそらく葉酸としてフォリアミン 5 mg、ビタミン B12としてメチコバール 1.5 mgを投与したのでしょうが、薬の規格くらい明記すべきです。そうでないと投与量すらわかりません (もしサプリメントを使っていたら、商品毎に 1錠当たりのビタミン含有量は異なります)。アリセプトの投与量は?また、ホモシステインの血中濃度が低下していたとありますが、どの程度統計学的に有意な低下だったのでしょうか?

疫学的に、あるいは実験室レベルで、ホモシステインやビタミン B12、葉酸とアルツハイマー病の関連を調べた研究はかなりあります。記事に「患者の集団に投与して証明したのは初めて」と書いてあり、この記事のウリの文句だと思いますが、目的語が抜けています。前後の段落から 「ビタミンB 12や葉酸がアルツハイマー病の症状に効いたこと」として話を進めます。

実は、投与したけど効かなかったという証明をした研究が過去にあります。となれば、その研究との整合性を考察しないといけませんね。例えば、投与量、投与期間、他の薬物との併用、病期、効果の評価方法などによる差異があったのかどうかとか・・・。

その効かないとした過去の研究について、簡単に紹介しておきます。

 Clin Ther. 2007 Oct;29(10):2204-14.
Efficacy of multivitamin supplementation containing vitamins B6 and B12 and folic acid as adjunctive treatment with a cholinesterase inhibitor in Alzheimer’s disease: a 26-week, randomized, double-blind, placebo-controlled study in Taiwanese patients.

Sun Y, Lu CJ, Chien KL, Chen ST, Chen RC.

 

Department of Neurology, En Chu Kong Hospital, San-shia, Taipei, Taiwan. sunyu@ms4.hinet.net
Abstract
BACKGROUND: Elevated serum homocysteine levels have been associated with the development of Alzheimer’s dementia (AD). The combined use of a mecobalamin capsule preparation, which contains vitamin B12 0.5 mg with an active methyl base, and an over-the-counter nutritional supplement that contains folic acid 1 mg and pyridoxine hyperchloride 5 mg may be effective as a homocysteine-lowering vitamin regimen. OBJECTIVE: The aim of this study was to determine whether oral multivitamin supplementation containing vitamins B6 and B12 and folic acid would improve cognitive function and reduce serum homocysteine levels in patients with mild to moderate AD. METHODS: This randomized, double-blind, placebocontrolled trial was conducted at En Chu Kong Hospital, Taipei, Taiwan. Male and female patients aged >50 years with mild to moderate AD and normal folic acid and vitamin B12 concentrations were enrolled. All patients received treatment with an acetylcholinesterase inhibitor and were randomized to receive add-on mecobalamin (B12) 500 mg + multivitamin supplement, or placebos, PO QD for 26 weeks. The multivitamin contained pyridoxine (B6) 5 mg, folic acid 1 mg, and other vitamins and iron. Serum homocysteine level was measured and cognitive tests were conducted at baseline and after 26 weeks. The primary efficacy outcome was change in cognition, measured as the change in score from baseline to week 26 on the Alzheimer’s Disease Assessment Scale 11-item Cognition subscale. Secondary efficacy outcomes included changes in function in performance of activities of daily living (ADLs) and concentrations of homocysteine, B12, and folic acid. Tolerability was assessed by comparing the 2 study groups with respect to physical examination findings, including changes in vital signs, laboratory test abnormalities, concomitant medication use, and compliance of study medication was assessed using an interview with the patient’s caregiver, as well as the monitoring of adverse events (AEs) throughout the study. RESULTS: Eighty-nine patients (45 men, 44 women; all Taiwanese; mean [SD] age, 75 [7.3] years) were enrolled and randomized. Overall, there were no significant differences in cognition or ADL function scores between the 2 groups. At week 26, the mean (SD) between-group difference in serum homocysteine concentration versus placebo was -2.25 (2.85) micromol/L (P = 0.008), and the mean serum concentrations of vitamin B12 and folic acid were significantly higher (but within normal range) in the multivitamin group compared with placebo (., +536.9 [694.4] pg/mL [P < 0.001] and +13.84 ng/mL [11.17] [P = 0.012] at 26 weeks, respectively). The 2 most common AEs were muscle pain (11.1% and 6.8%) and insomnia (8.9% and 9.1%) in the multivitamin and placebo groups, respectively. CONCLUSIONS: In this population of patients with mild to moderate AD in Taiwan, a multivitamin supplement containing vitamins B(6) and B(12) and folic acid for 26 weeks decreased homocysteine concentrations. No statistically significant beneficial effects on cognition or ADL function were found between multivitamin and placebo at 26 weeks.

PMID: 18042476 [PubMed – indexed for MEDLINE]

この論文については Abstractしか読んでいないので詳しいことは言えませんが、要するに軽度から中等度のアルツハイマー病患者にコリンエステラーゼ阻害薬 (おそらくアリセプト) に併用してビタミンB6 (5 mg), ビタミンB12 (0.5mg), 葉酸 (1 mg) を投与した群と、プラセボを投与した群を比較したようです。ビタミン B6や葉酸は市販のサプリメントを使用したため、他のビタミンや鉄も入っていました。結果は、ホモシステインレベルは低下したものの、26週後の臨床的効果は無かったと結論付けられています。

上記の読売新聞の記事とビタミンなどの投与量は異なりますが、Sunらの研究は二重盲検無作為試験ですので、エビデンスレベルは高いと思います。つまり、彼らは患者をランダムに割り振って、評価者は患者がビタミンを飲んでいるか飲んでいないか知らずに評価したわけです。一方で、佐藤先生らについての記事では、方法が記載されていません。もし評価する人間が患者がどっちの群に属するか知っていれば、そこにバイアスが入る可能性があります。

佐藤先生らの研究も大切な研究と思いますが、記事の紹介の仕方がいけてませんでした。上記のようにつっこみどころ満載の記事であることを考えると、新聞社は科学論文をきちんと紹介する人間を雇うべきです。博士号を取っても就職できないことがある時代なのですから、ある程度の研究経験がある理系の人間を雇うチャンスなのだと思いますが、如何でしょうか?

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