Parkin Disease

By , 2013年3月17日 8:09 AM

2013年2月23日のパーキンソン病の原因遺伝子 LRRK2, RAB7L1, VPS35についての記事で、私は次のように記しました。

家族性パーキンソン病の原因遺伝子はこれまで 20近く同定されています。これらの遺伝子がコードするタンパク質には、協調して働いているものがあるらしいことが最近明らかになってきました。例えば、Parkin, PINK1は一つの系として、異常ミトコンドリアを検出し、ミトコンドリア外膜タンパク質をユビキチン-プロテアソーム系で分解したり、ミトコンドリアのオートファジーである mitophagyを誘導する役割を担っています。DJ-1もどうやらこの系に含まれるようです。

それから日を置かずして、2013年3月4日の Archives of Neurology (JAMA Neurology) 誌に “Parkin Disease” という論文が掲載されました。その論文は Parkin変異によるいわゆる “Parkin病” と、一般的な Parkinson病との違いを比較しています。同じ号の “Editorial” で簡単な解説がありますので、まずはそちらを紹介します。

Lessons for Parkinson Disease From the Parkin Genotype

J. Eric Ahlskog, PhD, MD
JAMA Neurol. 2013;():1-2. doi:10.1001/jamaneurol.2013.104.
Published online March 4, 2013
Monogenetic forms of parkinsonism now include 16 established loci in the “ PARK ” nomenclature. In this issue of JAMA Neurology, Doherty and colleagues1 describe details of the most common autosomal recessive parkinsonism, PARK2, which is associated with parkin gene mutations. In the most comprehensive description of PARK2, these investigators detail the clinical phenotype of 5 patients, who were observed for decades, plus their neuropathology.1 Notably, the pathology was a non–Lewy body pathology. Although parkin is uncommon in Parkinson disease (PD) clinics, this report1 should be of interest to general neurologists once it is put into a broader context.

Park2遺伝子 (遺伝子産物は parkin) 変異のある患者は、一般的な孤発性パーキンソン病といくつかの違いがあります。

①発症年齢:parkin変異の患者の多くは、40歳までに発症する若年発症です。しばしば 20歳前での発症もみられます。一方で、ある研究では、パーキンソン病のうち 50歳以下で発症するのは 3%にすぎず、40歳以前に発症することはありませんでした。

②臨床的特徴:parkin変異の患者では、障害がほぼドパミン欠乏による症状に限局します。一方で、孤発性パーキンソン病では、ドパミン欠乏以外による症状 -認知症、自律神経症状、レボドパ不応性運動症状- などがみられます。

③障害部位:parkin変異の患者では、障害がほぼ黒質および青斑核に限局します。これは臨床的特徴に合致した所見です。一方で、一般的なパーキンソン病では、Braakのstaging に基いたLewy病理の進行がみられます。

常染色体劣性遺伝である PINK1, DJ-1も、若年性パーキンソニズムの原因遺伝子です。これらの遺伝子変異でも、parkin変異同様に黒質 (substantia nigra) の障害が見られ、レボドパ反応性のパーキンソニズムのみを呈します。これら 3つの遺伝子による病態は、”nigropathies” と呼べるかもしれません。

Parkinはユビキチン・リガーゼ (ユビキチンを基質に結合させる) としての機能を持ち、ミトコンドリアのオートファジーである mitophagyを誘導します。黒質は代謝的要求が大きいので、ミトコンドリアの易傷害性があるのかもしれません。近年、parkin, PINK1, DJ-1は同じ系で相互作用し、ミトコンドリアの機能や形態を維持していると考えられています。

parkin変異患者ではレボドパへの反応性がよく、ジスキネジアや変動があるにせよ、数十年に渡って保たれます。一方で、一般的なパーキンソン病では徐々にレボドパへの反応性は乏しくなります。Lewy病理が脳の様々な部位に出現することと関係しているのかもしれません。

また、parkin変異患者では、レボドパ誘発性ジスキネジアが出現しやすいことが知られています。一方で、一般的なパーキンソン病患者は淡蒼球も侵されるので、ジスキネジアに有効である淡蒼球切除術と似たような効果のためジスキネジアが出にくいのかもしれません。

論文 “Parkin Disease” では、parkin変異患者の臨床的、病理学的特徴を検討しています。

Parkin Disease
A Clinicopathologic Entity?

Karen M. Doherty, MRCP; Laura Silveira-Moriyama, PhD; Laura Parkkinen, PhD; Daniel G. Healy, PhD; Michael Farrell, FRCPath; Niccolo E. Mencacci, MD; Zeshan Ahmed, PhD; Francesca M. Brett, FRCPath; John Hardy, PhD; Niall Quinn, MD; Timothy J. Counihan, FRCPI; Timothy Lynch, FRCPI; Zoe V. Fox, PhD; Tamas Revesz, FRCPath; Andrew J. Lees, MD; Janice L. Holton, FRCPath
JAMA Neurol. 2013;():1-9. doi:10.1001/jamaneurol.2013.172.
Published online March 4, 2013
Importance Mutations in the gene encoding parkin (PARK2) are the most common cause of autosomal recessive juvenile-onset and young-onset parkinsonism. The few available detailed neuropathologic reports suggest that homozygous and compound heterozygous parkin mutations are characterized by severe substantia nigra pars compacta neuronal loss.

Objective To investigate whether parkin -linked parkinsonism is a different clinicopathologic entity to Parkinson disease (PD).

Design, Setting, and Participants We describe the clinical, genetic, and neuropathologic findings of 5 unrelated cases of parkin disease and compare them with 5 pathologically confirmed PD cases and 4 control subjects. The PD control cases and normal control subjects were matched first for age at death then disease duration (PD only) for comparison.

Results Presenting signs in the parkin disease cases were hand or leg tremor often combined with dystonia. Mean age at onset was 34 years; all cases were compound heterozygous for mutations of parkin. Freezing of gait, postural deformity, and motor fluctuations were common late features. No patients had any evidence of cognitive impairment or dementia. Neuronal counts in the substantia nigra pars compacta revealed that neuronal loss in the parkin cases was as severe as that seen in PD, but relative preservation of the dorsal tier was seen in comparison with PD (P = .04). Mild neuronal loss was identified in the locus coeruleus and dorsal motor nucleus of the vagus, but not in the nucleus basalis of Meynert, raphe nucleus, or other brain regions. Sparse Lewy bodies were identified in 2 cases (brainstem and cortex).

Conclusions and Relevance These findings support the notion that parkin disease is characterized by a more restricted morphologic abnormality than is found in PD, with predominantly ventral nigral degeneration and absent or rare Lewy bodies.

常染色体劣性若年性パーキンソニズムは約 20年前に日本で報告されました。これらの患者は比較的良性の経過をとり、睡眠効果、低容量レボドパの効果持続、服用の合間の chorea-athetosisの早期出現がみられました。連鎖解析では6番染色体長腕 (6q25. 2q27) に遺伝子座があり、parkin遺伝子が同定されました。特徴的な症状として下肢に目立つ振戦、下肢ジストニア、正常嗅覚、著明な行動障害が報告されていますが、parkin変異のためというよりむしろ若年発症であることがこうした臨床像の決定因子なのではないかと考えられています。

今回著者らが 5例の parkin変異によるパーキンソニズム患者を検討したところ、振戦や筋強剛、局所性ジストニアなどはありましたが、認知症を伴った患者はいませんでした。

パーキンソン病は、黒質ドーパミン作動性ニューロンが脱落し、生き残ったニューロンにα-シヌクレインを含む Lewy小体が見られるのが病理学的特徴です。本研究の剖検による検討では、パーキンソン病患者と parkin変異によるパーキンソニズム両者で黒質緻密部の細胞は高度に脱落していましたが、parkin変異によるパーキンソニズムでは黒質背側部 (dorsal tier) の細胞は比較的保たれるという特徴が確認されました。また、parkin変異によるパーキンソニズムでは青斑核、迷走神経背側運動核で軽度の神経脱落があったものの、他の部位ではこうした所見はなく、Lewy小体は 2例でわずかに散見されるのみでした。 

parkin変異によるパーキンソニズムは、臨床像や病理所見が一般的なパーキンソン病とは異なるようですね。”parkin disease” とはよく言ったものです。私はこういう呼び方は初めて聞いたのですが、2003年の Brain誌論文を皮切りに、いくつかの論文で用いられているようです。

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