成田達輝&萩原麻未デュオ・リサイタル

By , 2013年11月11日 7:53 AM

2013年11月6日に「成田達輝&萩原麻未デュオ・リサイタル」を聴きに行きました。

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 Op.24 「春」

ストラヴィンスキー:協奏的二重奏曲

酒井健治:カスム

グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 Op.45

成田達輝 (ヴァイオリン), 萩原麻未 (ピアノ)

2013年11月6日(水) 浜離宮朝日ホール

成田達輝さんと 7月7日に焼肉を食べた時に、是非聴きに欲しいとチラシを頂いたコンサートです。成田達輝さんとパリ (それも、ポリーニ行きつけのイタリア料理の店) でスプリング・ソナタについて語り合ったり、酒井健治さんにブリュッセルでカスムの話を伺ったりして、準備段階から楽しみにしていました。萩原麻未さんとは、何人かで食事をしたことはありますが、演奏を聴くのは初めてでした。

まず一曲目、ベートーヴェンのスプリング・ソナタは、斬新な解釈をしていて、聴き慣れた曲がすごく新鮮でした。しかし特に一楽章で、やりたいことを少し盛り込みすぎな感がありました。あと、調律が高めに設定されていて、この時期の作品ならもう少し低めの方が好みでした。とはいえ、ヴァイオリンとピアノのバランスが良く、3楽章の細かいパッセージの歯切れ良さ、4楽章展開部の高揚感など素晴らしかったです。

二曲目、ストラヴィンスキーのこの曲は初めて聴きました。綺麗な曲で、特に第5楽章のデュオニソス (酒神バッカス) への賛歌の美しさは、この世のものとは思えませんでした。

三曲目は、一番楽しみにしていた「カスム」です。パンフレットの曲目解説は酒井健治氏御自身がなさっています。

 ヴァイオリンとピアノのための短い作品「カスム」は、成田達輝さんからオーロラを題材とした作品を、と依頼を受けて書かれました。

カスム (英:Chasm) は現在では亀裂を意味しますが、古代ローマではオーロラを意味し、アリストテレスは空の裂け目と表現しました。古代中国や中世のヨーロッパでは、オーロラの発生は不吉な事の前触れだと信じられてきたそうですが、この意味に触発され、美しいビロードのような音楽、というよりも静寂を劈く短いパッセージをモチーフに書かれております。

今回、成田達輝さんと萩原麻未さんという素晴らしいヴィルトゥオーゾのお二人が初演するという事で、楽曲は完全にユニゾンで始まりますが、次第に乖離し、ソリストとしての彼らの魅力が伝わる様にそれぞれ短いカデンツァを配置しました。演奏者達にお互いの音楽性を同調させる事を求めつつ、同時に独自の音楽性を発揮しなければいけないこの作品は、成田達輝さんと萩原麻未さんに献呈されました。

一度聴いただけでは把握しきれませんでしたが、冒頭のユニゾンでのトリルのような速いパッセージから、細かい動きが突然止まってカスムを演出したりしながら、いつの間にか乖離してそれぞれのカデンツァに移行。今まで聴いた現代曲の中で最も素晴らしい作品でした。コンサートが終わってから、会場にいた酒井健治さんに「過去に 2度聴きたいと思った現代曲はないけれど、この曲は何度でも聴きたいです」と伝えたところ、「そうでしょう。現代曲も良いものは良いんです。」と仰っていました。演奏テクニック的には凄まじく難易度が高い曲で、成田達輝さんと萩原麻未さんの組み合わせくらいでなければ、この曲をここまで完璧に演奏することはできなかったでしょう。裏話ですが、ブリュッセルで酒井健治さんと飲んだ時に、「成田達輝さんとパリで会うのだけど、伝えることありますか?」と聞いたら、ニヤリと笑って「難しく書いておいたから、練習頑張ってね」と仰っていたのです。酒井健治さんのドSな芸術に妥協しない一面を見た気がしました(^^;

四曲目のグリーグはカスムに負けず劣らず完璧な演奏でした。ヴァイオリンとピアノのヴィルトゥオージティーがバランスよく融け合って、この曲から迸るような情熱を引き出していました。

グリーグのこのソナタは、私が中学生時代に一度やめていたヴァイオリンを再開しようと思ったきっかけの曲です。ヴァイオリンの緒方恵先生がピアニストの白石光隆氏とこの曲を演奏しているのを演奏会で聴いて、あまりの美しさにもう一度ヴァイオリンをさらおうと思ったのです。私が最も好きな 2楽章冒頭のピアノソロは、洞窟の中を歩くような神秘的な煌きがありながら、慈愛に満ちた優しさも感じさせます。萩原麻未さんは、この部分をとても綺麗に弾いていました (下記動画は別の演奏家によるグリーグのヴァイオリン・ソナタ第3番第2楽章)。

・Duo Birringer – Grieg Sonata c minor op.45/3 – 2nd mov.

アンコールは、グリーグとストラヴィンスキーから、それぞれ一曲ずつでした。

会場では、2枚の CDを買いました。一枚目は「成田達輝 デビュー!」です。成田さんが十八番にしているフランスの作曲家やパガニーニのカプリスが収録されています。もう一枚は「HAGIWARA PAREDES -EL SISTEMA YOUTH ORCHESTRA OF CARACAS- (KJ26201)」で、東日本復興支援チャリティCDです。エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカスとの演奏で、グリーグのピアノ協奏曲イ短調作品16と、ショスタコーヴィチの交響曲第5番ニ短調作品47が収録されています。帯に「演奏者は録音の印税収入を放棄し、収益を被災地の復興支援のために寄付します」と書かれていました。ライナーノーツの冒頭に演奏者たちのメッセージがあります。

東日本大震災で命を落とされた方を悼み、傷ついた方、近しい人を亡くした方、大切な地を壊された方の痛みと哀しみを想像しております。「エル・システマ」のモットーは「トカール・イ・リチャール」、つまり、平和のために楽器を奏で、物事に立ち向かうことです。このたび音楽によって、世界中が敬意を表すべき地・福島の復興に寄与できることは光栄です。

ホセ・アントニオ・アブレウ

今年8月6日「原爆の日」に、故郷の広島で演奏しました。原子爆弾が投下され、向こう数十年は草さえ茂らないだろうと言われていた広島が、時を経た今、緑あふれる美しい街に変貌したことに思いを馳せました。このたび、ベネズエラの仲間たちと行った演奏を通じて、福島の復興に微力ながら携われることになり、広島の長い復興の歩みをふたたび思い起こしています。福島が以前の姿をとり戻すことができるよう、祈り続けていきたいと思います。

萩原麻未

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