Beethovenの耳の話

By , 2013年11月24日 4:49 PM

いつも楽しみに読んでいるブログ「呼吸器内科医」。

2013年9月14日のエントリーが「ベートーヴェンの難聴と肝硬変の原因はワインの飲みすぎによる鉛中毒」というタイトルで、Beethovenの耳障害に関する論文を紹介していました。

過去には、耳硬化症が有力な説だったので、半信半疑な気持ちでいましたが、実際に論文を読んでみて驚きました。

Lead and the deafness of Ludwig van Beethoven

Objectives/Hypothesis

To reexamine the cause of Beethoven’s hearing loss because of significant recent articles.

Data Sources

Medical and musical literature online, in print, and personal communication.

Methods

Relevant literature review.

Results

Evidence of otosclerosis is lacking because close gross examination of Beethoven’s middle ears at autopsy did not find any otosclerotic foci. His slowly progressive hearing loss over a period of years differs from reported cases of autoimmune hearing loss, which are rapidly progressive over a period of months. He also lacked bloody diarrhea that is invariably present with autoimmune inflammatory bowel disease. The absence of mercury in Beethoven’s hair and bone samples leads us to conclude that his deafness was not due to syphilis because in that era syphilis was treated with mercury. High levels of lead deep in the bone suggest repeated exposure over a long period of time rather than limited exposure prior to the time of death. The finding of shrunken cochlear nerves at his autopsy is consistent with axonal degeneration due to heavy metals such as lead. Chronic low-level lead exposure causes a slowly progressive hearing loss with sensory and autonomic findings, rather than the classic wrist drop due to motor neuropathy from sub-acute poisoning. Beethoven’s physicians thought that he had alcohol dependence. He particularly liked wine that happened to be tainted with lead.

Conclusions

Beethoven’s chronic consumption of wine tainted with lead is a better explanation of his hearing loss than other causes.

Level of Evidence

N/A. Laryngoscope, 123:2854–2858, 2013

以下、簡単に内容を紹介します。

【Beethovenの耳疾患について】

①年余に渡って緩徐進行性であった

②少なくとも、初期は高音の障害であった

③音の弁別の障害があった

【過去の説への反論】

①耳硬化症説

・通常、耳硬化症では弁別能は保たれる。

・ベートーヴェンには難聴の家族歴がない。

・剖検で耳硬化症を示唆する所見の記載がない (その所見は、肉眼でも容易にわかるもの)。

・耳硬化症では、Beethovenに見られたような蝸牛神経の萎縮は来さない。

②自己免疫性説

自己免疫性の聴力障害は、通常数週間~数ヶ月の経過で進行し、年単位ではないので否定的。

③梅毒説

緩徐進行性の両側聴覚障害が根拠だが、著者らの検討では、病歴を見て Beethovenが梅毒であったことに言及する医師はいなかった。

④梅毒治療薬説

当時梅毒の治療に用いられた、水銀を含む軟膏を Beethovenが使っていた可能性については、その軟膏にアンモニウムは含まれていても水銀が含まれていなかったことが確認されている。また、Beethovenの髪や骨を調べた結果、水銀を示す証拠は見つからなかった。

【鉛中毒説】

2000年に毛髪が、2005年に頭頂骨が調べられ、それぞれ鉛が高値を示した。鉛は骨の深部に達し、慢性暴露を示唆した。そのため、末期の治療に限った暴露ではないと言える。鉛は、低血中濃度でも慢性暴露すれば緩徐進行性の高音の聴覚障害を来す。また、血中濃度の増加は、聴覚障害の程度に直接相関する。近年の研究では、鉛による聴覚障害は、聴神経の軸索障害が示唆されている。

過去、Beethovenの鉛中毒説は、下垂手など他の神経障害を欠く点などから否定されてきた。しかし、このような典型的な鉛中毒は、4~5年くらいの亜急性の暴露の症状の一つで、現在では鉛誘発性ポルフィリン症として捉えられている。

無機鉛に平均 21.7 (8~47) 年間暴露された 151名を調査した研究では、46名では、古典的な運動麻痺よりむしろ軽度の感覚性・自律神経ニューロパチーを呈した。これらの障害は鉛の直接的神経毒性と考えられ、その 46名は Beethovenで見られたような気分障害、肝障害、腎障害、消化管障害を来した。感覚障害には、Beethoven自身が関節リウマチだと思っていたような手足の疼痛・錯感覚も含まれていた。鉛暴露による初期の神経症状は暴露後 7~45年後に現れる。

鉛暴露の原因はたくさんあるが、著者らの意見では、Beethovenの場合はワインが疑わしい。当時は香りを高めるために安物のワインに鉛を不法に添加していたことが知られている。Beethovenは特にハンガリー産の混ぜ物ワインや酒精強化ワインを好んだ。Beethovenは 17歳で母親を亡くしてから、心の隙間を埋めるためにワインを飲み始めた。

結果として、耳鳴りが始まったのはそれから 10年後だった。30歳の頃、Beethovenは食欲を向上させ、腹痛を和らげるために食事時に大量のワインを飲み始めた。これは彼が周囲に聴覚障害を打ち明けた時期に当たる。Beethovenの主治医は、彼がアルコール依存症だったと考えていた。

アルコール依存には家族歴があるとされるが、Beethovenの家系もそうであった。Beethovenの父や祖母もアルコールが原因で死亡している。

Beethovenの精神症状、消化器症状も鉛中毒によるものだった可能性がある。

George Frederic Handelも、頭痛、易興奮性、リウマチ痛、異常行動、腹痛を呈していたが、ひょっとするとワインによる鉛中毒のせいだったのかもしれない。

鉛中毒と考えれば Beethovenの症状が一元的に説明出来ますし、骨から検出された鉛という物的証拠もあるので、非常に説得力がありますね。

鉛中毒が下垂手以外の神経障害も起こすとは、勉強になりました。

(参考)

クリスマスBMJ

耳の話

ベートーヴェンの生涯

Visits: 416 | Today: 0 | Total: 591115

Post to Twitter


Leave a Reply

Panorama Theme by Themocracy