第6回東京MS研究会

By , 2007年9月9日 10:47 AM

2007年9月7日、第6回東京MS研究会に参加してきました。

第6回東京MS研究会
平成9月7日(金)18:50~
ザ・プリンスパークタワー東京 B2「コンベンショナルホール」

講演
「衛生仮説と多発性硬化症」
国立精神・神経センター神経研究所 免疫研究部長 山村隆先生

シンポジウム テーマ:多発性硬化症と抗アクアポリン4抗体
講演1:「抗AQP4抗体測定系と抗体陽性例の臨床的特徴について」
新潟大学神経内科准教授 田中恵子先生

講演2:「Neuromyelitis opticaとAquaporin-4~診断及び病態における意義~」
東北大学大学院医学系研究科 多発性硬化症治療学講座 教授 藤原一男先生

残念ながら、最初の講演に間に合わず、シンポジウムからの参加となりました。非常に勉強になったので、聞いてきたいくつかの内容を紹介しようと思います。

新潟大学の田中先生の講演は、抗 AQP4抗体についての一般論が主体で、あまりその話題に詳しくない私にとって、基礎から勉強になりました。

元々、多発性硬化症 (MS)は、通常型 (conventional MS: CMS)、視神経脊髄型 (optic spinal MS: OSMS) に分けられていました。その他、neuromyelitis optica (NMO) と呼ばれる一群がありますが、多くは OSMSに含まれるものと思います。今回のテーマは NMOです。

NMOはアジア・アフリカ系人種に多く、30歳代後半の女性に多い、脳病変が少ない、脊髄3椎体異常の病変を持つ、視神経を侵しやすいなどの特徴があります。病理像から、以前より抗体の関与が指摘されていたのですが、ついに NMO-IgG/抗AQP (アクアポリン) 4抗体が発見されました。

抗AQP4抗体の測定法は、Lennonら、田中ら (新潟大)、高橋ら (東北大)、松岡ら (九州大) の方法が知られています。それぞれ陽性率が異なるのですが、cut offをどこに置くかが関わっているようです。

NMOの病態として 抗AQP4抗体が中心的役割を果たしていることを示す事実がいくつか知られています。NMOで侵されやすい視神経や脊髄には AQP4の分布が多いこと、抗 AQP4抗体価と病勢がかなり一致すること、NMOで血漿交換の効果があることなどです。また、抗 AQP4抗体が AQP4のチャネル構造を変化させ、機能障害を起こしている可能性も示唆されています。

こうした抗体の関与から、MSという疾患概念の再構築が迫られています。また、特に NMOでは、自己免疫が関与することがわかり、増悪期にはステロイドパルス療法、長期管理にはプレドニン内服、免疫抑制剤の使用、リツキサンなどの治療法が根拠を持って議論されるようになりました。

東北大学の藤原先生の話も、引き続き NMOについての話でした。 NMOの疾患概念について、再度説明がありました。

NMO
(1) 視神経炎と脊髄炎を繰り返す
(2) 女性に多い
(3) 脳MRIは正常(注:実際には脳病変も存在する)
(4) 脊髄病変が長い(3椎体以上)
(5) オリゴクローナルIgG bandが陰性

NMOを最初に報告したと考えられているのは、日本人です。青山胤通氏による「急性脊髄炎に黒内障を併発したるものの一験 (注:現代語に翻訳しました)」という論文で1891年の東京医学会雑誌 (5巻) に掲載されたそうです。1894年に Devicも報告したのですが、Devicの報告には病理も報告されていたため、Devic病と呼ばれるようになったという経緯があると聞きました。Devicの報告は、「神経内科」という雑誌の第1巻に全文訳が載っているらしいので、読んでみたいものです。

東北大学の先生で面白いことを考えた先生がおり、MSの脊髄病変の MRI (axial) を重ねてみたらしいのです。すると、NMOは中心管付近に病巣が集中したのに対し、いわゆる MSでは、そのような特徴は見られませんでした。

NMOは脊髄病変を有する MS全てを指すわけではありません。今回の藤原先生の発表では、NMOは「失明を至る視神経炎、3椎体以上の脊髄病変、特徴的脳病変、抗 AQP抗体」を有するもので、Spinal MSは「NMO以外で脊髄病変のあるもの」と述べていました。

治療にとって有用な話も紹介されました。抗AQP抗体陽性の場合、1年以内に 3割くらいが再発するため、再発予防にステロイド、免疫抑制剤、リツキサン (ただし超高額) を検討する必要があるということです。ステロイドは 10~15 mg/日以上で再発が少ないそうです。

質疑応答では、裏話も披露されました。MSに steroidが聞くかどうかという話です。MSガイドラインでは、steroidは再発予防に無効であるとされています。このことについて、藤原先生は、ガイドラインでステロイドの項を担当したのは藤原先生達で、「一部の症例で有効である」という一文を入れていたらしいのですが、関西の○○大学の先生達がその一文を削除したというのです。当日は○○大学の伏せ字の部分を述べていましたが、ここでは伏せておきます。今になって考えると、NMOには効くのだから、その一文は残しておくべきでしたね。現在のところ、NMOには効くが、いわゆる MSには evidenceがないということになっています。

昔、私の郡山時代のボスが、ある勉強会で、「どう考えても MSでステロイド依存性な患者がいる」と MSの専門家に質問し、MS専門家は「それは MSじゃないんだと思います」と答えていましたが、今になって考えると、それはNMOだったのかもしれませんね。

NMOは従来の MSと別に扱うべき問題かもしれません。ステロイドが有効であったり、抗 AQP4抗体が陽性だったり、臨床的特徴も異なります。新しいトピックスといえるでしょうね。

そういえば、ジャクリーヌ・デュ・プレという有名なチェリストがいました。彼女は多発性硬化症で亡くなっています。私もそれを扱った映画を見ましたが、デュ・プレの病状経過について、あまり得られる情報は多くありませんでした。

こうした難病を治療していると、限られた治療選択肢しか与えられない中、もっと研究が進まないといけないと思うのですが、どうも一般の日本人は研究に対する評価が低いようです。臨床の激務の中、身を削って研究している研究者達に頭が下がります。そうした方達はもっと評価されても良いのではないかと思います。


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