第7回抄読会

By , 2007年11月4日 10:44 AM

10月16日に第7回抄読会を行いました。

末梢病理に進んだ K先生は、趣向を変えて、Parkinson病での視床下核の movement-related potentialについて調べてきました (Paradiso G, et al. Involvement of human subthalamic nucleus in movement preparation. Neurology 61: 1538-1545, 2003)。深部脳刺激 (DBS) の電極と頭皮に置かれた電極で、運動前の運動関連電位を測定しました。肝心の内容は、私には難しくて良く理解できませんでした。

私は、耳鳴り関する論文を一本読みました。耳鳴りで悩んでおられるかたは結構多く、なかなか有効な治療がありません。耳鼻科で「診察上、耳には異常ありません。」と言われ、神経内科を受診する患者が時々います。しかし、脳に異常を指摘できた試しがありません。

「耳鼻科で治らない耳鳴り」が神経内科で治るとも思えないのですが、何もしないわけにはいかず、Try and errorを繰り返す訳です。しかし、ストミンやイソバイドといった薬剤は既に耳鼻科で処方されていて、薬剤の選択肢もなく、「耳鳴りで眠れない」主訴に対して、睡眠薬を処方するくらいです。何とか治療手段がないか、論文を探してみました。

Alpini D, et al. Tinnitus: Pharmacological Topodiagnosis. Int Tinnitus J, 10: 91-93, 2004

Abstract:
主観的な耳鳴りの発生源を正確に突き止めることが困難なのはよく知られている。もし末梢性か、単に中枢性 (あるいは両方) ということならば、病歴と、昔からある聴力検査は、耳鳴りの発生源をしばしば示唆することが出来る。それゆえ、Risey, Denkや Shulmanといった著者達は、耳鳴りの発生源を同定するのに、適切な薬物療法に対する反応を患者に報告させ、評価することを最近提案している。われわれの研究は、耳鳴りの局所診断に有用な方法を紹介し、それらは症状の特徴 (うるささ (annoyance)、音程の高低 (pitch)、音量 (loudness)、聴覚過敏 (hyperacusis)) を評価する特殊な聴力検査と、薬物試験から成る。耳鳴検査における薬理的効果の見地から、いくつかの薬物が組み合わせるだろう。

Subjective idiopathic tinnitusの発生源が今回のテーマです。前半は、耳鳴りの定量評価法のため、割愛。後半は、各種薬剤による耳鳴り発生源の同定法が述べられていました。これの何に期待できるかというと、発生源同定法に用いる薬剤を処方をすると、耳鳴りを軽減させられるかもしれないということです。

薬剤を用いた耳鳴り発生源同定法
・Frosemide test
フロセミド試験は、1995年 Risey 、2000年Risey and Guthにより報告された。フロセミドはHenleの係蹄のイオン交換に作用する強力な利尿剤である。この薬剤は、蝸牛の神経電位に作用するとされている。それ故、フロセミド試験で陽性であれば、蝸牛由来の耳鳴りであることを示唆する。この検査では、500 mgのフロセミドと 500 mlの生理食塩水を緩徐に投与する。主な副作用は低血圧、眠気、回転性眩暈である。
・Caroverine test
カロベリン試験は、1997年に Denkらにより提案された。カロベリンは、特異的グルタミン酸拮抗薬で、細胞神経接合部 (cytoneural synapses) に、パパベリン様作用を示す。陽性であれば、シナプス障害を表す。カロベリンの代わりに硫酸マグネシウムも使用可能である。硫酸マグネシウムは強いグルタミン酸拮抗薬として作用し、主な副作用は単に軽い回転性眩暈のみである。この試験は、カロベリンアンプル2筒を生理食塩水 250 mlに入れて投与する。主な副作用は、回転性めまい、混迷、頭痛、吐き気である。
・Amantadine test
アマンタジンは非選択的グルタミン酸及びアスパラギン酸 (N-methyl-D-aspartate) 拮抗薬である。陽性であれば、カロベリン試験の結果の追認となり、アマンタジン投与による治療のチャンスが与えられる。100 mgの量を 1日 2回投与する。主な副作用は、不眠、混迷、振戦である。
・Carbamazepine
カルバマゼピン試験は、Shulmanらによる中枢性耳鳴りに関する実験に基づいている。カルバマゼピンは神経膜に働く抗てんかん薬である。それ故、カルバマゼピン試験陽性であることは、中枢性耳鳴りであることを示唆する。400 mgを 1日 1回内服する。主な副作用は、回転性めまい、混迷、失調、消化器症状である。

こんなクリアカットに行くわけがないでしょうし、上記の検査で耳鳴りの原因を確実に断言することは出来ません。しかし、薬に対する反応は、治療に応用出来ます。著者らが提唱する耳鳴りの発生源を同定する方法は、これらの検査を次のように組み合わせて総合的に判断します。著者らのアルゴリズムでは、まず最初に Frosemide testを行います。Frosemide test陽性の場合 Carverine testを行い、陰性ならば Cochelar disease。Carverine test陽性ならば Amantadine-magnesium sulphate testを行います。これが陽性ならば Synaptic dysfunction、陰性ならば No synaptic dysfunction。Frosemide test陰性の場合 Carbamazepine testを行います。陽性ならば Central involvement、陰性ならば idiopathic tinnitusです。

非常にユニークではあるのですが、感度、特異度の考察がなく、どの程度有効かの評価はされていません。まだ、説の段階です。それに、フロセミドは強力な利尿薬で、この投与量だと、量的にかなり危険に思えます。原因不明の耳鳴りの患者全てに適用するにはムリがあるでしょう。

私が興味を持ったのは、カルバマゼピンです。私は耳鼻科で原因不明とされた耳鳴り患者 3名に使用して、今のところ 1名が少し耳鳴りが和らいだように感じました。量が多いとふらつきがでることがありますが、それ以外の副作用の頻度は低いように思います。文献の投与量は少し多いので、私は 100 mgをそれぞれ朝夕に処方するようにしています。アマンタジンは、もともとインフルエンザ Aの治療薬で、パーキンソン症候群でも用います。副作用に割と幻覚が出るので、高齢者には特に使いづらいところです。

何にせよ、耳鳴りの治療は難しく、Try and Errorの連続で悩まされます。5-6件耳鼻科を廻って神経内科を受診してくる患者を何人も診ていると、良い治療法がないものかなぁと思います。健康食品や怪しげな民間治療にすがって、大金を投じる患者も多いようです。

ついで、もう一本簡単な論文を読んで紹介しました。ガドリニウムという MRIで用いる造影剤の副作用について、最近報告が増しているものがあります。MRIの造影剤は、基本的には安全に検査を終了出来ることがほとんどですが、医療従事者にとって、副作用は常に起こると思っていないといけません。造影剤を用いるのは、riskに対して benefitが上回る時のみですので、riskを承知で行うことになるのですが、その riskについての情報には常に気を配っていないといけません。最近話題になっている副作用、Gadolinium-induced nephrogenic systemic fibrosisです。

Rodby RA. Gadolinium-induced nephrogenic systemic fibrosis in patients with kidney disease. Am J Med 120: 561-562, 2007

・Gadolinium-induced nephrogenic systemic fibrosisとは、慢性腎不全などで見られる原因不明の疾患である。しばしば運動制限を伴うよう皮膚の線維化が見られ、肝臓、心臓、肺、横隔膜、骨格筋など全身への波及が報告されている。
・1997年に最初の報告があり、現在までに 200例以上の報告がある。
・患者の 90%は透析患者である。
・透析に移行していない慢性腎不全の患者や、急性腎障害の患者でも報告がある。
・(Gadoliniumは通常キレート剤と配合されて製品化されているが)、freeのGadoliniumが線維化組織で見られ、病因となっているかもしれない。
・高用量の Gadoliniumはリスクを高める。
・stage 4 or 5の腎障害 (GFR 30 ml/min以下) では、Gadoliniumの腎からの排泄がとても遅れる。
・Gadoliniumの 95%を取り除くのに 3回の透析が必要である。
・Gadolinium-induced nephrogenic systemic fibrosisの多くは gadodiamide (オムニスキャン) によるものである。
・gadodiamideは他のキレート配合剤と比べて不安定である。
・リスクの高い患者では、gadodiamideは避けるべきである。
・ヨード製剤による腎障害は可逆的で、Gadolinium-induced nephrogenic systemic fibrosisは不可逆なので、Gadoliniumでリスクがある患者には、ヨード製剤+透析という選択肢の方が良い。
・どうしても腎不全の患者に Gadoliniumを使用しなければいけないときは、出来るだけ少量で使用し、造影直後と翌日に透析を行うことが勧められる。

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