テンポ

By , 2008年1月12日 8:51 PM

String」という雑誌があり、定期購読をしています。弦楽器を中心とした音楽雑誌です。他の音楽雑誌と違うのは、楽器演奏者を読者としてターゲットにしていることです。

これまでヒロ・クロサキ、アーロンロザンドやアルバン・ベルク弦楽四重奏団のメンバーなどへの興味深いインタビューに加え、シモン・ゴールドベルクの誌上レッスン、N響永峰氏のユーモアたっぷりの裏話など、楽しませて頂いていました。

昔に比べると、引きつける記事が減ったように感じますが、最近また興味深い特集が組まれていました。

早川正昭氏への「”テンポ”が遅くなっている」というインタビューです。早川氏は同誌に「アンサンブルの泉」という連載を毎月されています。

今回は、テンポについての話です。色々とネタは尽きないのですが、ベートーヴェンのテンポについて解説した部分を紹介してみましょう。

まず、ベートーヴェンのシンフォニーのLPと放送されたものを録音したりして、とにかくベートーヴェンのシンフォニーの録音をできるだけたくさん集めたんです。そして、演奏時代順にテンポを比べてみたんです。そうしてグラフにしてみたんです。そうすると、現代に近づくほど、だんだんテンポが遅くなるんですね。

それで、そのグラフを点でつなぎ、ワインガルトナーの『提言』で書かれているベートーヴェンのテンポの値とつなぎ、ずっと過去にまっすぐ伸ばしていくと、ベートーヴェンの時代の時点で、彼が書いたメトロノームのテンポとぴったり合ったんです。逆算してぴったり合ったので、これは大変なことだと思ったんです。それまでは、そういう意識が私にはまったくなかったんです。

それから、いろいろ調べ始めました。かつては、ベートーヴェンの書いたメトロノームのテンポはおかしい、という意見が大勢を占めていましたよね。演奏が不可能だということもあって、テンポ設定はおかしい、と言われていました。現在でもその意見はあります。その上、昔は今よりテンポが遅かったはずだ、ということを言う人も沢山いました。

でも、その統計を取ったときに、ベートーヴェンのテンポ設定は正しいのではないか、と思ったのです。そして、調べれば調べるほど、ベートーヴェンの時代の方が演奏テンポが速くて、ベートーヴェンの書いたテンポ設定は正にそのとおりだということにならざるを得ないんです。

(中略)

しかし、バロック時代、一番速く弾く場合、器楽も声楽も同じなんですが、一秒間に十六個の音を演奏したそうです。

そのデータをもとに計算すると、ベートーヴェンの八番の四楽章のテンポ設定は全音符が84とベートーヴェンは書いていますが、80ならばバロック時代の演奏家は演奏できるはずなんです。

ベートーヴェンが84と書いたのは、バロック時代の演奏が進歩して84でも弾けるようになったから、そのように書いたのか、あるいは、ベートーヴェンが将来もっと演奏家が進歩して、それくらいのテンポでも弾けるだろうと考えて書いたのか、そのどちらかだと思うんです。

古い録音として、フルトベングラーの第九などを聴くと「あー、遅いなぁ」と感じるので、中には例外もあるのでしょうけれども、一般的には、時代と共にテンポは遅くなる傾向にあるようです。早川氏は、別のところで、「テンポは 100年間で 7%ずつ遅くなっていっている」と指摘していました。ただし、最近は古楽器ブームの影響を受けてか、特にバロック~古典派の音楽はテンポが速くなった印象があります。

何故テンポが速くなっていくかについてはですが、私は「大指揮者が年を取って反射神経が鈍くなって、テンポがゆっくりになっていき、周りがその影響を受けるのでは・・・」などと考えてみたのですが、早川氏は「一つ一つの音を大切にし、この音は良い音だから、しっかり聴いてほしい、ということで演奏していくと、テンポは自然と遅くなっていきますよね。」と述べています。

ベートーヴェンが、実際にどう考えていたかを、早川氏が推測しています。

 ベートーヴェンというのは、テンポというのは、だんだん速くなる、と思っていた節があるんです。

というのは、皆上手くなってくるだろう。だいたい誰でも個人的に上手くなっていくから、社会全体もだんだん伸びるだろう、と思っていた節があるんです。

それは、現代でもそうで、演奏というのはどんどん進化していくと皆、思っていますよ。

ベートーヴェンは晩年のハンマークラヴィーアの作品で、テンポをメトロノーム設定で書いて、自分でも弾いて、『このテンポで弾ける人はあと五十年くらい出てこないだろう』と言っているんです。

ということは、やはり彼は時代と共に演奏家は上手くなっていくだろうと思っていたんですね。だから、先読みしてテンポ設定をした可能性があるんです。

なるほどという感じです。確かに、昔と比べて、器楽演奏のレベルは上がっていると思います。「巨匠」といわれるレベルは別としてです。一般的には、メソッドの発達も大きいのでしょう。ヴァイオリンでは、パガニーニのカプリスやコンチェルトを音大生が弾く時代ですからね。

ベートーヴェン以外の作曲家についても、彼は語っています。

その頃の文献を調べると、とにかくテンポは皆速い。ベートーヴェンより少し後の時代を見ても、チェルニーやシューマンのテンポ設定は速くて弾けそうにないと思うものがあるんです。でも、当時は弾いていたと思うんです。

シューマンのトロイメライ、これは四分音符が 100なんです。これは勿論弾けないことはないテンポですが、現代で弾かれるようなテンポからすると相当に速く感じます。夢という雰囲気を出せるかどうか。

でも、シューマンはそのテンポでいいと思ったんでしょうね。ただ、クララが五十年くらい経ってから校訂版を出していますが、そこでは 80になっています。この 80のテンポだと雰囲気が出せないこともない、現代では 50か 60位のテンポが普通ですけどね。

我々の感覚からすると、80まではなんとか理解できますが、100になると納得できない、という感じですよね。でも当時はそのテンポだったわけです。トロイメライは組曲の中の一曲ですが、他の曲はもっと速いので、その中でテンポ100のトロイメライが出てくると、夢のような感じが出てくるのかもしれない。

ただ、そういうことが、現代の人にとって想像がつかないのは、無理がないことかもしれません。

そう聞くと、「トロイ・メライ」をテンポ別に聴き比べてみたい気がします。

私は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを色々な演奏家のCDで聴き比べることがあります。例えばスプリングソナタを例にとると、どうもテンポが遅い演奏は好きになれません。自分でも演奏してみて、「昔はもっとテンポが速かったはずだ」と一人で思っていたのですが、本当に今よりテンポが速かったかもしれませんね。

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