ウクライナのヴァイオリニストたち

By , 2022年2月27日 6:52 PM

2022年2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻しました。一方的な侵略行為で、国際世論からは厳しい批判の声が上がっています。病院付近にクラスター爆弾が打ち込まれたり砲弾にさらされる子供たちのインタビューが流れたり、報道を見るたびに気が滅入ります。あまりできることはないのですが、ささやかながらウクライナ大使館に募金をしました。このブログは政治的主張をする場ではないので、これ以上のことは書きません。代わりに、いかにウクライナの地が素晴らしいヴァイオリニストを生んできたかを書きたいと思います。特に、オデッサは巨匠を多く輩出しています。

ここでは、10名紹介します。全て、私がCDを持っている演奏家たちです。特に最初の6人は、巨匠として歴史的に名を残した有名なヴァイオリニストたちです。

ナタン・ミルシテイン

私が最も好きなヴァイオリニストの一人です。ウクライナのオデッサ出身で、アウアーの弟子となりました。曲の輪郭がくっきりと浮かびあがってくるような演奏に特徴を感じます。1953年のライブ録音には、学生時代何度涙を流したことか数え切れません。

同じくウクライナ出身のピアニストのホロヴィッツ、チェリストのピアティゴルスキーと共に三銃士と呼ばれました。この三人でアメリカに亡命した話は「ロシアから西欧へ―ミルスタイン回想録」という本に詳しく描かれています。今では手に入りくくなってしまいましたが、どこかで見かけたら、音楽ファンの方は是非読んでみるとよいと思います。

ミルシテインはパガニーニの24のカプリスを編曲して、「Paganiniana」という形で発表もしており、自作自演の録音が残されています。

・Nathan Milstein ‘Paganiniana’

バッハのシャコンヌも、彼の得意とした曲でした。

・Bach BWV 1004 Chaconne Nathan Milstein Violin – Complete

レオニード・コーガン

ウクライナのドニプロペトロウスク出身。ソ連ではオイストラフと並ぶ二大巨匠の一人として有名です。彼の演奏からは、一切の甘えを排除して音楽に向き合う厳しい姿勢を感じます。クリアな演奏が持ち味です。妻はエミール・ギレリスの妹で、ヴァイオリニストでした。夫婦共演の録音も残されています。

私はコーガンにはまっていた時期があり、サイン入りポスターのコピーを引き伸ばして部屋に飾っていました。Tritonというレーベルから30枚のCDが出ていますが、Yahoo!オークションでは、現在1枚あたり2万円以上の高値で取引されています。全30枚手元にもっているのがちょっとした自慢です。

パガニーニの難曲を演奏するコーガンはまるで鬼神のようです。

・Leonid Kogan – Paganini – Nel cor più non mi sento (HD)

ダヴィッド・オイストラフ

ウクライナのオデッサ出身。モスクワ音楽院で教鞭を取ると共に、数々の名演を残しました。ソ連を代表するヴァイオリニストでした。明るく温かみのある演奏で、私はオイストラフが太陽、コーガンが月、というような印象を持っていました。

息子のイーゴリもヴァイオリニストで、親子でバッハのドッペルコンチェルトを共演した録音が残されています。

・David Oistrakh & Igor Oistrakh – Bach Concerto for Two Violins in D minor (complete)

ミッシャ・エルマン

ウクライナのキエフ近郊の出身で、アウアー門下でした。エルマンといえば美音派として有名でしたが、残念ながら残された録音は技術的に衰えた晩年のものばかりで、全盛期の美音を聴くことはできません。

・Mischa Elman plays Massenet Meditation from Thais 1962

トーシャ・ザイデル

ウクライナのオデッサ生まれで、アウアー門下。演奏としてはあまり印象に残るものはありませんが、ヴァイオリニストの江藤俊哉氏の名前が、トーシャに由来するというのが、有名な話です。

・Toscha Seidel (violin) – Zigeunerweisen (Sarasate) (1918)

アイザック・スターン

ウクライナ西部のクレメネツ出身です。映画「屋根の上のヴァイオリン弾き」で演奏を務めたことでも有名です。日本の音楽界への影響力も強く、宮崎国際音楽祭の初代音楽監督も務めました。2000年に80歳記念音楽会がサントリーホールで開かれ、私も聴きに行きました (舞台上で共演者たちが Happy birthdayを演奏していたくらいしか覚えていませんが・・・)。演奏は割とオーソドックスだったように思います。

・Isaac Stern playing Bach’s Chaconne in D minor for solo violin Single File

ユリアン・シトコヴェツキー

ウクライナのキエフ生まれ。私は The art of Sitkovetskyという数枚組のCDを持っていました。

バッハのゴルトベルク変奏曲を弦楽器用に編曲して演奏するなどした有名なヴァイオリニスト、ドミトリー・シトコヴェツキーは彼の息子です。

・Yulian Sitkovetsky plays La Campanella by Paganini

オレグ・クリサ

ウクライナのウハネ生まれ、リヴィウ育ち。何枚かCD持っていましたが、あまり印象に残っていない・・・ (すみません)。

・JOHANNES BRAHMS. Sonata for Violin and Piano No. 3, in D minor, op. 108

ヴィクトル・ピカイゼン

ウクライナのキエフ生まれ。CDは持っていましたが、あまり印象に残っていない・・・(すみません)。

・Violin Concerto in D major

アナスタシア・チェボタリョーワ

ウクライナのオデッサ生まれ。チャイコフスキーコンクールで最高位を収め、岡山県の作陽音楽大学でも教鞭を取りました。アイスクリームのCMで、お馴染みかもしれません。

・アナスタシア・チェボタリョーワ AYA 明治乳業 彩

彼女はロシア音楽を得意としていて、 ロシア民謡を何曲か録音しています。

・Anastasia Chebotareva – Two Guitars / Две Гитары

名著「二十世紀の名ヴァイオリニスト」が手元にあれば、もう少しましな文章が書けたのですが、2021年の大地震で家族が本の下敷きになって死にかけてから、めぼしい本は全て貸倉庫に送ってしまいました。もし、他にもウクライナ出身で有名なヴァイオリニストがいましたら、コメント欄で教えてください。

#NoWarInUkraine #StandWithUkraine

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COVID-19の頭部画像

By , 2021年2月25日 10:34 PM

抄読会で、COVID-19の頭部MRIについての論文を数本読みました。参考までに、資料をアップしておきます。

COVID-19の頭部MRI画像

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地震

By , 2021年2月25日 10:29 PM

2021年2月13日23時8分に福島で震度6強の地震がありました。東日本大震災の余震だと言われています。私が住んでいる地域は、震度6弱でしたが、それでもかなり揺れました。住んでいるマンションは一部壁が崩落し、自宅も壁にヒビがたくさん入りました。

地震発生当時、妻は寝室にいて、私はリビングでした。本棚がいくつか倒れ、妻は下敷きになりかけました。キッチンも大変なことになっていて、電子レンジが棚から落下し、マイクロウェーブが漏れるようになったので、後日買い替えになりました (悲しいことに、落下って保証が利かないんですね)。結構皿も割れました。鍋料理を終えた後だったのですが、鍋の最中だったら熱湯を浴びていたと思うとゾッとします。

電子レンジが転落しています (手前)。冷蔵庫、食器棚ともに、右側の壁沿って配置していたのが、左側に飛び出してきました。

調味料も落ちて割れました。

地震直後、妻は寝室 (子供を私に託して一人でくつろいでいました) から飛び出してきて、悲鳴を上げながらリビングの机の下に潜り、私はソファーの上で揺れが収まるのを待っていました。妻が潜った机の方に向けて、棚からウイスキーの瓶が降り注ぎましたので、下に潜っていなかったら危なかったでしょうね。幸い、娘は荷物の少ない和室で寝ていたので、危険な目には合いませんでした。猫がなかなか見当たらなくて、私はガラスが散らばる中探しに行って、指を切りました。酔っていたせいか、アドレナリンが出ていたせいか、血まみれになっているのに気が付きませんでした。猫は寝室のベッドの下に潜り込んでいて、様子を探りに出てきたところを妻が発見し、なんとか確保できました。

リビングです。棚が開いて、中から様々なものが落下してきています。

寝室です。本棚は手前に倒れていましたが、不安定で危ないので、猫を探すときにベッドの上に上げました。この奥に猫が隠れていました。

地震後数日はエレベーターが止まり、高層階まで階段だったのは大変でした。被害の小さい家も多かったようで、ドラッグストアは全然品切れになっていなくて、当面の水や娘のレトルト食品などをスムーズに買うことができました。10 kgくらいの荷物を持って階段を上るのは大変でしたが・・・。

現在は、私の書斎と寝室を除き、なんとか復旧しつつあります。本棚の危険性に気がついたので、本を断捨離して、残った本を収める本棚はきちんと壁に固定することにします。小さい余震は数日続きましたが、最近やっとそれもおさまってきました。

約3000~4000枚のCDが書斎にありましたが、棚が倒れて廊下にまで広がっています。ジャケットはかなり割れていました。

廊下です。左が書斎、右が寝室です。右端に倒れた本棚が見えます。

書斎です。本とCDで足の踏み場もありません。音楽家の写真を額に入れて飾っていたのですが、それらが割れて、ガラスの破片が混ざっています。

以上、近況報告でした。家族全員無事で本当に良かった。

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娘の誕生

By , 2020年5月23日 5:50 PM

2020年5月23日6時30分頃、娘が生まれました。40週5日での出産で、身長 51.5 cmに対し、3532 gと大きめです。

妊娠がわかって以降、土曜日に空いているクリニックを選び、毎回受診は付き添ってきました。ただ、つわりがひどくて、グレープフルーツジュース以外、水も食べ物も受け付けなくなってしまいました。尿中ケトンが3+のこともありました。聞くところによると、この状態では入院することもあるらしいのですが、主治医からそんな話も出ず、私が自宅でカーテンレールからぶら下げた輸液を点滴することも何度かありました。まさに「家庭医療」です。あとは、片頭痛も悪化し、それで吐くこともありました。片頭痛は妊娠初期に悪化し、後期に改善すると論文では読みますが、まさにそんな感じでした。

つわりは20週以降も続きましたが、グレープフルーツジュースから炭酸水に嗜好が変わった頃から、少しずつ食べられるものが出てきて、30週以降は割と普通に食べていました (とはいっても、妊婦なので生ものとかは避けていましたが)。つわりのおかげで、体重は妊娠前より減っていたようです。まさに妊娠ダイエット。妊娠週数がある程度すすんでからは、自宅近くの総合病院に通院となりましたが、有給を使ったりして受診には付き添っていました。しかし、新型コロナウイルスが流行するようになり、付添禁止に。院内感染を防ぐためには仕方のないことです。

5月5日に診察があり、5月6日に性器出血があり、「おしるしじゃないか」と騒いでいたら、内診による出血だったようです。ただ、その時の内診で子宮口が 3-4 cmに開いていたし、たまに腹痛もあったので、いつ生まれても良いようにという体制はとっていました。この頃から、たまに陣痛らしき腹痛があり、今か今かと待っていて、結構焦らされている気分でした。

5月22日の夜はいつもと雰囲気が違って、おしるしの量も多いし、この日かなというのはありました (とはいっても、数日前から連日夜間に陣痛があり、ずっと「今夜かな」とは思っていました)。5月23日午前2時過ぎに陣痛が10分間隔1時間となり、病院から連絡するように言われた基準を満たしたので、連絡した上で救急外来に行きました。破水もしていないし、病院まで 300 mくらいなので、徒歩にしましたが、あいにくの雨でした。午前3時に病院に着いて、迎えに来た助産師と病棟に上がり、新型コロナウイルス対策で待合室待機となった私は、10分くらいして帰るように指示されました。妻とはLINEで連絡を取り合っていましたが、文章が「痛い痛い」しかなくなり、やがてそれすら来なくなりました。妻によると、痛くてLINEできなくなったそうです。職業柄、厳しい事例ばかり耳に入ってきますが、なにはともあれ、母子ともに無事で良かったです。面会禁止なので、退院日に初めて会える予定です。今から楽しみです。

妻と娘は約5日間入院予定で、どうせ会いにも行けないので、自宅で羽根を伸ばすつもりです。ただ、妻からのLINEがひっきりなくて、携帯電話が手放せない・・・。

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COVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群②

By , 2020年5月15日 8:55 AM

2020年5月2日に書いたCOVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群の続きです。

COVID-19 presenting with ophthalmoparesis from cranial nerve palsy. (Neurology. 5.1 published online)

症例1: 36歳男性、先天性の斜視の既往がある。左眼瞼下垂、複視、両側下肢遠位の感覚障害が出現した。4日前に熱っぽさ、咳、筋痛があり、それらは改善していた。診察では、左散瞳、軽度の眼瞼下垂、内転および下転制限があり、部分的な左眼球運動麻痺の所見だった。外転制限は両側性で、両側外転神経麻痺に合致していた。下肢腱反射低下、感覚鈍麻、歩行失調がみられた。鼻スワブでSARS-CoV-2陽性だった。MRIでは左動眼神経に造影効果、T2強調像高信号、腫大がみられた。Miller Fisher症候群を疑われて免疫グロブリン大量投与 (2 g/kg 3日間) を投与され、またヒドロキシクロロキンが用いられた。症状は入院3日後の退院前に部分的に改善していた。抗ガングリオシド抗体は陰性だった。

症例2: 71歳女性、高血圧症の既往がある。2日前の起床時に疼痛を伴わない複視と、右眼の外転困難が出現した。視力、瞳孔、眼底には異常がなかった。彼女は数日続く咳と発熱があることを述べた。救急外来では、発熱と低酸素血症があった。髄液検査は正常だった。MRIでは視神経鞘とTenon嚢後部の造影効果がみられた。胸部画像では、両側に陰影があった。鼻スワブでのSAR-CoV-2 PCRが陽性だった。COVID-19肺炎はヒドロキシクロロキンで治療した。外転麻痺は入院6日後の退院までには大きな改善はなかった。退院2週間後の電話での聞き取りでは、徐々に良くなっているとのことだった。

症例1について著者らも考察している通り、Guillain-Barre症候群やFisher症候群の可能性はあるけれど、感染から発症まで数日しかないので、ウイルスの直接浸潤の可能性も残る所です。

Guillain-Barre syndrome during SARS-CoV-2 pandemic: a case report and review of recent literature. (J Peripher Nerv Syst. 2020.5.10 published online)

症例:54歳女性、特記すべき既往歴なし。2020年4月に急性、近位筋に目立つ、中等度の対称性麻痺 (MRC 下肢近位筋3/5、遠位筋4/5) で入院した。腱反射消失、四肢しびれ感やチクチク感も伴っていた。これらの症状は口腔咽頭のCOVID-19 RT-PCR陽性の3週間後から始まり、入院の時点で既に10日間進行していた。RT-PCRは濃厚接触者として行われたものだった。彼女は発熱や呼吸器、消化器症状はなかったが、Guillai-Barre症候群の症状が出る2周間前に、一過性の嗅覚、味覚障害を自覚していた。mEGOSは入院時3/9, 入院7日目に1/12だったため、予後が良好であることを示していた。新たに行った鼻咽頭のウイルス検査は陰性だった。髄液は細胞数正常、蛋白 140 g/lと蛋白細胞解離を認めた。入院時の神経伝導検査では、遠位潜時の著明な延長と、両総腓骨神経CMAPのtemporal dispersionを認めた。脛骨神経刺激で、両側に複合A波はあったがF波潜時は正常だった。その他の神経は正常だった。筋電図では、脱神経電位はなかった。AIDPと診断した。入院2日後に、四肢筋力低下の悪化があり、嚥下障害も訴えた。免疫グロブリン大量投与を受け、ほぼ完全に回復した。入院14日後に電気生理検査を再検したが、前回と著変はなかった。

典型的なGuillain-Barre症候群と思います。既報と比べて特記すべきことはありません。抗ガングリオシド抗体はどうだったのでしょうね。それほど頻度が高いわけではないでしょうが、Guillain-Barre症候群の報告は珍しくなくなてきた気がします。

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COVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎②

By , 2020年5月15日 8:51 AM

2020年5月2日に書いたCOVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎の続きです。

Neurological Complications of Coronavirus Disease (COVID-19): Encephalopathy. (Cureus. 2020.3.21 published online)

症例は74歳男性、心房細動、心原性脳塞栓症、パーキンソン病、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、蜂窩織炎の既往がある。患者は、発熱、咳で救急外来を受診したが、COPDの増悪を疑われて帰宅した。しかし、24時間以内に、頭痛、精神症状、発熱、咳といった症状の増悪で再診した。患者はオランダから米国について7日後であったが、精査のため入院した。胸部画像検査ではすりガラス陰影がみられた。精神症状が数日間続くため、神経内科に紹介された。指示理解は不良だったが、四肢は動かし、刺激への反応もあった。頭部CTは陳旧性の病変のみで、急性期病変はなかった。左側頭葉に陳旧性梗塞による脳軟化があった (論文本文では左、図の説明では右と記載。図のCT写真に左右を示すマークはない)。脳波は全体的に徐波で左側頭葉に鋭波を伴う局所的な徐波を認めた。脳軟化に伴う潜在的なseizureの可能性と、右側頭葉 (論文本文では右、図の説明では左側頭葉) のてんかん波があることから、抗てんかん薬が開始された。髄液細胞数増多はなく、蛋白は68だった。症状が進行し、COVID-19の検査は陽性だった (どこから検体を採取したかは記載なし)。呼吸不全を発症し、挿管された。予後は不良と考えられる。

左右を取り違えたような記載が数カ所あり、またどこから採取した検体でCOVID-19を調べたのかも記載がありません。彼らが根拠とする脳波所見も、既存の陳旧性脳梗塞巣による遅発性てんかんの可能性が残り、脳症と断定はできないと思います。読んでモヤモヤする論文でした。

Transient cortical blindness in COVID-19 pneumonia; a PRES-like syndrome: Case report. (J Neurol Sci. 2020.4.8 published online)

38歳男性、5日間続く発熱で入院。胸部CTですりガラス陰影があり、鼻咽頭スワブでのSARS-CoV-2 RT-PCR陽性だった。入院し、ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシン、オセルタミビルで治療した。呼吸機能が悪化し、ICUに入室した。ICU入室5日目、急性錯乱状態となった。血圧高値も数時間続いた。同時に、患者は両眼の視力低下を訴えた。神経学的には、アパシーがあり、指示理解が不良だった。瞳孔は両側2 mmで対光反射は正常だった。両眼視力は高度低下し、手動弁や光覚弁レベルだった。頭部MRIでは左優位の両側後頭葉、前頭葉皮質下白質、及び脳梁膨大部にT2強調像/FLAIR/拡散強調像高信号を認め、PRES (posterior reversible leucoencephalopathy) が示唆された。ヒドロキシクロロキンを中止し、デキサメサゾン 24 mg/dayを開始した。ステロイド2回目の投与で、患者は指示に従えるようになり、視力も完全に回復した。ステロイドは漸減中止した。2週間後に行われた頭部MRIでは病変は完全に改善した。

COVID-19に合併したPRESの報告。論文の考察ではPRESとなった原因は不明で片付けていますが、全身性の炎症、ヒドロキシクロロキンによる薬剤性といった可能性が気になるところです。SARS-CoV-2に合併した中枢神経障害では、ウイルスによる直接浸潤、自己免疫学的機序以外にもこうした病態も考えないといけないのですね。

Lessons of the month 1: A case of rhombencephalitis as a rare complication of acute COVID-19 infection. (Clin Med (Lond). 2020.5.5 published online)

症例:40歳男性。高血圧症と閉塞隅角緑内障の既往がある。発熱や進行性の呼吸苦が10日間あり、3日間の咳、喀痰、下痢があった。受診時、神経学的異常所見はなかった。胸部画像検査では右下肺にconsolidationがあった。上気道 (鼻/咽頭) のスワブを用いたPCRでSARS-CoV-2が検出された。患者は入院3日目に歩行障害を訴えた。その後24時間で、複視、動揺視、四肢失調、右上肢感覚障害、吃逆、飲食時の流涎が出現した。神経学的には、軽度の両側顔面麻痺、両側への舌運動障害、右への舌偏倚、全方向で上向き眼振、右優位の上肢 (軽度) と下肢 (中等度) の失調がみられた。緊急MRIで、脳幹~頸髄に異常がみられ、脳幹脳炎/脊髄炎と診断した。髄液検査では細胞数増多や蛋白上昇はなかった。髄液採取量が少なかったので、SARS-CoV-2 PCRは行えなかった。抗MOG抗体と抗アクアポリン4抗体は結果未着である。この患者は急性発症の肝障害も合併していた。しかし、神経症状も肝障害も徐々に改善し、11日後に退院した。ガバペンチンで多少吃逆は改善したが、眼振と動揺視、失調は残存した。

MRI

髄液でのSARS-CoV-2 PCRが出来ていないのが残念で結果が気になります。コロナウイルスは脳幹にも到達しやすいと考えられるので、ウイルスによる炎症でも不思議はないですが、自己免疫学的機序という可能性も残ります。論文の考察に山梨大学のCOVID-19髄膜炎に言及されていましたが、論文著者は「武漢からの報告」と記していて、誤解がありそうでした。

SARS-CoV-2 can induce brain and spine demyelinating lesions. (Acta Neurochir (Wien). 2020.5.4 published online)

54歳女性、前交通動脈瘤の外科的治療歴がある。自宅で意識障害を発症した。病院到着時、GCS12 (E3M6V3) で、局所神経脱落症状はなかった。頭部CTで異常なく、SARS-CoV-2のRT-PCRが陽性だった (※採取部位の記載はないが、後に髄液で調べているので、おそらく今回は鼻咽頭スワブ)。数時間で臨床的に悪化し、挿管された。脳波では右前頭側頭葉から始まり、対側大脳半球に広がる2つのseizureが観察された。ラコサミド、レベチラセタム、フェニトインで治療した。頭部MRIでは、脳室周囲白質に拡散強調像の異常や造影効果を伴わないT2強調像異常信号を認めた。同様の病変が、延髄移行部と頸髄背側にみられた。多発性硬化症精査のための検査では異常なかった。髄液SARS-CoV-2は陰性だった。デキサメサゾン 20 mg/dayを10日間、10 mg/dayを10日間投与し、肺病変は急速に改善した。7日目に気管切開し、15日後に呼吸器の離脱が行われた。

MRI

多発性硬化症を除外したとしていますが具体的にどこまでやって除外したのか、視神経脊髄炎関連疾患の抗体は測定しているのかなどの記載がないのが気になります。あと、本文では頭部MRIについてT2強調像と拡散強調像、造影検査についての記載のみなのに、掲載された図にはFLAIRしか載っていないので、本文に記載されたモダリティーの画像も見たかったです。ステロイド治療で画像や神経所見がどう改善したかも知りたいです。

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COVID-19と脳卒中②

By , 2020年5月15日 8:50 AM

2020年5月2日に書いたCOVID-19と脳卒中の続きです。

COVID-19 presenting as stroke. (Brain Behav Immun. 2020.4.28 published online)

カルテを用いて脳卒中を呈したCOVID-19を調べた。

症例1: 73歳男性、高血圧症、高脂血症、頸動脈狭窄の既往がある。発熱、呼吸困難、精神症状で救急外来を受診した。COVID-19PCRが陽性だった。精神症状に対して、繰り返し頭部CTが撮像されたが、左後頭頭頂葉の皮髄境界が不鮮明であり、急性期梗塞の所見だった。繰り返しCTを撮像し、左中大脳動脈にhyperdense signあり。心房細動は見つかっていない。機能予後的に血栓溶解療法の適応なくアスピリンを投与した。緩和目的となり、最終的に抜管した。

症例2: 83歳女性、反復する尿路感染症、高血圧症、高脂血症、2型糖尿病、末梢神経障害の病歴がある発熱、顔面麻痺、構音障害、摂食障害で救急外来を受診。診察では、著明な左顔面麻痺と構音障害を認めた。NIHSS 2点だった。頭部CTでは明らかな急性期病変なく、CT血管撮影では右中大脳動脈に軽度の狭窄を認めるのみだった。COVID-19 PCRが陽性だった。入院3日目に左半側無視、左片麻痺を伴う左顔面麻痺の悪化がみられ、NIHSS 16点となった。頭部CTでは、右前頭葉に梗塞巣が見られたが、状態が悪く血栓溶解療法は行われなかった。呼吸不全が急激に悪化し、すぐに治療を終了することを決めた。

症例3: 80歳女性、高血圧症の既往がある。精神症状と左片麻痺で受診した。NIHSSは36点だった。CTでは右中大脳動脈領域の梗塞があり、CT血管撮影では右内頚動脈起始部の狭窄と、偶発的に両側肺すりガラス陰影がみられた。COVID-19 PCRが陽性だった。採血では、D-dimer 13966 ng/mlと上昇し、LDH 712 U/l, CRP 16.24と上昇がみられた。入院3日目に緩和目的に抜管した。

症例4: 88歳女性、高血圧症、慢性腎臓病、高脂血症の既往がある。15分続く右上肢の筋力低下としびれ感、喚語困難があり救急外来を受診した。受診時には神経学的に正常で、CTでも急性期変化はなかった。一過性脳虚血発作の診断で入院したが、呼吸苦や咳が出現し、COVID-19 PCRを施行したら陽性だった。D-dimerは880 ng/mlから3442 ng/mlまで上昇した。MRIでは左側頭葉内側に梗塞巣があり、MRAでは右M1に軽度狭窄を認めた。不整脈は見つからなかった。アスピリン、スタチンで治療され、イベントモニターを付けて、リハビリに退院した。

脳卒中でCOVID-19を発症した報告です。採血データが揃っているのは患者3, 4だけですが、LDH, D-dimer, フェリチン、CRPがいずれも高値でした。これらの意義については、論文ではあまり考察されていませんが今後検討されるべきだと思います。また、呼吸器症状が出現する前に脳卒中を発症した症例 (症例4) でD-dimerが上昇しており、感染初期からD-dimer上昇する症例は注意が必要かもしれません。

本筋とは全く関係ありませんが、「症例1: The family eventually decided to pursue comfort measures and terminally extubated the patient. 症例2: Soon after, the family decided to withdraw care. 症例3: her family chose for terminal extubation with comfort measures.」という感じで、引き際の速さがさすがアメリカと感じました。あと、ニューヨークからの報告なのに、「Electrocardiogram (EKG) was within normal limits.」と書いてあって、心電図はECGではなく、ドイツ語での略EKG (Elektrokardiogramm) なんですね。

Characteristics of ischaemic stroke associated with COVID-19. (J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020.4.30 published online)

英国Queen Squareでの連続6症例 (2020年4月1~16日) の脳卒中の特徴。

症例1: 64歳男性、COVID-19発症10日目に呼吸不全となりICU入室。15日目に左上肢の麻痺と協調運動障害。MRIで左椎骨動脈閉塞と左後下小脳動脈領域の出血性梗塞。D-dimer >80000 ug/Lだった。19日目に両側肺塞栓症を発症し低分子ヘパリンで治療開始。。22日目に両側協調運動障害と右同名半盲が出現し、MRIでは後大脳動脈領域に広範な梗塞巣を認めた。

症例2: 53歳女性、心房細動の既往がありワルファリン内服中。COVID-19発症24日目に、錯乱、協調運動障害、傾眠があり、CTで左小脳と右頭頂後頭葉に梗塞巣がみられた。D-dimer 7750 ug/lであり、脳卒中発症時にINR 3.6だった。脳室ドレナージ、低分子ヘパリン投与したが、肺炎で死亡。

症例3: 85歳男性、COVID-19発症10日後に構音障害と右片麻痺を発症。心房細動、高血圧症、虚血性心疾患の既往あり。CTでは左後大脳動脈閉塞と梗塞を認めた。D-dimer 16100 ug/lだった。心房細動に対してアピキサバンで治療された。

症例4: 61歳男性、高血圧症、脳卒中の既往があり、肥満。構音障害と左片麻痺で発症。MRIで右線条体梗塞がみられた。D-dimer 27190 ug/lだった。入院2日後に呼吸器症状が出現し、SARS-CoV-2感染がRT-PCRで確認された。またCT肺血管撮影で血栓がみられた。低分子ヘパリンで治療された。

症例5: 83歳男性、高血圧症、糖尿病、虚血性心疾患の既往があり、大量喫煙、飲酒の生活歴がある。COVID-19発症15日後に、構音障害、左片麻痺が出現した。CT血管撮影では、右中大脳動脈M2近位部に、血栓性閉塞を認めた。翌日、梗塞は右島にもみられた。D-dimer 19450 ug/lだった。血栓溶解療法が行われた。

症例6: 70歳代男性、COVID-19発症8日目に失語、右半身麻痺が出現。MRIで脳底動脈閉塞、両側P2狭窄、多発脳梗塞 (右視床、左橋、右後頭葉、右小脳半球) を認めた。血栓溶解療法を受けた後、D-dimerは1080 ug/lだった。

・脳卒中の発症メカニズムはよくわかっていないが、COVID-19による脳卒中には特徴があるかもしれない。今回の症例は全例大血管の梗塞だった。3例は複数の血管領域であり、2例は抗凝固療法を行っていたにも関わらず発症した。2例は静脈血栓症も併発していた。5例はD-dimer > 7000 ug/lと高値 (既報の中央値は 900 ug/l) で、1例は血栓溶解療法後にもかかわらず1080 ug/lであった。6例中5例はCOVID-19発症8-24日後で、1例はCOVID-19の症状が出る前だった。

・COVID-19が抗リン脂質抗体の産生を促進し、それが虚血性脳卒中のメカニズムではないかという議論があるが、感染後の抗リン脂質抗体産生は通常一過性であり、血栓とは関連しない。6例中5例でループスアンチコアグラントが陽性で、1例は抗カルジオリピン抗体IgMが中等度、抗β2グリコプロテイン1のIgM/IgGが軽度陽性だった。抗リン脂質抗体はCOVID-19関連脳卒中のスクリーニングに合理的かもしれないが、病的意義はわかっていない。全例で、フェリチンとLDHが上昇していた。

・COVID-19でなぜ脳卒中を発症するかはわからないが、今回の知見からは、全身の高度の過凝固状態の中で起こっていることから、低分子ヘパリンによる抗凝固療法を直ちに行うことが支持される。初期からの抗凝固療法は、血栓塞栓症を減らすメリットがあるが、脳出血を増やすリスクもあり、臨床試験が必要である。

COVID-19による凝固異常とそれによる脳梗塞 (や肺梗塞) は以前から議論されているところです。この論文では、抗リン脂質抗体が全例測定されておりほとんどでループスアンチコアグラントが陽性だったことが興味深いです。抗凝固療法を要するCOVID-19のスクリーニングに、D-dimerや抗リン脂質抗体などのバイオマーカーを用いる選択肢は考慮されてもよいかと感じました (ただし、その裏付けとなる臨床研究は必要です)。

Status of SARS-CoV-2 in cerebrospinal fluid of patients with COVID-19 and stroke. (J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020.4.30 published online)

COVID-19と同時に神経症状を呈した2例

症例1: 31歳男性、既往歴なし。COVID-19の症状が1週間続いた。突然頭痛と意識障害を発症し他院受診。CTでクモ膜下出血の所見が確認された。意識状態は改善し、著者らの施設に入院。挿管、脳室ドレナージ、脳動脈瘤の治療をすることとなった。インフルエンザ様症状があったので、鼻スワブでCOVID-19検体が提出された。手術後2日目、COVID-19は陽性で戻ってきた。SARS-CoV-2関連脳炎の可能性も考え、脳室ドレナージから髄液検体を提出したが、RT-PCRは2回とも陰性だった。一方で鼻スワブは入院中複数回陽性だった。

症例2: 62歳女性、急性発症の失語と右片麻痺で、CT血管撮影で左中大脳動脈閉塞があり、機械的血栓除去が行われた。2020年3月下旬にリハビリ退院したが、10日後に精神症状とCTでのmidline shiftを伴う脳出血、閉塞性水頭症で戻ってきて、血腫除去術が行われた。意識障害のため抜管はされなかった。明らかな症状はなかったが、気管切開前の評価のため鼻スワブでCOVID-19を評価したところ陽性だった。脳室ドレナージから採取した髄液での評価は2回とも陰性だった。

COVID-19に感染しているからといって、髄膜炎や脳炎を起こしていなければ、髄液にSARS-CoV-2はいないのかもしれません。

前回紹介した論文と、今回紹介した論文を合わせると、次のことが言えそうです。

  • 頸動脈や中大脳動脈、椎骨脳底動脈など、太い血管の梗塞が多い
  • 肺塞栓症など静脈血栓症を合併することも多い
  • 高齢者に多いようだが、若年性脳卒中も問題となっている
  • 脳卒中は重症のCOVID-19に多い傾向がある
  • COVID-19の発熱や呼吸器症状が出る前に発症すること (脳卒中が初発症状) もあれば、COVID-19発症から8-24日くらいして発症することもある。
  • D-dimer高値のことが多く、過凝固を背景に発症している。
  • COVID-19に合併した脳卒中患者では抗リン脂質抗体が陽性のことも多い。その中でもループスアンチコアグラントが陽性になりやすい。ただし、病的意義はよくわかっていない (抗リン脂質抗体陽性は感染による一過性に出現したもので、血栓には関係ないという意見もあるが、私は一般的な感染での陽性としては頻度が高すぎるのではないかという感想を持つ。このウイルス特有の何か?)。
  • 他にCOVID-19関連脳卒中では、LDHやフェリチン高値が多い
  • 低分子ヘパリンで治療していて発症することもある。もっと早期から使用していれば・・・?どのように抗凝固療法を行えばよいかは、まだ未知の部分が多い。

これを踏まえると、D-dimerや抗リン脂質抗体 (特にループスアンチコアグラント)、LDHなどのバイオマーカーをチェックして、これらが異常の症例では抗凝固療法 (ヘパリンなど) を開始しておくというのが治療戦略になるかもしれません。ただ私の個人的な印象で、裏付けとなる研究が必要です。

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COVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群

By , 2020年5月2日 12:57 AM

COVID-19とGuillain-Barre症候群/Fisher症候群について、最近みかけた論文を備忘録に残しておきます。

Guillain-Barré syndrome associated with SARS-CoV-2 infection: causality or coincidence? (Lancet Neurol. 2020.4.1 published online)

症例は61歳女性。2020年1月19日に武漢から帰還。発熱や呼吸器症状などなし。1月23日から下肢筋力低下が出現し、四肢筋力低下に進行。神経伝導検査では脱髄を示唆。ギラン・バレー症候群の診断。蛋白細胞乖離あり。1月30日に発熱、咳があり、胸部CTで肺炎像確認。咽頭スワブでのRT-PCRでSARS-CoV-2陽性確認。治療は、Guillain-Barre症候群に対して免疫グロブリン大量静注療法、COVID-19に対してarbidol, lopinavir, and ritonavirが投与された。筋力、呼吸器症状とも改善した。

臨床経過に少し違和感があります。COVID-19感染からしばらくしてGuillain-Barre症候群発症なら納得できるけれど、この症例では神経症状が出てからCOVID-19の症状が出ているからです。ただ、その後に次々と出てきた報告を見ると、COVID-19がGuillain-Barre症候群を合併しうることはほぼ確実と思われます。

Guillain Barre syndrome associated with COVID-19 infection: A case report. (J Clin Neurosci, 2020.4.15 published online)

症例は65歳男性。急速進行性の四肢麻痺で入院した。患者は入院5日前から急速進行性の両下肢筋力低下があり、入院前日に四肢麻痺となった。両側顔面麻痺も伴っていた。入院2週間前に、咳、発熱、呼吸苦があり、鼻咽頭検体採取、胸部CTの後に、COVID-19と診断されていた。SARS-CoV-2 RT-PCRが陽性だったので、その時にヒドロキシクロロキン、ロピナビル/リトナビル、アジスロマイシンで治療されていた。基礎疾患には糖尿病がありメトホルミンを内服中であった。入院9日目におこなった電気生理検査では、CMAPが低下しており、SNAPは導出されなかった。患者の同意が得られず髄液検査はおこなわなかった。Guillain-Barre症候群のAMSAN (acute motor-sensory axonal neuropathy) と診断した。免疫グロブリン大量療法をおこなった。

イランからの報告です。Guillain-Barre症候群として典型的な経過だと思います。

Guillain-Barré Syndrome associated with SARS-CoV-2 infection. (IDcases, 2020.4.18 published online)

症例は54歳男性。2日間続く両下肢のしびれ感と筋力低下を自覚した。麻痺は進行し、寝たきりとなった。救急外来では、38.9℃の発熱があり、アモキシシリンやステロイドで改善せず10日持続する乾性咳嗽があった。彼は2日前にクロストリジウム・ディフィシルによる腸炎を2日前に発症したが、治療で改善した。喀痰からはライノウイルスが検出された。またSARS-CoV-2を提出した。著者らの病院に到着したとき、四肢筋力低下 (MMT 2-3程度) があり、腱反射は消失していた。Guillain-Barre症候群の診断で免疫グロブリン大量投与が行われた。著者らの病院でSARS-CoV-2が再検され、前医とともに陽性であることが判明した。ヒドロキシクロロキンが投与された。典型的な症例であり感染制御の観点から、筋電図や髄液検査は行わなかった。症状は改善し、免疫グロブリン投与4日目で人工呼吸器を離脱した。上肢筋力は良くなったが、下肢の筋力低下は残存し、リハビリテーションを継続した。

COVID-19を発症してから5-10日で出現した筋力低下であり、Guillain-Barre症候群として典型的な経過です。

Guillain-Barre syndrome associated with SARS-CoV-2 (N Engl J Med, 2020.4.19 published online)

5例報告。77歳女性、23歳男性、55歳男性、76歳男性、61歳男性。COVID-2019の症状が出てから5-10日後に発症。抗ガングリオシド抗体は3例で陰性、2例で未検。MRIでは神経根や脳神経の造影効果がみられた。全例髄液SARS-CoV-2のPCRは陰性。軸索型3例、脱髄型2例。治療はIVIg (1例で血漿交換追加) が行われ、4週間後の予後は、2例がICU、2例が神経症状のためリハビリ継続、1例が独歩退院。

臨床像

この報告をみると軸索型、脱髄型も同じくらい起こしうるのでしょうか。それぞれの臨床経過は、他の感染症に伴うGuillain-Barre症候群と比べて大きくは違わなさそうな印象です。これまでの症例で、抗ガングリオシド抗体が検出されたとの報告はなく、抗体との関連は気になる所です。

Miller Fisher syndrome and polyneuritis cranialis in COVID-2019 (Neurology, 2020.4.17 published online)

2例報告。眼筋麻痺を含む末梢神経障害。50歳男性、39歳男性。1例目は、2日間垂直性複視、口周囲のしびれ感、歩行障害で受診。受診5日前にCOVID-19の症状。抗GD1b抗体陽性。SARS-CoV-2のPCRは咽頭で陽性、髄液で陰性。IVIgで改善。2例目は複視で受診。3日前から下痢などCOVID-19の症状。SARS-CoV-2のPCRは咽頭で陽性、髄液で陰性。対症療法で帰宅し、telemedicineでの経過観察となった。そのため、抗ガングリオシド抗体は提出せず。1例目では抗体が検出されているので、ウイルスによる障害よりも免疫学的機序が想定される。Miller Fisher syndromeは抗GQ1b抗体が有名だが、抗GQ1b抗体陽性よりも、抗GD1b抗体陽性の方が回復は早いことが知られているとのこと。

Guillain-Barre症候群を起こすのなら、当然Fisher症候群も起こるのでしょう。抗GQ1b抗体ではなく、抗GD1b抗体だったというのが興味深いです。

Guillain-Barré syndrome following COVID-19: new infection, old complication? (J Neurol, 2020.4.24 published online)

症例は70歳女性。3月28日に、1日以内に進行する脱力感、四肢感覚障害、歩行障害で救急外来を紹介受診。彼女は3月4日に発熱 (38.5℃) の発熱、乾性咳嗽があり、1日後に鼻咽頭から採取した検体でSARS-CoV-2-RNAのRT-PCRが陽性だったが、それは数日で軽快していた。

救急外来では、胸部CTですりガラス陰影がみられたが、SpO2 98%で採血検査でも好中球優位の白血球増加のみであった。鼻咽頭のSARS-CoV-2-RNAを再検したが陰性だった。3月31日の髄液検査では、細胞数 1 /ulと正常範囲内で、蛋白48 mg/dlと軽度上昇していた。神経伝導検査が行われ、患者はGuillain-Barre症候群と診断された (神経伝導検査の結果をみると脱髄型 (AIDP) と考えられる)。免疫グロブリン大量静注療法が開始された。4月1日に挿管され、人工呼吸器管理となった。抗ガングリオシド抗体は検索されなかった。

とにかく早く報告することを意識していたのか、治療を開始したところで報告が終わっています。他の疾患の除外が不十分と考察されているが、臨床的にはGuillain-Barre症候群でほぼ間違いはないでしょう。

Guillain-Barre syndrome related to COVID-19 infection (Neurology, 2020.4.28 published online)

症例は71歳男性。亜急性の経過で四肢の感覚障害、次いで3日前から急速に進行する四肢遠位の弛緩性麻痺を発症し、救急外来に紹介されてきた。前の週に、彼は微熱が数日間続いていた。既往歴は高血圧症、腹部大動脈瘤、肺癌術後があったが、神経疾患はなかった。神経学的には、四肢筋力低下及び感覚障害、腱反射消失がみられた。室内気でPaO2 65 mmHgの低酸素血症があった。胸部CTではすりガラス影やconsolidationがあり、COVID-19に典型的だった。鼻咽頭ぬぐいでは、SARS-CoV-2が陽性だった。髄液は細胞数9 /ulと軽度の細胞数増多があり、蛋白 54 mg/dlと上昇していた。髄液のSARS-CoV-2は陰性だった。神経伝導検査を行い、脱髄型Guillain-Barre症候群と診断した。入院数時間後から免疫グロブリン大量静注療法を行った。非再呼吸式マスクでの60-80%酸素投与、抗ウイルス療法 (ロピナビル+リトナビル)、ヒドロキシクロロキン投与を行った。しかし入院24時間で呼吸不全が進行し、CPAP導入、腹臥位療法を行った。しかし、患者は数時間後に呼吸不全で死亡した。

ミラノからの報告。考察に “Early respiratory support, including ICU admission, is indicated but not always feasible during the current pandemic” と書いてあり、医療が崩壊しているイタリアの状況が伝わってきます。抗ガングリオシド抗体がどうのとかは言ってられない状況のようです。

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COVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎

By , 2020年5月2日 12:55 AM

COVID-19とCOVID-19と脳炎/脳症、髄膜炎について、最近みかけた論文を備忘録に残しておきます。

専門家「新型コロナが中枢神経系を攻撃、想定内しかも低確率」 (人民網 日本語版 2020年3月6日)

北京地壇病院は5日、新型コロナウイルスが中枢神経系を攻撃することを初めて証明した。また世界初の新型肺炎の脳炎合併患者がこのほど退院したと発表した。羊城晩報が伝えた。

新型肺炎の重篤患者で、脳炎を合併していた許さん(56)がこのほど、首都医科大学付属北京地壇病院で完治し、退院した。北京地壇病院重症医学科、検査科、中国疾病予防・管理センター感染症研究所の共同作業チームは、採取された脳脊髄液のメタゲノミクス次世代シーケンシング及び感染症の病原体の鑑定においてその他の病原体を排除し、SARS-CoV-2ウイルスの遺伝子配列を取得した。

ゲノムシーケンシングにより脳脊髄液に「SARS-CoV-2」が存在することが証明され、ウイルス性脳炎と臨床診断された。同検査は初めて新型コロナウイルスが中枢神経系を攻撃する可能性があることを証明した。同事例に関する報道は世界初となった。

中山大学附属第三病院感染科副科長の林炳亮氏は取材に対し、より詳細に説明した。林氏によると、現在の報道を見ると、北京地壇病院が患者の脳脊髄液から新型コロナウイルスの配列を検出したが、ウイルスが中枢神経系を直接攻撃したのか、血液に入ってから脳膜に入り脳脊髄液から検出されたのかについては、さらなる研究が必要だという。

新型コロナウイルスがある臓器を攻撃する場合、その臓器の細胞にACE2受容体が含まれる必要がある。分かりやすく言えばウイルスは鍵、関連受容体は錠で、鍵と錠が合わなければ細胞の扉を開くことができない。肺が新型コロナウイルスから最も攻撃を受けやすいのはACE2受容体が多いからだ。一部の患者に消化器の症状が出ているが、これもそこにACE2受容体があるからだ。

現在のデータを見ると、脳細胞には関連する受容体が見つかっていない。しかしACE2受容体の他の受容体を通じ入ったかについては定かではない。新型コロナウイルスは新たに発見されたウイルスであり、さらなる研究と認識が必要な多くの未知の領域が残されている。

林氏は、「新型コロナウイルスが中枢神経系に入る可能性は低いはずで、それを恐れる必要はない。患者に意識障害などの関連症状が出た場合、臨床医は必ずこれに注意し、直ちに干渉措置を講じるはずだ」と補足した。

おそらく最初の報道と考えられます。しかし、このニュースについての論文はまだ見当たりません。

COVID-19-associated Acute Hemorrhagic Necrotizing Encephalopathy: CT and MRI Features. (Radiology, 2020.3.31 published online)

50歳代後半の女性の空港職員。3日間続く咳、発熱、意識障害があり、鼻咽頭ぬぐいRT-PCRでSARS-CoV-2が検出された。髄液検査は血性となってしまい、詳細な評価はできなかった。CTで両側視床内側核に低信号域があり、MRIでは両側視床、側頭葉内側、傍島領域に出血を伴う造影病変を認めた。急性壊死性脳症と診断した。呼吸器系に配慮し、高用量ステロイドではなく、免疫グロブリン投与を開始した。

壊死性脳症

MRI画像が結構印象的です。

コロナウイルスは、鼻腔から神経向性に中枢神経に入るという説と、血行性に中枢神経に入るという説があります。神経向性に入るという説の根拠として、

  • SARS-CoVやMERS-CoVをマウスの鼻に入れると、嗅神経を経由して脳に入る。そして視床や脳幹に広がる。ウイルスは肺では見つからず脳でのみ検出される。
  • 他のコロナウイルス (HEV67など) や鳥インフルエンザウイルスでは、神経終末から経シナプス性に中枢神経に入るとされている。
  • HEV67は、経口・経鼻的に子豚の鼻粘膜、扁桃、肺、小腸に感染し、末梢神経を逆行性に延髄に運ばれ、嘔吐病と呼ばれる原因となる。
  • 鳥インフルエンザウイルスをマウスの鼻に投与すると、孤束核や疑核を含む脳幹で検出される。

と説明している論文がありました。視床病変というのはまさにその通りであるなぁと感じました。なお、血行性という説は

  • ウイルスを含む血液が中枢神経系に入った後、血流が遅くなる毛細血管で上皮細胞に発現しているACE2とウイルスで相互作用が促進されるかもしれない。
  • 一方で、感染した脳の非神経細胞からはウイルスが検出されないので、考えにくい (血行性などであれば神経細胞以外の細胞にもウイルスが検出されるはず)。

とする論文 () があり、それより説得力が弱い印象です。

A first case of meningitis/encephalitis associated with SARS-Coronavirus-2. (Int J Infect Dis. 2020.4.3 published online)

山梨大学からの報告。症例は24歳男性。海外渡航歴なし。2020年2月下旬に頭痛、全身倦怠感と発熱を自覚。インフルエンザの臨床診断でlaminamivirと解熱薬を処方された。インフルエンザ抗原の迅速検査は陰性だった。症状が悪化し、5日目に別のクリニックを受診。9日目に意識障害で山梨医科大学に搬送。1分間の全般発作がみられた。項部硬直もあった。全身CTで脳浮腫はなかったが、胸部にすりガラス影を認めた。髄液圧は320 mmH2O以上で、細胞数は12/ul (単核球:多形核球=10:2) だった。SARS-CoV-2のRT-PCRが鼻咽頭ぬぐいと髄液で検査されたが、髄液でのみ陽性だった。気管挿管し、ICUでてんかん発作の管理、エンピリックにセフトリアキソン、バンコマイシン、アシクロビル、ステロイド、てんかん発作に対してレベチラセタムの投与が行われた。また、ファビピラビルも投与された。頭部MRIでは右側脳室下角の壁に沿って拡散強調像高信号、側頭葉内側や海馬にFLAIR高信号を認めた (鑑別はけいれん性脳症)。右脳室炎と脳炎が疑われた。15日目、治療を継続中である。

頭部MRIで髄膜の造影効果が見られることがあるという知見と合わせても、やはりCOVID-19で髄膜炎は起こしうるのだろうなと思います。この症例では、髄液PCRでSARS-CoV-2が陽性となったことが興味深いです。

無菌性髄膜炎を合併した COVID-19 肺炎の 1 例 (日本感染症学会ウェブサイト, 2020.4.3.公開)

神奈川県立足柄上病院からの報告。73歳男性、発熱、意識障害。基礎疾患に、糖尿病、高血圧、脂質異常症などあり。入院14日前に発熱、呼吸器症状があり、一時的に解熱した。入院2日前に発熱、意識障害が出現。項部硬直があり、髄液検査をおこなったところ、細胞数 9/μL (リンパ球 22%、好中球 22%、単球様 44%、好酸球 11%)、蛋白 76mg/dL、 糖103mg/dLという結果だった。シクレソニド 200μg インヘラー1 日 2 回、1 回 2 吸入、セフトリアキソン、アシクロビルなどで加療。入院当日に行った髄液を神奈川県の衛生研究所に提出し SARSCoV-2 PCRは陰性。4日目の髄液検体を山梨大学に提出し、SARS-CoV2 PCR 陽性だった。症状は入院2日目には改善した。

髄液を衛生研究所で検査して陰性で、山梨大学に測定して陽性とのことでした。なぜそうだったのか考察は全くされていませんが、PCRのアッセイ系が問題だった可能性はないのかなと感じます。

前述③の山梨大学の論文では、「Viral RNA was extracted from clinical specimen using magLEAD 6gC (Precision System Science Co., Ltd.). The SARS-CoV-2 RNA was detected using AgPath-IDトレードマーク One-Step RT-PCR Reagents (AM1005) (Applied Biosystems) on CobasZ480 (Roche). The diagnostic assay for SARS-CoV-2 has three nucleocapsid gene targets (Supplementary Materials).」と記載があり、ロシュのアッセイ系を用いていることがわかります。なお、新型コロナウイルス感染症のPCRには、下記の3つのアッセイ系が用いられることが多いらしいようです。

臨床検査として「SARS-CoV-2 核酸検出」を実施する際に考慮すべき事項

・感染研マニュアル nested PCR 法(ORF1a、S 遺伝子)

・感染研マニュアル real-time PCR 法(N 遺伝子の 2 箇所)

・ロシュ社キット real-time PCR 法(N および E 遺伝子)

そして、これらの感度には多少違いがありそうです。

「SARS-CoV-2 核酸検出」PCR 反応系の比較検討

「陽性コントロールを用いた検討では、N2 アッセイでは TaqPath, LC 2-step, LC 3-step 全てで 5 コピー/反応の検出が可能だったが、N アッセイでは 50 コピー/反応であり、N アッセイの感度が低いと考えられた。マスターミックス・プログラムの比較では、その増幅効率は TaqPath>LC 2-step > LC 3-step である可能性が示唆された。

臨床検体を用いた検討では、感染研 N2, German E, Roche E アッセイでは5サンプルが陽性と判定された。しかし、感染研/German N, Roche N, Roche RdRP では、それぞれ 2~3, 3, 4 サンプルが陰性と判定され、感度が低いことが示唆された。上記と異なる5サンプルは全てのアッセイで陰性と判定され、偽陽性はないと考えられた。」

検体採取日が異なれば、髄液中のウイルス量が変化して結果が変わる可能性はもちろんありますが、その他の可能性としてアッセイ系の違いは気になりました。

Encephalitis as a clinical manifestation of COVID-19. (Brain Behav Immun. 2020.4.10 published online)

武漢の男性が1月28日から発熱、呼吸困難、筋痛が出現。頭部CTは正常で、胸部CTではGGOsがあり、SARS-CoV-2が陽性だった。意識障害、項部硬直があり、Babinski徴候が陽性だった。アルビドールと酸素投与で治療されたが、意識は改善しなかった。髄液検査は、細胞数、蛋白、糖ともに正常範囲内だった。髄液のSARS-CoV-2 PCR、抗SARS-CoV-2 IgM/IgGは陰性だった。支持療法のみで、マンニトールを投与した。2月24日に意識は完全に回復し、2月27日に退院した。

脳炎をきたしたが、自然治癒した症例。頭部MRIがどうだったのかは気になる所です。改めて、self-limittingな疾患なのだなぁと思いました。

COVID-19-Associated Acute Disseminated Encephalomyelitis – A Case Report (preprint, 2020年4月23日アクセス)

症例は40歳代前半の女性。同居の親族は、海外旅行から帰ってきて翌日に頭痛、筋痛を発症したが軽症で、4日間で自然治癒したため受診はしていなかった。患者は、入院11日前に頭痛、筋痛を発症したが、それはその親族が海外旅行から戻ってきた4日後だった。近医ではキャパシタティーオーバーでCOVID-19の検索はおこなわれず、アジスロマイシンで治療された。患者は嚥下障害、構音障害、脳症を入院2日前に発症。

救急外来では体温39℃、頻呼吸と低酸素血症があった。呼吸逼迫はないが、ラ音 (rhonchi) を聴取した。神経学的には、構音障害、表出性失語、球麻痺、右注視優位性、軽度の左顔面麻痺、軽度の両側筋力低下があった。髄膜刺激症状はなかった。
髄液検査は細胞数、蛋白、糖はいずれも正常で、各種ウイルスPCRは陰性だった。頭部CT/MRIで白質病変を認めた。脳では発作を示唆する所見はなかった。入院2日後にSARS-CoV-2の核酸が検出された。

急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) の診断で、ヒドロキシクロロキン、セフトリアキソン、免疫グロブリン大量静注療法 (IVIg, 5日間) で加療された。COVID-19を悪化させることを懸念して、ステロイドは仕様しなかった。IVIg 5日間の後、唾液の嚥下、構音障害が改善し、呼吸器症状なく解熱した。

おそらく、COVID-19に伴う急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) の最初の報告です。ADEMはステロイドが標準治療ですが、肺病変のことを考えると使いたくないところです (ARDS合併など、時期によってはむしろ使用することが考慮される場合もあるようです)。そこでIVIgを使用したというのは、私でもまず考える選択肢かなと思います。

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COVID-19と脳卒中

By , 2020年5月2日 12:51 AM

COVID-19と脳卒中について、最近みかけた論文を備忘録に残しておきます。

Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection. (N Engl J Med, 2020.4.15 published online)

重症SARS-CoV-2感染症の患者を評価

・筋弛緩を中止したら、58名中40名(69%)に易興奮性。

・58名中39名(67%)に錐体路徴候

・45名中15名(33%)に遂行機能障害症候群

 

局所脱落症状なかった13名のMRIを撮ると

・8名に髄軟膜の造影効果

・11名に両側前頭葉の血流低下

・2名に急性期無症候性脳梗塞

・1名に亜急性無症候性期脳梗塞

 

7名に髄液検査をすると

・細胞数増多はなし

・2名にオリゴクローナルバンド

・1名に髄液蛋白やIgG上昇

・全員髄液RT-PCRは陰性

神経症状

中枢神経症状はそれなりにあるようで、例えば、「Concomitant neurological symptoms observed in a patient diagnosed with coronavirus disease 2019. (J Med Virol, 2020.4.15 published online)」などもそれを示唆する報告です。

MRIで見られた髄軟膜の造影効果は髄膜炎を反映している可能性があります。それ以外に、無症候性脳梗塞があるのは、凝固異常を反映しているのでしょうか?COVID-19で抗凝固薬 (ヘパリン、ナファモスタットメシル酸) の議論があることと関連があるかもしれません。その他の可能性として、重症ARDSだと水分を引き気味に管理するから、脱水で血液濃縮など考えますが、血管炎という根拠は今の所なさそうです。

Neurologic Manifestations of Hospitalized Patients With Coronavirus Disease 2019 in Wuhan, China. (JAMA Neurol. 2020.4.10 published online)

・武漢の患者を後方視的に調べた研究では、神経筋症状はそれなりに多い。

・脳血管障害は、重症群で梗塞4名、出血1名、非重症群で梗塞1名。

・味覚障害5.6%、嗅覚障害5.1%

・重症患者では筋症状 (筋痛、CK上昇) が多い

臨床像

Preprintの段階で、職場の抄読会で紹介した論文でした。脳血管障害は、重症群で梗塞4名、出血1名、非重症群で梗塞1名みられましたが、機序は考察されていません。脳出血は、ECMOの合併症なのか、抗凝固療法を併用していたのか、そういうことも不明です。重症患者では筋症状 (筋痛、CK上昇) が多いようです。意識障害は重症群で多いですが、これについては重症になれば意識状態が悪くなるのは当たり前といえば当たり前と思います。一番気になったのは、データのとり方です。後方視的にカルテをひっくり返して纏めた論文であり、カルテに記載がなければ、なかったことになっています。従って、味覚障害5.6%、嗅覚障害5.1%と頻度は低くなっており、他の研究のデータと結構乖離しています。参考までに、他の研究ではどのくらいの頻度で味覚、嗅覚障害が見られるかというと、症状としては3人中2人以上といったところでしょうか。

Association of chemosensory dysfunction and Covid-19 in patients presenting with influenza-like symptoms.→インフルエンザ様症状の患者を対象とした研究で、嗅覚、味覚障害はCovid-19陽性患者のそれぞれ68%, 71%で見られた。一方でCovid-19陰性患者ではそれぞれ16%, 17%に過ぎなかった。

Smell dysfunction: a biomarker for COVID-19.→検査で98%に何らかの嗅覚障害があった。

Large-Vessel Stroke as a Presenting Feature of Covid-19 in the Young. (N Engl J Med, 2020.4.28 published online)

若年性の大血管脳梗塞の5例。33, 37, 39, 44, 49歳で、NIHSSの平均は17点。基礎疾患は、糖尿病2名 (うち1名は軽症脳卒中既往)、高血圧症+高脂血症1名。rt-PA 1名、血栓回収療法4名 (うち1名はrt-PA後に血栓回収)。予後は、自宅退院~COVID-19で挿管管理までまちまちであった。

臨床的特徴

臨床的特徴 (続き)

COVID-19が凝固異常をきたしやすいことを裏付ける報告です。データについては表をみれば一目瞭然です。D-dimerは高値が多いです。最近の報道からも、このウイルスによる脳梗塞は結構トピックスとなってきていることがわかります。

なお、この論文の著者はニューヨークのマウントサイナイ病院ですが、同様の事例が同病院から4月23日に発表されていました。

新型コロナで突然の脳梗塞、30~40代の患者で相次ぐ 米

(CNN)  新型コロナウイルスに感染した30~40代の患者が脳梗塞(こうそく)を併発する症例が相次いでいる。米ニューヨークのマウントサイナイ病院が22日に報告した。

同病院によると、新型ウイルスの感染者で病院があふれ返っているという話を聞き、救急車を呼ぶことをためらう患者もいるとみられる。

新型コロナウイルスをめぐっては、血栓を引き起こしたという報告が増えており、結果として脳梗塞を発症したと思われる。

マウントサイナイ病院は、同病院で診察した患者5人の症例を報告した。いずれも50歳未満で、新型コロナウイルス感染症の症状は軽症か無症状だった。

同病院のトーマス・オックスリー医師は、「同ウイルスの影響で大動脈の血栓が増大し、重度の脳卒中につながったと思われる」と説明する。「我々の報告では、若い患者が突然の脳卒中に見舞われた症例はこの2週間で7倍に増えた。ほとんどの患者に既往症はなく、症状が軽かった(2人は無症状だった)ため、自宅にいた」

新型コロナウイルスの検査では、全員が陽性と判定された。2人については救急車を呼ぶのが遅れていた。

この年代で脳卒中を発症する患者はそれほど多くない。マウントサイナイ病院の場合、それまでの12カ月間は、大きな血管の脳梗塞のために治療を受けた50歳未満の患者は、2週間ごとの平均で0.73人にとどまっていた。

こうした血栓はすぐに摘出しなければ重い障害が残ることもある。同病院で診察した患者のうち少なくとも1人は死亡し、残る患者もリハビリ施設や集中治療室などに入院しているという。1人だけは退院できたが、集中的な介護を必要とする状態にある。

オックスリー医師は、新型コロナウイルス感染症の症状があり、脳卒中が疑われる場合は、すぐに救急車を呼ぶよう促している。

COVID-19と凝固異常については、かなり注目されているトピックスです。以下、参考までに。

COVID-19では微小塞栓症に関連して肺血栓塞栓症が想定外に多いのでは? -Radiologyからの報告を元に (4月23日)

肺血栓塞栓症を含む多臓器塞栓症とCOVID-19について、日本語でのわかりやすいまとめです。

Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. (Lancet, 2020.4.20 published online)

ウイルスが血管内皮細胞に炎症を起こすことが報告されていて、ひょっとするとこれが凝固異常と関連しているのではないかなと私は推測しています。

Microvascular COVID-19 lung vessels obstructive thromboinflammatory syndrome (MicroCLOTS): an atypical acute respiratory distress syndrome working hypothesis. (Crit Care Resusc. 2020.4.15 published online)

集中治療の専門家から、「MicroCLOTS」という概念があることを教えて頂きました。

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